KIT航空宇宙ニュース2024WK09
海外のニュース
1. VolocopterがVoloCityの量産開始の承認を取得
エアタクシーの開発会社Volocopterは、VoloCity航空機の量産を開始するためのドイツ政府の承認を得た。同社は2月29日、ドイツ連邦航空局(LBA)がVolocopterに対し、同社の本拠地であるドイツのブルフザールにある2つの生産施設と格納庫施設に適用される製造組織承認(POA:Production Organization Approval)の拡張を認めたと発表した。同社は現在、POA と設計組織承認 (DOA:Design Organization Approval) の両方を取得している「世界初で唯一の」電動垂直離着陸 (eVTOL) 航空機メーカーであると同社は述べている。Volocopter は 2019 年に欧州規制当局EASAからDOAを取得し、続いて2021年にグライダー製造会社DG Flugzeugbauを買収して最初のPOAを取得していた。【Flightglobal News】
【Flightglobal提供:Volocopter社が開発中のeVTOL機「VoloCity」】
2. Beyond Aero、フランス初の有人水素飛行を実施
今月初めに南フランスのギャップタラール飛行場で実施されたこの試験飛行は、同国で実施される初の有人水素飛行となった。パイロットはポール・プルーデント氏で、機体はBeyond Aeroの水素電気パワートレインを搭載したG1アビエーションの二人乗り超軽量航空機だった。水素パワートレインは、電力の3分の2が水素燃料電池から供給され、残りの3分の1がバッテリーから供給され、単一のプロペラを駆動する。燃料電池は、340バールで3つのタンクに貯蔵された1.2kg (2.6 ポンド) のガス状水素を燃料として、最大85kWの電力を生成した。1月に始まった飛行試験キャンペーンには10回の離陸と2回の完全飛行が含まれている。このプロトタイプは、高度が海抜 2,300フィート、上昇速度が 110km/h (68mph) に達した。2020年に設立され、フランスのトゥールーズ・フランカザール空港に拠点を置くBeyond Aeroは、航続距離1,500km(930マイル)、巡航速度573kmの8人乗りビジネスジェットBYA-1を開発している。BYA-1は、パワートレインを冷却するために、2つの500kW電動ダクテッドファンと後部の半月形の吸気口を使用し、この設計では、水素燃料タンクを胴体下のフェアリング内に配置し、客室内のスペースを損なわないようにしている。【Aerospace Testing】
【Beyond Aero提供:世界初の有人飛行した水素エネルギー推進航空機G1アビエーション機】
日本のニュース
1. ANAの25年度採用、グループ37社で2900人 ピーチもCA初新卒
ANAホールディングス傘下の全日本空輸は3月1日、2025年度入社の新卒採用を始めたと発表した。グループ37社で約2900人を採用する計画で、コロナ後の需要回復を見据えた再成長につなげる。ANAHD傘下のLCC、ピーチ・アビエーション(APJ/MM)は客室乗務員の新卒採用を初めて実施する。ANA本体は、グローバルスタッフ職(旧総合職)を165人、運航乗務職(自社養成パイロット訓練生)を45人、客室乗務職(CA)を330人、エキスパートスタッフ職(障がい者採用)を10人予定。グローバルスタッフ職はこれまで事務職と技術職に分かれていたが文理を問わない形にした。グローバルスタッフ職の内訳は、セグメント別採用がオペレーション、ビジネス・マーケティング、コーポレートの3セグメントで計55人と、整備技術が80人、運航技術が若干名。専門採用となるIT・データが20人、経理・財務・IRが若干名となる。パイロット訓練生は、2021年4月から今年3月までに4年制大学・大学院を卒業・修了または見込みの人と、4月から2025年3月までに4年制大学・大学院を卒業・修了見込みの人が対象で、高専専攻科も対象になる。客室乗務職は、今年4月から2025年3月までに専門学校・高等専門学校・短期大学・4年制大学・大学院の文系学部・理系学部(全学部)を卒業・修了または見込みの人で、乗務に必要な体力があり、TOEIC600点程度などの英語力が望ましいなどの条件がある。ピーチでは、総合職15人程度、パイロット訓練生若干名、客室乗務員25人程度、航空機整備技術職20人程度の採用を計画している。【Aviation wire news】
2. JAL、25年度新卒・キャリア採用 CA・パイロット・企画職
