KIT航空宇宙ニュース2024WK27
海外のニュース
1. ボーイング、米スピリット再統合 負債込み83億ドルで買収、信頼回復へ
ボーイングは現地時間7月1日、過去に分社化したサプライヤーの米スピリット・エアロシステムズを買収すると発表した。スピリットは737 MAXの胴体製造などを請け負っており、同社を再び傘下に収めて再統合することで、品質の改善や、今年1月に米ポートランドで起きたアラスカ航空が運航するボーイング737-9(737 MAX 9)のドアプラグ脱落事故など、大きく揺らいでいる信頼回復につなげる。株式価値は約47億ドル(約7598億円)で、全額を株式交換方式(1株あたり37.25ドル)で取得。スピリットの普通株式1株を、ボーイングの普通株式0.18-0.25株と交換する。取引総額はスピリットの直近の純負債を含め約83億ドルとなり、2025年半ばの取引完了を計画している。スピリットは、737 MAXの胴体やスラストリバーサー、スラット、フラップを製造するほか、構造部位の修理なども請け負っている。以前はボーイングの一部だったが、2005年に分離して新会社「スピリット・エアロシステムズ」を設立した。新会社設立後はボーイングのほか、エアバスなどとの取引も開始。エアバスA220型機やA320、A350のプログラムも請け負っている。今回の買収により、ボーイング傘下に戻ることになるため、エアバスの事業は売却を進める。【Aviation wire news】
日本のニュース
1. 三菱重工「MSJ資産管理」、特別清算開始申立て
三菱重工業は7月4日、傘下でジェット旅客機「三菱スペースジェット(MSJ、旧MRJ)」を開発していたMSJ資産管理(旧三菱航空機)が同日付で東京地方裁判所に特別清算開始を申立てたと発表した。三菱重工グループの業績への影響はない見通し。三菱重工は、MSJの開発中止を2023年2月7日に正式発表。同年4月25日に三菱航空機の社名を「MSJ資産管理株式会社」に変更したと発表した。また今年3月31日付で、MSJ資産管理を解散する決議を機関決定。3月31日現在の負債総額は約6413億円で、代表清算人は同社の桝谷啓介社長が、申立代理人は西村あさひ法律事務所・外国法共同事業(東京・大手町)の弁護士、横山兼太郎氏、藤浩太郎氏、乘田明彦氏、井ノ上奈莉子氏が務める。今回の特別清算開始の申立てについて、三菱重工は「残務処理を実施していたが、一定のめどが立った」と説明している。一方、経済産業省は今年3月に、次世代の国産旅客機構想を示している。2035年以降をめどに、次世代の国産旅客機開発を官民で進めるもので、MSJが開発中止となったことから、1社の単独事業ではなく複数社の参画による開発を促し、経産省が研究費などの面で幅広く支援し、MSJ失敗の反省点を生かすとしている。【Aviation wire news】
2. ANA、空港酷暑対策でファン付きベスト導入 グラハン・整備士1万人着用
全日本空輸を中核とするANAグループは7月4日、国内約50空港のグランドハンドリング(グラハン、地上作業)スタッフと整備士にファン付きベストを導入したと発表した。夏場の酷暑対策のひとつで、一度の充電で風量がもっとも多いモードで約5時間使えるという。ファン付きベストの導入対象は、ANAグループが就航する国内約50空港で、対象人数はグラハンスタッフが約7000人、整備士が約3600人。昨年夏に整備士の酷暑対策として会社が導入し、共用で使っていたところ効果があったため、今年6月24日から整備士への個人貸与が始まり、7月1日からはグラハン部門にも導入された。グラハン部門では、機体の牽引や誘導、貨物・手荷物の搭降載・搬送など「ランプハンドリング」と呼ばれる業務のうち、機体の近くで作業する人を中心に導入した。既存の安全ベストと同様に視認性が高いもので、職種ごとにオレンジ、黄色とオレンジのツートン、黄色の3種類を用意した。オレンジは整備士と「ヘッドセットオペレーター」と呼ばれるグラハンスタッフが着用。