KIT航空宇宙ニュース2021WK35
海外のニュース
1.ブリストー(Bristow)社とエレクトラエアロ(Electra₋aero)社がeSTOL機の開発に合意
米国のヘリコプター・オペレーターであるブリストーグループは、エレクトロエアロ社が開発中の自己充電式ハイブリッド電気短距離離着陸(eSTOL)航空機を支援する契約に署名し、ローンチカスタマーとして50機を購入する予定。両社は8月26日、覚書(MOU)により、北米とヨーロッパの航空当局から承認が得られるよう、「安全性と運用上のあらゆる機能」について協力する準備が整ったと述べている。エレクトラエアロ社は今年初めに、2026年までに多目的航空機(U類)とコミューター航空機(T類)に適用されるFAR Part23ルールに基づいてFAAからの認証を取得することを目指していると発表している。米国バージニア州フォールズチャーチに本拠を置くエレクトラエアロ社は、eSTOL固定翼航空機は、8つのハイブリッド・エンジンと独自のブローリフト技術と呼ばれるものを使用して、長さ91m(300フィート)、幅31mの滑走路から離着陸可能。 また、バッテリーの充電機能により、従来の航空機よりも静かで環境にやさしい。最大818kg(1,800lb)の貨物を輸送し、400nmから500nm(720kmから900km)の間で5〜7人の乗客を移動させることができ、競合他社よりも運用コストが安いと述べている。【Flightglobal News】
【Electra-Aero社提供:開発中のeSTOL機】
2.HyPoint社がヘリコプターメーカーのPiasecki社とチームを組み水素燃料電池を販売
水素燃料電池のスペシャリストであるHyPoint(ハイポイント)社は今週、回転翼航空機およびドローン開発者のPiasecki (パイアセキ)Aircraft Corporationと提携し、eVTOL航空機の推進システムを開発および認証取得を目指す。発表された合意に基づき、HyPoint社はまず、Piasecki社の新しいPA-860ヘリコプター用に5つの650 kW燃料電池の製造に注力する。これは、世界初の水素エネルギー推進の有人回転翼航空機になる。HyPoint社とPiasecki社によると、彼らの技術は、他のeVTOL航空機開発者に、既存のリチウムイオン電池から得られるエネルギー密度の4倍、既存の水素燃料システムの2倍の比出力を提供可能。650万ドル相当の契約条件に基づき、Piasecki社は燃料電池を販売するための独占的ライセンスを取得し、Hypoint社は基礎となる特許技術の所有権を保有する。Piasecki社は、2023年末までにPA-860航空機の実物大のプロトタイプの飛行試験を開始し、2024年末までに型式証明を取得できると見込んでいる。 2025年に引き渡しを開始し、見込み客から325機のコミットメントを獲得したと述べている。他の水素燃料電池システムとは異なり、Hypoint社のシステムは冷却と酸素供給の両方に圧縮空気を使用する。カリフォルニアに本拠を置くHypoint社によると、燃料電池は1キログラムあたり最大2,000ワットの電力を供給する。これは、液冷システムの電力対重量比の少なくとも3倍であると言われている。エネルギー密度は1キログラムあたり1,500ワット時と予想され、これはeVTOL航空機に配備される既存のリチウムイオン電池のエネルギー密度をはるかに上回っている。【Flightglobal News】
【Piasecki社提供:PA-860ヘリコプター】
日本のニュース
1.Ispaceが3回目の月探査計画で着陸予定の「シリーズ2ランダー」の概要を発表
