KIT航空宇宙ニュース2023WK49
海外のニュース
1.「PWエンジン問題は25年も影響」世界の航空会社、24年は過去最高の総収入に
IATA(国際航空運送協会)は現地時間12月6日、世界の航空会社による今年の純利益が233億ドル(約3兆4343億円)、純利益率は2.6%になる見通しだと発表した。前回6月に発表した98億ドルから大幅な上方修正となった。2024年は純利益が前年比10.3%増の257億ドル、純利益率は0.1ポイント上昇し2.7%になるとの予測で、旅客数はコロナ前を上回る過去最高の約47億人に達し、年間の総収入も過去最高を記録する見通し。ジュネーブで6日に会見したIATAのウィリー・ウォルシュ事務総長は「人々は旅行好きであり、そのおかげで航空会社はパンデミック前の水準に回復できた。2024年以降の見通しでは旅客と貨物ともに、これまでより通常の成長パターンが期待できる」と述べた。一方、利益の水準について「航空業界の利益は、適切な視点に立つ必要がある。回復には目を見張るものがあるものの、2.7%という純利益率は、他のほとんどの業界の投資家が受け入れる水準をはるかに下回っている」と指摘した。 航空業界の年間CO2(二酸化炭素)排出量は、2024年は990億ガロンの燃料消費から9億3900万トンになると予想。代替航空燃料「SAF(サフ:持続可能な航空燃料)」の生産量は、航空会社の総燃料消費量の0.53%に増加する見通し。航空業界が抱えるリスク要因については、ウクライナ情勢やイスラエルとハマスの軍事衝突は空域閉鎖による経路変更にほぼ限定されるものの、原油価格の上昇につながり、状況がエスカレートすると世界経済のシナリオが根本的に変わる可能性があるとして、航空業界も影響を免れないとの見方を示した。また、エアバスA320neoファミリー向けのプラット&ホイットニー(PW)製エンジン「PW1100G-JM」の製造で生じた不具合による影響は、「残念なことに2025年のキャパシティに影響を与えることになりそうだ」(ウォルシュ事務総長)という。【Aviation wire news】
【Bloomberg提供:ジュネーブで記者会見するIATAウィリー・ウォルシュ事務総長】
2. 737-10の型式証明、24年にずれ込み NMA開発「進捗なし」777Xは25年中ごろ
ボーイング民間航空機部門マーケティング担当副社長のダレン・ハルスト氏は12月6日、開発が進む737-10(737 MAX 10)と777Xなどの進捗を明らかにした。737-10は製造国が安全性を認める「型式証明」(TC)の取得は2024年にずれ込む見通しで、就航は当初計画を3年延期した2023年を目指していたが、就航が延期となることも確実となった。一方で777Xは計画を変更せず、2025年中ごろの納入開始を目指す。737-10は、737の発展型である737 MAXファミリーの中で胴体長がもっとも長い「最大の737 MAX」で、最大座席数は1クラス230席。日本の航空会社では、スカイマークが737-10を発注済み。ボーイングはFAA(米国連邦航空局)が認証飛行試験の開始を許可したと現地時間11月22日に発表し、現在はFAAが飛行試験を進めている。737-10は、コックピット内の警告システム「EICAS(Engine Indicating and Crew Alerting System:エンジン計器・乗員警告システム)」を巡り、737-8などほかの737 MAXとは別のコックピットとして扱われ、パイロットのライセンスを共通化できなくなる可能性があったが、米議会が警告システムの搭載を免除する改正法案を2022年末に可決したことで回避した。777の後継機となる開発中の次世代大型機777Xは、メーカー標準座席数が2クラス384席の777-8と、426席の777-9の2機種で構成し、777-9から開発が進められている。2022年1月31日には、777-8をベースとする大型貨物機「777-8 Freighter(フレイター)」の開発が発表された。777Xは進捗に変更はなく、予定通り2025年中ごろに初納入する。777Xは当初、2021年の引き渡し開始を予定していた。その後納入開始の後ろ倒しを重ね、現在は2025年の初号機納入を目指し、開発を進めている。
【Yahooニュース提供:開発中のBoeing737‐10型機】
【Yahooニュース提供:開発中のBoeing777X型機】
3. Reliable Robotics社がセスナ・キャラバンを使用してパイロットレス試験飛行を完了
自律型航空開発会社リライアブル・ロボティクス社は最近、北カリフォルニアでテスト飛行中にパイロットを乗せずにセスナ・キャラバンを飛行させた。マウンテンビューに本拠を置く同社が12月6日に「航空史上初」と称したものでは、常時オンの自動操縦システムを作動させ、パイロットのダナ・トンマリーが約80km(50マイル)離れている管制センターから空の航空機を監視しながら12分間の飛行に成功した。11月21日にホリスター市営空港で連邦航空局が観測した飛行には、人口密集地の上空を飛行するパターンが含まれていた。同社は7月と8月に3回の試験飛行を完了し 、自社の自律システムを使用して混雑した航空管制空域でパイロットのいない航空機を飛行できることを実証した。これらの飛行はパイロットがコックピットにいて遠隔操作で行われた。【Flightglobal News】