黄色とオレンジのツートンはグラハンの責任者、黄色はグラハンの一般スタッフが着用する。また、ANAのコーポレートカラーであるトリトンブルーとモヒカンブルーもアクセントとして配した。ファンの風量は3段階で、「Low」が毎分2.3立方メートル(毎秒約38リットル)、「Middle」が2.7立方メートル(同45リットル)、「Hi」が3.8立方メートル(同63リットル)で、作動時間はLowで約15.5時間、Middleで約10時間、Hiで約5時間。ANAによると、スポット(駐機場)周辺での作業は約2時間程度で、水分補給や休憩などを挟んでいるという。【Aviation wire news】
【Aviation wire提供:ファン付きベストを着用して搭載作業にあたるANAエアポートサービス社員】
3. 成田空港、集約新ターミナル「ロングピア型」に 2タミ南側、新駅開業で現駅閉鎖
成田空港を運営する成田国際空港会社(NAA)の田村明比古社長は7月3日、国土交通省を訪問し、空港の将来像を検討する「『新しい成田空港』構想」のとりまとめを同省航空局(JCAB)の平岡成哲局長へ報告した。「旅客ターミナル」「貨物施設」「空港アクセス」「地域共生・まちづくり」の4テーマで課題やなどを洗い出し、このうち現在3カ所ある旅客ターミナルは1カ所に集約。事業費は8000億円程度を想定する。鉄道駅は新駅開業後、現在の2駅を段階的に閉鎖する。旅客ターミナルは、集約型の「ワンターミナル」へ再構築。2029年3月末に予定する第3滑走路(C滑走路)の新設後に段階的に集約する計画で、既存のターミナルを運用しながら段階的に集約させていく。シンプルで分かりやすい作りとするほか、乗り継ぎを同一ターミナル内で完結させることでハブ空港としての機能の向上も目指す。また、リソースの集約・共用化により、高効率な運用が可能となり、航空会社間の提携や規模の変化に柔軟に対応できるようになる。新ターミナルの候補地は、2023年3月の中間とりまとめから変更なく、現在の第2ターミナル(T2)の南側を候補地として整備(関連記事)。コンコースの本数を少なくできる「ロングピア型」を基本として検討を進め、延べ面積は95-115万平方メートル程度、固定ゲート数100程度を想定する。成田空港へ乗り入れる鉄道の駅は現在、第1ターミナル地下の成田空港駅と、第2ターミナルの地下で第3ターミナルの最寄りにもなる空港第2ビル駅の2駅があり、JR東日本(東日本旅客鉄道)と京成電鉄が乗り入れている。ワンターミナル化を進める際は、2タミ南側に建設予定の新ターミナルの半分と新駅の供用を開始する「ステップ1」の段階で、成田空港駅を閉鎖。新ターミナルの建設が進んだ「ステップ2」で空港第2ビル駅も閉鎖する。その後の「ステップ3」では、外部環境や経営状況に応じて、1タミ跡地に本館やコンコースを増築する構想だが、鉄道駅はステップ1で開業する新駅のみとなる見通し。新しい貨物施設は、貨物上屋とフォワーダー施設を一体運用。効率化を図り、物流の無駄を削減する。圏央道からアクセスできる新貨物地区を整備し、空港隣接地と一体的に運用し、継越需要も取り込む東アジアの貨物ハブを目指す。空港アクセスは、NAAと国、鉄道事業者など関係者間で課題解決を進めていく。また、空港内の道路は周回型で速達製の高い道路に再編する。地域共生・まちづくりは、地域や空港従業員に住みやすい地域づくりと、空港を中心とした産業を誘致する「エアポートシティ」の実現を目指す。すべての整備は2040年代に終了する見通し。現在の年間発着回数は34万回で、整備完了後は50万回に拡大。年間の旅客取り扱い能力は、現在の5700万人から7500万人に増加する見通し。年間の貨物取り扱い能力は、現在の240万トンから350万トンへの増加を見込む。【Aviation wire news】
【Aviation wire提供:将来の成田空港ターミナルビル配置イメージ】
4. JAL、透明画面で表情見ながら接客 聴覚障がい者や訪日客想定
