KIT航空宇宙ニュース2023WK21

アシアナ航空のA321 型機で、乗客が大邸(テグ)空港着陸直前高度200メートルで、左側のNo3ドアを開けてしまう事故が発生
KIT航空宇宙ニュース

KIT航空宇宙ニュース2023WK21

海外のニュース

1. エンブラエル、次世代ターボプロップ計画「エンジンの解決策見つかっていない」

エンブラエルのフランシスコ・ゴメス・ネトCEO(最高経営責任者)は現地時間5月25日、延期を決めた次世代ターボプロップ(プロペラ)機開発について「エンジンの良い解決策が見つかっていない」と現状を語った。ブラジルのエンブラエルは世界3位の航空機メーカーで、リージョナルジェット機の最大手。省燃費や低騒音、運航コスト削減を主なテーマに、次世代ターボプロップ機の計画を2022年に明らかにしたが、同社が求める性能を発揮できるエンジンが市場にないことなどから、開発延期を決めた。ポルトガルのリスボンで26日まで開かれている報道関係者向けの事業説明会で、Aviation Wireの質問に応じたネトCEOは「エンジンの良い解決策がまだ見つかっていない。航空機の競争力を高め、我々が望むような魅力的な機体にするための解決策が必要だ。解決策を見つけるために、エンジンメーカーと協力しなければならない」と応じた。昨年発表した計画では、就航は2027年ごろで、空港でのPBB(搭乗橋)の使用や騒音低減、振動低減、乗客の個人スペース拡大、機内持ち込み手荷物の収納スペース拡大、上質なギャレー(厨房設備)とラバトリー(化粧室)の設置など、乗客にジェット機と同様の搭乗体験を提供できる機体を目指すとしていた。50-70席クラスのターボプロップ機は、新造機ではエアバスと伊アレニア・アエルマッキが設立した仏ATRが製造するATR42-600(30-50席)とATR72-600(44-78席)のみ。【Aviation wire news】

【Aviation Wire提供:エンブラエル社が開発を予定していたターボプロップ機(想像図)】

2.フランス、鉄道2時間半以内の国内線禁止 代替可能3路線

フランスで、鉄道による2時間30分以内の代替手段がある航空路線の運航を禁止する法律が現地時間5月23日に施行された。CO2(二酸化炭素)排出量削減を目的に、2021年に仏議会で可決されたもので、該当路線を運航していたエールフランス航空は、すでに廃止している。同法は航空会社が運航する仏国内線のうち、鉄道で2時間30分以内の代替手段がある短距離路線が対象。パリのオルリー空港を発着する国内線のうち、リヨン、ナント、ボルドーの3路線が対象となり、運航していたエールフランスはこれらの路線から撤退済み。このほかのオルリー発着の国内線や、日本などから国際線が乗り入れるシャルル・ド・ゴール空港を発着する国内線は対象外となる。EU(欧州連合)の行政執行機関であるEC(欧州委員会)は、代替手段となる高速鉄道で2都市間を2時間30分以内に結び、目的地で最低8時間は過ごせる列車のダイヤを設定することを運航禁止の条件として求めた。エールフランスは鉄道とのコードシェア(共同運航)を始めており、同じくエールフランス-KLMグループ傘下のKLMオランダ航空も、500キロ以下の路線は鉄道会社などとの連携を進めている。東京に置き換えると、500キロは岡山までに相当する距離にあたる。【Aviation wire news】

3.  アシアナ機の乗客、着陸直前に非常口開ける 大邱で9人搬送

韓国の大邱(テグ)国際空港で現地時間5月26日、アシアナ航空の済州(チェジュ)発大邱行きOZ8124便(エアバスA321型機)の乗客が着陸直前に非常口のドアを開ける事故が起き、乗客194人のうち9人が呼吸困難を訴えて病院に搬送された。現地警察は故意にドアを開けた30代の男性客を逮捕した。OZ8124便は済州を午前11時49分(定刻午前11時)に出発し、大邱の滑走路(RWY13R)に午後0時39分ごろ着陸して定刻の同45分に到着した。現地報道などによると、A321の左側に4カ所あるドアのうち、主翼後ろのL3ドアを男性客が着陸直前の高度約200メートルで開けた。L3ドアは通常の乗降には使用しないドアで、非常口として用意されている。HL8256の座席は1クラス195席で、ほぼ満席だった。Twitterなどに投稿された動画では、ドアが開いたことで機内に強い風が吹き込んでいた。【Aviation wire news】

