KIT航空宇宙ニュース2023WK37
海外のニュース
1. 米ブーム、防衛向け超音速機の諮問委員会 大統領専用機も視野
2029年就航を目指す超音速旅客機「オーバーチュア(Overture)」を開発中の米ブーム・スーパーソニック(Boom Supersonic、本社デンバー)は、軍事・防衛の専門家による防衛諮問委員会をこのほど発足させた。米国政府と同盟国を対象にした防衛分野向けオーバーチュアの開発を進める。同グループは米軍の退役大将らで構成する独立評議会で、機動作戦や要人輸送、防衛コミュニティ内の研究開発などに精通した7人が創設メンバーに選ばれた。ブームは、米空軍と将来の大統領専用機をはじめとした要人輸送機を視野に、将来空軍が運用する機体に応用される技術革新への資金援助を目的としたプログラムの契約を2020年9月に締結。2022年7月にロンドン近郊で開かれたファンボロー航空ショーでは、米国の航空宇宙・防衛大手ノースロップ・グラマンとの提携も発表された。ブームの創業者兼CEO(最高経営責任者)であるブレイク・ショール氏は、防衛分野でのオーバーチュアの活用について、「基本的に平和的な用途だと考えている」と述べた。防衛や軍事への応用は、部隊の輸送、特殊任務や偵察、負傷兵の戦場からの離脱、救命医療など、さまざまな用途を検討しているという。オーバーチュアは、2025年にロールアウト(完成披露)し、2026年の初飛行を経て2029年の就航を予定。初の確定発注は、ユナイテッド航空から2021年6月3日に15機を獲得し、アメリカン航空も最大20機の発注で、追加40機分のオプション付きの契約を結んでいる。また、日本航空が2017年12月にブームと提携して1000万ドル(当時の円換算で約11億2500万円)を出資し、将来の優先発注権を20機分確保している。現在の仕様は、巡航速度が洋上で超音速のマッハ1.7、陸上で亜音速機のマッハ0.94、ペイロード航続距離は4250海里(7871キロ)を計画。エンジンは4基で、アフターバーナーを使わずに現在の民間航空機の2倍となる速度を実現し、マイアミからロンドンまで5時間弱、ロサンゼルスからホノルルまで3時間で結ぶ。乗客定員は65から80人で全席ビジネスクラス、外寸は全長201フィート(約61メートル)、翼幅106フィート(約32メートル)、全高:36フィート(約11メートル)、内寸は全長79フィート(約24メートル)、通路の最大高さ6.5フィート(約2メートル)、4系統のデジタルフライバイワイヤ、エンジンは100%SAF(持続可能な航空燃料)対応、騒音レベルはICAO(国際民間航空機関)のチャプター14、FAA(米国連邦航空局)のステージ5としている。【Aviation wire news】
【Yahooニュース提供:Boom社が開発中の超音速旅客機「Overture」】
2. ユニバーサルハイドロジェンが燃料電池推進システムの認証の重要な一歩を踏み出す
カリフォルニアの新興企業ユニバーサル・ハイドロジェンは、ATR 72ターボプロップ機に同社の燃料電池技術を取り付ける改修を行うための認証基盤の確立に一歩近づいた。 同社は9月14日、連邦航空局がATR72ターボプロップ機に「液体水素モジュールと燃料電池電気推進システム」を取り付ける改修を行うためのSTC(Supplemental Type Certificate)の申請を受理したと明らかにした。ユニバーサル・ハイドロジェン社はFAAからG-1Issue Documentも受け取ったと述べ、これは「ATR 72改修用のユニバーサル・ハイドロジェン設計を最終的に認証するためにFAAが要求する耐空性と環境基準の調整を含む、認証基準を確立するための重要なステップである」としている。【Flightglobal News】
【ユニバーサル・ハイドロジェン提供:水素燃料電池推進の各種試験を行っているDash-8機】
日本のニュース
1. 羽田イノベーションシティ、11/16に全面開業 ホテルや研究施設
羽田空港第3ターミナル(旧称国際線ターミナル)近くの複合施設「HANEDA INNOVATION CITY(羽田イノベーションシティ、HICity)」を開発・整備する羽田みらい開発(東京・大田区)は9月15日、HICityが11月16日にグランドオープンすると発表した。ホテルや研究開発施設などが順次開業する。11月17日から19日までは、記念イベントを開催する。HICityは京浜急行と東京モノレール各線の天空橋駅に直結しており、2020年7月に先行開業。レストランやコンビニエンスストア、オフィス・会議研修施設、足湯などが先行オープンした。「先端」と「文化」の2つをまちのコア産業と位置づけ、AからLまで12カ所あるゾーンのうち、現在はDからLまでの9ゾーンが開業している。最後まで残った天空橋駅寄りに位置するAからCまでの3ゾーンが、今年6月30日に竣工。ゾーンAには藤田医科大学東京の先端医療研究センターとホテルメトロポリタン 羽田、ゾーンBには研究開発施設とオフィス、ゾーンCには研究開発拠点「terminal.0 HANEDA(ターミナル・ゼロ・ハネダ)」が入居する。このうち、ホテルメトロポリタン羽田は客室が237室で、10月17日に開業予定。terminal.0 HANEDAは羽田空港のターミナルを運営する日本空港ビルデング(9706)が2024年1月30日にオープンを計画しており、羽田空港の課題を異業種連携により解決を進める新たな取り組みを進める。【Aviation wire news】
