KIT航空宇宙ニュース2025WK24
海外のニュース
1. 787、14年で初の墜落・死亡事故 エア・インディアAI171便、乗客1人生存
インドのアーメダバードで現地時間6月12日に起きたエア・インディアのAI171便(ボーイング787-8型機)墜落事故は、14年前の2011年に就航した787にとって、初の墜落・死亡事故となった。乗客230人と乗員12人(パイロット2人、客室乗務員10人)の計242人が乗っていたが、エア・インディアは13日、乗客1人を除き死亡が確認されたと発表した。事故機の座席数は2クラス256席(ビジネス18席、238席)。英国のデータ分析会社「シリウム(Cirium)」によると、2014年1月28日に引き渡され、飛行時間は4万1000時間以上、離着陸回数は8000回近くで、このうち過去1年間で約700回の離着陸があったといい、同程度の就航年数では平均的な値だという。エンジンはGE製GEnxを搭載していた。AI171便は12日午後1時38分(日本時間同日午後5時8分)にアーメダバードのサルダール・ヴァッラブバーイー・パテール国際空港を出発。242人のうち、国籍は169人がインド、53人が英国、7人がポルトガル、1人がカナダだった。空港の滑走路は1本(RWY23/05)で、AI171便はRWY23から離陸した。墜落地点は空港近くのメグニナガル(Meghaninagar)で、南南西に位置し、滑走路の延長線上にある。【Aviation wire news】

【Yahooニュース提供:離陸直後に墜落したAir Indiaの787-8型機】
2. 中国、小惑星サンプルリターン探査機「天問二号」打上げ 将来は彗星探査も
中国国家航天局(CNSA)は2025年5月29日、小惑星探査機「天問二号」を打ち上げた。天問二号は準衛星「カモオアレワ」のサンプル(試料)を採取して地球へのサンプルリターンに挑み、その後はパンスターズ彗星(311P/PANSTARRS)の探査もめざす、野心的なミッションだ。天問二号は、探査機本体と帰還カプセルのふたつの部分から構成されている。本体には、円形のフレキシブル太陽電池パドルを装備し、電気推進エンジンを使って航行する。科学機器は、マルチスペクトルカメラや可視・赤外線イメージング分光計、レーダー、磁力計のほか、イタリアから提供された噴出物分析装置など、計11個が搭載されている。天問二号が最初にめざす小惑星(469219)カモオアレワ(Kamo’oalewa)は、2016年に発見された小惑星で、地球の「準衛星」のひとつだ。準衛星とは、恒星(太陽)周囲を公転しつつ、ある惑星の近傍を比較的安定して周回する天体である。天体力学的には衛星ではないが、あたかも衛星のように見えるため「準衛星」と呼ばれている。カモオアレワの直径は40〜100mと見積もられており、これまでに探査機が訪れた小惑星の中では最小級とされる。その起源は不明なものの、月に小天体が衝突した結果形成されたという理論もあり、サンプルを分析することで、起源や準衛星そのものの特徴を解明するのに役立つと期待されている。天問二号は、長征三号乙ロケットに搭載され、日本時間2025年5月29日2時31分(北京時間同日1時31分)、西昌衛星発射センターから打ち上げられた。打ち上げから約18分後にはロケットから分離され、深宇宙へ向かう軌道に入った。その後、太陽電池の展開や通信の確立なども正常に成功したという。【マイナビニュース】

【CNSA提供:カモオアレワを探査する天問二号の想像図】
3. ロールスロイス、ナローボディサイズのエンジンを含むウルトラファンのテスト計画を加速
ロールスロイス社は、2028年までに、ワイドボディ機用と単通路機用の2種類のウルトラファン実証エンジンを運用し、2020年代末までに飛行テストを実施する予定だ。ロールスロイス社は、両方の使用事例に真剣に取り組んでいることの証として、幅広い推力クラスにちなんで、これらのエンジンを「ウルトラファン 30」および「ウルトラファン 80」と名付けた。ロールス・ロイス社は、ギアードファン構造の開発を再開した。これは、新型航空機への搭載や、将来のエンジン交換ソリューションなど、将来の用途に向けた設計の準備を進める中での取り組みです。同社は昨年、この試験プログラムを再開する計画を表明していた。推力約85,000ポンド(380kN)を発生する、オリジナルのワイドボディサイズの動力装置実証機の地上テストは、約70時間の稼働時間を経て2023年に終了したが、ロールスロイス社は現在、年末までにテストを再開する意向でそのエンジンを再構築中であると、パリ航空ショーに先立ちFlightGlobalのインタビューで、研究技術担当ディレクターのアラン・ニュービー氏が語った。しかし同社は並行して、将来のナローボディ機への搭載を想定した縮小版の予備設計作業を開始しており、この作業は今月下旬に完了する予定だ。ロールス・ロイスは、2028年までにウルトラファン30の実証機を製造し、同年末までにエンジンの稼働を開始する計画だ。飛行試験は「2020年代末」頃に実施される可能性がある。【Flightglobal news】

