KIT航空宇宙ニュース2025WK51

MTU主導のコンソーシアムで現在のSWITCHプロジェクトを通じて開発中のPW1100Gエンジンのハイブリッドバージョン( 次世代ナローボディ機用)
KIT航空宇宙ニュース

KIT航空宇宙ニュース2025WK51

海外のニュース

1.  中国企業の大型メタン・ロケット「朱雀三号」の打ち上げが示す、中国の再使用ロケットの幕開け

中国の民間企業・藍箭航天は2025年12月3日、新型ロケット「朱雀三号」の初打ち上げに成功した。朱雀三号はメタンを燃料に使う大型ロケットで、軌道到達を果たしたメタン系ロケットとしては世界で4例目となった。第1段は垂直着陸によって回収し、再使用する設計だが、今回は着陸シーケンス中に異常が発生し、軟着陸と回収には至らなかった。それでも、軌道投入の成功と回収試験の実施は同社の技術力を示すとともに、中国における再使用ロケットの時代の幕開けを象徴する出来事となった。北京藍箭空間科技(藍箭航天、英名:LandSpace)は、北京に拠点を置く企業で、2015年に清華大学発のベンチャーとして設立。官民のベンチャー・キャピタルや投資ファンドから多額の資金を調達し、ロケット開発を継続してきた。同社は当初、「朱雀一号」と呼ばれる小型の固体ロケットを開発したが、2018年の1号機打ち上げに失敗。その後は並行して開発していた新型ロケット「朱雀二号」に、開発の軸足を移した。朱雀二号は、燃料に液体メタン、酸化剤に液体酸素(液酸)を用いる2段式ロケットで、地球低軌道に最大6tの打ち上げ能力をもつ。2022年12月の初飛行は失敗したが、2023年7月の2回目の打ち上げで軌道到達に成功し、メタン系ロケットとして史上初めて軌道に到達した例となった。朱雀三号は全長66.1m、直径4.5m(フェアリング直径は5.2m)の2段式ロケットで、朱雀二号と同様に推進薬として液体メタンと液体酸素を用いる。メタンは、ロケットの性能を比較的高くできるうえに、コストが安いため経済性にも優れ、産出地の点から入手性にも優れているなど、次世代のロケット燃料として注目されている。朱雀三号の最大の特徴は、米スペースXの「ファルコン9」ロケットのように、第1段機体を着陸・回収し、再使用できるところにある。第1段はステンレス製で、ファルコン9と同様に、姿勢制御システム(RCS)と、グリッド(格子状)・フィン、着陸脚を備える。同社によると、設計上の再使用回数は20回以上としている。【マイナビニュース】

【Land Space提供:「朱雀三号」の打上げ】

2.  Eve Air Mobility、電動エアタクシー試作機の初ホバー飛行に成功

12月19日、ガビアオ・ペイショットにあるエンブラエルの試験施設で夜明け直後、イブ・エア・モビリティの幹部とエンジニアたちは、この新興企業の全電気式空飛ぶタクシーのエンジニアリングプロトタイプが初めて飛行するのを見守った。短時間ではあったが、約30フィート(10メートル)のホバリング飛行は、2020年10月にエンブラエルから分離独立して以来エンジニアリングプロトタイプには内部キャビンがないため、ホバー飛行は遠隔操縦ステーションから制御されたが、イブの最高経営責任者であるボルダイス氏は「エンブラエルのテストパイロットにとっては実に奇妙なことです。彼らがこのようなことをするときは、通常は飛行機に乗ります」と述べている。この試験飛行は、エンブラエルにとって、全炭素製機体の初飛行、全電気による初飛行、そして同社初の垂直飛行など、いくつかの初めての出来事となった。このマイルストーン達成に向けて取り組んできたイブにとって記念すべき出来事となった。【Flightglobl news】

