KIT航空宇宙ニュース2022WK29

エアバスがファンボローエアショーで発表した直接空気中のCO2を回収し地下に貯蔵するシステム概念図
KIT航空宇宙ニュース

KIT航空宇宙ニュース2022WK29

海外のニュース

1. “最大の737 MAX”737-10、海外初の飛行展示披露=ファンボロー航空ショー

ロンドン近郊で偶数年に開かれるファンボロー航空ショー。今年は7月18日から22日まで開かれ、機体メーカーも最新鋭機を中心に飛行展示(フライトディスプレー)を行う。ボーイングは海外初公開となった最大サイズの737 MAXである737-10(737 MAX 10)と、開発中の次世代大型機777Xの旅客型777-9(登録記号N779XW)を出展した。737-10は、737の発展型である737 MAXファミリーの中で胴体長がもっとも長い「最大の737 MAX」で、メーカー標準座席数は1クラス230席。2017年6月に開かれたパリ航空ショーでローンチ。これまでもっとも大きかった737-9(737 MAX 9、同220席)の胴体を66インチ(約1.7メートル)延長して、定員増加によりドアを追加し、翼や圧力隔壁なども改良した。ファンボロー航空ショーの会場には、737-10の飛行試験2号機を展示。これまでの737 MAXと同様、CFMインターナショナルの新型エンジン「LEAP-1B」を採用。翼端には新型ウイングレット「アドバンスト・テクノロジー・ウイングレット」を備え、2023年の就航を目指している。ボーイングは737-10の型式証明取得の期限を12月としている。米国議会が免除しない限りは、現状では737 MAXが装備していないコックピット内の警告システム「EICAS(Engine Indicating and Crew Alerting System:エンジン計器・乗員警告システム)」を新設し、新たなパイロット訓練を設ける必要がある。この場合、737-8など、既存機と共通性があるほかの737 MAXとは別のコックピットとして扱われ、パイロットのライセンスを共通化できなくなる可能性がある。【Aviation Wire News】

【Aviation Wire提供:英国ファンボロー・エアショーで初飛行展示された737MAX-10型機】

2.A380でファン露出型エンジン飛行試験へ エアバスとCFM、オープンファン実用化へ

エアバスと航空エンジン大手のCFMインターナショナルは現地時間7月19日、エンジン前部のファンが露出した「オープンファン・エンジン」の飛行試験で協業すると発表した。総2階建ての超大型機エアバスA380型機を使用し、航空業界が2050年を目標に定めるCO2(二酸化炭素)排出実質ゼロ達成に向けた開発を進める。A380による飛行試験は、2026年開始を目指す。この飛行試験は、CFMのRISE(Revolutionary Innovation for Sustainable Engine:持続可能なエンジンのための画期的な技術革新)実証プログラムの一環。2026年から2030年までに仏トゥールーズにあるエアバスの飛行試験施設で実施する。オープンファン・エンジンは、従来のターボファン・エンジンではカウルに囲まれている前方のファンブレードにあたる部分が露出している。また、エンジンのバイパス比がCFMの最新エンジンLEAPでは11:1だが、オープンファンは70:1を超える値を達成できるという。バイパス比が大きいほど、亜音速での推進効率が向上し、低速時の燃料消費が改善され、騒音も抑えられる。GEによると、オープンファンは既存のジェットエンジンよりも燃費を20%改善し、CO2排出量を20%削減できるという。A380は現在主流の双発機と異なりエンジンが4基あることから、このうち1基を新開発エンジンに換装する飛行試験に適している。エアバスとCFMは、今年2月に水素エンジンの実証実験を行うパートナーシップを締結しており、実証実験ではA380を使用する。【Aviation Wire News】

【Airbus提供:オープンファンをNo2エンジン位置に取り付けたA380試験機想像図】

3.エアバス、欧米航空7社と脱炭素検討へ CO2を空気中から分離・貯留

エアバスは現地時間7月18日、空気中からの炭素を除去する脱炭素ソリューションの検討について、エア・カナダなど欧州や米州の航空大手7社と基本合意書(LoI)を締結したと発表した。空気中から二酸化炭素(CO2)を直接分離・回収・貯留する「DACCS」(Direct Air Carbon Capture and Storage)は、高出力のファンを用いてCO2を空気中から直接ろ過・除去する技術。大気中から除去されたCO2は、地中の貯留槽に恒久的に貯蔵される仕組み。DACCSは代替燃料「SAF(Sustainable Aviation Fuel:持続可能な航空燃料)」など、CO2削減を実現する技術を補完。直接除去できない残りの排出量に補う。航空業界は大気中に放出されたCO2排出量を排出源で捕捉できないため、注目を集めている。LoIを締結したのはエア・カナダのほか、エールフランス航空とKLMオランダ航空を傘下に持つエールフランス-KLMグループ、英イージージェット、ブリティッシュ・エアウェイズなどを傘下に持つ英IAG(インターナショナル・エアラインズ・グループ)、チリのラタム航空を傘下に持つラタム航空グループ、ルフトハンザ ドイツ航空を中核とするルフトハンザ・グループ、ヴァージン アトランティック航空の計7社。この協定の一環として、航空会社は2025年から2028年にかけて、検証済みで耐久性のある炭素除去クレジットの事前購入の可能性についても交渉する。炭素除去クレジットは、米オクシデンタルの子会社・1PointFive社が発行。エアバスと1PointFiveは、40万トンの炭素除去クレジットの事前購入を含むパートナーシップを締結しており、4年間にわたり提供される見通し。【Aviation Wire News】

