KIT航空宇宙ニュース2025WK12
海外のニュース
1.スペースX、「スターシップ」の8回目の飛行試験を実施 – 宇宙船爆発で連続失敗
米宇宙企業スペースXは2025年3月6日、「スターシップ」の8回目の飛行試験を実施した。ブースターの「スーパー・ヘヴィ」は発射塔による回収に成功し、再使用技術の発展を実証した一方で、上段の「スターシップ」宇宙船は前回に続き、飛行中に空中分解し、失敗に終わった。この試験は、スターシップの改良と完成に向けた重要なマイルストーンだったが、宇宙船の連続失敗は今後の課題を浮き彫りにした。スターシップは、スペースXが開発中の宇宙輸送システムで、衛星の打ち上げや有人月探査、人類の火星移住の実現をめざしている。ブースターの「スーパー・ヘヴィ」と宇宙船「スターシップ」から構成され、完全な再使用を可能とし、打ち上げの低コスト化と高頻度化を図っている。また、完成時には100tを超える打ち上げ能力をめざしており、規格外のペイロードを打ち上げることが可能となる。今回の8回目の飛行試験(フライト8)では、従来型のスーパー・ヘヴィ「ブースター15」と、改良型の「ブロック2」仕様のスターシップ宇宙船「シップ34」が使用された。ブロック2は、従来の機体と比べて全長が伸び、推進薬の搭載量を増やし、打ち上げ能力を向上させたほか、フラップ(制御翼)や耐熱システムも改良され、大気圏への再突入時の耐久性も向上している。今回の試験の目標は、1月に実施した7回目の飛行試験(フライト7)の結果を踏まえた改良の検証と、未達成に終わった試験項目の達成だった。7回目の飛行試験で使われた宇宙船(シップ33)は、ブロック2仕様の初飛行だったが、飛行中に推進薬の配管が共振によって破裂し、推進薬が漏れて火災が発生し、空中分解に至った。これを受け、シップ34には推進薬配管の改良やエンジン上部の引火防止策などが施されたほか、フライト7で検証できなかった宇宙空間でのエンジン再着火や模擬衛星の展開、インド洋での大気圏再突入と軟着水が計画されていた。また、前回に続きブースターの発射塔での回収も行うことになっていた。【マイナビニュース】

【SpaceX提供:スターシップ8回目の飛行試験の打ち上げの様子】
2.欧州の新型ロケット「アリアン6」2号機の打ち上げ成功、商業運用の幕開け
仏アリアンスペースは2025年3月7日(日本時間)、新型ロケット「アリアン6」2号機の打ち上げに成功した。アリアン6の打ち上げは、2024年7月の初飛行に続く2機目となる。初飛行では問題が発生したが、今回はミッションを完全に達成。さらに、アリアン6にとって初めての商業打ち上げとなった。アリアン6の2号機(VA263)は、日本時間2025年3月7日1時24分(ギアナ時間 6日13時24分)に、南米仏領のギアナにあるギアナ宇宙センターのELA-4発射台から離昇した。ロケットは、2本の固体ロケット・ブースターや、フェアリングを分離しながら順調に飛行し、第2段エンジン「ヴィンチ」の2回の燃焼ののち、離昇から1時間6分後に、フランスの偵察衛星「CSO-3」を所定の軌道に投入した。当初、打ち上げは3月4日に予定されていたが、地上設備の問題のため延期されていた。【マイナビニュース】

【ESA提供:アリアン6ロケット2号機の打ち上げの様子】
3.エンブラエル、「新技術デモンストレーション」の一環として翼開発作業を発表
ブラジルの航空機メーカー、エンブラエルは、同社とパートナーが複合材製の主翼と「空飛ぶ」実験室を開発・試験する技術実証プログラムの存在を明らかにした。エンブラエルは3月19日、「新技術実証プラットフォーム(NTDP)で使用される翼の初期構造疲労試験を無事完了した」と発表した。同社はまた、小型の試験機と思われるもののレンダリング画像も公開した。この機体は両翼に2つのプロペラとU字型の尾翼を備えている。NTDP については、ブラジルのサン・ジョゼ・ドス・カンポスに拠点を置くメーカーがこれまで言及したことはない。エンブラエル社は現在この計画を公表しているものの、それについてはほとんど情報を公開していない。しかし同社は、NTDPはエンブラエルのエンジニアリング・テクノロジー部門責任者ルイス・カルロス・アフォンソ氏が主導する、同社が新型航空機開発プログラムに着手する前に技術的な可能性を理解するためのより広範な取り組みに沿ったものだと述べている。エンブラエル社によると、この主翼実証機は「新しい製造技術」を使った複合材料で作られているという。【Flightglobal news】