日本航空は3月1日、2025年度入社の業務企画職と運航乗務員訓練生(自社養成パイロット)、客室乗務員の新卒採用を開始した。パイロット訓練生と客室乗務員はキャリア採用を実施し、業務企画職は通年採用を継続する。業務企画職は新卒者を100人程度、パイロット訓練生は新卒とキャリア合わせて50人程度、客室乗務員は新卒と今年度入社のキャリア合わせて700人程度を採用する。業務企画職は、コーポレート、オペレーション、ビジネス・マーケティング、データサイエンス・デジタルテクノロジー、エアラインエンジニアの5コース。日本の大学・大学院または海外の大学・大学院の学士号・修士号・博士号のいずれかを2025年3月末までに取得見込みの人と、高等専門学校の専攻科を2025年3月末までに修了見込みの人で、2025年4月1日に入社できる人が対象となる。既卒者も対象で、いずれも学部学科などの指定はない。パイロット訓練生は、2022年4月から今年3月までの間に日本または海外で大学・大学院の学士号・修士号・博士号のいずれかを取得しているか、4月から2025年3月までに取得予定の人が対象で、高専の専攻科も含む。学部学科不問で、2025年4月1日に入社できる人が対象となる。また、矯正視力1.0以上など身体条件がある。客室乗務員は、今年3月までに専門学校・短期大学・高専・4年制大学・大学院(修士・博士)を卒業・修了しているか、4月から2025年3月までに卒業・修了見込みの人が対象で、学部学科は不問。乗務に支障のない健康状態であることや、TOEIC600点以上または同等の英語力などの条件がある。また、JALグループ各社も新卒採用を実施する。【Aviation wire news】
3. ALと横浜市、食用油回収し国産SAF原料に 3月から実証実験
日本航空は2月28日、代替航空燃料「SAF(Sustainable Aviation Fuel:サフ、持続可能な航空燃料)」の原料となる廃食油を回収する取り組みを、横浜市と連携して実施すると発表した。第1弾として、3月から市内のイオンフードスタイル鴨居店で廃食油回収の実証実験を実施し、6月から本格回収を始める。SAFは使用済み食用油である廃食用油などを原料とし、JALは全燃料搭載量のうち、2025年度に1%、2030年度に10%を従来の化石由来の航空燃料からSAFに置き換える目標を掲げている。航空業界では、2050年までに実現を目指すCO2(二酸化炭素)排出実質ゼロ、カーボンニュートラルの実現を目標としており、SAFの原料となる廃食油などの安定的な調達が課題になっている。横浜市とJALは、廃食用油から国産SAFを精製するプロジェクト「Fry to Fly Project」に参画。今回の連携協定締結により、廃食用油のSAF化に向けて回収のしくみの構築や社会実装の推進、横浜市民への広報・啓発などに取り組む。廃食用油の回収は、各家庭専用の回収ボトルで集め、店舗に設置された回収ボックスで収集。一定量溜まった段階で、廃食油回収事業者が集めてSAFなどの製造工場へ搬入する。回収された廃食油がSAFとして利用されるのは、2025年以降となる見通し。それまで間はバイオディーゼルなどの原料として利用する。横浜市とJALは、連携第1弾として横浜市緑区にあるイオンフードスタイル鴨居店で、回収の仕組みを構築。回収の実証実験1回目を3月16日と17日に実施し、SAFの認知拡大を目指すイベントを両日開催する。2回目は4月20日と21日、本運用の試験期間となる3回目は5月13日から19日で、本格回収を6月5日に始める。Fry to Flyは、日揮ホールディングスが2023年4月17日に設立。JALや全日本空輸、関西空港などを運営する関西エアポート、ボーイングジャパンなどが参画している。【Aviation wire news】
【NHKニュース提供:食用廃油回収リサイクルの流れ】
4. FDA、小牧にバッテリー式GPU 国産初AGP製、CO2削減
フジドリームエアラインズは、国産初となる航空機用バッテリー駆動式GPU(地上動力装置)「Be power.GPU」を県営名古屋空港(小牧)に導入した。空港インフラを手掛けるエージーピー(AGP)が開発したもので、既存のディーゼル式などと比べてCO2(二酸化炭素)排出量を削減できる。航空機が地上で電力や冷暖房を使用する際、通常は航空燃料を使う機体のAPU(航空機補助動力装置)や、空港に設置されたディーゼル式GPUを使用して発電する。FDAはCO2排出量削減に取り組む中で、環境省の補助事業「令和4年度の空港・港湾における脱炭素化促進事業」を活用し、AGPのバッテリー式GPUを導入した。FDAによると、国産のバッテリー式GPUとしては初の導入事例で、CO2排出量を航空機のAPUと比べて10分の1、ディーゼル式GPUとの比較で約3分の1に抑えられる効果が期待できるという。AGPは、バッテリー式GPUの試作機を2022年8月に公開。CO2削減のほか、排気ガスや騒音が発生しなくなる点をアピールしている。小型機のボーイング737型機やエアバスA320型機、FDAが運航するリージョナルジェット機のエンブラエル170(E170)型機やE175などでの利用を主に想定している。【Aviation wire news】
【Aviation wire提供:小牧空港に導入された国産バッテリー駆動GPU】
5. JAXAなど、航空機の被雷リスク軽減に向けた雨雲情報の可視化連携を開始
