KIT航空宇宙ニュース2023WK05

東レが開発したCFRPの熱溶着技術
KIT航空宇宙ニュース

KIT航空宇宙ニュース2023WK05

海外のニュース

1.最後のジャンボ納入 56年の歴史に幕 最終1574号機は747-8F貨物機

ボーイングは現地時間1月31日午後(日本時間2月1日午前)、「ジャンボ」の愛称で親しまれた747の最終号機を、米ワシントン州シアトル近郊のエバレット工場でアトラスエアーなどを傘下に持つアトラス・エア・ワールドワイドへ引き渡した。1967年に製造を開始し、1574機が製造された。最終号機はアトラスエアーの747-8F貨物機で、記念式典には退職者を含めた従業員のほか、顧客やサプライヤーなど数千人が参加した、一般公開はしなかったがウェブサイトでライブ配信を実施した。日本からは、747を国内初導入し、世界最多となる総数113機の747を運航した日本航空の赤坂祐二社長が来賓として招かれた。世界初の双通路機である747は、1967年に製造を開始し、1968年9月30日に最初の機体がロールアウト。1969年2月9日に最初の試験飛行を実施した。55年間で100以上の顧客向けに1574機が製造された。747の総飛行時間は1億1800万時間以上、飛行サイクルは約2300万回に及ぶ。【Aviation Wire New】

【Aviation Wire提供:最後の747型機引渡しセレモニー】

2.NASAが「回転デトネーション・エンジン」の試験に成功

米国航空宇宙局(NASA)は2023年1月26日、従来のロケットエンジンとは異なる仕組みで動く「回転デトネーション・ロケットエンジン」の燃焼試験に成功したと発表した。このエンジンは「デトネーション(爆轟)」と呼ばれる超音速燃焼現象を使用して推力を生み出すという仕組みで、従来のロケットエンジンより少ない推進剤でより多くのエネルギーを生み出すことができ、月や火星などの深宇宙への有人飛行や探査機の飛行に大いに役立つ可能性を秘めている。従来のロケットエンジンは、燃料と酸化剤からなる推進剤を「燃焼」させ、生成された高温高圧のガスを噴射することで飛行する。そのエネルギーは、私たちの感覚からするとものすごいものの、実際には燃焼という化学反応は比較的反応速度が遅く、放出エネルギーも小さく、現代のロケットの性能は理論的な限界に近いところにまで達しており、これ以上性能を上げることは難しい。そこで研究されているのが、「デトネーション(爆轟)」という現象を使ったエンジンである。デトネーションとは燃焼が衝撃波を伴いながら音速以上で伝播していく現象のことで、言葉こそ聞き慣れないものの、発破作業で使われるダイナマイトを点火したときに見られるほか、2020年に起きたレバノン・ベイルートの爆発事故でも見られた現象でもある。通常の燃焼では、燃焼したガスが膨張すると、燃え切っていない未燃ガスはそのまま外側へ押し出される。しかしデトネーションは、火炎面の伝播が超音速で進むため未燃ガスは外へ逃げず、さらに火炎面が達したときに未燃ガスが急激に圧縮され、温度と圧力が瞬時に上昇する。これにより莫大なエネルギーを発揮できる。ただ、このデトネーションをエンジンとして、つまり安全、安定的に推進力を生み出す機械として使うには、エンジンの構造などを工夫しなければならない。そのため、原理自体は古くから知られているものの、実用化された例はない。こうした中、NASAは「ゲーム・チェンジング技術プログラム」という技術開発計画において、かねてより回転デトネーションを用いたロケットエンジン(RDRE)の研究を行ってきた。そしてマーシャル宇宙飛行センターと、インディアナ州にある民間企業IN Spaceが共同で、RDREの試験用エンジンを開発。燃焼試験が行われた。このエンジンの素材には、NASAが開発した銅合金「GRCop-42」が用いられ、製造には3Dプリンターや従来にはない設計プロセスが用いられている。【マイナビニュース】

