KIT航空宇宙ニュース2022WK20
海外のニュース
1.ATR社が次世代機「EVO」開発、SAF完全対応、30年までに市場投入
仏ATRは現地時間5月18日、次世代ターボプロップ機ATR「EVO」を開発すると発表した。すべてSAF(Sustainable Aviation Fuel:持続可能な航空燃料)で運航できるエンジンや、客室に軽量なバイオ素材を使用するなど、経済性を向上させる。開発プログラムは2023年までに開始し、2030年までに市場投入する見通し。新型機「EVO」は燃費を20%向上させ、メンテナンスコストを20%削減できる。従来型のジェット燃料を使用するリージョナルジェット機と比較し、二酸化炭素(CO2)の排出量を50%以上削減できるほか、燃料をすべてSAFにした場合、CO2の排出量はほぼゼロになるという。ATRのステファノ・ボルテリCEO(最高経営責任者)は「EVOの市場投入により、脱炭素社会の実現に向けた道を切り開くことができる」と述べ、次世代機に期待を寄せた。今後数カ月で、航空会社やエンジンメーカーらと協力し、開発プログラムの開始を目指す。【Aviation Wire News】
【ATR社提供:ATRが発表した次世代ターボプロップ機「EVO」想像図】
2.中国東方航空MU5735便墜落原因、操縦室で意図的操作か
中国南部で現地時間3月21日に起きた中国東方航空の昆明発広州行きMU5735便(ボーイング737-800型機)の墜落事故について、コックピット内で何者かが意図的に操作したことが原因である可能性が飛行記録に示されていると、米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が米国当局の暫定分析について知る関係者の話として5月17日に報じた。WSJによると、米当局では何者かがコックピットに侵入し、意図的に墜落させた可能性もあるとの見方を示しているという。香港の英字紙サウスチャイナ・モーニング・ポストは、WSJの報道を受け、MU5735便の遺族に対して中国東方航空に説明を求める声が上がっていると報じた。MU5735便の墜落事故は、搭乗していた乗客123人と乗員9人の計132人全員が死亡した。中国本土では1994年6月6日に中国西北航空機の墜落事故で160人(乗客146人、乗員14人)全員が死亡して以来28年ぶりの大惨事となった。航空機の位置情報を提供するウェブサイト「フライトレーダー24(Flightradar24)」によると、MU5735便は広西チワン族自治区の梧州上空で高度2万9100フィート(約8870メートル)を記録後、3分後の同22分には高度3225フィート(約983メートル)まで急降下しており、山中に墜落した。機体の製造国である米国のNTSB(米国家運輸安全委員会)やFAA(米国連邦航空局)、メーカーのボーイングはこの事故に起因する機体の改修指示は出しておらず、中国東方航空も4月17日に737-800の運航を再開している。【Aviation Wire News】
【YouTube提供:事故機が偶然撮影撮影されたTwitter投稿画像
日本のニュース
1. 福岡空港、国際線ターミナル増改築の起工式 25年開業、面積倍増で混雑緩和福岡空港を運営する福岡国際空港会社(FIAC)は5月20日、国際線旅客ターミナルの増改築工事の起工式を開いた。東アジアでトップクラスの国際空港を目指し、年間1600万人の国際線旅客を受け入れられるよう、ターミナル北側の増築で床面積を倍増させ、国内線ターミナルと結ぶ連絡バス専用道路の整備などを進める。増築部分の開業は建設中の第2滑走路が供用開始となる2025年3月末、改修部分の完成は同年11月を目指す。増改築工事では、ターミナルの床面積を現在の約7万3000平方メートルからおよそ2倍の約13万6000平方メートルに拡張。ターミナル北側を増築し、出発・到着機能の強化と免税店エリアを現在の約4倍に拡充するとともに、北側コンコースを延伸することでPBB(搭乗橋)を現在の6基を2倍の12基に増やす。既存施設の改修により、自動手荷物預け機を6台新設し、保安検査場の検査レーンを現在の6レーンから最大11レーンに拡充することで出発手続き時間を短縮する。到着エリアでは手荷物受取所のベルトコンベアを現在の4基から8基に倍増させる。免税店エリアも拡充。現在の約1500平方メートルを4倍の約6000平方メートルに広げ、ウォークスルー型を取り入れるとともに、フードコートを併設する。また、アクセスホールを整備し、到着ロビーの増床やバス・タクシーなどの二次交通機能を集約することで利便性を向上させる。国内線ターミナルへの連絡バスも専用道路を整備し、国際線から国内線に乗り継ぐ際の移動時間を現在の15分を5分に短縮する。駐車場も既存のものを立体化して現在の897台からおよそ1.4倍の約1300台に拡大。1300台のうち、立体駐車場は954台になる。【Aviation Wire News】
