KIT航空宇宙ニュース2025WK23
海外のニュース
1. 世界の航空収入・旅客数とも下方修正=IATA第81回年次総会
IATA(国際航空運送協会)は現地時間6月2日、世界の航空会社による今年の純利益予想は360億ドル(約5兆1400億円)になるとの見通しをインドのデリーで発表した。前回2024年12月の予想から6億ドルの下方修正となったものの、前年(24年)の324億ドルからは11.1%改善した。純利益率は3.6%で、前年の3.4%から0.2ポイント改善する見通し。前回予想では、今年は世界全体の航空収入が初めて1兆ドルを突破し、旅客数は初めて50億人台に達する52億人としていたが、今回予想は過去最高となるものの9790億ドル(前年比1.3%増)、旅客数は49億9000万人(同4%増)に引き下げた。デリーで1日から開かれている第81回AGM(年次総会)で、IATAのウィリー・ウォルシュ事務総長は2日、航空会社の増益要因として「最大のプラス要因はジェット燃料の価格だ。2024年と比べて13%下落し、前回の予想を下回っている」と、燃油費の抑制が奏功すると述べた。一方で「360億ドルの利益を上げることは大きな数字だが、1区間の乗客1人当たりわずか7.20ドル(約1026円)相当で、依然としてわずかなバッファーに過ぎない。新たな税金、空港使用料や航行料の引き上げ、需要の急激な変化、コストのかかる規制などは、航空業界の回復力に瞬く間に試練を与えるだろう」と指摘。「8650万人を雇用し、世界経済活動の3.9%を支えるバリューチェーンの中核として航空会社に依存している政策立案者は、この点を明確に認識しておく必要がある」と、各国政府を牽制した。航空会社の収入のうち、旅客収入は6930億ドル(前年比1.6%増)に達し、過去最高を記録すると予想。旅客単価は2024年比で4.0%下落すると予想しており、主に原油価格の下落と競争激化の影響を反映するものだとした。2025年の実質平均往復航空運賃はは374ドル(約5万3340円)になると予想し、2014年との比較で40%下回る水準だという。【Aviation wire news】
2. 障壁を打ち破る:エンジン新興企業のアーサ・メジャーが米国の極超音速飛行への復帰を促進
昨年12月、米国製の再使用型航空機が約60年ぶりに極超音速の壁を突破した際、この画期的な飛行を支えたのは航空宇宙産業の大手エンジンメーカーではなく、コロラド州の小さな新興企業だった。デンバー北部に本社を置くアーサ・メジャー社は、先進的な推進力の市場に静かに革命を起こしつつある。5月に国防総省が明らかにしたように、同社のハドレー液体ロケットエンジンの一つであるこのエンジンは、ストラトローンチ社の無人実験機タロンAをマッハ5の極超音速飛行まで2度加速させた。ハドレー液体ロケットエンジンは80%が3Dプリント部品で構成されており、極超音速対応モデルや宇宙空間の真空での使用に適したモデルなど、3つの異なるバージョンがある。Talon-Aプロジェクトに加えて、Ursa Major(アーサ・メジャー)は日本の再使用型ロケットの新興企業であるInnovative Space Carrierとも協力しており、今年末までにハドレー液体ロケットエンジンの試作機を打ち上げる計画だ。【Flightglobal news】

【Ursa Major提供:ハドレー液体ロケットエンジン】
3. ベータ、ニューヨーク市空港への初の全電動飛行を実施
ベータ・テクノロジーズのAlia CX300は火曜日、ニューヨーク市の空港に着陸した初の全電動航空機となった。ニューヨーク・ニュージャージー港湾局との提携により、ベータのプロトタイプ機1機が、パイロット1名とブレード・エア・モビリティのCEOロブ・ヴィーゼンタール氏、リパブリック・エアウェイズ社長マット・コスカル氏を含む4名の乗客を乗せたデモ飛行の後、ジョン・F・ケネディ国際空港(KJFK)に着陸した。ベータ社によると、45分間の飛行にかかるエネルギーコストはわずか7ドルで、同じ飛行をヘリコプターで行った場合の燃料コストは160ドルと推定されているのに対し、はるかに安価だった。アリアは、FAAがバーモント州に拠点を置く同社に発行した市場調査許可証に基づき、主試験区域外での飛行を認可され、135ノットで飛行した。Alia CX300のJFK空港到着を記念して出席したニューヨーク市当局者は、公共交通機関の脱炭素化に向けた幅広い取り組みの一環として、先進的な航空モビリティサービスの導入を積極的に推進していくと述べた。Alia CX300のフライトはロングアイランドのイーストハンプトン空港から出発した。ベータ社は過去6年間、従来型離着陸機CX300とその姉妹機であるeVTOL機Alia 250の開発に取り組んできた。CX300については、2025年末までにFAA型式証明の取得を目指している。【Aviation International News】