TOPPANホールディングス傘下のTOPPANは7月2日、日本航空と共同でTOPPANの翻訳対応透明ディスプレイ「VoiceBiz UCDisplay」を活用した実証実験を羽田空港で始めた。空港のグランドスタッフ(旅客係員)が、聴覚や言葉が不自由な利用者や訪日外国人とやり取りする際、相手の表情を見ながら透明なディスプレイに表示される日本語や外国語の字幕を使って会話する。両社によると、国内の航空会社では初の取り組みだという。両社によると、従来の筆談やスマートフォンなどを使ったコミュニケーションよりも、グランドスタッフが相手の表情や話し方を把握しながら応対できるため、より的確な案内ができるという。羽田空港第1ターミナルの「スペシャルアシスタンスカウンター」に設置したVoiceBiz UCDisplayは、TOPPANの音声翻訳サービス「VoiceBiz」と、20.8インチのカラーディスプレイ、Android OSが動くタブレット、音声入力用マイクなどを組み合わせたもので、今秋から提供予定の2代目となるモデル。透明なディスプレイに字幕を入力する際は、タブレットに表示されるソフトウェアキーボードかマイクによる音声入力を使い、翻訳は英語や中国語、韓国語、タイ語、ベトナム語、スペイン語、フランス語など13カ国語に対応した。2日の実証実験は、聴覚障がいを持つ利用者の接客を想定。参加したJALのグランドスタッフは、「相手の顔を見ながら接客できるので、表情から困っているかがわかりやすい」といい、表情や口の動きを見ながら音声入力で会話できる点が良かったという。利用者役は、グループ会社JALサンライトで働く聴覚障がいを持つ女性社員が担当。タブレットのソフトウェアキーボードを使い、ディスプレイ越しにグランドスタッフとやり取りした。「空港は騒音が多く相手の声を聞き取りにくいことがあり、口もとを見ながらディスプレイでやり取りできるのが良かった」と感想を述べた。【Aviation wire news】
【Aviation wire提供:TOPPANとJALが共同開発した翻訳対応透明ディスプレイ「VoiceBiz UCDisplay」】
5. JAXAのH3ロケット3号機が打ち上げ、先進レーダ衛星「だいち4号」の分離に成功
宇宙航空研究開発機構(JAXA)と三菱重工業(MHI)は7月1日12時6分42秒、先進レーダ衛星「だいち4号(ALOS-4)」を搭載した基幹ロケット「H3ロケット3号機」の打ち上げを行った。H3ロケット3号機は、打ち上げから約116秒後、固体ロケットブースタ「SRB-3」の分離を実施した後、約211秒後に衛星フェアリングを分離。約303秒後に主エンジンの燃焼が停止(MECO)され、約311秒後に第1段および第2段部の分離が行われた。また、この間の第1段エンジン燃焼フェーズにおいて今回、スロットリングについての飛行実証が行われた模様である。スロットリングは、燃料を消費して機体が軽くなるのに併せて、機体の加速度が大きくなるのを抑えることで搭載している人工衛星への負荷を軽減するための仕組み。今回は第1段エンジン燃焼フェーズの最後の約20秒間の推力を66%に絞って実施された。約984秒後には第2段エンジン第1回燃焼停止(SECO1)にて機体が太陽同期軌道(SSO)に投入、約1005秒後にだいち4号の分離が確認された。だいち4号は2014年に打ち上げられた陸域観測技術衛星2号「だいち2号」の後継機に位置づけられる地球観測衛星。Lバンド合成開口レーダを搭載し、新開発のデジタル・ビーム・フォーミング 技術などを活用することで、だいち2号で実現した3mの分解能を維持しつつ、観測幅を4倍の200kmに拡大。これにより、だいち2号では4回にわけて観測が必要であったものが1回の観測で済むこととなり、年間の観測回数を従来の4回から20回へと増やすことを可能としている。今後、だいち4号は機体チェックによる機体の健全性などの確認を行った後、地球観測に挑むことが予定されている。【マイナビニュース】
【マイナビニュース提供:地球観測衛星「だいち4号」搭載のH3ロケット3号機の打上げ成功】