【Aviation Wire提供:福岡空港国際線ターミナル増築起工式で鍬入れを行うFIAC永竿社長】
2. テラスペースの「紙の人工衛星」開発に北越コーポレーションが参画
京都市に本社のある宇宙新興企業テラスペースと東京に本社を置く製紙会社北越コーポレーションは、テラスペースが2025年に打ち上げを目指している、世界初となる“紙の人工衛星”初号機「PAPER-SAT」開発プロジェクトに、紙パルプおよびパッケージング・紙加工業の北越コーポレーションが参画することを発表した。また、PAPER-SATの開発のため、テラスペースが2023年に打ち上げる予定のキューブサット6U汎用衛星の初号機「TATARA-1」の外装の一部に、北越コーポレーションが開発したセルロースナノファイバー(CNF)で強化された紙である「ReCell」が試用され、衛星軌道上において耐久性などの実証試験を行うことも併せて発表された。キューブサットは1ユニット(U)がおよそ10cmの立方体をつなぎ合わせた超小型衛星で、TATARA-1の場合は2×3の6Uであり、およそ10cm×20cm×30cmのサイズとなる。一般的に、キューブサットの筐体や外装などはアルミニウム製となっているが、ReCellを外装として用いることで、強度を維持しつつ軽量化が期待できるという。宇宙へものを運ぶには軽ければ軽いほどいいため、アルミニウムと同等の性能を維持できるのであれば、可能な限りCNFで強化された紙に置き換えることが今後の超小型衛星開発のトレンドとなるかもしれない。また、ReCellを採用することの利点として、アルミニウムよりも電波を透過しやすく、通信用アンテナを衛星内部に搭載することも可能となる点も挙げられる。衛星設計の自由度を広げることができるという。さらに、現在の人工衛星はミッションを終えても、スペースデブリにならないようにすることが重要となる。低軌道のものは大気圏に再突入させて燃やしてしまう方法が採られるが、アルミニウムなどの金属の場合、大気汚染を引き起こす可能性があるという研究も報告されている。しかし、その点に関してもReCellの場合は、CNFも含めてすべて植物由来であることから、大気との摩擦熱で燃えてしまえば水蒸気とCO2になるだけであり、環境汚染を引き起こすような危険性はないといわれている。【マイナビニュース】
【北越コーポレーション提供:打上げ予定のTATARA-1においてReCellが使用される部分】
3.三菱電機、宇宙空間で衛星アンテナを製造する3Dプリント技術を開発
三菱電機は5月17日、人工衛星用のアンテナを、衛星に搭載した3Dプリンタによって宇宙空間で製造する技術を開発したと発表した。 また同技術の開発に際して、真空中での適切な粘度と紫外線による硬化安定性を持つ特殊な樹脂と、小型衛星にも搭載でき、サポート材が不要なフリーフォーム積層造形を真空中で可能にする3Dプリンタを開発したとした。従来の人工衛星は政府機関が主導する大型のものがほとんどであったが、近年は研究機関や民間企業が主導する数十cmサイズの超小型衛星も登場し、民間事業者による人工衛星などのビジネスが立ち上がりつつある。現在の人工衛星に搭載するアンテナは、高利得かつ高帯域幅であることが求められるため、開口を大きくする必要があるという。しかしこれまでは、打ち上げロケットのフェアリング(流線形の覆い)や人工衛星のサイズによる制約を受け、あらかじめ格納可能な大きさで整形するか、折りたたむ形で格納し軌道上で展開する方法がとられていた。また、打ち上げ時や軌道投入時の振動や衝撃に耐えられる構造とする必要もあった。今回、三菱電機は、真空中で適切な粘度を保ち紫外線による硬化安定性を持つように配合された紫外線硬化樹脂を開発。この樹脂を3Dプリンタで押出成形し、太陽光の紫外線で硬化させることで、サポート材が不要なフリーフォーム3D積層造形が、真空中でも低消費電力で製造可能になったとした。【マイナビニュース】
【三菱電機提供:宇宙で3Dプリンターでアンテナを製造する工程】