KIT航空宇宙ニュース2024WK47

ガス気球を使った“宇宙遊覧フライト”の商業サービス提供をめざす岩谷技研が行った7月の有人飛行試験
KIT航空宇宙ニュース

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海外のニュース

1. エアバス、2043年までに新造機需要4.2万機 アジア太平洋が原動力に=20年予測

エアバスは、2024年から2043年までの20年間の民間航空機市場予測を発表した。旅客機と貨物機を合わせた機体数は4万2430機で、2023年に発表した20年予測から1580機増加する。地域別で旅客機の需要がもっともが見込まれるアジア太平洋地域は、全体の46%にあたる1万9500機と予測している。2023年に世界全体で運航する2万4260機のうち、2043年まで継続して運航する「既存機」は5800機。残り1万8460機は機材更新で、市場の成長により新たに必要となる2万3970機と合わせ、20年間で4万2430機を新たに納入すると予測する。新造機4万2430機のうち、最も多い単通路(シングルアイル)機は3万3510機(80%)、双通路(ワイドボディー)機は8920機(20%)と予測している。双通路機のうち旅客機は7980機、貨物機は940機。単通路機はすべて旅客機となる。エアバスは、2027年までの航空輸送量が年8.4%ずつ増加しコロナ前を回復すると予測。その後、2027年から2043年までの年平均輸送量は旅客が3.6%、貨物が3.1%増加するとみている。市場別では、中国とインドを含むアジア太平洋地域全体の旅客輸送量が4.8%増となり、成長の原動力となると予測。航空業界の重心はアジアへのシフトが加速するとしている。【Aviation wire news】

2. 静かな超音速機X-59、エンジン初始動 NASAとスカンクワークスが開発中

NASA(米国航空宇宙局)とロッキード・マーチン・スカンクワークスは、静粛超音速実証機X-59に搭載するエンジンの地上試験をこのほど開始した。地上走行試験と初飛行前の最終的な主要システムの試験となり、X-59が初めて自身のエンジンを動力源としてシステムを動かした試験となった。地上試験中、ロッキード・マーチンは吸気口とノズルの性能、航空機とエンジンの構造、システム・インターフェース、エンジン制御アルゴリズムを検証。これまでX-59は外部電源を用いて電気や油圧、空気圧を得ていた。X-59のエンジンは、戦闘攻撃機F/A-18E/F「スーパーホーネット」のGE製F414-GE-100を基にしたものを使用している。エンジンの地上試験は、初飛行前の重要な試験。燃料システムの管理、振動と温度の相互作用などを検証していく。エンジンの試運転が成功後、X-59は電磁妨害の影響、飛行中の故障のシミュレーション、非常用電源システムの検証などの評価を受ける見込み。これらの評価が完了後は、初飛行に向けて低速と高速の地上走行試験を計画している。X-59は、静かな超音速飛行を実現し、将来の商業フライトに変革をもたらすことを目的として設計された他に類を見ない試験機。「ドン、ドーン」と打ち上げ花火や落雷のような音を伴う衝撃波「ソニックブーム」を抑え、陸上での商用超音速飛行の実現を目指す。米カリフォルニア州パームデールで、今年1月12日にロールアウトした。【Aviation wire news】

