KIT航空宇宙ニュース2024WK36
海外のニュース
1.欧州当局、A350-1000エンジン検査指示 Trent XWB-97、キャセイ機不具合で
EASA(欧州航空安全庁)は現地時間9月5日、エアバスA350-1000型機向けエンジンの英ロールス・ロイス(RR)製「Trent XWB-97(トレントXWB-97)」に対し、AD(耐空性改善命令)を出した。キャセイパシフィック航空のA350-1000で、フューエルマニホールド(燃料分配器)のチューブが損傷していたことから、ADが有効になる9日から30日以内に当該箇所を検査するよう航空会社に義務づけた。ADによる検査対象は、A350-1000向けのTrent XWB-97で、A350-900向けのエンジンは対象外。キャセイが運航するA350-1000のエンジン不具合は、2日の香港発チューリッヒ行きCX383便(A350-1000、登録記号B-LXI)で発生した。RRによると、フューエルマニホールドのフレキシブルチューブが損傷しており、一時的なエンジン火災やエンジンナセルの内外装の熱損傷につながる可能性があった。当該機ではこれらを防ぐため、2基あるエンジンのうち、1基が強制的に停止したといい、RRは改修指示書「サービスブリテン(SB)」を5日に発行した。RRでは、不具合の根本的な原因を現在も調査中。今回のSBでは、フューエルマニホールドのメイン燃料ホースの目視点検と寸法検査を1回実施するよう、航空会社など運航者に指示した。今回の措置は暫定的で、必要に応じて部品交換を実施し、今後追加措置が生じる可能性もあるという。検査の実施期限は、エンジンの運転時間により3つのグループに分けられた。グループ1は、エンジンの運転時間が1万8500時間以上、かつ工場で2回以上の修理(修理・点検・整備・オーバーホール)が行われたエンジンで、ADが有効になる今月9日から3日以内に検査する必要がある。グループ2は、グループ1に属さないエンジンのうち、過去にオーバーホールなどの修理歴があるもので、7日以内に検査する。グループ3は、グループ1と2に該当しないエンジンで、30日以内に検査する必要がある。日本国内の航空会社では、日本航空がA350-1000を運航しており、発注済み13機のうち5機を受領して運航している。就航は今年1月24日で、グループ3のエンジンのみ。JALは5機の自主点検を4日に終えているが、EASAからADが出たことで、SBに基づいた追加検査を9日から30日以内に実施する。JALはA350-1000に加え、別のエンジンであるTrent XWB-75を搭載したA350-900を国内線で15機運航しているが、自主点検を5日までに終えて全機に異常がないことを確認している(関連記事2)。今回のADはTrent XWB-97を対象としているため、追加検査はA350-1000のみ実施する。【Aviation wire news】
【Aviation wire提供:A350-1000型機のXWB‐97エンジン】
2. ジェフ・ベゾスの超大型ロケット「ニュー・グレン」、10月13日にも初打ち上げへ
ジェフ・ベゾス氏の宇宙企業ブルー・オリジンは2024年8月24日、開発中の「ニュー・グレン」ロケットについて、早ければ10月13日にも初めての打ち上げを実施すると発表した。ニュー・グレンは、全長98mの巨体と、第1段を再使用できることを特徴とし、実用化されれば世界で3番目に強力なロケットとなる。初打ち上げでは、米国航空宇宙局(NASA)の火星探査機を打ち上げる。【マイナビニュース】
【Blue Origin提供:打ち上げに向けた試験を行うニュー・グレン】
3. 航空会社の関心が高まる中、JetZeroはBlended Wing Body設計を進化させている
米国の新興企業ZeroJet は、2027年までに実物大のブレンデッド・ウィング・ボディ(BWB)実証機の初飛行に向けて開発を進めており、最近英国のLCCであるEasy Jetが開発に協力すると発表。同ジェット機は今年初めに予備設計審査(PDR)のマイルストーンを通過している。ロングビーチを拠点とする開発業者の最高経営責任者兼共同創設者のトム・オリアリー氏は、PDRは6月に完了し、「締め切り」作業は「わずか2週間前」に行われたと述べた。同氏は9月4日、英国クランフィールド大学で行われたイージージェットの持続可能性イベントで、厳密な設計見直しは「来年の夏」に行われ、スケールド・コンポジッツ社が製造する実証機は2027年の初飛行に向けて順調に進むだろうと語った。これまでの資金は、米空軍(USAF)、NASA、連邦航空局のほか、昨年完了した同社のシリーズAラウンドを支援したアラスカ航空などの投資家から提供されている。 米空軍は将来の空中給油機に注目しているが、ジェットゼロも航空市場をターゲットにしており、BWB機は現在の翼と管の設計に比べて燃料排出量を最大50%削減すると約束している。【Flightglobal news】
【JetZeo提供:JetZero社のBWB機想像図】
日本のニュース
