KIT航空宇宙ニュース2024WK18

YS-11初号機と共に、航空宇宙技術遺産に認定された故東大糸川博士が作った「ペンシル・ロケット」
KIT航空宇宙ニュース

KIT航空宇宙ニュース2024WK18

海外のニュース

1.Joby、量産前 eVTOL プロトタイプで飛行テストを終了

米国のエアタクシー新興企業ジョビー・アビエーションは、4年前に開始した量産前飛行試験プログラムを終了し、現在は量産中心の開発段階に移行している。 サンタクルーズに本拠を置く同社は、電動垂直離着陸(eVTOL)航空機の開発の次の段階に入り、連邦航空局の認証試験プログラムで量産準拠のプロトタイプを飛行させることになる。 2つの量産前プロトタイプの間で、Joby の量産前飛行テスト段階では1,500回の飛行 (パイロットが搭乗した約100回の飛行を含む) が行われ、総距離は28,700nm (53,150km) 。2番目の量産前プロトタイプは、マンハッタンのダウンタウンでパイロットによるデモンストレーション飛行を完了した。「このテストプログラムを通じて、私たちのチームは、今日のバッテリー技術を使用して数万マイルを飛行する本物の電気エアタクシーがどのようなものであるかを世界に示しました」と創設者兼最高経営責任者のジョーベン・ベバート氏は述べている。量産前の飛行試験プログラムにはつまずきがなかったわけではない。ジョビーの最初のプロトタイプは、2022年2月の事故で破壊された。この事故では、プロペラ・ブレードの紛失により、遠隔操縦された航空機が空中で破壊された。Jobyは来年、パイロットによる4人乗りeVTOLのFAA認証を取得することを目指している。【Flightglobal news】

【Joby Aviation提供:試験飛行中のJobyが開発中のeVTOLの2番目のプロトタイプ】

日本のニュース

1. JAL、24年3月期最終益955億円で増配 25年3月期は1000億円見込む

日本航空が5月2日に発表した2024年3月期通期連結決算(IFRS)は、純利益が前期(23年3月期)比2.8倍の955億3400万円だった。大幅な増収増益を達成したとして、年間配当は1株75円(配当性向34.3%)に増配する。2025年3月期の通期業績予想は前回発表を据え置き、純利益は2024年3月期比4.7%増の1000億円を見込む。 グループCFO(最高財務責任者)の斎藤祐二副社長は、旺盛なインバウンド(訪日)需要に支えられている国際線の旅客需要について、日本発の回復状況は「出張需要がまだ(コロナ前の)6割を超えるくらいのレベル感」と述べ、世界的に見て日本のアウトバウンド(出国)の回復遅れが目立つという。「下期の計画は日本発の出張需要を期待している。年度末に70%くらいに回復するシナリオ」(斎藤副社長)と、10月以降の日本発需要の回復に期待感を示した。2024年3月期の売上収益は前期比20.1%増の1兆6518億9000万円、本業のもうけを示すEBIT(財務・法人所得税前利益)は2.2倍の1452億3500万円と増収増益。JALは2021年3月期からIFRS(国際財務報告基準)を適用している。売上高にあたる売上収益のうち、JALを中核とするFSC(フルサービス航空会社)事業が19.4%増の1兆3237億円。このうち、国際旅客収入が49.1%増の6223億円、国内旅客収入が22.1%増の5508億円、貨物郵便事業が40.7%減の1333億円だった。【Aviation wire news】

2.ANA、25年3月期最終益30%減1100億円予想 減免・補助金減、整備増が影響

全日本空輸を傘下に持つANAホールディングス(ANAHD、9202)が4月26日に発表した2024年3月期通期連結決算(日本基準)は、純利益が前期(23年3月期)比75.6%増の1570億9700万円だった。国際旅客収入が初めて国内を上回り、営業益は過去最高の2079億円となり、営業利益率は初めて10%を超えた。一方、同時に発表した2025年3月期の通期業績予想は、純利益は2024年3月期比30.0%減の1100億円を計画。売上高は過去最高を見込むものの、公租公課の減免・補助金の減少、整備費や人件費の増加などで営業費用が膨らむことなどが減益要因となる。2024年3月期通期の売上高は前期比20.4%増の2兆559億2800万円、営業利益は73.2%増の2079億1100万円、経常利益が85.7%増の2076億5600万円の増収増益となった。営業費用は16.4%増の1兆8480億円で、営業利益率は3.1ポイント上昇し10.1%。国際旅客は北米・アジアを中心に訪日需要を取り組み、イールドを高水準でコントロールしたことで、過去最高の収入となった。国内旅客はレジャー需要が好調だったことから、運賃の値上げにより客単価を押し上げた。一方、国際貨物は主要商材の需要が低迷したことで、貨物専用機(フレイター)の稼働を抑えた。配当は期末配当が1株50円で5期ぶりの復配となり、これまで想定していた30円から増額する。【Aviation wire news】

