KIT航空宇宙ニュース2023WK40

MD-90“極薄主翼”実証機にPW社のGTFエンジンを取り付けた、NASA遷音速トラス支持翼(TTBW、Transonic Truss-Braced Wing)機「X-66A」想像図
KIT航空宇宙ニュース

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海外のニュース

1. PW、MD-90“極薄主翼”実証機にGTFエンジン NASA・ボーイング「X-66A」へ参画

米RTX(旧レイセオン・テクノロジーズ)は現地時間10月3日、ボーイングがNASA(米国航空宇宙局)と進める持続可能な実証機プログラム「サステナブル・フライト・デモンストレーター(SFD、Sustainable Flight Demonstrator)」の参画企業に選定されたと発表した。実証機「X-66A」に、傘下のプラット&ホイットニー(PW)とコリンズ・エアロスペースの2社がエンジンを提供する。SFDプロジェクトは次世代の単通路小型機開発につなげるもので、2028年に地上試験と飛行試験を計画し、2030年代の実用化を目指す。PWは小型機向けのGTF(ギヤード・ターボファン)エンジンを、コリンズはエンジンナセルと付属品を、それぞれ提供する。GTFエンジン「PurePower」シリーズは、エアバスA320neoファミリー向けのPW1100G-JMやエアバスA220型機(旧ボンバルディアCシリーズ)向けのPW1500G、エンブラエルのE2シリーズ向けのPW1700GとPW1900Gなどで構成。2016年に商業運航を開始した。RTXは「燃料効率と持続可能性のメリットをもたらす。就航以来、14億ガロン以上の燃料と1400万トン以上のCO2(二酸化炭素)排出量の削減に貢献している」とアピールした。SFDプログラムで新たに開発するX-66Aは、旧マクドネル・ダグラス(現ボーイング)のMD-90型機(登録記号N931TB)を改造母機とし、極薄で長い主翼を胴体から斜めに伸びる支柱で支える「遷音速トラス支持翼(TTBW、Transonic Truss-Braced Wing)」を採用。この設計により空気抵抗が従来機よりも少なくなる。翼幅は145フィート(約44.2メートル)。ボーイングによると、TTBWを採用した単通路機は推進システムや進歩したシステム構築などと組み合わせることで、現在の国内線航空機と比較し、燃料消費とCO2排出量を最大30%抑える効果があるという。【Aviation wire news】

【Aviation Wire提供:GTFエンジンを取り付けたMD90ベースのTTBW機「X-66A」想像図】

2. カリフォルニアのeVTOL開発者Jobyがパイロットによる試験飛行を開始

エアタクシー開発者のジョビー・アビエーションは、パイロットを乗せた試作機の飛行を開始した。カリフォルニアに本拠を置く同社は10月4日、同社の飛行試験チームのメンバー4名が電動垂直離着陸(eVTOL)航空機の飛行を操縦したと発表した。飛行は9月に開始されたと述べているが、これまでに何回の飛行が行われたかは明らかにしていない。パイロットたちは「自由推力ホバリングと半推力飛行への前方移行を含む一連の初期テスト」を完了したという。この試験はカリフォルニア州マリーナにある同社のパイロット生産施設で行われ、9月に発表されたエドワーズ空軍基地で進行中の飛行試験を補完するもので、ジョビーと米空軍(USAF)のパイロットの両者が現実的な運用シナリオで航空機の能力を実証する予定だ。これらの最初のパイロット飛行が行われるまで、同社のテストキャンペーンは遠隔制御飛行で無人で実施されていた。【Flightglobal News】