【マイナビニュース提供:NASAが行ったデトネーション・ロケット・エンジンの燃焼実験】

3.NASAとDARPA、核熱ロケットエンジンを宇宙で実証へ – 火星有人探査に向け

米国航空宇宙局(NASA)と国防高等研究計画局(DARPA)は2023年1月25日、「核熱ロケットエンジン」を共同で開発し、早ければ2027年にも宇宙での実証試験を行うと発表した。核熱ロケットは原子力ロケットのひとつで、従来のロケットエンジンよりも2~5倍効率が良く、実現すれば、有人火星探査の飛行時間の短縮や宇宙飛行士のリスク軽減に役立つと期待されている。核熱ロケット(nuclear thermal rocket)は原子力ロケットのひとつで、原子炉を使って液体推進剤を加熱し、発生した高温高圧のガスをノズルから噴射して宇宙船を推進させるという仕組みをもつ。核分裂をともなう点など、基本的なプロセスなどは原子力発電所の原子炉と同じであり、いわば原子炉の一次冷却水を噴射するようなものである。一方、NASAとDARPAが開発する核熱ロケットの特徴として、燃料には高純度低濃縮ウラン(HALEU)を使い、物流・入手性におけるハードルを低減しているほか、核分裂反応が宇宙に到達したときにのみオンになるようにする安全対策を盛り込むことなどが計画されている。推進剤には従来のロケットと同じような液体水素のほか、水も使うことができる。現在NASAなどは、将来的に有人火星探査の実現を目指した国際宇宙探査計画「アルテミス」を進めており、火星へより早く行ける、効率的な輸送技術である核熱ロケットの実用化は、その実現を左右する鍵となる。【マイナビニュース】

【DARPA提供:NASAとDARPAが開発中の核熱ロケット】

4.H2Fly、新しい液体水素燃料電池システムの飛行試験キャンペーンを今夏に予定

高度なパワートレインの開発者であるH2Flyは、新しい液体水素燃料システムの開発に続いて、燃料電池駆動のHY4デモンストレーターが夏までに飛行試験することを計画している。以前はガス状水素で運用されていたが、極低温代替への切り替えは、EUが資金提供する Heaven プロジェクトの下で行われた。このプロジェクトには、パートナーのAir Liquide、ドイツの研究機関 DLR、およびPipistrel Vertical Solutions も含まれている。燃料システムのテストは現在、フランスのグルノーブル近くのエア・リキードのキャンパスで進行中であると、H2Flyの最高経営責任者であるジョセフ・カロ博士は述べている。これに続いて、燃料電池システム全体のテストが今後数週間で実行され、3月または4月に地上試験プログラムが行われ、夏にはドイツ南西部のシュトゥットガルト空港にあるH2Flyの基地で HY4の飛行試験が予定されている。カロ博士は、液体水素への変更によりHY4の性能が「少なくとも2倍」になり、航続距離が以前の380nmから約810nm (1,500km) になると述べている。いくつかの新しいコンポーネントと燃料供給の見直しを除けば、出力125~130kWの燃料電池システムに変更はないと述べている。【Flightglobal News】

【H2FLY提供:液体水素燃料電池を搭載したHY4】

日本のニュース

1.スペースジェット、開発中止決定 次期戦闘機に知見生かす

三菱重工業は、ジェット旅客機「三菱スペースジェット(旧MRJ)」の開発を中止する方針を固めた。近く正式発表する。同社は取材に対し「開発を中止した事実はない」とコメントした。国が機体の安全性を証明する「型式証明(TC)」を取得しても事業として成立しないため、これ以上の投資は難しいと判断した。スペースジェットの開発で得た知見は、日本と英国、イタリアの3カ国で共同開発する次期戦闘機などに生かす。三菱重工は「一旦立ち止まる」との表現で、スペースジェットの開発を2020年10月30日 に事実上凍結。関係者によると、TC取得に関する費用は今後も数千億円規模でかかる見通しで、開発を続けても事業として成立しないとの結論に至ったという。スペースジェットの納期は当初、2013年だった。2008年に開発がスタートし、納期は6度もの延期で2021年度以降としていたが、ついに未完の航空機となった。開発する子会社の三菱航空機は、三菱重工に資産を移管するなどの準備を経て清算する見通し。スペースジェットは、これまでに少なくとも約500億円にのぼる補助金などの公的資金が投じられている。また、国内ではローンチカスタマーである全日本空輸などを傘下に持つANAホールディングスが確定15機とオプション10機の最大25機を発注し、日本航空は32機をすべて確定発注で契約しており、各航空会社への補償などの対応も必要になる。【Aviation Wire News】