【Yahooニュース提供:テグ空港着陸後の左No3Doorが開いたままのアシアナ航空A321型機】

4. Natilus社の貨物航空機「Kona」コンセプトにZeroAviaの水素推進オプションを選択

カリフォルニアの新興企業Natilusは現在、ZeroAviaが製造する水素燃料電池動力装置を備えたBlended Wingの概念的無人航空機を提案している。両社が5月25日に明らかにしたのは、Natilusが開発中の航空機「コナ」に、ZeroAvia ZA600とプラット・アンド・ホイットニー・カナダ製PT6Aターボプロップという2つの動力装置オプションを搭載することを意味する。「顧客はコナ量産機のエンジンとして PT6A か [ZA600] のどちらかを選択できる」とNatilusは述べ、当初は PT6 を搭載した「コナ」を生産すると付け加えた。「コナ」の航続距離は900海里(1,667km)、積載量は3.8トンになる予定だという。ZeroAvia は、テスト機として Dornier 228 を使用して ZA600 をテストしています。ZA600プログラムは2025年の認証に向けて「順調に進んでいる」としている。Natilusは1月、米国の貨物航空会社アメリフライトからコンセプトの無人貨物機20機を購入する約束を獲得したと発表した。【Flightglobal News】

【Natius社提供:Ameriflight社の色の Natilus の貨物航空機「コナ」のイメージ】

5.  ボンバルディア「エコジェット」プロジェクトの初期飛行試験段階を完了

このプロジェクトは、ビジネス航空機の排出ガスを削減する技術を開発することを目的としている。ボンバルディアは、先進的な空気力学と推進力の強化を組み合わせて航空機の排出ガスを削減する技術を開発するために設計された研究用プラットフォームであるEcoJetの最初のテスト段階が成功裡に完了したと発表した。この第1段階では、大型ビジネス ジェットの約7%の大きさに相当する複合胴翼(Blended Wing)航空機の小規模モデルでテストが実行された。ボンバルディアは現在、2倍の大きさのモデルで第2段階のテストに取り組むために得た知識を構築しており、このモデルは昨年初飛行を完了し、次のテストキャンペーンを計画している。ボンバルディアの研究チームは、設計最適化ループと最初の飛行試験キャンペーンで良好な結果が得られたと述べた。これらには、次世代の製品ライフサイクル管理 (PLM) プラットフォームの展開、第6世代の遷音速翼モデリング機能の確認、および新しい航空機制御アーキテクチャのデモンストレーションが含まれている。同社によると、同社の EcoJet 研究および技術プロジェクトは、空力と推進力の強化を組み合わせることにより、航空機の排出量を最大 50% 削減することを目指している。【Flightglobal News】