【Aviation wire提供:NASAとスカンクワークスが開発中の超音速機「X-59」】

3. 学生ロケット、新たな高みへ! 南カリフォルニア大学が高度と速度の世界記録を更新

南カリフォルニア大学(USC)の学生団体「USCロケット・プロパルション・ラボラトリー(USCRPL)」は2024年11月15日、10月に打ち上げた「アフターショックII」ロケットの飛行結果を発表した。最大到達高度は143.3km、最大速度は秒速1.61km、マッハ5.5で、到達高度と速度の両面で、アマチュア・ロケットの世界記録を塗り替えたとしている。USCRPLは2005年に設立された団体で、2019年に「トラベラーIV (Traveler IV)」ロケットで高度100kmの宇宙空間に到達した。学生が開発したロケットが宇宙(カーマン・ライン)に到達したのは世界初だった。ただし、GPSデータの記録が不完全だったことから、USCRPLでは到達高度は33万9800ft(約104km)±1万6500ft(約5.02km)とし、「90%の確率で高度100kmを超えたと考えられる」と結論づけている。それ以来、同団体は自らの記録を破るため、新しいロケットの開発を続けてきた。そして2024年10月20日、USCRPLはネバダ州にあるブラックロック砂漠で、「アフターショックII (Aftershock II)」ロケットを打ち上げた。その後、飛行データの分析を行った結果、最大到達高度は47万400ft(143.3km)、最大速度は秒速5283ft(1.61km)、マッハ5.5だったと結論づけられた。分析結果をまとめた論文は11月15日付けで発表された。これまで、学生ロケットの最高到達高度は、同団体のトラベラーIVが2019年に記録した33万9800ft(104km)だった。また、社会人が参加するアマチュア・ロケットも含めると、2004年に米国の非営利団体CSXT(Civilian Space eXploration Team)が開発した「ゴーファスト(GoFast)」ロケットが記録した38万5800ft(117.6km)が最高だった。アフターショックIIは、この両方の記録を破り、また米国連邦航空局(FAA)が定めるアマチュア・ロケットの高度制限である49万2000ft(150.0 km)にも迫った。また、最高速度についても、学生ロケットではトラベラーIVの秒速4966ft(秒速1.51km)、アマチュア・ロケットも含めるとゴーファストの秒速5019ft(秒速1.53km)が最高だった。したがって、アフターショックIIはこの記録も塗り替え、アマチュア・ロケット史上、最も高く、そして速く飛んだロケットとなった。【マイナビニュース】

【USCRPL提供:2024年10月20日の「アフターショックII」の打上げ】

4. GEは2025年にオープンファンエンジンの統合モデル化を開始

GEエアロスペースは2025年に、米国政府が資金提供する研究施設にある世界最速のコンピューター2台を使用して、オープンファンエンジンのコンセプトが航空機の翼やその他の構造とどのように統合されるかを研究する計画だ。この研究は、オハイオ州に本拠を置くGEエアロスペース社が持続可能なエンジンのための革新的イノベーション(RISE)プログラムに基づき、より効率的な動力装置を開発する継続的な取り組みの一環である。GEエアロスペースは11月18日、米国エネルギー省(DOE)が同社に、イリノイ州のアルゴンヌ国立研究所とテネシー州のオークリッジ国立研究所にある2台のいわゆるスーパーコンピューターを使用した84万時間の「ノード時間」を付与したと発表した。【Flightglobal news】

の【CFMインターナショナル提供:CFMのRISEプログラムOpen Fan Rotorエンジン】

日本のニュース

1. 国産SAF理解深化へ、ACT FOR SKY初のシンポジウム ANA・JALら15者集結

現在の化石由来燃料に代わる航空燃料「SAF(サフ、持続可能な航空燃料)」の国産化を目指す有志団体「ACT FOR SKY(アクトフォースカイ)」は11月20日、初となるシンポジウムを12月2日に羽田空港で開催すると発表した。同団体にはANAホールディングス傘下の全日本空輸や日本航空などが参画しており、2025年度初頭に開始予定の国産SAFプラント稼働に合わせ、国産SAFへの理解深化を狙う。シンポジウムは「未来の空を拓く、国産SAFの最前線」をテーマとし、国産SAFの最新状況や課題を発信する。ACT FOR SKYに参画する45者のうち、ANAとJALを含む15者が集まり発表する。会場は羽田空港第3ターミナル直結のTIAT SKY HALLで午後1時から午後5時45分まで。会場のほか、YouTubeのライブ配信もする。ACT FOR SKYは2022年3月2日「サフの日」に設立。当初は16社でスタートし、加盟各社が実用化に向けた情報交換などを進めている。ACT FOR SKYの設立に先立ち、JALとANAは、SAFに対する理解を広げるための共同レポート「2050年航空輸送におけるCO2排出実質ゼロへ向けて」を2021年10月8日に発表している。SAFの国産化を巡る動きでは、日揮ホールディングスとコスモ石油、レボインターナショナルの3社が廃食用油を原料とした国産SAFの製造や供給事業を手掛けるSAFFAIRE SKY ENERGY(サファイアスカイエナジー、横浜市)を2022年11月に設立。コスモ石油の堺製油所内に日本初となる国産SAFの大規模生産プラントを建設中で、2025年の生産開始を目指す。SAF製造能力は、年間約3万キロリットルを計画している。【Aviation wire news】