【Airbus提供:空中のCO2を直接吸収し地中に貯蔵するシステム概念図】

4.エアバスは水素燃焼グライダーを使用して水素燃焼エンジンによる炭素排出量と飛行機雲の影響を分析する

エアバスは、グライダーに搭載された小型水素エンジンのテストを開始し、高高度での水素燃焼によって生成される飛行機雲の影響を調査する。ノースダコタ州で来年の冬から翌年の春まで実施されるテストは、エアバスの ZEROe水素プログラムの開始を意味すると、7月20日に述べた。エアバスは、2026年から、2階部分の左舷にGE社製パスポートエンジンを搭載するために改造されたA380テストベッド機で飛行機雲の研究を開始予定。しかし、それは今から約4年後のことであり、エアバスは水素航空機の研究開発に時間を費やしたくなく、水素航空機を2027年から2028年頃にローンチし、2035年頃に就航することを目指している。そこで、エアバスはモーターグライダーを使ったテストを行うというアイデアを思いついた。これは、エアバスの新技術加速プログラムであるエアバスアップネクストの下で実行されるブルーコンドルと呼ばれるプロジェクトで、2つのアーカス・グライダーで構成されている。1つは、既製の部品を使用するが、エアバスのエンジニアによって改造された小型の水素エンジンを搭載する予定です。もう一方のグライダーには、同じテストを行う小さなケロシン燃焼エンジンが搭載され、比較を行う予定。【Flightglobal News】

【Aviation Wire提供:エアバスが水素燃焼エンジンのテストを行うモーターグライダー改造機】

5.GEは世界で初めて高出力、高電圧のハイブリッド電気推進システムの高高度テストに成功

ファーンボロ国際航空ショーで、GEは、単一通路機の商用飛行をシミュレートする高高度条件でのメガワット(MW)クラスおよびマルチキロボルト(kV)ハイブリッド電気推進システムの世界初のテストを完了したと発表した。電気モーター/発電機、電力変換器、電力伝送、電力制御システムを含む高電力、高電圧システムのテストでは、シミュレートされた飛行環境でのコンポーネントの性能と動作を実証することに成功した。これは、GEが開発しているハイブリッド電気推進システムの技術を検証するのに役立つ。また、NASAとのGEの技術プログラムにおいて、この10年後半の飛行試験と、2030年代半ばにサービスを開始するためのハイブリッド電気推進システムを開発する目標には、このテストは重要なステップでした。システムの高高度統合テストは2021年6月に開始され、オハイオ州サンダスキーにあるNASAの電気航空機テストベッド(NEAT)施設で今年初めに完了した。航空機の左右のエンジン側を表すために、2セットのハイブリッド電気システムを最大45,000フィートの条件で操作し、エンジンの最適化と航空機の推進および動力供給に必要な電気負荷をシミュレートした。【Flightglobal News】

【GE社提供:開発中のメガワット級の高出力ハイブリッド電気推進システムの高高度環境テスト】

日本のニュース

1. JAL、テレ朝新ドラマ『NICE FLIGHT!』全面協力

日本航空が撮影に全面協力したドラマ『NICE FLIGHT!』が、7月22日からテレビ朝日系列で放送を開始する。空と空港を舞台としたドラマで、パイロットや航空管制官の姿を描く。ドラマで主演を務めるのは、人気アイドルグループ「Kis-My-Ft2」メンバーの玉森裕太さん。玉森さんは副操縦士3年目の倉田粋(くらた・すい)役を演じ、倉田が担当した悪天候時のフライトを冷静・的確な判断で助けた管制官・渋谷真夢を中村アンさんが演じる。JALはドラマの撮影に全面的に協力。撮影には保有機材を使用したほか、パイロットが演技指導をした。羽田空港内のJAL施設などで撮影が進められたようだ。このほか、航空管制を担う国土交通省航空局(JCAB)にも取材を重ねたという。テレビ朝日が制作する金曜ナイトドラマ『NICE FLIGHT!』は、毎週金曜午後11時15分から放送。【Aviation Wire News】

【Aviation Wire提供:JAlが全面協力したテレビ朝日ドラマ「Nice Flight」】

2.  三菱重工とボーイング、カーボンニュートラル実現へ覚書 SAFや電動化など協業

三菱重工業とボーイングは7月19日、持続可能な航空産業の実現に向けた協業を行う覚書(MoU)を締結したと発表した。代替燃料「SAF(Sustainable Aviation Fuel:持続可能な航空燃料)」や水素、電動化などの分野で協業し、2050年のカーボンニュートラル実現を目指す。SAFや水素、電動化以外にも環境に配慮した素材やCO2(二酸化炭素)回収、環境負荷ゼロに貢献する推進技術、新しい機体コンセプトなどの分野で協業。持続可能な航空産業の実現に向けた協力体制を構築する。【Aviation Wire News】