【Aviation Wire提供:羽田イノベーションシティ】
2. JAL、NYへCO2排出ゼロフライト 赤坂社長「ほんの先の未来を体験」
日本航空(JAL/JL、9201)は9月14日、羽田発ニューヨーク行きJL6便で「サステナブル・チャレンジフライト」を始めた。20日まで1週間実施する。ニューヨークの国連本部で、4年に一度のSDGサミットが18日と19日の2日間開催されるのに合わせた取り組みで、環境負荷を抑えた「サステナブルな未来の旅」をニューヨークへ向かう乗客に体験してもらう。運航便の全燃料搭載量の約11%を、代替航空燃料「SAF(サフ、持続可能な航空燃料)」に置き換えるとともに、カーボンクレジットの使用などでCO2(二酸化炭素)排出量実質ゼロ(カーボンニュートラル)を達成した。機内では、植物由来の素材を使ったスリッパや、紙製の機内食容器、再生プラスチック製のヘッドホン、プラスチック製カップなど、使い捨てプラスチックの削減につながる取り組みを実施。機内食のスリーブ(紙帯)は、知的障がいのあるアーティストが描いたアートを採用し、デザートは大豆由来の豆乳を使ったハーゲンダッツのアイスクリームを提供する。初便となった14日のニューヨーク行きJL6便(ボーイング777-300ER型機、登録記号JA731J)は、乗客198人(幼児ゼロ)を乗せて羽田の112番スポット(駐機場)を午前11時6分に出発した。スポットではJALの赤坂祐二社長をはじめ、JAL便などのグランドハンドリング(地上支援)業務を担うJALグランドサービス(JGS)の新入社員35人を含むグループ社員約70人が見送った。【Aviation wire news】
3. 22年度の航空事故8件、重大インシデントは3件=国交省
国土交通省航空局(JCAB)が発表した、2022年度の航空事故や重大インシデントの発生状況をまとめた「航空輸送の安全にかかわる情報」によると、航空事故は8件、航空事故につながりかねない「重大インシデント」は3件、安全上のトラブルは1095件だった。8件発生した航空事故は、6月に高知空港と徳島空港付近の上空で1件ずつ、7月に那覇空港付近の上空で1件、10月に美保飛行場(米子空港)付近の上空で1件、11月に鹿児島空港で1件、今年1月に中部空港と宮崎空港付近、成田空港で、それぞれ1件ずつ発生した。2件発生した重大インシデントは、4月に福岡空港付近の上空で、5月に茨城空港(百里飛行場)で、10月に能登空港で、1件ずつ発生した。1095件報告があった「安全上のトラブル」は、「危険物の誤輸送等」が296件で最多。「機材不具合」が241件、「ヒューマンファクター」が284件、「回避操作」が170件、「発動機の異物吸引による損傷」が3件、「部品脱落」が13件、「アルコール事案」が65件、「その他」が23件だった。【Aviation wire news】
4. A320neo向けエンジンPW1100点検、最大700基取り下ろし
米エンジンメーカー、プラット&ホイットニー(PW)の親会社であるRTX(旧レイセオン・テクノロジーズ)は現地時間9月11日(日本時間同日夜)、エアバスA320neoファミリー向けエンジン「PW1100G-JM」の点検対象を拡大したと発表した。約600-700基のエンジンを機体から取り下ろし、点検する必要があるという。RTXは今年7月に、PW1100Gで使われている特定のエンジン部品を製造時に使用される粉末金属に「まれに発生する症状」があるとして、エンジンを機体から取り下ろす点検が必要だと発表。2024年4月から7月までの期間内に、取り下ろしと点検が必要となり、このうち、9月中旬までに約200基を取り下ろす必要があると発表していたことから、大幅な対象拡大になる。2024年から2026年にかけて、平均350機のAOG(地上駐機)が生じる見通し。PWは今後当局と調整し、改修手順を示す「サービスブリテン(SB)」を60日以内に発行する予定。国土交通省航空局(JCAB)によると、現時点では対象となるエンジンのシリアルナンバーなどは明らかになっていないという。SBや先駆けて出される暫定版が発行され、対象エンジンが絞り込まれるまでは、航空当局や航空会社の対応に限界があるといえる。国内でA320neoファミリーを運航する航空会社のうち、PW1100Gを搭載した機体はANAホールディングス傘下の全日本空輸のみで計33機。内訳は、標準型のA320neo(2クラス146席:ビジネス8席、エコノミー138席)が11機、長胴型のA321neo(2クラス194席:プレミアムクラス8席、普通席186席)が22機となる。【Aviation wire news】
【エアバス提供:A320neo用PW1100G-JMエンジン】
5. JTA、女性の副操縦士2人誕生 同期入社で同時昇格、女性活躍の環境づくり目指す