【Act for Sky参加企業】

2. 客室デザインの国際会議、東京で12月アジア初開催

航空機のインテリアデザインやイノベーションに関する関係者向け国際会議「エアクラフト・キャビン・イノベーション・サミット・アジア(Aircraft Cabin Innovation Summit Asia)」が、都内で12月3日から5日まで開かれる。ドイツの運輸業界向けイベント運営会社レッドキャビン(RedCabin)が主催し、アジアでは初開催となり、ホストは全日本空輸が務める。イベントには、航空会社やエアバス、ボーイング、サプライヤー、デザイン会社などが参加。日系大手2社からも、客室開発担当者などが登壇する。主催者によると、特に客室のデザインや次世代シートに関する技術革新、世界の航空会社によるサステイナビリティーの取り組み、プレミアムエコノミーをはじめとする次世代に向けたシートデザインが示す未来への視点などを紹介するという。講演には、ANAの島田俊哉CX推進室商品企画部長、日本航空の岩本正治商品・サービス開発部長をはじめ、両社の客室開発担当者、キャセイパシフィック航空、ターキッシュエアライン、カタール航空など海外の航空会社の担当者、エアバスや内装品メーカー、デザイン会社の担当者らが登壇を予定している。参加は航空会社などの関係者に限られ、申し込みは同イベントのウェブサイトから。場所は品川駅近くの東京コンファレンスセンター・品川。【Aviation wire news】

【Aviation wire提供】

3.  “週末、気球で宇宙へ”。2025年就航めざす、岩谷技研の2人乗りキャビン

ガス気球を使った“宇宙遊覧フライト”の商業サービス提供をめざす岩谷技研。7月の有人飛行試験で使ったキャビン実機を、宇宙ビジネスイベント「NIHONBASHI SPACE WEEK 2024」(東京・日本橋/会期:11月18〜22日)に出展している。これまで「Japan Mobility Show 2023」などで出展していたキャビンは、空を飛んだことのないモックアップだったが、今回同社がSPACE WEEK 2024の会場に持ってきたのは、7月に行った有人飛行試験で実際に使ったキャビン実機。「T-10」と名付けられた機体の10号機で、このときの飛行試験では高度20kmに到達したそうだ。キャビンの直径は約1.7mで、説明員によるとサイズ感はこれまでの模型からそれほど変化はないという。パッと見て気付くのは、窓がやや小さくなり、角も取れてさらに丸みを帯びたデザインに変わっていること。窓のはめ込み方もネジ止めを少なくし、つなぎ目もなるべく減らすなど気密性を強化。全体的に改良を加えた機体なのだという。今回展示しているT-10 10号機だが、説明員によればこの機体はもう空を飛ぶことはなく、展示用として“余生”をおくることになる模様だ。同社では、商業運航時は基本的にひとつの機体につき飛行は1回限りとすることを考えており、同じキャビンに客を次々乗せて繰り返し飛ばすような再利用は今のところ考えていないという。4重の安全系を実装し、“自動車や旅客機並みの安全性”をアピールしているとはいえ、「キャビンが複数回の飛行に耐えられるか検証できていない」のだそうで、繰り返し飛行を実現できるのはおそらく次世代機からになるだろうとのこと。【マイナビニュース】

【岩谷技研提供:有人飛行試験の様子】