【ボンバルディア社提供:複合胴翼(Blended Wing)航空機の小規模モデルでノ試験飛行】

日本のニュース

1. 首都圏空港に小型機向け発着枠導入を全地航が国に要望書提出

空港がある都道府県などで構成する全国地域航空システム推進協議会(全地航、会長:鈴木直道・北海道知事)は5月26日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響長期化や、混雑空港との関係性、路線維持、震災や災害を踏まえた空港機能の強化に関する要望書を国土交通省航空局(JCAB)の久保田雅晴局長宛に提出した。要望書では、コロナ禍の影響長期化に対応した支援策の内容拡充や期間の延長、需要喚起策に向けた国・自治体間での意見交換や支援、離島路線を対象とした柔軟な運航費補助制度、空港の保安検査業務の費用増への支援などを求めた。羽田など国が定める「混雑空港」関連では、首都圏空港を地域航空にも対応する空港として整備することや、100席以下の小型機向けの発着枠の導入、JCABが発着枠を配分する羽田空港の「政策コンテスト枠」を活用した地域航空網の拡充、羽田以外の混雑空港での優先的な発着枠の割り当てなどを求めた。とりわけ、混雑が常態化している福岡空港では、小型機を使用する地域航空事業者に不利益とならないような発着枠の配分を要望した。また、地域航空の路線維持については、制度新設を要望。空港に従事する人材の安定的確保のため支援、訪日客向けの国内線運賃の認知度向上、離島路線の維持・確保へ予算確保や新たな法整備の検討、離島路線以外の地域航空路線を維持・発展に向けた助成制度の制定を要望した。全地航は1983年設立。空港を持つ40の都道府県や17の市町村、航空会社や業界団体など21の賛助会員で構成している。【Aviation wire news】

【Aviation Wire提供:全地航のホームページ】

2. ハッブル宇宙望遠鏡を救え! アストロスケールの米国子会社などがNASAに提案

日本発の宇宙スタートアップ「アストロスケール」の子会社である「アストロスケール米国」などは2023年5月9日、「ハッブル宇宙望遠鏡」の運用を延長させるために、軌道の高度を上げる計画を発表した。ハッブル宇宙望遠鏡はゆっくりと軌道が下がり続けており、このままでは2030年代半ばに大気圏に再突入すると予測されている。一方、機体そのものはほぼ正常で、軌道を上げることで運用期間を伸ばせる可能性がある。NASAは昨年12月、情報提供要請(RFI)を公告し、宇宙企業などからアイディアを募集していた。ハッブル宇宙望遠鏡は米国航空宇宙局(NASA)と欧州宇宙機関(ESA)が開発した宇宙望遠鏡で、1990年に打ち上げられて以来、大気のない宇宙空間からさまざまな天体を詳しく観測し、数々の科学的成果や美しい天体写真をもたらしてきた。打ち上げから33年を超えたいまでもほぼ正常に稼働しており、現時点では2026年6月までの運用が決まっている。ハッブル宇宙望遠鏡は打ち上げ当初、高度約610kmの軌道に投入された。そのままでは大気との抵抗などで軌道が徐々に下がっていくため、スペース・シャトルを使った整備ミッションを行った際、軌道を押し上げたこともあった。しかし、シャトルによる整備ミッションは2009年を最後に終了したこともあり、高度は下がり続ける一方で、現在は高度約530kmの軌道を回っている。NASAによると、太陽活動の影響で正確な予測は難しいものの、このままでは2030年代半ばに大気圏に再突入すると予測されている。RFIを受け5月9日、日本発の宇宙スタートアップ企業アストロスケールの子会社アストロスケール米国(Astroscale U.S.)と、米国の宇宙企業モメンタス(Momentus)は共同で、RFIへの回答を提出したと発表し、その詳細について明らかにした。提案されたミッション・コンセプトでは、モメンタスが開発した小型衛星「ヴィゴライド(Vigoride)」に、アストロスケールがもっているランデヴーと近傍運用、ドッキング(RPOD:Rendezvous, Proximity Operations and Docking)技術を組み合わせることで実現するとしている。ヴィゴライドは小型ロケットで低軌道へ打ち上げられたのち、RPOD技術を使ってハッブルに接近し、ロボットアームで捕まる。ヴィゴライドには、水をマイクロ波で加熱して噴射するスラスターが装備されており、それによってハッブルの軌道を50km上昇させる。さらに、リブーストの完了後は、ヴィゴライドはハッブル宇宙望遠鏡から離れ、ハッブル宇宙望遠鏡の新しい軌道上に存在する可能性のあるデブリの除去も行うという。【マイナビニュース】

【NASA提供:ハッブル宇宙望遠鏡】