日本トランスオーシャン航空に、女性の副操縦士が2人同時期に誕生した。7月に発令を受けた中尾郁海副操縦士(24)と山本将子副操縦士(29)の同期入社の2人で、ボーイング737-800型機に乗務。両副操縦士とも機長昇格のほか、女性パイロットが活躍できる環境づくりも目指している。中尾さんは1998年9月生まれで兵庫県出身。2021年3月に崇城大学工学部 宇宙航空システム工学科 操縦学専攻を卒業後、2022年1月にJTAへ入社した。同年7月に副操縦士への昇格訓練を開始し、737-800を操縦できる「限定変更」を今年3月10日に取得後、7月4日付で副操縦士となった。昇格後の初フライトは同月6日の那覇発石垣行きNU617便だった。山本さんは1993年10月生まれで大阪府出身。2017年3月に大阪市立大学を卒業後、2018年6月に国の航空大学校へ入学し、2021年3月に卒業した。JTA入社は中尾さんと同じ2022年1月で、同年7月に副操縦士への昇格訓練を開始。今年3月9日に737-800への限定変更を取得し、7月6日付で副操縦士となった。昇格後の初フライトは同月8日の那覇発福岡行きNU50便だった。【Aviation wire news】
【Yahooニュース提供:JTAで副操縦士に昇格した中尾さん(左)と山本さん(右)】
6. アストロスケール、ISS後継機の軌道上サービス事業検討パートナーに選定
アストロスケールは9月14日、国際宇宙ステーション(ISS)の日本実験棟「きぼう」の後継機となる日本モジュールの保有・運用事業の事業化調査を実施する三井物産のパートナー企業に選定されたことを発表した。2030年に運用終了が予定されているISS。多数の民間企業が宇宙ステーションの建設計画を打ち出すなど、その退役後を見据えた「ポストISS」の検討が世界各地で進められている。日本でも2030年以降の地球低軌道活動の在り方について検討を進めること、ならびにポストISSにおける日本の在り方を検討するという方針が、2023年6月に閣議決定された宇宙基本計画に記載されており、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が同月に「民間主導の地球低軌道有人拠点事業における米国商業宇宙ステーション接続型日本モジュールの概念検討」の事業者募集を開始。三井物産は、その事業者として選定され、2030年ごろに予定されるポストISSにおける地球低軌道活動の重要性を見据え、パートナー企業と連携して日本モジュール事業化の検討を開始しており、アストロスケールはそのパートナー企業の1社として、日本モジュール構築への参加の可能性、日本モジュールを使用し、ベース基地とした軌道上サービス事業の可能性について検討に参画するという。具体的な検討内容としてアストロスケールでは、宇宙ステーションでの点検や修理、燃料補給といったサービスが今後の可能性として考えられていることを踏まえ、自社の軌道上サービスの知見を活かし検討を進めていきたいとしている。また、自社が手掛けているランデブーや近傍運用、ドッキングといったさまざまなRPOD技術を日本モジュールに活かしていくことも、同社が手がける軌道サービスの将来への適用、発展の形として検討を進めていく方針ともしている。【マイナビニュース】
7. 住友商事、サステナブルな宇宙への打ち上げを目指すスタートアップへ出資
住友商事とSpinLaunchは、SpinLaunchが開発する宇宙への打ち上げの日本向け代理店権に関するパートナーシップ契約を締結したことを発表。また併せて、住友商事がSpinLaunchに対して2023年7月に出資を行ったことも発表した。近年、世界各国の経済発展を受けて安定的かつ高速な通信やGPSなどに対する需要が高まっているのに伴って、データ送受信で必要となる低軌道衛星を中心とした宇宙市場が拡大している。しかし現状では、宇宙への打ち上げ能力の提供が追いついておらず、また衛星打ち上げコストの高騰により、衛星を利用したサービスの価格も高止まりしているのが実情だ。2014年に米・カリフォルニア州で設立されたスタートアップのSpinLaunchは、こうした課題を解決するため、電動式の円形回転装置によって物体を宇宙へと打ち上げる、革新的な打ち上げ方法の実現を目指している。この方法が実現すれば、必要なタイミングでのオンデマンドの打ち上げが可能になるとともに、燃料コストやCO2排出量をロケットの打ち上げと比較して70%以上削減することができるため、柔軟性や即応性に加え、環境にも優しい低コストでの打ち上げ方法として期待が集まっている。住友商事は、Collins Aerospaceとの合弁事業である「Hamilton Sundstrand Space International」における、宇宙船の部品や宇宙服の宇宙機関向けの製造・販売、そしてHawkeye360への出資など、安全保障を含めた宇宙の利活用拡大に貢献するための取り組みを進めている。そして今般、宇宙開発に向けた新技術の社会実装を目指すSpinLaunchへの投資を通じ、宇宙利用の促進や豊かさと夢のある社会の実現を目指すとする。【マイナビニュース】
【住友商事提供:SpinLaunchの打ち上げ装置】