ZIPAIR Tokyo、エムティーアイ、宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、航空機の運航における被雷リスクを軽減することを目的として、気象データの軽量化と雨雲情報の可視化に向け連携を開始することを2024年2月28日に発表した。航空機の運航において気象状況の把握は重要な要素であり、特に航空機への被雷は、機体そのものは耐雷性を備えており、重大事故につながる可能性は低いものの、着陸後の機体の安全確認作業などが必要となるなど、速やかな運航に支障を及ぼすことが懸念されている。日本国内でも年間数百件の被雷被害が発生しており、被雷リスクを予測し回避する対策が喫緊の課題となっているという。ただし、被雷リスクを飛行中に予測するためには、刻一刻と変化する気象状況をリアルタイムに把握する必要があるものの、コックピット内は電波干渉の観点から通信が制限されているため、最新状況を確認できる気象サービスをネットワーク経由で利用することは難しいという。今回の連携はそうした課題解決を目指す取り組みで、エムティーアイが提供する航空気象サービス「3DARVI」の新機能として、コックピット内の通信環境下での利用を可能にした「IN FLIGHTモード」の開発に取り組むもので、2024年4月以降、体制が整い次第、実際にZIPAIRにて運用を開始する予定としており、これにより衛星から検知した世界中の最新の雨雲情報を飛行中のコックピットでも確認することができるようにし、より安全で運航ルートを選択できるようにすることを目指すとする。またJAXAは、地球観測データの解析などに基づく成果による社会課題解決への貢献を目指し、先端宇宙技術の活用によるさまざまな領域における地球観測データの利用促進を進めており、今回はその取り組みの1つとして衛星全球降水マップ「GSMaP」を航空機内に初めて搭載することに挑むという。開発が進められているIN FLIGHTモードは、エムティーアイが培ってきた3D描画のノウハウを生かしたもので、容量の大きい3D気象データを軽量化することでコックピット内での通信を可能にし、パイロットが地上運航従事者からの天候に関するアドバイスと合わせて、飛行中であっても手元のタブレットで最新の気象情報を3D描画データとして確認できるようにするものだという。【マイナビニュース】
【エムティーアイ/JAXA/ZipAir提供:3社連携による気象データ提供のイメージ】
6. ニデックとAIR VEV、AIRのeVTOL向けモータの共同開発に合意
ニデックグループであるニデックモータとイスラエルAIR VEV(AIR)は、AIRが開発中の2人乗りeVTOL(電動垂直離着陸機)機「AIR ONE(エア ワン)」の生産モデル開発向けモータの共同開発について合意したことを発表した。AIRは、「個人のユーザーが空を飛ぶという究極の自由を身近にすること」を目指して2018年にイスラエルで設立されたスタートアップで、個人向けeVTOLの開発・製造を行っている。同社が開発中のeVTOLであるAIR ONEは、すでに1000台以上の予約を獲得しており、機体認証取得後には初期受注分の納入を行うことが予定されている。今回の協業に基づき、AIRとニデックモータの子会社であるニデック・エアロスペースが、中型eVTOL専用モータの設計・開発を共同で進めていくこととなる。現在急成長が期待されている次世代空モビリティ(AAM: Advanced Air Mobility)業界において、まだどの企業も参入していない分野の開拓を目標に、まずは最大100マイルの航続距離を可能にする高効率モータの開発を目指すとしている。【マイナビニュース】
【AIR VEV提供:AIR VEVが開発中の2人乗りeVTOL機「AIR ONE」】
7. スペースシフトなど、衛星データ活用の脱炭素支援サービス向け実証試験を開始
スペースシフトは、ガスおよび関連機器を手掛ける山陰酸素工業ならびにPwCコンサルティングと共同で、衛星データを活用した脱炭素支援サービス化に向けた実証試験を開始したことを発表した。同実証事業は、鳥取県の宇宙産業推進を目的とした補助金である「鳥取県産業未来共創研究開発補助金」への採択を受けて実施されるものだという。山陰酸素工業では地域の脱炭素化社会に向けた取り組みとして、先進的な技術を持つベンチャー企業などと積極的に連携し、CO2の排出量可視化から削減、カーボンクレジットの導入まで、ワンストップの脱炭素化支援サービスを構築することを目指してきた。今回の実証事業では、これまでにスペースシフトとPwCコンサルティングが培ってきた地球観測衛星のデータ解析技術を活用し、2つの事業に取り組んで行くという。1つ目の取り組みは、「衛星データを活用した森林由来のJクレジット創出支援」で、現在現地調査もしくは航空レーザで実施している森林のCO2吸収量の算定調査を、衛星のデータ解析を活用する方法に代替し、Jクレジット創出の促進につなげるとしている。また、2つ目の取り組みは「衛星データを活用した再エネ(太陽光発電)のポテンシャル把握」としており、衛星データから太陽光発電の設置ポテンシャル量の可視化を実施するものだという。スペースシフトでは、この把握結果を活用して再生可能エネルギー導入の推進をはかり、地域の脱炭素化に貢献することを目指すとしている。【マイナビニュース】
【スペースシフト社提供:衛星データを利用した脱炭素化事業支援のイメージ】