3.ORC、ATR42の覚書締結 23年以降就航、Q200置き換え

長崎空港を拠点とするオリエンタルエアブリッジは現地時間7月19日、仏ATR製ATR42-600型機の発注に関する覚書を英ロンドン近郊で開催中のファンボロー航空ショーで締結した。今回の契約は1機で、2023年度以降に就航する見込み。同時に整備費を削減し、運航効率を高める「グローバルメンテナンス契約(GMA)」を締結した。ORCは2機のATR42を順次受領し、2023年度以降に離島路線の定期便に投入する計画。3機保有するボンバルディア(現デ・ハビランド・カナダ)DHC-8-Q200型機を更新していく。座席数は1クラス48席で、Q200の39席から9席増える。ORCはQ200に加え、2017年10月29日開始の冬ダイヤからは全日本空輸を傘下に持つANAホールディングスからDHC-8-Q400(1クラス74席)をリース導入。現在は福岡路線を中心に3機投入しており、ATR42は長崎-壱岐線、五島福江線、津島線、福岡-福江線などの離島路線に投入する見通し。【Aviation Wire News】

【Aviation Wire提供:ATR社とATR42-600型機発注の覚書を締結したORC田中専務(中央)】

4.  日本初の地域航空会社FC「フィールエア」ATRと基本合意 24年に成田就航目指す

日本初となる地域航空会社のフランチャイズ運営会社のフィールエアホールディングスは現地時間7月18日、ターボプロップ機を手掛ける仏ATR社と最大36機のATR機導入について取引意向書(LoI)を締結したとファンボロー航空ショーで発表した。成田空港を拠点に東日本をカバーする最初の航空会社「フィールエアEAST」を2024年春に就航させ、2026年春には西日本に拠点を置く「フィールエアWEST」の運航開始を目指す。フィールエアHD傘下の航空会社が使用する機材は、ATR72-600(メーカー標準座席数1クラス72席)、ATR42-600(同48席)、最短800メートルの滑走路を離着陸できるSTOL(短距離離着陸)タイプの発展型ATR42-600Sの3機種。フィールエアEASTが11機、WESTが10機、中部圏をカバーし2027年春の就航を目指す。CENTRALと、2028年春の就航を目指す北海道・東北圏のNORTH、同じく2028年春就航予定で九州圏をカバーするSOUTHの3社は5機ずつ導入する計画となっている。フィールエアHDは6月23日設立で、資本金は8300万円。会長に鳥取ガスの児嶋太一社長、社長に井手秀樹・慶應義塾大学名誉教授が就任した。HDは地域航空会社の立ち上げをはじめ、機材や部品の調達、パイロットや整備士、客室乗務員など人材確保を担い、EASTとWESTの2社は就航3-4年後の上場を目指す。井手社長はEASTの就航先として小松や東北を挙げ、成田からの訪日観光需要や親族訪問などの需要を取り込む。11機の受領については、毎年2機ずつを計画している。WESTは神戸や関西、鳥取などへの就航を想定しており、2023年12月の会社設立を目指す。【Aviation Wire News】

【Aviation Wire提供:ATR社と覚書を締結した「Feel Air」小島会長(中央)と井手社長(右)】

5.日の丸「超速エンジン」初の飛行試験へ ロケットから分離しマッハ5.5!

JAXA(宇宙航空研究開発機構)は2022年7月24日(日)、国内初のスクラムジェットエンジンの燃焼飛行試験を行います。これは防衛省が進める安全保障技術研究推進制度に基づく研究の一環として、JAXAが研究を委託されたもので、今回の試験では観測ロケット「Sー520ーRD1」でスクラムジェットエンジンの供試体(試験体)を打ち上げ、実施します。スクラムジェットエンジンは、ジェットエンジンでは困難な極超音速での飛行が可能なエンジンです。ロケットエンジンのように内部に搭載した燃料に、酸素タンクの酸素を燃焼させるのではなく、大気中の酸素を使うことでタンクが不要になり、より多くの貨物を搭載が可能に。このため、将来の宇宙往還機や大陸間高速輸送機への適用が期待されています。今回のテストは、その供試体が問題なく極超音速(マッハ約5.5)に到達できるかを確認します。燃焼飛行試験では、供試体はロケットに取り付けられ、打ち上げられたロケットが高度100km(10万m)以上になったところで分離、供試体はその後、弧を描くように上昇します。高度150km(15万m)を超えたところで姿勢を変え、今度は滑空しながら空気を取り込みスクラムジェットに点火すると、エンジンが燃焼し「飛行」が始まります。極超音速に達するエンジン外部に生じる空力加熱と、エンジン内部の超音速燃焼に関するデータの取得を行うそうです。なお、今回の燃料にはエチレンが使用されます。一方、研究を委託している防衛省(防衛装備庁)では、極超音速誘導弾など将来の防衛分野に活用できる成果が期待されるとしています。【Yahooニュース】

【Yahooニュース提供:JAXAが開発中の「超速エンジン」を装着した宇宙往還機の模型】