ispaceは8月24日、同社が計画している3回目の月探査ミッション(ミッション3)で使用する予定の新型機、「シリーズ2ランダー」(月着陸船)の概要を発表した。同ランダーは、極地を含む月の表側または裏側への着陸を行い、太陽光が届かない月の夜でも稼働することのできる初の民間ランダーの1つとなることを目指しているという。シリーズ2ランダーは2024年前半の打ち上げを目指しており、これまで同社が開発したランダーのうちでも最大サイズとなる予定で、着陸脚を広げた状態で高さ約2.7m、幅約4.2mとなっている。設計・製造・打ち上げは米国で行う予定。2021年6月には、ランダーの開発において重要なマイルストーンである基本設計審査(PDR)を完了。今後は、宇宙開発における数十年の経験と実績を持つ米国の非営利研究開発組織チャールズ・スターク・ドレイパー研究所および米・ジェネラル・アトミクス社との協力のもとで開発を進めていく予定としている。シリーズ2ランダーは、ミッション1とミッション2に使用されるシリーズ1ランダーよりも全体の大きさとペイロード設計容量が増やされており、月面には最大500kgの貨物などを輸送することが可能。月周回軌道への輸送であれば、最大2000kgまでの輸送を行える能力を備えている。【マイナビニュース】
【Yahooニュース提供:月面探査機「シリーズ2ランダー」】
2.東北大がロケットエンジン開発の数値計算精度を向上させる手法「SMART」を開発
東北大学は8月24日、ロケットエンジンの数値計算結果と実験データを定量的に比較することが可能な新手法「SMART」を開発し、これにより実験で比較的容易に得られる火炎の位置を特定するために利用されている「OH発光」に対して、数値計算結果を定量的に比較することが可能になったと発表した。同成果は、東北大 流体科学研究所エネルギー動態研究分野の森井雄飛助教、Federica Tonti氏(論文主著者)を始めとするドイツ航空宇宙センター(DLR)の研究者7名が参加した国際共同研究チームによるもの。ロケットエンジンやジェットエンジン開発の課題の1つの「燃焼振動」がある。燃焼振動は一度発生してしまうと、燃焼器を破壊するような過大な圧力変動が発生したり、燃焼器を溶損させるような過大な熱伝導を引き起こしたりする原因となることが知られている。しかし、燃焼振動の解明に向けて数値モデルを改良し、より信頼性の高いシミュレーション結果を導き出せるようにすることが求められており、そうした背景から研究チームは今回、燃焼実験で比較的容易にデータを得られ、火炎の位置を特定する方法として広く利用されている「OH発光」に着目することにしたという。OH発光は燃焼で重要となる化学反応に関わる現象で、火炎の位置を特定する方法として広く利用されているが、これまでは定量比較が困難だったという。そこで今回の研究では、シミュレーションによって得られたOH発光に関わる結果に対し、実験で得られたOH発光と定量的な比較を可能とする新手法「SMART(Spectral Model and Ray-Tracing)」を開発。SMARTは、逆光線追跡により光線の経路を求め、その経路上の熱力学的特性を抽出し、対象(今回の研究ではOH*)となる波長域の発光・吸収スペクトルを計算。放射伝達方程式を解くことで「スペクトル放射輝度」を求めるほか、そのスペクトル放射輝度を積分することで全放射輝度の算出を可能としたものだという。【マイナビニュース】
【東北大学提供:実際のOH発光現象とSMARTによるシミュレーション結果】
3.名大とJAXAが「デトネーションエンジン」の宇宙飛行実証に成功
名古屋大学(名大)と宇宙航空研究開発機構(JAXA)は8月19日、衝撃波に伴って化学反応による熱解放が行われることで、可燃性ガスを高速燃焼させることができる「デトネーション」現象を利用した次世代のロケット・宇宙機用エンジン「デトネーションエンジン」の宇宙飛行実証に成功したことを発表した。デトネーション(detonation)とは、爆発・爆発音という意味もあるが、今回の場合は燃焼現象のことを指すことから「爆轟」と訳されるという。しかし爆轟だとわかりにくいため、「極超音速燃焼」などとも呼ばれる。現象としては、衝撃波に伴い、化学反応による熱解放が行われるというものであり、その伝播速度は毎秒約2kmにもなるため、可燃性ガスを高速で燃焼させることが可能だ。地上付近での音速が毎秒約340mであることを考えると、およそマッハ5~6の速さということになる。同燃焼現象を利用したデトネーションエンジンは、高い周波数(1~100kHz)でデトネーション波や圧縮波を発生させることにより反応速度を高めることで、ロケットエンジンの軽量化と高性能化を実現しようというもの。従来のロケットエンジンに比べ、デトネーションエンジンは「革新的」ともいえるほどだという。【マイナビニュース】
【名古屋大学提供:デトネーションエンジンの地上燃焼試験の様子】