3.国管理8空港、脱炭素化30年度に実現へ 宮崎・長崎など、太陽光発電・空調効率化

国土交通省航空局(JCAB)は、国が管理する27空港の脱炭素化計画を作成した。宮崎や長崎など8空港は、2030年度までにCO2(二酸化炭素)排出を実質ゼロとする「カーボンニュートラル」を実現する。そのほかの19空港は2050年度のカーボンニュートラルを目指す。各空港は空調設備の高効率化や太陽光発電の導入、照明・航空灯火のLED化などにより、脱炭素化を目指す。2030年度までカーボンニュートラルを実現する8空港は宮崎と長崎のほか高知、熊本、大分、小松、徳島、八尾の各空港で、2050年度にはCO2などの排出削減量をクレジット(排出権)として発行し、取引できるようにする「カーボンクレジット」も創出する。残りの19空港は、2030年度にCO2を2013年度比で46.0%から99.9%まで削減。2050年度には岩国と広島、北九州、松山の4空港はカーボンクレジットを創出し、そのほかの15空港はカーボンニュートラルを目指す。2013年度の羽田空港のCO2排出量は23万5000トンで、27空港で最多の排出量となった。新たに建築する空港施設の省エネ化や空調設備の高効率化などにより、2030年度には46.0%の削減を目指す。カーボンニュートラル化は2050年度となる見通しで、太陽光発電設備の拡充や蓄電池の導入を検討する。【Aviation wire news】

4.  科博所有の「YS-11」と「ペンシルロケット」が航空宇宙技術遺産に認定

日本は、かつて世界屈指の航空機大国とも言われていたが、先の大戦を経て航空に関する一切の活動を禁じられ、多くの航空機の実機や技術、データなどが破棄されてしまった。しかし敗戦から7年後の1952(昭和27)年にそれが解除され、国を挙げて純国産航空機の開発が行われることとなった。YS-11は、まさに国家プロジェクト的に開発された純国産の民間輸送機だったのである。1957年に設置された輸送機設計研究協会が基礎設計を担当。その後、日本航空機製造(解散)が基本設計、詳細設計等開発を進め、生産は三菱重工など、日本の航空機製造会社が総出であたったという。試作1号機が1962(昭和37)年8月30日に初飛行し、1964年8月運輸省(現・国土交通省)の航空局の型式証明を取得。試作2機を含め、最終的に合計182機が生産され、海外でも長らく活躍した。科博が所有する機体(機体番号JA8610)は量産初号機であり、現存するYS-11の中では、試作機を除いた最古の機体となる。1965(昭和40)年3月に運輸省航空局に納入された後、日本の飛行安全確認の点検機として利用され、2万時間超の飛行実績を有している。この機体は、長らく羽田空港内の全日本空輸(ANA)の格納庫内に保管されていたが、2020年にクラウドファンディングによる支援を得て、茨城県筑西市にあるテーマパーク「ザ・ヒロサワ・シティ」へ移設され、機体が組み立てられた。同テーマパーク内の一施設として2021年3月にオープンした科博廣澤航空博物館において、2024年2月11日より一般公開が行われている。なおYS-11は、2007年には日本機械学会による「機械遺産」に、翌2008年には日本航空協会による「重要航空遺産」に認定されており、今回で3つ目の認定となった。一方のペンシルロケットは、日本の固体ロケット開発の礎となった実験機。こちらも、航空禁止令が解除された1952年から研究開発がスタートしている。1970年に軌道投入に成功した日本発の人工衛星「おおすみ」を打ち上げた「M(ミュー)ロケット」や、初代「はやぶさ」を打ち上げた「M-Vロケット」、そして最新の「イプシロン」など、日本の固体ロケットの原点である。日本の固体ロケットの開発は、“日本のロケットの父”と呼ばれる、東京大学 生産技術研究所の故・糸川英夫教授の指揮の下で進められた。その最初の実験用ロケットとして製造されたのが、全長230mm・直径18mmのペンシルロケットである。普通に打ち上げたのでは(当時の技術では)飛翔コースを確認できないため、1955(昭和30)年4月、現在の東京都国分寺市にて、水平方向への発射が行われた。何枚も吊された紙を貫通させ、それぞれ穴の位置から、ロケットがどう飛翔したかが調べられたとされる。その後、実験は現在の千葉市にあった生産技術研究所に場所を移して継続され、そこでは2段式や大型のペンシルロケットも用いられた。1955年8月には、日本海に面した秋田県道川海岸(現在のJAXA能代ロケット実験場)での斜め発射実験にて、到達高度600m、水平距離700m、飛翔時間16.8秒の飛翔が達成され、その技術やデータなどが次の大型ロケットの開発へと引き継がれていった。なおペンシルロケットの実機は現在、科博 上野本館に常設展示されている。また今回紹介したYS-11とペンシルロケットに加え、内閣府宇宙開発戦略推進事務局からは、航空宇宙技術遺産第2号の1つとして、準天頂衛星システム「みちびき」が認定されたことも発表された。「みちびき」は、日本上空にできるだけ長い時間滞在できる準天頂軌道(赤道を挟んで南北に8の字を描く特殊な軌道)に複数の衛星を投入することで(1機は赤道上空の静止衛星軌道に投入されている)、高層ビルの合間や山間部など、米国のGPS衛星からの信号をキャッチしにくい場所でも補完できるようにした日本独自の衛星測位システムおよび衛星の名称である。【マイナビニュース】