1. 成田空港、私大就職担当者と情報交換 航空業界への就業意識向上へ
成田空港を運営する成田国際空港会社(NAA)は9月3日、千葉県内の大学を対象とした新卒採用の情報交換会を開催すると発表した。県内の大学27校の就職担当部署で構成する「千葉県大学就職指導会」との共催で、昨年に続き開催する。今年は空港関連企業34社と私立大学16校が参加し、意見交換する。6日に開催する情報交換会は第1ターミナルを会場とし、午後1時30分から午後5時まで開催する。大学と企業が空港関連企業への就職促進で協力し、意見交換を進めていく。情報交換会には学生にキャリア指導する大学の就職担当者が参加し、航空・空港業界への理解を深めてもらうことで、学生の業界への就業意識の向上を狙う。新型コロナにより低迷していた航空需要は回復が急加速する一方、航空・空港関連業種は人手不足が課題となっている。大学生にとって、パイロットや客室乗務員、地上係員などの職種は認知しやすいものの、航空機運航のグランドハンドリング(地上支援、グラハン)や貨物サービス、保安検査などの空港業務などは、職業理解を深める機会が少ないのが現状だ。県大学就職指導会は今回の情報交換会を通じ、県内の大学生が県の成長産業である航空・空港業界への理解を深め、理解不足により就職に結びつかない事態を避けたい考え。【Aviation wire news】
2. JAL、海外整備士にBuddycom 映像や自動翻訳活用し情報共有強化
サイエンスアーツは9月3日、同社の多機能IP無線アプリ「Buddycom(バディコム)」が日本航空(JAL/JL、9201)の海外空港の整備部門に採用されたと発表した。JALは海外にいる整備士と、日本のサポート部門との連絡ツールとして導入した。JALは海外41支店のうち、フランクフルトやニューヨーク、ロサンゼルスなど14支店にBuddycomを導入。従来は携帯電話やiPhoneやiPadのビデオ通話アプリ「FaceTime」などで連絡を取っていたが、1対1のやり取りのため担当者同士でしか詳細がわからず、周囲の関係者には伝言する形になっていた。Buddycomの導入でグループ通話ができるようになり、情報共有のスピードや正確性を高めた。機材の不具合が発生した場合、言葉や画像だけでは伝わりにくい事例もあり、現場から映像を配信しながら会話することで、海外にいる整備士と日本のサポート部門が正確に情報共有し、対策が取れるようになったという。また、外国人整備士などとの英語によるコミュニケーションは、英語が母国語ではないスタッフにとっては心理的なストレスにつながっていたことから、Buddycomのリアルタイム翻訳機能を活用したり、やり取りの履歴が残ることで微妙な伝え間違いがないかの確認などを削減できたという。海外支店の現場ではiPadやiPhone版のBuddycomを使用し、日本のサポート部門はWindows版を導入。日本からは全世界の拠点を支援するため、同時に16グループと接続して複数のスタッフによるサポートを行えるようにした。スマートフォンアプリのBuddycomと比べ、Windows版は複数のグループを同時に確認できる。【Aviation wire news】
3. ANA、サメ肌フィルムでCO2削減 777F実装機就航、25年春に-300ERも
全日本空輸と独ルフトハンザ テクニックは9月2日、ルフトハンザが開発したサメ肌の構造を模した「リブレット加工フィルム」を旅客機と貨物専用機に導入すると発表した。単独の航空会社で旅客機と貨物専用機の両方に導入するのは世界初で、2日はフィルムを貼ったボーイング777F貨物機(登録記号JA771F)がアジア・日本で初めて就航した。旅客機は2025年4月をめどに777-300ER(JA796A)へ導入し、国際線で運航を始める見通し。フィルムの名称は「AeroSHARK(エアロシャーク)」。サメの肌を生体模倣したフィルムで、気流の影響による空気の粘性抵抗を低減することで燃費を改善し、CO2(二酸化炭素)削減につなげる。50マイクロメートル(1000分の50ミリ)の「リブレット(サメ肌)」を気流の方向に合わせて配置することで、サメの皮膚を再現し、飛行中の空気抵抗を約1%減少させ、燃費を改善してCO2排出量を減らす。機体の約7割に貼り付けることで、ルフトハンザの試算では1機あたり燃料消費を年間約250トン抑え、CO2排出量を約800トン削減できるという。1枚あたりの大きさは、幅約1メートル×高さ約0.5メートル。777Fには約2000枚が使われ、機首や天井、尾部などを除いた胴体の約7割にあたる部分に、海外の整備委託先で約2週間かけて貼り付けられた。AeroSHARKは、ルフトハンザ ドイツ航空を中核とするルフトハンザ・グループの整備会社ルフトハンザ テクニックと、化学薬品・塗料メーカーの独BASFが共同開発し、BASFが製造。ルフトハンザ テクニックがAeroSHARKの型式証明を取得しており、商業運航する航空機での安全性が証明されている。【Aviation wire news】
【Yahooニュース提供:サメ肌加工フィルム】