【ロールス・ロイス提供:最初のデモンストレーターのテスト(2023年に終了)】
日本のニュース
1. ZIPAIR、カーボンニュートラルで航空業界初の認証 温室効果ガスを実質ゼロに
ZIPAIRは6月10日、企業活動で発生するCO2(二酸化炭素)などの温室効果ガス(GHG)排出量を実質的にゼロにする「カーボンニュートラリティ」の国際規格「ISO 14068-1:2023」に準拠した第三者認証を、英国規格協会(BSI)の日本法人BSIグループジャパンから5月15日付で取得したと発表した。再生可能エネルギーの利用や植林などでGHG排出量を削減・除去するもので、航空業界では世界初の取得となる。今回の認証はZIPAIRの全路線を対象とし、2023年度に排出したGHGの量を国際規格「ISO 14067:2018」に基づき算定。排出量の削減計画を策定・実施したうえで、削減できなかった分をカーボンクレジットでオフセットすることで、カーボンニュートラルを実証した。認証の取得に伴い、BSIの「カーボン・ニュートラル・サービス」に対して与えられる認証マーク「BSI Kitemark」も付与された。Kitemarkは120年以上の歴史を持つ品質・安全性の国際的証明とされている。ZIPAIRは、燃費効率に優れたボーイング787-8型機を導入。再生可能エネルギーの活用のほか、脱プラスチック対応などに取り組んできた。今後はISO 14068-1に基づく経営計画書に沿ってGHG排出量の削減を進め、2050年までのカーボンニュートラル達成を目指す。【Aviation wire news】
2. ANA、機内誌から新素材「あっぷるん」共同開発 プラのように成形できる紙素材
全日本空輸を中核とするANAグループは6月10日、機内誌「翼の王国」を原料としたアップサイクル素材「あっぷるん」を、BECS(奈良市)と共同開発したと発表した。プラスチックのように成形できる紙素材で、飛行機のミニフィギュアを製作し、子供向けイベントで使う。「あっぷるん」は、客室乗務員の「世の中の“もったいない”を減らしたい」という思いから、社員提案型のビジネスコンテストを経て生まれた新素材。粉砕した使用済みの「翼の王国」から得た植物繊維を、BECSの独自技術で再生したもの。石油由来樹脂を使わずに、プラスチック成形機で加工でき、手触りもプラスチックに近いという。使用後は古紙と一緒に回収できる。【Aviation wire news】