【Joby Aviation提供:電動垂直離着陸(eVTOL)プロトタイプにパイロットを乗せた飛行試験】

日本のニュース

1. 空港の旅客・ランプ係員、採用数の半数離職 国交省調査、受託料引上が課題

国土交通省航空局(JCAB)は、空港で航空機運航のグランドハンドリング(地上支援業務)に従事するスタッフの採用状況や離職率の調査結果を公表した。対象期間の4-8月は採用数3617人に対し、離職者数は約半数にあたる1760人だった。カウンター業務などグランドスタッフ(地上旅客係員)による「旅客ハンドリング」と、航空機誘導など「ランプハンドリング」の2職種が対象で、各社の採用活動で従事者数は増えているが多忙などを理由に退職する人が一定数おり、待遇改善につなげるため航空会社からの受託料引き上げなどが課題になるとしている。調査結果は、10月5日に開かれた有識者会議「持続的な発展に向けた空港業務のあり方検討会」で公表。全国の主要61事業者を対象に調査した。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響により、グラハン従事者は一時期コロナ前比で1-2割減少していたが、足もとでは回復傾向にあるという。カウンターや搭乗口でのグランドスタッフによる案内など「旅客ハンドリング」は、2019年3月時点で約1万4100人だったが、今年4月時点で19%減の約1万1500人、9月時点では14%減の約1万2100人に回復。航空機の誘導や貨物の搭降載など「ランプハンドリング」は、2019年3月時点で約1万2200人だったが、今年4月時点では10%減の約1万1000人、9月時点では5%減の約1万1600人となった。回復のペースは、都市部(羽田・成田・関西・中部)と地方部(都市部以外)の空港で比べると、地方部のほうが、回復度合いが大きく、都市部は旅客がコロナ前の84%にあたる約7900人、ランプが92%の約6700人であるのに対し、地方部は旅客が92%にあたる約4200人、ランプが97%の約4900人となり、両職種とも9割を超えている。グランドハンドリングはグラハンとも呼ばれ、空港での航空機運航に関する地上支援業務の総称。8月に発足した業界団体「空港グランドハンドリング協会(空ハン協、AGHA)」では、グランドスタッフによる乗客の搭乗手続きなどの「旅客サービス」、航空機への手荷物や貨物の搭降載、機内清掃などの「ランプサービス」、航空機に貨物を搭載するための調整業務「貨物ハンドリング」、航空機の運航を支援する「オペレーション」などの総称と位置づけている。国内では、これまでは「ランプハンドリング」をグラハンと呼ぶ企業が多かったが、協会設立により海外と同様の呼び方に合わせていく。【Aviation wire news】

2. JALと米REGENT、電動水上グライダーで提携

日本航空と米リージェント(REGENT)は10月6日、リージェントが開発する電動シーグライダーの社会実装に向けて包括連携協定を締結したと発表した。リージェントにはJALが出資しており、2025年の実用化を目指している。リージェントが開発中のシーグライダーは、翼と水面の間に閉じ込められた空気のクッション「Ground Effect(地面効果)」により、水上数メートル上を飛行する地面効果翼機のひとつ。完全電動によりゼロエミッション(排出ゼロ)の実現を目指している。リージェントによると、開発中の12人乗りシーグライダー「Viceroy(ヴァイセロイ)」は全電動で、既存の埠頭インフラを活用し、既存のバッテリーで最大180マイル(約290キロ)、次世代バッテリーで最大500マイル(約805キロ)を計画。3つの海上運航方式「浮遊」「フォイル」「飛行」に初めて成功した機体だという。2024年には海上での有人飛行を計画している。今回の提携は、電動シーグライダーの安全運航に向けた制度や体制の検討、実証飛行に向けたインフラ整備などの検討、認証取得に関する連携や協力を柱とし、JALグループのJALUX(ジャルックス)が販売代理店を担う。JALは今年1月に、リージェントに対してCVC(コーポレート・ベンチャーキャピタルファンド)の「JALイノベーションファンド」を通じて出資したと発表している。同ファンドは超音速旅客機を開発中の米ブーム・スーパーソニック(Boom Supersonic)などにも出資している。【Aviation wire news】