【Eve Air Mobility提供:Eveエンジニアリングプロトタイプの初ホバー飛行】

3.  米国運輸省がAAM国家戦略を発表、初飛行は2027年を予定、eVTOL OEMからの強力な業界支援も

Archer、BETA Technologies、Eve Air Mobility、Joby Aviation、WiskなどのOEMの上級幹部は、米国運輸省(DOT)の先進航空機モビリティ(AAM)国家戦略への支持を表明した。この戦略は、昨日(水曜日)、ワシントンDCでショーン・ダフィー運輸長官によって発表された。「先進航空機動性国家戦略:2026~2036年に向けた大胆な政策ビジョン」は、米国全土における先進航空機動性の航空機およびシステムの開発と展開を加速するという明確かつ協調的な取り組みを示している。この計画は、既存のインフラを活用し、航空交通管理を近代化し、米国での製造業を優先し、国内の労働力を育成して国内での事業を大幅に拡大することを目指している。さらに、2027年に初飛行を実施し、2030年までに地方や都市部で新たな運用を開始することを計画している。また、この計画では、AAM技術の多様な用途についても言及しており、小さな町と大都市を結ぶコミュニティ間および地域間の旅客飛行や、貨物輸送、軍事輸送、緊急時の任務の強化などが含まれる。ブリーフィングのためにテーブルを囲んで座っていた人々のなかには、Archerの創設者兼CEOであるAdam Goldstein氏、BETA Technologiesの創設者兼CEOであるKyle Clark氏、Eve Air MobilityのCCOであるMegha Bhatia氏、Joby Aviationの創設者兼CEOであるJoeBen Bevirt氏、WiskのCEOであるSebastien Vigneron氏などが含まれていた。【eVTOL Insight

【eVTOL Insight提供:米国DOT発表のAAM国家戦略に賛意を示すeVTOL開発企業CEO】

4.  クリーン・アビエーション、ハイブリッド電気地上実証機3台を含むコール4プロジェクト計画の詳細を発表

クリーン・アビエーションの次期プロジェクトでは、最大3社のエンジンメーカーが、ハイブリッド電気ナローボディ機のパワープラントの地上実証機を製作するために、EUの資金6000万ユーロ(7030万ドル)を共有する可能性がある。クリーン・アビエーションの第4回提案募集の暫定版(来年2月に発表予定)に詳細が記載されているハイブリッド電気実証機の計画は、地域型航空機、水素動力伝達装置、次世代ナローボディ機に向けたその他の取り組みを含む、より広範な研究プロジェクトプログラムの一部である。クリーン アビエーションは合計 3 億 2,950 万ユーロの資金を提供し、民間部門からの寄付と合わせると、合計 8 億 2,400 万ユーロの研究活動が行われることになる。クリーン・アビエーションは、ハイブリッド化の取り組みの範囲を概説し、プロジェクトは2035年頃の就航に向けて「[SMR:短中距離ナローボディ]エンジンに統合されたハイブリッド電気推進サブシステムを実証する」ことが期待されていると述べた。最大3つのプロジェクトが選ばれるとしている。クリーン・アビエーションの文書によれば、請負業者は「ダクト付きエンジンまたはダクトなしエンジン」のどちらも使用することができ、プロジェクト終了までに技術成熟度レベル(TRL)5で「ハイブリッド電気サブシステム」を実証する必要がある。【Flightglobal news】

【P&W社提供:MTU主導のコンソーシアムで現在のSWITCHプロジェクトを通じて開発中のPW1100Gエンジンのハイブリッドバージョン】

5.  ウィスク社、第6世代自律型eVTOL機の初飛行に成功

ウィスク・エアロは、フルスケールの第6世代自律型eVTOLエアタクシーの初飛行を完了し、世界初の無人旅客機の開発と認証の計画における重要な一歩を踏み出した。ケーブル接続のないホバリング飛行は、カリフォルニア州ホリスターにあるウィスク社の飛行試験施設で行われ、遠隔操縦ではなく、事前にプログラムされた飛行計画を完全自律的に実行しました。ウィスク社の航空機開発担当シニアディレクター、ギヨーム・ボーシャン氏によると、機体は垂直離陸、ホバリング、限定的な前進、着陸を行い、30秒強空中に留まりまった。ボーシャン氏によると、初飛行は、第6世代機の初期設計コンセプトから始まり、社内ゲートレビュー、製造、そして広範な地上試験へと進展してきた約4年間の取り組みの集大成である。その取り組みには、部品レベルおよびシステムレベルの試験、継続的なソフトウェア開発、そして機体レベルの様々な試験が含まれていた。ウィスク社は、従来の地上振動試験に加え、自由飛行に先立ち、推進力、制御則、そして構造挙動を検証するため、拘束ホバリング試験を実施した。最初のホバリングが完了したことを受け、ウィスク社は現在、飛行範囲の拡大に先立ち、制御則と機体ダイナミクスの検証に重点を置いた体系的な飛行試験キャンペーンに移行している。ボーシャン氏によると、近い将来の飛行試験では、同社が「チャープ」と呼ぶ、飛行中の機体の反応を観察し、実際の挙動がモデルやシミュレーションによる予測と一致するかどうかを確認するための、短く意図的な制御入力に重点を置く予定です。【Aviation week】