【日経新聞社提供:テーマパーク「ザ・ヒロサワ・シティ」に展示されているYS-11初号機】

【日経新聞社提供:上野科学博物館に展示されている「ペンシル・ロケット」】

5. イプシロン元プロマネが固体推進の革新を目指すロケットリンク

ロケットリンクテクノロジーは、宇宙航空研究開発機構(JAXA)発のベンチャー企業である。その代表を務めるのは、イプシロンロケットの開発を主導してきた森田泰弘氏。SPEXAのブースでは、同社が研究開発を進める「LTP」(低融点熱可塑性推進薬)や、それを搭載するロケットなどが紹介されていた。同社のキー技術である“LTP”とは何か。これは、“Low melting temperature Thermo-elastic Propellant”を略したもので、Lが「低融点、」Tが「熱可塑性」、Pが「推進薬」を意味する。LTPを使うことで、低コストで使いやすい固体ロケットが実現できるという。現在ロケットで使われている固体推進薬は、硬化剤を入れて化学的に固めているため、一度固まったら、もうやり直すことはできない。それに対しLTPは、固まった後でも、熱を加えると溶けて、再び固めることができる(=熱可塑性)。チョコレートのようなもの、とイメージすると分かりやすいだろう。このメリットは非常に大きい。従来は一気に作るしかなかったため、それだけの大きさの設備が必要となったが、LTPは一旦作り置きし、充填するときにまた溶かして固めるという方法が使えるので、町工場のような小規模な設備でも構わない。充填後にクラックなどの問題が見つかっても、やり直しが可能だ。ブースでは、協力企業として、植松電機とシンキーが名を連ねる。LTP製造時の撹拌には、シンキーの自転・公転ミキサーを使用。これは、材料を入れる容器が惑星のような自転と公転の動きで高速回転し、その遠心力で撹拌するという装置。撹拌と同時に、混ざっていた空気も抜けるというメリットがある。植松電機は、ロケットの製造や打ち上げなど、活動を全体的にサポートしてきた。会社の敷地内に、LTPを製造できる施設を新たに建設するなど、LTPの研究開発にも協力している。LTPの打ち上げ試験は、これまでに3回実施。2018年の1号機「LTP-040」は高度100m級、2019年の2号機「LTP-060」は高度1km級と、徐々に大型化を進め、そして2024年3月17日には、3号機「LTP-135s」の高度5kmの打ち上げに成功した。なおロケットの型番については、JAXAの「S-520」などと同様に、機体の直径(mm)を表すという。【マイナビニュース】

【マイナビニュース提供:元イプシロンロケット開発者森田氏と「LTP」(低融点熱可塑性推進薬)ロケット】