【Beta Technologies提供:飛行中の全電動航空機Alia CX300】
4. グリーンタクシーソリューションズとスタンダードエアロが提携し、初の電動航空機タキシング(eタクシー)システムの認証取得をめざす
航空宇宙エンジンアフターマーケットサービスの独立系専門プロバイダーであるStandardAeroは、Green Taxi Solutions(GTS)との戦略的提携を発表した。この提携により、StandardAeroはGTSの完全電動航空機タキシングソリューション「Zero Engine Taxi™」の認証取得を主導する。米国連邦航空局(FAA)から新たに560万ドルの継続的エネルギー・排出・騒音削減(CLEEN)プログラム助成金を獲得したこの提携は、Zero Engine Taxi™ eTaxiシステムの開発を加速させ、航空業界がより持続可能な地上運用へと移行することを支援する。グリーン・タクシー・ソリューションズの画期的なシステムは、航空機がメインエンジンを使用せずにタキシングすることを可能にし、燃料消費量、二酸化炭素排出量、ブレーキの摩耗、騒音、ターンアラウンド時間を削減する。航空機の補助動力装置(APU)から電力を供給されるこのシステムは、年間8万ガロンの燃料と航空機1機あたり25万ドルのコスト削減を見込んでおり、効率性と環境への影響に関する業界目標に合致している。この提携の下、StandardAeroはZero Engine Taxi™ eTaxiシステムのFAA認証を主導する。認証取得には2~3年かかる見込み。認証取得に向けた取り組みは、まずエンブラエルE175から開始し、その後、他の民間航空機および軍用機へと拡大していく。また、EASA(欧州航空安全局)およびブラジルのANAC(国家航空民間航空局)からの国際的な承認も予定されている。【Standard Aero News】

【Standard Aero社提供:完全電動航空機タキシングソリューション「Zero Engine Taxi™」をNose Gear Wheelに装着したE170型機】
日本のニュース
1. スカイマーク、737MAXのシミュレーター導入
スカイマークは6月6日、ボーイング737 MAXのフルフライトシミュレーター(FFS)を受領したと発表した。カナダのFFS大手であるCAE製で、国土交通省が認定するFFSで最高位「レベルD」の認定を得ている。スカイマークは737 MAXのうち、標準型の737-8(737 MAX 8)と、胴体長がもっとも長い737-10(737 MAX 10)を導入予定。FFSは737-8を模したもので、エンジンはCFM製LEAP-1Bを再現しており、コックピットや機体の動作などを忠実に再現するように作られているという。737-8の受領開始は2026年3月を予定。現時点で737-8は自社購入機とリース機を合わせて15機、737-10は3機を発注済み。座席数は、737-8が現行機737-800と同じ1クラス177席、737-10は約19%増の1クラス210席となる。スカイマークのシミュレーター棟は羽田整備場に2013年に建設され、既存737のシミュレーターが稼働している。【Aviation wire news】