【Wisk Aero提供:自律飛行制御による無人でのホバリング飛行に成功したWisk機】

6.  エアバスとパートナーが航跡エネルギー回収試験に成功

エアバスは、エールフランス、デルタ航空、フランス航空、ヴァージン アトランティック、および運用パートナーのエアナブ・アイルランド、DSNA、ユーロコントロール、NATSと提携し、エアバスのフェロフライ(Fello Fly)・プロジェクトの新たな試験フェーズを無事に完了した。Fello’flyは渡り鳥のガンからヒントを得ており、飛行をペアにすることで燃料消費量を削減するという連携の力を示している。この飛行技術では、最初の航空機が「後流エネルギー回収」と呼ばれる上昇気流を生み出し、後続の航空機の燃料効率を高める。この後流エネルギー回収が実用化されれば、長距離飛行において最大5%の燃料節約が期待できる。これらの試験は、SESAR共同事業GEESEプロジェクトの一環として、2025年9月から10月にかけて北大西洋上空で8回の飛行を実施し、その目的は、この運用コンセプトが、完全な垂直距離を維持し、航空交通規則を遵守しながら、2機の航空機を正確な時間と場所に誘導する(ランデブープロセス)実現可能かつ安全な方法であることを示すことだった。実際の航跡エネルギー回収飛行はまだ商用飛行でテストされていないが、ランデブープロセスの成功は、将来の効率向上に向けた重要な第一歩となる。 各試験では、2つの航空会社の地上管制センター、4つの航空管制センター、そして2つの運航乗務員間の緊密な連携が必要だった。AirNav Ireland、エールフランス航空、デルタ航空、DSNA、EUROCONTROL Network Manager、French bee、NATS、そしてヴァージン・アトランティック航空がEUROCONTROLイノベーションハブ・インターフェースを用いて積極的に参加したことが、このコンセプトの安全性と実用性を現実世界の状況で証明する鍵となった。【Airbusニュース】

【エアバス提供:Fello Flyの試験飛行写真】

日本のニュース

1. 福岡空港、メガソーラーで脱炭素加速 国際線・貨物地区へ電力供給

福岡空港を運営する福岡国際空港会社(FIAC)と、九電ネクスト(福岡市)の2社は12月18日、他社所有の太陽光発電所を自社の敷地に設置し、発電した電気を購入する「PPA(電力購入契約)」を締結したと発表した。発電容量が1.1MW(メガワット)の太陽光発電設備「メガソーラー」を導入し、2026年1月1日から空港内への電力供給を始める。太陽光パネルは貨物地区にある国内貨物代理店棟と国内貨物上屋、国際貨物上屋それぞれの建物屋根に、1762ミリ×1134ミリのパネル計2643枚を新たに導入し、発電した電力を貨物地区と国際線地区へ供給する。年間の想定発電量は約1289MWh(メガワット時)で、CO2(二酸化炭素)を約500トン削減する見通し。PPA事業者は九電ネクストで、契約期間は20年間。FIACは脱炭素化を進めており、温室効果ガスを2030年度までに2013年度比で50%削減する目標を掲げている。また、2050年度にはカーボンニュートラル達成も目標とする。太陽光発電設備は国際線旅客ターミナルビル屋根に導入済みで、航空灯火・建物照明のLED化、国内線の壁面緑化などと合わせ、脱炭素を加速させる。【Aviation wire news】

【Aviation Wire提供:福岡空港貨物地区に新設されるメガソーラーパネル】

2.  ANAとJAXA、737の窓越しに大気自動観測 CO2やメタン測定

ANAホールディングスとJAXA(宇宙航空研究開発機構)は12月16日、全日本空輸の国内線定期便の機内に設置した観測装置を使い、窓越しに大気成分を自動観測する世界初の実証を始めたと発表した。衛星リモートセンシング技術を活用した取り組みで、航空機と人工衛星による観測データを組み合わせることで、より高精度な大気観測網の構築を目指す。ANAHDとJAXAは、自動観測装置を共同開発。ANAのボーイング737-800型機の客室を一部改修して設置し、窓越しに地表を観測する方式を採用した。グループのANAウイングス(AKX/EH)が運航する737-800は、国内線を北から南まで日本各地を網羅しており、装置を常設可能にすることで大気成分などを自動測定できる。初号機は11月に改修を終えており、2号機は2026年3月の導入を予定。今年度中に2機体制での運用開始を目指す。1日あたり4便程度の観測を実施でき、今後は需要に応じて機体の追加も検討する。これまでは、JAXAが開発した観測装置をANAの旅客機にその都度持ち込んでいたという。両者は2020年9月から、JAXAが2009年に打ち上げた温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)の観測技術を応用し、旅客機の客室内から都市域の大気成分を観測する技術開発を進めてきた。この取り組みは「GOBLEU(ゴーブルー)プロジェクト」として進めており、観測対象はCO2(二酸化炭素)に加え、メタンや酸素、NO2(二酸化窒素)、植物の光合成に伴って発せられる蛍光など、多様な成分に広がる。人間が発生させたCO2が排出量の7-8割を占めるとされる中、都市域での排出削減や効果検証に役立つデータを提供し、パリ協定への貢献も視野に入れる。737を選定した理由について、ANAHDのグループ経営戦略室事業推進部 宇宙事業チームの松本紋子氏は「国内線を北から南まで網羅しているのが、737を選んだ一番のポイント。お客さまの快適性に影響を与えない改修を考えた際、複数ある国内線機材の中でも737が最適だった」と話す。観測装置は、窓から地表面の斜め下方向約50キロ幅を観測。従来の外気を取り込んで直接観測する「線」のデータ取得とは異なり、「面」の把握が可能になる点が特徴で、観測方法を多角化することで、これまで捉えられなかった変化の観測を目指す。また、JAXAの衛星による広域観測と、ANA機による高頻度観測を組み合わせることで、より精度の高い観測網の構築を目指す。【Aviation wire news】

