KIT航空宇宙ニュース2021WK41
海外のニュース
1.航空業界のコロナ損失22兆円
IATA(国際航空運送協会)は現地時間10月4日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響による航空業界の累計損失額は2020年から2022年にかけて2010億ドル(約22兆円)にのぼると発表した。世界の総旅客数は2021年が23億人、2022年は34億人に増加するものの2014年と同水準で、コロナ前の2019年の45億人を大幅に下回る見込み。有償旅客を運んだ距離を示すRPK(有償旅客キロ)ベースの旅客需要は、2021年は2019年の40%に当たる水準、2022年は61%になると予測。航空貨物の需要は引き続き堅調で、2021年の需要は2019年比7.9%増、2022年には2019年比13.2%増となる見通し。IATAは各国の国内線需要について、2021年はコロナ前2019年の73%の水準となり、2022年には93%まで回復すると予想。一方、国際線需要は各国の入国制限により、2021年は2019年の22%、2022年は44%の水準にとどまるとしている。地域別で見ると、日本を含むアジア太平洋地域の航空会社は、損失額が2021年の112億ドルから2022年には24億ドルに減少する見込み。国際線の大幅な回復は2022年以降になると予想している。北米の航空会社は、米国の国内市場の急速な回復を背景に、ほかの地域を上回る業績が期待されるとした。11月からワクチンを接種した旅行者に米国市場が開放されることで、国際線の回復が進むと予想しており、米国の航空業界は今年第2四半期(4-6月期)にキャッシュ・プラスに転じ、2022年には99億ドルの利益が見込まれ、財務的にプラスの領域にある唯一の地域になるとした。欧州は、2021年に209億ドルの赤字が2022年は92億ドルの赤字へ縮小が見込まれる。欧州では規則の変更や欧州委員会(EC)の勧告の適用が混乱しているため、ワクチン接種率の上昇やデジタル証明書の確立による期待されたプラスの効果が損なわれていると指摘。政府間の調整が改善すれば、今後数カ月のうちに国際市場がより広く開放されることが期待され、ワクチン接種者の大西洋横断旅行が再開されることが大きな後押しとなるとした。一方で、長距離国際線の需要は欧州内の旅行回復に比べて大幅な遅れを予測した。【Aviation Wire News】
【Yahooニュース提供:コロナ損失22兆円を発表するIATAウォルシュ事務局長】
2.GoogleがCO2排出量データをフライト検索に追加
Googleは、ユーザーがフライトを検索する際の推定炭素排出量データを表示した。これは、商用航空の環境への影響を定量化する意欲が高まっていることを示すものです。情報(フライトあたりのCO2の合計キログラムで表される)は、Googleフライトでの検索プロセス中に、価格と移動時間の情報の横に表示される。フライトは、価格と同じように、CO2排出量の順に表示できる。「このGoogleフライトのアップデートは、人々が日常生活で持続可能な選択を行えるよう支援する多くの方法の1つ」とGoogleの旅行商品担当副社長であるリチャードホールデンは述べている。【Flightglobal News】
【Google提供:フライト検索での排出量データ表示】
3.航空宇宙メーカーが2050年までにCO2をネットゼロにすることを約束
Aerospace Industries Association(AIA)は、承認されたIATA決議に従って、温室効果ガスの排出量を削減することを約束した。航空、航空宇宙、防衛産業の320以上の製造業者と供給業者を代表する業界団体は、10月4日に、2050年までに正味ゼロの炭素排出量を達成するために取り組むと述べた。【Flightglobal News】
4.ルフトハンザ・グループがe-ケロシン(航空燃料)に投資
ルフトハンザは、工業的に生産されたカーボンニュートラルな電気で製造された合成ケロシンの生産に投資した。ルフトハンザ・グループは、世界初の電力から液体への航空燃料の生産プラントのパートナーであり、パイロット顧客です。このグループは、ドイツのエムスラントにある工場から、少なくとも5年間、少なくとも25,000リットルを年間購入することに同意した。物流会社のルフトハンザカーゴ社とキューネ+ネーゲル社は、灯油の最初の顧客の一つ。ヴェルルテ/エムスラントの工場はAtmosfair社によって運営されており、水、CO2、再生可能電力から航空機用の合成燃料を製造している。このプロセスは、Power-to-Liquid(PtL)と呼ばれ、まだ工業生産に向けた開発段階にある。PtL燃料は実験室の量でしか入手できないため、持続可能な航空燃料(SAF)の殆どはバイオ原料です。ルフトハンザ・グループが年間購入する25,000リットルのPtL燃料は、ルフトハンザカーゴ社とキューネ+ネーゲル社が共同購入を約束した。【Flightglobal News】
【ルフトハンザ提供:e-ケロシン投資を発表するルフトハンザ・グループ上級取締役のクリスチナ・フォレスター氏】
日本のニュース
1. ANAとJALが代替燃料”SAF”普及へ共同レポート 2050年CO2排出ゼロへ