【Reliable Robotic社提供:遠隔操縦で試験飛行するセスナ・キャラバンの操縦席(無人)】
4. ルフトハンザ航空とLiliumが初のeVTOLジェット機の生産ライン入りに伴い提携
ドイツのフラッグキャリアであるルフトハンザ航空とeVTOL開発者であるLilium社は、提携して「航空におけるイノベーションの機会」を探求するための覚書(MoU)を締結した。 両社は2023年12月7日、eVTOL市場の可能性を検討し、地上および飛行運用、将来の航空機メンテナンス、乗務員および飛行訓練などの分野について調査研究することを確認した。現時点ではルフトハンザグループがリリウムジェットを発注する確約はないが、「戦略的パートナーシップの可能性」の余地はある。この研究には、例えばバーティポートなどのインフラの開発、空域の統合、必要な運用プロセスの定義など、空港や地域パートナーなどの第三者が関与する可能性が含まれている。【Flightglobal News】
【Lilium社提供:Lilium社が開発中のeVTOL機「Lilium」】
日本のニュース
1. 米軍、オスプレイ全機の運用停止 機体不具合の可能性も
米空軍のAFSOC(空軍特殊作戦コマンド)は現地時間12月6日、鹿児島県屋久島沖に在日米軍横田基地所属の垂直離着陸輸送機CV-22「オスプレイ」が墜落した事故で、機体に不具合があった可能性があると発表した。同日から同型機の運用停止を指示した。AFSOCの決定を受け、海軍と海兵隊の航空機を統括するNAVAIR(海軍航空システムコマンド)も、7日にオスプレイの運用停止を指示したことから、海兵隊のMV-22を含む米軍のオスプレイ全機が飛行停止となった。事故は11月29日に発生。AFSOCによると、予備調査の情報では事故の原因となった可能性のある機体の不具合が示されているものの、根本的な原因は現時点で不明だという。AFSOC司令官のトニー・バウエルンファインド中将は「統合軍、自衛隊、海上保安庁、法執行機関、民間ボランティアの皆さまが、私たちの航空部隊の捜索・救助活動に精力的に協力してくださったことに心から感謝致します」とコメントした。V-22はボーイングとヘリコプターメーカーのベル・テキストロンが共同開発し、1999年5月24日に納入開始。米空軍の特殊作戦部隊仕様となるCV-22は、2000年9月に最初の試験機2機が引き渡され、最初の運用機は2007年1月にAFSOCへ納入された。初期運用能力は2009年に獲得し、日本国内では横田基地に配備されている。【Aviation wire news】
【Yahooニュース提供:全機運航を停止した米軍のV-22「オスプレイ」】
2. 3分で水素充填、羽田空港で燃料電池フォークリフト試用 空港施設がJAL・ANA貸出
空港施設は12月4日、水素が燃料となる「燃料電池フォークリフト(FCFL)」のトライアル利用を始めた。羽田空港の国内航空貨物ターミナルで、日本航空と全日本空輸の貨物部門が2024年1月31日まで利用する。バッテリーの充電に時間がかかる電動フォークリフトと比べ、約3分間で水素を充てんできる点や、CO2(二酸化炭素)を排出せず無臭である点などを実際の運用環境で検証していく。FCFLのトライアル利用は、空港施設が東京都の「燃料電池フォークリフトマッチング導入支援事業」のトライアル事業者に採択されたことで実施。空港施設によると、FCFLのCO2排出量はガソリン車と比べて約52%、ディーゼル車との比較で約38%、電動車と比べて約16%低減できるという。また、ガソリン車やディーゼル車が3分ほどで給油が終わるのに対し、電動車はバッテリーの充電完了までに8時間程度、急速充電でも約1時間30分かかるが、水素は化石燃料と同じ3分程度で充てんが終わるため、車両の稼働率を高められる点も、24時間運用の羽田空港には適していると判断した。【Aviation wire news】
【Yahooニュース提供:羽田空港貨物ターミナルで試験運用が開始された燃料電池フォークリフト】
3. JAXAの小型月着陸実証機「SLIM」、2024年1月20日に月着陸を実施へ
宇宙航空研究開発機構(JAXA)は12月5日、2023年9月7日に打ち上げた小型月着陸実証機「SLIM」の現状、ならびに今後の予定について明らかにし、2024年1月20日に月着陸に挑む予定であることを発表した。SLIMは、月への100mオーダーという高精度着陸技術の実証と、軽量な月惑星探査システムの実現による月惑星探査の高頻度化の2つの実現を目指して実施されているミッション。特にピンポイント着陸は、2000年代に打ち上げられた月周回衛星が撮影した高解像度な画像をもとに、月のどこにあるどういった岩石にアプローチしたいといった研究者ニーズに応えることを可能とする技術で、今後の月の水探査における、太陽光が1年を通してまったく当たらない永久影の境目に降り立つためにも実用化が求められている技術となる。また、その着陸技術も搭載された航法カメラを活用した画像航法による自己の位置推定をベースとした、自律的な航法誘導制御を採用。垂直降下時には、着陸レーダも活用した高度・地面相対速度の精密計算も併せて、画像ベースの障害物検出・回避も自律的に行い、危険な岩などを避けて安全に着陸することを目指している。【マイナビニュース】
【JAXA提供:月面へ着陸する月探査衛星「SLIM」想像図】