【MSN提供:737客室内窓越しに取付けられた大気観測装置】

3.  ANAとJAL、羽田で無人貨物搬送「レベル4」実用化 宮澤航空局長「国家プロジェクト」

全日本空輸と日本航空は12月15日、羽田空港で完全無人運転となる「自動運転レベル4」の貨物搬送を始めた。国土交通省航空局(JCAB)による「航空イノベーション」の一環で、ANAは国内線定期便での実用化を、JALは羽田と成田の2空港での実用化を、それぞれ国内では初めて実現した。ANAは12月15日、自動運転レベル4の貨物搬送を羽田空港の国内線定期便で開始。豊田自動織機製の自動運転トーイングトラクターを使用したもので、空港制限区域内でのレベル4運用は国内で初めて。導入台数は3台で、今年度内にさらに3台を追加する計画となっている。導入されたトーイングトラクターは、自己位置推定や障害物検知システムを高性能化・冗長化することで、空港内の多様な環境条件に対応可能とした。車両の周囲を把握する遠隔監視機能も搭載しており、異常時にも迅速な対応が可能という。搬送は第2ターミナルの60・61・65番スポットと東貨物上屋間の片道約1.5キロを走行経路としており、経路上には2カ所の信号機を航空局が設置。自動運転車両が主道路へ合流する際、手動運転車両へ一時停止を促す仕組みを導入している。最大速度は自動運転時で時速15キロ、有人運転時は同25キロで、けん引重量は自動運転時13トン、有人時27トンとなる。車両には、路面パターンマッチング(RSPM)や高精度衛星測位(GNSS)、3D LiDAR、磁気誘導といった制御技術が用いられている。運用面では、豊田自動織機と共同で開発した「FMS(Fleet Management System)」を導入。搬送指示や運行管理に加え、出発・到着レーンの自動割り当てや信号機との自動連動により、オペレーションの効率化を図る。FMSでは搬送支援指示や車両状態の監視も行い、タイムリーな情報一元化が可能となっている。JALは12月15日、羽田と成田の2空港で自動運転レベル4のトーイングトラクターによる手荷物や貨物の搬送を開始した。空港制限区域でのレベル4実用化を2空港同時に実施するのは国内初となった。羽田に1台、成田は2台の合わせて3台体制でスタートし、羽田は2026年夏前にも追加の2台が加わり計3台に増車し、成田は4月には4台追加し計6台に拡大する。JALは2018年から航空局が進める航空イノベーションの一環として、先端技術の導入に取り組んできた。空港の制限区域内では航空機や特殊車両、作業員が混在することから、安全を最優先に自動運転の実証を進めてきた。今回のレベル4実用化により、省人化や作業効率の向上、電動車両によるCO2(二酸化炭素)排出量の削減を目指す。使用する車両は空港ごとに異なり、羽田では丸紅などが出資するAiRO製トーイングトラクター、成田では長瀬産業が扱うTractEasy製を採用。羽田では貨物コンテナの搬送、成田では受託手荷物の搬送に使用する。羽田の走行ルートは、東西の貨物地区の貨物上屋間、成田は第2旅客ターミナル本館とサテライトの手荷物荷捌場間を結ぶ。JALは、今回のレベル4実用化を起点に、導入台数や走行エリアの拡大を進める方針。今後は羽田と成田以外の空港への展開も視野に、持続可能なグランドハンドリング体制の構築を目指す。国交省は訪日6000万人目標を見据え、増加する航空需要への対応を急ぐ必要があるとして、「航空イノベーション」を進めている。空港容量の拡大とグランドハンドリングの生産性向上を両輪と位置づけ、大空港における搬送業務の自動化は、人手削減に大きく寄与する分野として重視している。【Aviation wire news】

【Aviation Wire提供:羽田で開始された「レベル4」無人自動貨物搬送運転】