【ANA提供】
3. 横田の軍民共用化を要望 全地航、航空需要の地方波及で
空港がある都道府県などで構成する全国地域航空システム推進協議会(全地航、会長:鈴木直道・北海道知事)は、地域航空の安定的な路線の維持を目的とした要望書を6月6日付で国土交通省航空局(JCAB)の平岡成哲局長宛に提出した。地方路線の維持・活性化や、空港業務に従事する人材の安定的確保への支援などを要望し、急回復するコロナ後の航空需要を地方にも波及させたい考え。要望書では、持続可能な地域航空の実現や混雑空港との関係性、路線維持、震災や災害を踏まえた空港機能の強化などを求めた。地方路線の維持・活性化では、離島航空路線の維持へ予算を確保し、新たな法制の整備を含めた支援制度のあり方を検討することを要望。離島路線以外の地方路線の維持・発展への助成制度の制定も求めた。首都圏空港を地域航空にも対応できる空港として整備し、発着容量拡大を実現するようにも要望。100席以下の小型機向け発着枠の導入のほか、横田飛行場(東京・福生市)の軍民共用化を含め、首都圏全体の空港容量拡大を検討するよう求めた。また、JCABが発着枠を配分する羽田空港の「政策コンテスト枠」を活用した地域航空網の拡充へ配慮も求めた。【Aviation wire news】
4. スカイマーク、グランドスタッフ既卒採用 12/1入社30人
スカイマーク(SKY/BC、9204)は6月9日、地上旅客職(グランドスタッフ)の既卒採用を始めた。入社時期は12月1日で、エントリーは7月4日まで。採用予定数は約30人。初期配属は羽田・新千歳・茨城・中部・神戸・福岡・長崎・鹿児島・那覇のいずれかで、全国転勤がある。応募資格は、今年3月末時点で、高校・専門・高専・短大・4年制大学・大学院を卒業・修了していて、12月1日に入社でき、シフト勤務ができること。また、会社が指定する通勤圏内に、入社日までに居住できる必要がある。語学力は、英検2級やTOEIC500点程度以上が望ましく、グランドスタッフの経験があれば「なお可」としている。選考は書類、適性検査、面接などを予定している。【Aviation wire news】
5. ANAウイングス、自社養成パイロットのインターンシップ 9月に4日間
ANAホールディングス傘下のANAウイングスは6月9日、自社養成パイロット(運航乗務職掌)を対象としたインターンシップを9月に実施すると発表した。セミナーやシミュレーター体験、社員との座談会などを通じて航空業界や同社への理解を深めてもらう。対象は学生(学年・学部不問)と既卒者、社会人で、エントリー期間は6月23日から7月6日まで。オンラインと対面を組み合わせた4日間のプログラムで構成され、初日となる9月7日にA・B両コース共通のプログラムをオンラインで開催。2日目から4日目は、Aコースが13日から15日、Bコースは20日から22日で、いずれも羽田空港に集合して実施する。申し込みは同社の採用サイトから。参加に伴う交通費や宿泊費は同社の基準に基づいて支払うが、報酬(日当)はなし。参加者は多数の応募が予想されることから、選考を実施する。【Aviation wire news】
6. 福岡・久留米を宇宙から撮影。QPS研究所の新衛星がとらえた初画像公開
QPS研究所は、小型SAR衛星10号機 「ワダツミ-I」が撮影した初画像(ファーストライト)を公開。今回の画像は福岡・久留米市をとらえたもので、同社では「私たちの衛星開発を支える重要なパートナー企業も複数拠点を構えており、技術と地域のつながりを感じる場所」と説明している。ワダツミ-Iは米ロケット・ラボのロケットElectron(ミッションネーム:The Sea God Sees)によって日本時間5月17日17時17分に打上げられ、約50分後に衛星分離、続いてその約30分後に初交信にいずれも成功。翌夕には収納型アンテナを展開し、以後は衛星機器の調整を続けてきた。QPSのSAR(合成開口レーダー)衛星は、分解能1.8mの通常モード(ストリップマップモード)と、分解能46cmの高精細モード(スポットライトモード)で観測可能。ワダツミ-Iは6月6日に高精細モードで初観測を行い、アルウェットテクノロジーによる画像処理協力を経て、福岡・久留米市を詳細にとらえた初画像を公開した。分解能は、アジマス(衛星の進行方向)分解能が46cm、レンジ(衛星の進行と直交する、衛星のマイクロ波を照射する方向)分解能が55cm。【マイナビニュース】

【QPS研究所提供:QPS研究所の小型SAR衛星10号機 「ワダツミ-I」が撮影した初画像のひとつ。西日本鉄道 花畑駅周辺のクローズアップ画像では、線路の架線柱、架線ビームまで観測できており、左には電話局の鉄塔が見えている】
7. 世界初、ビームで引っ張る“無燃料ロケット”の推力生成実証 東北大ら成功
東北大学と筑波大学は、次世代の低コスト宇宙輸送システムとして期待される「マイクロ波ロケット」において、ロケット前方(上方)からビームを照射する新方式「トラクターミリ波ビーム推進機」(TMiP)の推力生成実験に世界で初めて成功と6月3日に共同発表。ビーム源へ引き寄せられるような推力が発生したとしている。同成果は、東北大大学院 工学研究科の高橋聖幸准教授、同・山田峻大大学院生(研究当時)、筑波大 数理物質系/プラズマ研究センターの南龍太郎准教授、同・假家強教授、東京都立大学大学院 システムデザイン研究科の嶋村耕平准教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、英オンライン総合学術誌「Scientific Reports」に掲載された。大量の燃料を使用する現在のロケットは、高い打ち上げ費用が課題だ。その費用削減を目指し開発中のロケットに、周囲の空気を燃料とする「マイクロ波ロケット」がある。これは搭載燃料を削減でき、ビーム照射施設の建設という初期投資は要するものの、最終的な費用は従来の1/4以下にまで削減できる試算だ。このロケットは、ロケットノズル前方の放物面ミラーで地上からの高強度ミリ波(マイクロ波の一種)ビームを集光し、その熱で集光点付近の空気をプラズマ化する。プラズマの熱が周囲の空気に急速に伝わることで衝撃波を発生させ、推力を生む。発生したプラズマはノズル出口から排出され、ノズル内へは換気で新鮮な空気が取り込まれ、ミリ波ビームの照射が繰り返される仕組みだ。【マイナビニュース】

【共同ニュース提供:提案されたトラクターミリ波ビーム推進機】