【Yahooニュース提供:米国Regent社の電動水上グライダー「Viceroy」】

3. ニデックとエンブラエル、空飛ぶクルマのモーター合弁会社始動

ニデックとブラジルのエンブラエルは10月6日、両社の合弁会社「Nidec Aerospace(ニデック・エアロスペース)」が規制当局の承認を得て操業を開始したと発表した。航空宇宙分野向け電機駆動システム(EPS)の開発を進め、エンブラエル系のeVTOL(電動垂直離着陸機)が最初の販売先になる。Nidec Aerospaceの設立は、今年6月のパリ航空ショーで発表。出資比率はニデックの米子会社ニデックモータ(NMC)が51%、エンブラエルが49%で、2026年までに7700万米ドル以上を投資し、同年から量産を始める見通し。CEO(最高経営責任者)には、Nidecが米国に本部を置くモーション&エナジー事業本部モーション&ドライブ部門のヴィンセント・ブラリー氏が就任した。エンブラエルは世界3位の航空機メーカーで、リージョナルジェット機では首位。合弁事業では、エンブラエルがeVTOLの制御技術に関する専門知識やノウハウなどを、ニデックが電動モーターに関する専門知識や技術的なノウハウなどをそれぞれ提供し、宇宙航空産業向け電機駆動システムを開発する。最初の販売先となるローンチカスタマーは、エンブラエル系のEve Air Mobility(イブ・アーバン・エア・モビリティ)で、同社のeVTOLに合弁会社の電機駆動システムを搭載する。【Aviation wire news】

【Aviation Wire提供:ニデック・エアロスペースが電動駆動システムを提供するeVTOL機「Eve」】

4. エアバス、国産SAF有志団体「ACT FOR SKY」加盟

エアバスは10月2日、代替航空燃料「SAF(サフ)」の国産化などを目指す有志団体「ACT FOR SKY(アクトフォースカイ)」に加盟した発表した。ACT FOR SKYは、日揮ホールディングス(1963)とレボインターナショナル(京都市)、全日本空輸、日本航空が中核となり、2022年3月に設立。国産SAFの商用化や普及、拡大に取り組む有志団体で、エアバスは技術的な知見を提供し、研究開発に協力していく。エアバス・グループのエアバス・ヘリコプターズ・ジャパンは2022年6月に、SAFを使用した国内初のヘリ飛行を実施。ユーグレナ(2931)と中日本航空の2社と協力し、原料に使用済み食用油とミドリムシ(微細藻類ユーグレナ)由来の油脂を使ったユーグレナ製バイオ燃料「サステオ」をSAFとして使用し、県営名古屋空港(小牧)を発着し約30分飛行した。また、神戸空港にあるエアバスヘリの施設でも、国産SAFを使用したヘリコプターの試験飛行を実施している。今後はエアバスの大型輸送機A300-600ST「ベルーガST(Beluga ST)」を使用し、ヘリコプターや航空機の大型部品などの輸送も計画。エアバスはACT FOR SKYへの参画により、国産SAFのサプライチェーン構築を支援していく。SAFの国産化を巡る動きでは、日揮HDとコスモ石油、レボの3社が廃食用油を原料とした国産SAFの製造や供給事業を手掛けるSAFFAIRE SKY ENERGY(サファイアスカイエナジー、横浜市)を2022年11月に設立。コスモ石油の堺製油所内に日本初となる国産SAFの大規模生産プラントを建設中で、2024年度下期から2025年度初頭の生産開始を目指す。SAF製造能力は、年間約3万キロリットルを計画している。国連の専門機関ICAO(国際民間航空機関)は、CO2(二酸化炭素)排出実質ゼロを2050年までに実現する目標を掲げている。世界の航空会社や機体メーカーなどが加盟するIATA(国際航空運送協会)によると、世界の再生可能燃料の生産量は2028年までに少なくとも690億リットル(5500万トン)に達する見通しで、2030年には1000億リットル(8000万トン)も視野に入るという。このうち30%をSAFでまかなうとすると、世界のSAFの生産量は2030年までに300億リットル(2400万トン)となる見込み。【Aviation wire news】