【Yahooニュース提供:開発中止が決まりそうなSpace Jet】

2.トキエア、新潟空港にカウンター設置

新潟空港を拠点に就航を目指す「TOKI AIR(トキエア)」は2月4日、同空港にカウンターを設置したと発表した。年内の就航を計画している。カウンターはトキエアのロゴをあしらったシンプルなデザインにしたという。乗客にはスマートフォンで搭乗手続き(チェックイン)を行ってもらい、預ける手荷物がない場合はカウンターに寄らず搭乗口に向かう。手荷物がある場合はカウンターでバゲージタグを受け取り、タグを付けて預ける。トキエアが航空会社として事業を行うためには、国土交通省からAOC(航空運送事業の許可)を取得する必要があり、安全性や持続的な運航が可能かを規定や訓練体制などを基に審査される。同社は2022年11月30日に国交省の東京航空局へ申請した。計画路線は、新潟-札幌(丘珠)、仙台、中部、神戸の4路線。年内の就航を計画しており、最初の就航地は丘珠、2路線目は仙台、その後に中部や神戸への就航を目指すという。【Aviation Wire New】

【Yahooニュース提供:新潟空港に設置された「トキエア」のカウンター】

3.JAL系ZIPAIR、衛星通信Starlinkの技術実証 スペースXと機内ネット高速化へ

ZIPAIRは1月31日、米スペースXと同社が提供する衛星通信サービス「Starlink(スターリンク)」導入に向けた技術検証を進めると発表した。航空会社ではアジア初の試みで、機内インターネット通信の高速化を目指す。ZIPAIRは日本航空が100%出資する中長距離国際線LCCで、現在はボーイング787-8型機で機内インターネット接続サービスを無料で提供。JALからのリース機で、JALが運航していた時の通信システムを活用している。ZIPAIRによると、今後は地上と同様の通信速度を機内でも実現したいという。スペースXはイーロン・マスク氏が設立し、同氏がCEO(最高経営責任者)を務めている。Starlinkは高速・低遅延が特徴で、地上ではリアルタイムでのビデオ会議やストリーミング、オンラインゲームなどに利用できていることから、ZIPAIRは機内サービスとしての導入に向けた検証を共同で進める。【Aviation Wire News】

【Yahooニュース提供:Starlinkの技術実証を行うZIPAIRのボーイング787型機】

4.東レ、航空機用CFRPを溶接のように熱溶着で高速に接合する技術を開発

東レは2月1日、熱硬化性の炭素繊維強化プラスチック(CFRP)製の航空機部材を熱溶着により高速で接合する技術を開発したことを発表した。世界の航空機需要も例外に漏れず、新型コロナウイルスの影響から、ここ数年大きく低迷しているが、2025年までには再拡大期に入り、2030年以降には座席数120~240席の次世代航空機の需要拡大が予想されている。航空機構造のメインフレームとなる一次構造材には、長年の使用実績から高い信頼性を備える熱硬化性CFRPが適用されているが、部材の組み立てにおける接着接合とボルトファスナー締結という煩雑な工程がボトルネックとなり、生産時間の点でアルミ合金製機体に大きく遅れを取っているという。そのため今後の需要拡大期に、高レートでの生産が重要な課題となることが想定されており、東レは今回、そうした課題の解決に向け、航空機向け熱硬化性CFRP部材を、溶接のように高速かつ高強度で接合する熱溶着技術を開発することにしたという。そして、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成事業「次世代複合材創製・成形技術開発プロジェクト」から得られた成果の一部も用いて、熱硬化性CFRP部材を熱溶着する技術の開発に成功したとする。今回開発された技術は、熱硬化性CFRPの表面に熱溶着層を形成する同社独自の技術を応用し、部材表面を瞬間的に加熱して接着する簡便な接合方法だという。同技術により、接着接合とボルトファスナー締結工程不要で熱硬化性CFRPの部材同士、さらには熱硬化性と熱可塑性のCFRP部材の高速組み立てが可能になるとした。【マイナビニュース】

【東レ提供:東レ開発したCFRPの熱溶着接着技術】