KIT航空宇宙ニュース2023WK31

ANAが3万トンの炭素除去クレジットを購入した、米国のテキサス州の企業「1PointFive」社が計画しているDAC(Direct Air Capture:直接空気中のCO2を吸着させる技術)設備想像図
KIT航空宇宙ニュース

KIT航空宇宙ニュース2023WK31

海外のニュース

1. インドの月探査機「チャンドラヤーン3」が打ち上げ成功

地球にいちばん近い天体、「月」。しかし、その地表に降り立つのは難しく、これまで数多くの探査機が、その中途半端に深い重力井戸の奥底に飲み込まれてきた。近年宇宙開発で存在感を増しているインドもまた、その挫折を味わった。2019年8月、月の水の探索を目指した探査機「チャンドラヤーン2」を打ち上げ、着陸機「ヴィクラム」と探査車「プラギヤン」による月面着陸、探査に挑んだものの、失敗に終わった。それから4年が経った2023年7月14日。リベンジを目指し、新たな月探査機「チャンドラヤーン3」が飛び立った。チャンドラヤーンとは、サンスクリット語で「月」を意味する「チャンドラ」と、「乗り物」を意味する「ヤーン」をつなげた造語で、「月の乗り物」を意味する。インドは2008年に、初の月探査機「チャンドラヤーン1」を打ち上げ、約1年間運用した。チャンドラヤーン1は月のまわりを回って地表や地下を調べる探査機で、その探査活動の中で、月の広範囲に水を含んだ分子を検出したほか、月の極域に水分子が存在することを示すなど、月の水が存在することを示唆する、さまざまな発見をもたらした。【マイナビニュース】

【マイナビニュース提供:「チャンドラーヤーン3」に搭載された月面探査機】

2.  米国FAA、最前列シートの安全強化機能の早期導入を要請

緊急着陸時にラップシートベルトだけでは重傷を負う可能性があることが研究で示されたことを受け、米国の規制当局は事業者に対し、最前列の座席に対してより安全な乗客拘束具を採用するよう促している。現在の指針では、事故の際に前方の障害物にぶつからないように、オペレーターが客室の壁やラバトリーなどの壁から離れた座席を設置することが認められている。しかし、米国FAAは、最近の研究で、ラップシートベルトのみが装着されている状態で上半身が無制限に前方に動くことを許すシート構成における「過剰な身体の損壊」に起因する重篤な脊椎損傷やその他の損傷の可能性が詳細に明らかになったと述べている。ウィスコンシン医科大学が実施し、2016年にアトランティックシティで開催された会議で発表された調査によると、標準的なラップベルトによる傷害の生体力学はこれまで「よく理解されていなかった」という。緊急着陸時の荷重下でラップシートベルトを着用した人の動作に関する研究では、その結果生じる傷害が「重篤」であることが示された。これらには、脊柱の切断、大腿骨の骨折、および複数の肋骨骨折が含まれる。大腿骨骨折はおそらく、ラップシートベルトが骨盤の下で滑り落ちたことによって引き起こされたと考えられる。【Flightglobal News】

【Flightglobal提供:一般的なラップシートベルト】

3.  カナリア諸島のスタートアップ航空会社Surcar は水素電気推進 Twin Otters水上機を使用

カナリア諸島の水上飛行機を使用したスタートアップ航空会社Suecar(サーカル)航空は、デ・ハビランドのツインオッター航空機に水素電気推進装置を装備した水上機を使用する予定。同社は、水素電気推進専門会社ゼロアビアが開発したZA600パワートレインを改修した航空機の導入を計画している。Surcar航空は、島間のサービスや観光ツアーの提供を検討している。【Flightglobal News】

【ZeroAvia提供:水素電気推進ZA600パワートレインへ改造されたTwin Otter水上機】

4.  燃料電池航空機はターボプロップ市場の20%を置き換える可能性がある

近年、グリーンテクノロジーの進歩により、航空を含むさまざまな業界に革命が起きている。環境の持続可能性に対する懸念が高まる中、研究者や技術者は、航空分野での炭素排出量を削減するための代替燃料や推進システムを積極的に模索している。有望な開発の中には、燃料電池で動く航空機のコンセプトがある。新しい分析によると、燃料電池駆動のATRとデ・ハビランド・カナダのターボプロップは、ほとんどの通常のターボプロップを使った飛行に十分な航続距離を備えている可能性があるが、それは乗客数がはるかに少ない場合に限られる。燃料電池推進のATRとデ・ハビランド・カナダのターボプロップ機は、従来のターボプロップ機より環境に優しく、より静かな代替機を提供することで、地域の空の旅に革命をもたらす可能性があることが明らかであるが、航続距離の制限と乗客定員の減少により、さらなる研究と技術の進歩を通じて対処する必要がある。【Flightglobal News】