5. アストロスケール、デブリ除去実証衛星「ADRAS-J」を打ち上げ地へ出荷

アストロスケールは10月4日、2023年度中にミッション開始を予定している商業デブリ除去実証衛星「ADRAS-J(アドラスジェイ)」について、打ち上げ予定地であるニュージーランドに出荷したことを発表した。ADRAS-Jは、大型デブリ除去などの技術実証を目指す宇宙航空研究開発機構(JAXA)の「商業デブリ除去実証(CRD2:Commercial Removal of Debris Demonstration)フェーズI」の契約の元、アストロスケールが開発してきたデブリ除去技術の実証衛星。打ち上げはRocket Labのエレクトロン(Electron)ロケットで行われ、射場はニュージーランド・マヒア半島の同社第1発射施設(Launch Complex 1)を予定している。打ち上げ後、対象となるデブリであるGOSATを打ち上げた「H-IIAロケット15号機」の上段に徐々に接近。最終的には手を伸ばせば届く距離まで近づくことを目指すとしている。対象デブリは全長約11m、直径約4m、重量約3トンという大型デブリで、JAXAからは「デブリ接近計画に対する実績の確認」「対象デブリの定点観測」「対象デブリの周回観測」「ミッション終了処理」の4つのサービスが要求されるほか、アストロスケール自身も「対象デブリの検査および診断」「対象デブリへの極近傍接近」、そして現時点では非公開の「エクストラミッション」といった3つの独自ミッションを行う予定としている。【マイナビニュース】

【マイナビニュース提供:2023年9月にアストロスケール本社で公開されたADRAS-J】

6. NTTと東大がミリ波RFIDタグを開発 – 視界不良下のドローン航法精度向上へ

NTTと東京大学(東大)は10月2日、夜間や霧、雨の中などの視界が遮られる状況下でも、周囲環境の情報を伝える標識として機能し、ドローンの航法精度を向上させるミリ波RFIDタグを開発したことを発表した。同成果は、NTT 宇宙環境エネルギー研究所の飯塚達哉研究員、同・小阪尚子主任研究員、同・中村亨主幹研究員(研究当時、現在はNTTアドバンステクノロジ所属)、同・久田正樹主幹研究員、東大大学院 工学系研究科の笹谷拓也助教、同・川原圭博教授らの研究チームによるもの。詳細は、2023年10月2日より開催されるIoT・ユビキタスコンピューティング分野の国際会議の1つ「ACM MobiCom 2023」のメイントラックにて発表される予定だ。気候変動による地球温暖化の影響が深刻化する中、災害に強いレジリエントな社会を作ることが急務であり、その一環として、ドローンを代表とする次世代航空モビリティの活用が不可欠となっている。2022年12月に施行された改正航空法により、ドローンは有人地帯での無人飛行が可能となったことで、環境計測や物流現場などさまざまな業務で活用されるようになってきた。そのため、ドローンの活用は昼夜・天候を問わず求められるようになり、災害時の救援活動や、海域を含む広範囲の地球環境観測を通じた気象予測精度向上などへの貢献が期待されているという。【マイナビニュース】

【NTT提供:開発技術の概要(a)正確な航法による船やトラックと強調したドローンの環境計測や物資運搬。(b)ドローンの誘導およびタグ読み取りの方法。(c)RFID読み取り装置のミリ波レーダを搭載したドローン。(d)今回開発された無電源RFIDタグ。】

7. ispaceがミッション3を1年延期、月面ランダーは設計を一新し「APEX1.0」に

ispaceは9月28日、同社が計画している3回目の月面探査計画「ミッション3」に関する記者会見を開催した。同ミッションについては、2021年8月に概要が発表されていたが、ランダーのデザインを大幅に変更。名称も「APEX1.0」と一新された。また、この設計変更により、打ち上げ時期を2025年から2026年に延期したことも明らかにされた。同社は、すでに初の月面探査計画「ミッション1」を実施。残念ながら、最終段階である月面への着地だけはうまく行かなかったものの、大きな不具合もなく月周回軌道へ到達し、降下も途中までは正常にできており、初回のミッションとしては、非常に大きな成果を得ることができたと言える。このミッション1と、2024年に実施予定の「ミッション2」では、同型の「シリーズ1」ランダーを使用。続くミッション3では、より大型化した「シリーズ2」ランダーを使うとしていたが、今回発表されたAPEX1.0は、この旧シリーズ2ランダーのことである。ランダーの“APEX”という名称は、“A Pioneer in EXploration”の頭文字だという。APEXという単語には英語で“頂点”という意味もあり、同社代表取締役CEO&Founderの袴田武史氏は、「月着陸船における頂点を目指すという目標も表している」と説明した。【マイナビニュース】

【マイナビニュース提供:ispace社がミッション3で予定している月面ランダー「APEX1.0 」】