全日本空輸と日本航空は10月8日、従来バイオ燃料などと呼ばれていた代替燃料「SAF(Sustainable Aviation Fuel:持続可能な航空燃料)」の理解を広げるため共同レポート「2050年航空輸送におけるCO2排出実質ゼロへ向けて」を策定したと発表した。共同レポートでは、SAFは従来の航空燃料よりもCO2(二酸化炭素)排出量を約80%削減でき、2050年の航空郵送でのCO2排出量実質ゼロの目標達成に不可欠なものであることを紹介。一方で、世界のSAF生産量は需要の0.03%未満にとどまり、価格も従来の化石燃料を大幅に上回る状態が続いており、量産と普及が急務であるとした。2030年には、最低でも使用燃料の10%をSAFに移行する必要があるという。日本の航空会社と日本へ就航する海外の航空会社が国内の空港で給油するために必要なSAFの量は、2050年にCO2排出量実質ゼロを達成するためには、最大2300万キロリットルだという。ANAによると、コロナ前の2019年1年間に国内で日系航空会社と海外の航空会社が消費した既存の航空燃料は1200万キロリットルだったといい、約2倍にあたる量になる。航空需要の拡大が今後見込まれるアジア圏のSAF市場は、2050年に約22兆円に成長するとみられるという。両社は今回の共同調査の過程で、世界経済フォーラムのクリーン・スカイズ・フォー・トゥモロー・コアリション(Clean Skies for Tomorrow Coalition)に参画。世界の航空業界で使用される燃料に占めるSAFの割合を、2030年までに10%へ増加させることを視野に「2030 Ambition Statement」宣言に共同で署名した。【Aviation Wire News】
【Aviation Wire提供:共同宣言に署名したANA平子社長(左)とJAL赤坂社長】
2.伊那市と川崎重工が無人VTOL機で山小屋の物資輸送検証
長野県伊那市と川崎重工業は、中央アルプス・南アルプスで大ペイロードの無人VTOL(垂直離着陸)機を使い、物資輸送プラットフォーム構築プロジェクトを始めた。今年度から5年間のプロジェクトで、2023年度から物資を運ぶ実証実験を始める見通し。山小屋への物資輸送は現在ヘリコプターを使用しているが、送電線工事や公共事業の増加、パイロット不足などで運用可能な機体の確保が難しくなっており、全国で多くの山小屋が影響を受けているという。山岳特有の気象状況に適応し、長い距離と大きな標高差を安定して飛行できる川重の無人VTOL機「K-RACER」を使い、将来にわたって持続可能で効率的な輸送スキームの構築を目指す。K-RACERは昨年飛行試験に成功し、2025年度中の型式証明(TC)取得を目指す。直径4メートルのメイン・ローターのほか、テール・ローターの代わりに左右両舷に主翼とプロペラを装備。メイン・ローターの回転で発生するトルクを左右のプロペラが打ち消し、前進推力を発生することができる。また、前進飛行では主翼が揚力を分担することでメイン・ローターの負担を軽減し、従来のヘリでは達成できなかった高速飛行が可能になった。エンジンは同社製オートバイ「Ninja H2R」のスーパーチャージドエンジンを搭載している。【Aviation Wire News】
【Aviation Wire提供:川重が開発中の無人VTOL機「K-Racer」】
3.イプシロンロケット5号機の打ち上げ中止はコネクタの緩みが原因と特定
宇宙航空研究開発機構(JAXA)は10月4日、イプシロンロケット5号機の打ち上げ中止について、原因究明結果を報告した。同機は当初、3日前の打ち上げを予定していたが、当日、可搬型ドップラーレーダーのデータに異常が見つかり、約19秒前に緊急停止していた。打ち上げ当日に異常が見つかったのは、ロケットの追跡管制に使う可搬型ドップラーレーダーのデータ。このレーダーからは、100msごとに時刻情報と位置情報のセットがデータとして送られてくるのだが、時刻情報にのみ、異常なデータが混じっていることが確認された。異常なデータが見つかったのは、打ち上げの24分前から3分前までの間で、合計8件。イプシロンは内之浦宇宙空間観測所より打ち上げるが、飛行安全については種子島宇宙センターの総合指令棟(RCC)が担当する。可搬型ドップラーレーダーのデータも、種子島に送信されていた。通常、内之浦で送信してから種子島で受信するまでの時間遅れは0.01秒程度だったが、レーダー側の時刻情報(観測時刻)と種子島側の受信時刻から時間差を計算すると、この8件では、-2,580秒から+720秒と、通信遅延としてはあり得ない数字になっていた。+720秒というのは、未来の時刻であり、明らかにおかしい。データを事後解析したところ、レーダーデータは健全であることが分かった。また打ち上げが延期された同1日の夜、レーダーの運転を継続させて各機器間のデータを監視したところ、時刻装置から出力される時刻データに同様の異常が見つかり、原因の場所をここより上流側の機器に絞り込んだ。そして装置の再点検を行ったところ、GPS受信アンテナのケーブルを時刻装置に接続するコネクタ部分で、緩みが見つかった。ケーブルに軽く触れると、時刻情報が正常になったり異常になったりする状態だったという。事象も再現されており、原因はこのコネクタの緩みによる接触不良と特定された。【マイナビニュース】
【JAXA提供】