【スカイマーク提供:スカイマークが導入した737-8FFS】
2. 国交省、ANAグループ4社に厳重注意 運賃超過徴収など申請不備13件
国土交通省は6月6日、ANAホールディング傘下の全日本空輸(ANA/NH)とエアージャパン(AJX/NQ)、ANAウイングス(AKX/EH)、ピーチ・アビエーション(APJ/MM)の航空4社に対し、厳重注意を行った。国内線での未届出運賃や国際線での未認可運賃の収受など、航空法に定める届出や認可申請手続きで不備が2014年10月から今年5月までに13件発生したことによるもので、7月7日までに再発防止策を文書で提出するよう、各社に求めた。13件のうち、運賃に関する不備は9件、機材の変更など事業計画の変更に関する不備は4件起きた。運賃のうち、国内線を定める「航空法第105条第1項」に関連する不備はANAとピーチで1件ずつ計2件、国際線を定める「第105条第3項」に関連する不備は全7件がANAで発生した。4件あった事業計画の変更を定める「第109条」関連の不備はすべてANAで起き、このうち2件はエアージャパンでも、1件はANAウイングスでも起きた。【Aviation wire news】
3. JAL・住商の“空飛ぶクルマ”事業会社、大阪万博でモデル機展示 実証運航前に機体体験
「空飛ぶクルマ」と呼ばれるeVTOL(電動垂直離着陸機)の国内運航を目指すSoracle(東京・日本橋)は6月4日、導入予定のeVTOLの実機サイズ・モデル機を大阪・関西万博で展示すると発表した。同社は日本航空と住友商事が共同設立した新会社で、2026年に始まる実証運航を前に、機体を体験できる機会を提供する。展示する機体は米Archer Aviation(アーチャー・アビエーション)社の5人乗りeVTOL「Midnight」で、全長約10メートル、全幅(翼長)約15メートル、全高約4メートル。7月5日から15日まで、万博会場西側にあるeVTOLの離着陸施設「EXPO Vertiport」格納庫で展示する。好天時には屋外での設置も予定する。同社によると、客席に座って“未来の乗り心地”を体感できるという。機体展示のほか、Soracle社の紹介や将来の運航イメージ、空飛ぶクルマの概要をパネルと映像で展示するほか、アーチャー社の機体開発の取り組みも紹介する。所要時間は約50分。展示会場への入場には登録が必要となる。Soracleは2024年6月3日に設立。2026年に、アーチャー製Midnightでの実証運航を大阪・関西エリアで計画しており、その後の商業運航につなげたい考え。JALは2023年11月に、独Volocopter(ボロコプター)のeVTOLによる実証運航済みだったが、ボロコプターと調整がつかなったことからアーチャーのMidnightに“機種変更”。今回の万博で、アーチャー機によるeVTOLのデモ飛行を目指していたが、安全性や機体の開発状況などによりデモ飛行を見送った。【Aviation wire news】

【Yahooニュース提供:Archer社のVTOL機「Midnight」】
4. JAL・山梨県ら5者、地方での「空飛ぶクルマ」実装へ産官学連携 社会受容性の向上へ
日本航空と山梨県、MS&ADインターリスク総研(東京・千代田区)、山梨大学、九州大学の5者は6月3日、パイロット(操縦者)が乗らなくても飛行できる装置を持つ「無操縦者航空機」(空飛ぶクルマ)の地方での社会実装を目指す産官学の連携協定を締結した。これまで明確な取り組み手法が確立されていない「空飛ぶクルマの社会受容性の向上」へ体系的に整理することで社会受容モデルとして確立させ、空飛ぶクルマの社会実装を加速させる。JALはグループで整備を担うJALエンジニアリング(JALEC)が中心となり、空飛ぶクルマの安全性を検証。山梨県は空飛ぶクルマを活用し、開業予定のリニア中央新幹線との相乗効果による県内移動の利便性向上を狙う。また事業環境の整備や、社会受容性の向上へ取り組んでいく。インターリスク総研は、空飛ぶクルマの社会受容性を調査。空飛ぶクルマに対する消費者の意識や社会受容性を把握し、エアモビリティ社会の実装を目指す。山梨大は、リニア山梨県駅の二次交通や中部横断自動車道の整備評価の研究を基に、県内での空飛ぶクルマ活用方法と交通改善効果を洗い出す。九大は、同大学院で研究した空飛ぶクルマの社会実装への検討課題を整理した「チェックリスト」を活用。地域社会への影響を検証し、社会受容モデルを構築する。今回の連携協定では、山梨県での取り組みを通じ、国内での空飛ぶクルマの社会受容モデルを構築。パイロットなしで飛べる無操縦者航空機の社会実装の実現を目指す。【Aviation wire news】