【Hydrogen社提供:片翼のエンジンを水素電気推進装置に改造したデハビラントQ200型機】

日本のニュース

1. BJ新興のマイクロジェット、国交省から事業許可取得 会長は西久保スカイマーク元社長

国土交通省東京航空局(TCAB)は、ビジネスジェット(BJ)事業を目指す航空ベンチャーのマイクロジェット(東京・新宿)が申請した航空運送事業の許可(AOC)について、8月3日付で許可した。10月から国内で人員輸送と遊覧飛行の事業を展開する見通し。マイクロジェットの機材は、双発ジェット機セスナ510型サイテーション ムスタング。整備基地は八尾空港と静岡空港にある。同社は今年1月23日に設立。会長はスカイマーク(SKY/BC、9204)元社長の西久保愼一氏が務めている。【Aviation wire news】

【Yahooニュース提供:マイクロジェット社のセスナ・サイテーション510型機】

2. ANA炭素除去クレジット3万トン調達へ CO2除去技術「DAC」の米1PointFiveと契約

全日本空輸は、CO2(二酸化炭素)除去技術に取り組む米テキサス州の企業1PointFiveと、DAC(Direct Air Capture)技術由来の炭素除去クレジット調達契約を締結した。航空会社では世界初だという。2025年からテキサス州で稼働予定のDACプラントによる炭素除去クレジットを、ANAは3年間で3万トン以上調達する見通し。DACは、大気中のCO2を直接回収・貯留する技術。運航上の改善や航空機の燃費向上などによる技術革新や、代替航空燃料「SAF(サフ、持続可能な航空燃料)」の活用など、CO2排出量の削減策だけでは対応しきれない、残存排出を除去する手段となる。1PointFiveは、米国のエネルギー企業オキシデンタル・ペトロリアムの子会社。DACプラントをテキサス州に建設中で、2025年に商業運転を開始する見通し。カナダのカーボン・エンジニアリングのDAC技術を使用している。ANAグループは、2050年カーボンニュートラル実現に向けたトランジション戦略で、「運航上の改善・航空機等の技術革新」「SAFの活用等航空燃料の低炭素化」「排出権取引制度の活用」「ネガティブエミッション技術の活用」の4手法を用いて脱炭素推進に取り組んでいる。DACは、ネガティブエミッション技術のひとつで、手段の多様化を進める。【Aviation wire news】

【Aviation wire提供:2025年に稼働を予定する1PointFive社のDACプラント想像図】

3.  JAL整備の熟練ノウハウを電子化 量子コンピューティングで計画最適化へ

日本航空は7月31日、複雑な計算を解くことができる「量子コンピューティング技術」などを活用した運航整備計画の最適化アプリケーションについて、量子コンピュータソフトウェアを開発するエー・スター・クォンタム(東京・港区)と開発着手に合意したと発表した。熟練整備士のノウハウを電子化し、自動的・短時間での最適な計画策定を目指す。同技術を活用した整備計画の策定は日本の航空業界では初めてで、JALが100%出資する整備会社JALエンジニアリング(JALEC)が開発を進める。新たに開発するアプリケーションは、ベテラン社員が持つ運航整備計画ノウハウを電子化し、アプリケーションで整備計画を策定。最適化計算には、従来のコンピュータでは困難だった複雑な計算を解くことができる量子コンピューティング技術などを活用する。機体の運航整備計画は、機材の使用状況や整備士の人数、整備項目の期限、格納庫の収容数など、多くの制約条件を加味して策定する必要がある。現在は長年の経験を持つ社員が多くの労力を費やして策定している。また、運航ダイヤが急に変更となった場合への計画最適化は容易ではなく、従来のコンピュータでは短時間での計画作成は現実的ではなかったという。JALとエー・スター・クォンタムは、2021年1月から最適化に向けた実証実験を進めており、実用化のめどが付いたことから開発を決定した。【Aviation wire news】