【エンブレアル提供:「新技術開発プラットフォーム」の一環として発表された新型航空機のレンダリング】
日本のニュース
1. JAL系JALUX、米BeauTechと航空機エンジンの調達・リース新会社設立 V2500とPW1100G
米BeauTech Power Systems(BPS)と日本航空傘下の商社JALUX(ジャルックス)は、IAE製V2500-A5エンジンとPW1100Gエンジンの調達・リースを手掛ける合弁会社「BVJ Engine Holdings LLC」を設立することで合意し、契約を締結した。新会社はテキサス州ダラスに拠点を構え、BPSとJALUXがそれぞれ50%ずつ出資。BPSのエンジンリース事業での実績やグローバルな顧客ネットワークと、JALUXのV2500とPW1100GエンジンのMRO(整備・修理・分解点検)関連データや取引情報、日本を含むアジアの顧客ネットワークを組み合わせ、独自の競争優位性を発揮する。【Aviation wire news】

【JALUX提供:航空機エンジンの調達・リースを手掛ける合弁会社を設立したBPSとJALUX】
2.成田空港、移動型ロボでサブカル品無人販売 訪日客にソフビ・フィギュアなど
成田空港を運営する成田国際空港会社(NAA)は、移動型の無人販売サービスを活用し、出発客に地域産品やサブカルチャー品を販売する実証実験を始める。パナソニック ホールディングスらと共同で展開し、出国する訪日客をおもな対象として日本らしさを感じられる商品を提供する。3月21日から30日までの10日間。無人販売サービスに対応するパナソニックの移動型ロボット「PIMTO(ピムト)」を活用した実証実験で、第1ターミナル出国手続き後の搭乗ゲート周辺を移動しながら販売する。ソフトビニール製のフィギュアやカプセルトイ、富士山をかたどったチョコレートのほか、空港限定の商品などを用意する。商品はマッシュアップと共同で選んだ。実証実験で使用する「PIMTO」は、接続する有線のコントローラーや遠隔地からのリモートで操縦する。今回の実証実験では有線コントローラーでの移動を基本とし、リモート操縦もテストする。支払いはクレジットカードやQRコード、交通系電子マネーに対応する。【Aviation wire news】

【パナソニックHD提供:成田空港での実証実験で使用するパナソニックの移動無人販売ロボ「PIMTO」】
3.QPS研究所の小型SAR衛星「スサノオ-I」打ち上げ、アンテナ展開成功
QPS研究所は、小型合成開口レーダー(SAR)衛星の9号機「スサノオ-I」が日本時間3月15日に打ち上げられ、同日に予定軌道へ投入。約90分後にスサノオ-Iとの初交信に成功し、翌16日には収納型アンテナも無事に展開できたと発表した。QPS-SAR 9号機「スサノオ-I」はロケット・ラボのロケット「Electron」(ミッションネーム:“The Lightning God Reigns”)によって、ニュージーランド・マヒア半島の発射場Launch Complex 1 Pad Bから日本時間3月15日午前9時55分に打ち上げられた。衛星の各機器は正常に作動していることが確認できており、翌16日朝には収納型アンテナの展開を実行。機器の動作情報やジャイロなどのセンサー類、スサノオ-Iのアンテナの一部を撮影した衛星のセルフィー画像などから、アンテナは無事に展開したことを確認できたとしている。今後は衛星の調整を続け、初画像の取得(ファーストライト)をめざす。QPS研究所は軽量かつ大型で、収納性を高めた展開式アンテナも備えた高精細小型SAR衛星「QPS-SAR」を開発しており、従来のSAR衛星の20分の1の質量、100分の1のコストを追求したとアピール。「民間SAR衛星で世界トップレベルの46cm分解能の画像取得が可能」としている。【マイナビニュース】

【QPS提供:小型SAR衛星「QPS-SAR」のアンテナ展開想像図】