【Yahooニュース提供:地方での「空飛ぶクルマ」実装へ産官学連携を締結した(左から)九州大の石橋達朗総長、MS&ADインターリスク総研の宮岡拓洋社長、山梨県の長崎幸太郎知事、JAL執行役員でJALECの濱本隆士社長、山梨大の中村和彦学長】
5. ORC、正社員CA募集 福岡勤務で11月以降入社
オリエンタルエアブリッジ(ORC/OC)は6月1日、客室乗務員の募集を始めた。入社日は11月以降の会社が指定する日で、応募書類は30日必着。勤務地は福岡空港で、人数は若干名。短大卒業以上と同等の学力、矯正視力1.0以上などが応募条件となる。正社員として採用し、入社後3カ月間は試用期間となる。訓練を終了後、審査に合格した場合に継続して採用する。審査不合格となった場合は、採用を取り消す。応募方法は、履歴書を6月30日必着で、メールで提出する。選考スケジュールは、書類選考が7月上旬、1次面接と適性検査が7月下旬から8月上旬、最終面接は8月下旬を予定。書類選考の通過者のみ、7月中旬までに1次選考の案内をメールで送付する。【Aviation wire news】
6. 国内線は「赤字体質」出張減とドル建てコスト増で航空各社苦境、国交省有識者会議が初会合
国土交通省航空局(JCAB)は5月30日、コロナ後の生活環境の変化や円安影響を受け、国内線の事業環境が急激に悪化していることから、「国内航空のあり方に関する有識者会議」を立ち上げ、初会合を開いた。国内路線網の維持・拡充につながる方策を、2026年春をめどに取りまとめる。航空局によると、全日本空輸と日本航空、スカイマーク、エア・ドゥ、ソラシドエア、スターフライヤーの国内6社は、旅客数はコロナ前と同水準まで回復している。一方で、営業損益はコロナ影響を受けていない2018年度を100とした場合、2023年度は7.3、2024年度は-15.7と、公租公課の軽減効果を除いた実質的な営業損益では赤字に転落しており、特に国内線専業と言えるスカイマーク、エア・ドゥ、ソラシドエア、スターフライヤーの4社は、経営の厳しさが増している。大手2社も、現在は国際線事業が旺盛なインバウンド需要の恩恵を受けているものの、数年に一度起きる世界規模の感染症や紛争、自然災害による需要の急減があり、コロナ前は国内線事業が営業利益の約4割を占めていたことなどから、国内線単独の収益性を改善しない限り、価格上昇が今後も続く機体やエンジンなどの設備投資が厳しくなる可能性が高まっている。航空各社では、ANAとJALによるグランドハンドリング業務の資格共通化、エア・ドゥとソラシドの共同持株会社設立、離島路線の系列を超えたコードシェアなどの取り組みがなされてきた。また、大手2社が発注してた国内線機材を見ると、JALが中型機ボーイング767型機の後継としてエアバスA321neo、ANAは従来保有していなかった100席クラスのリージョナルジェット機としてエンブラエルE190-E2を発注するなど、今後の機材更新時に小型化を進め、需給バランスの適正化を進める。会議に先立ち、航空局の平岡成哲局長は「オンライン会議の普及などで、国内線事業は大きな成長が期待できない」と現状を指摘。「航空会社は多くの費用がドル建てで非常に厳しく、航空機も、燃料も、整備も、部品も、いずれも価格が上がる。新幹線との競争もあり、運賃を上げてイールドを確保することも難しく、国内航空自体の構造改革をしなければならないので会議を設定した」と趣旨を説明し、「どうすればネットワークを維持していくことができるか、という観点で御議論をお願いしたい」とあいさつした。【Aviation wire new】
7. ispace「レジリエンス」月着陸は失敗。通信不能、“月に激突”
ispaceは6月6日早朝、民間月探査計画「HAKUTO-R」ミッション2において「RESILIENCE」(レジリエンス)ランダーの月着陸に挑戦。午前4時17分に着陸予定だったが、同社は「ランダーとの通信確立ができておらず、数時間後のメディア向け発表で最新状況を共有する」と説明した。現時点では、着陸の成否は不明だ。同日9時過ぎの記者会見で、ispace CEO & Founderの袴田武史氏はSuccess 9の到達は困難と判断し、ミッション2を終了すると宣言。「結論からいえば失敗。(着陸船は)ハードランディングしたのではないか」との見方を示した。テレメトリの詳細な解析と、ランダーの現状把握対応を継続する。同日午前2時から都内で開催された着陸応援会には、500人を超える参加者が詰めかけ、同社社員や協賛企業の関係者らなどと共に、レジリエンスランダーの挙動を見守った。このイベントでは、ランダーから送られてくるテレメトリデータを元に、ランダーの姿勢やエンジンの噴射状態などを可視化したCGイメージを大画面で投写。降下中は順調に見えたが、逆噴射して減速状態に入った後、着陸直前のタイミングでその表示が途絶えた。【マイナビニュース】

【ispace提供:ランダーからのテレメトリを可視化したCGイメージ】