KIT航空宇宙ニュース2024WK19
海外のニュース
1.787、主翼と胴体接合部の検査不正か FAAがボーイング調査
ボーイング787型機の品質問題で、主翼と胴体の接合部分に対する必要な検査が一部の機体で完了していない可能性があるとして、FAA(米国連邦航空局)は現地時間5月6日から調査を始めた。FAAは、ボーイングの検査状況や従業員による記録改ざんの可能性を調査している。当紙が入手したボーイングの社内メールによると、787の最終組立工場があるサウスカロライナ州ノースチャールストンの「BSC(ボーイング・サウスカロライナ)」で問題が発覚。787の主翼と胴体の接合部の適合性検査で、不正とみられるものを従業員が発見して上司へ報告したことにより、経営幹部が事態を把握したという。787プログラムの責任者であるスコット・ストッカー氏は、「何人かが必要な検査を実施せず、作業を完了したと記録し、会社の方針に違反していた」と、BSCの従業員へ宛てた電子メールで内部通報があったことを説明。「監督官庁に報告し、是正措置を講じている」としている。ストッカー氏は「我々のエンジニアリング・チームは、今回の不正行為が飛行の安全性に関わる問題をただちに引き起こすものではないと評価している。しかし、製造工程にある機体は、順番に検査を実施する必要があるため、私たちの顧客や従業員に影響を与えることになる」と、今後の787の納入に影響が及ぶ可能性を示唆した。FAAは「ボーイングは製造中のすべての787を再検査し、運航中の機体への対応計画も策定しなければならない」とコメントした。【Aviation wire news】
2.H3 Dynamics、エアバス UpNext HyPower APU プロジェクトに燃料電池を供給
仏トゥールーズに本拠を置くH3 Dynamicsは、Airbus UpNextと、同社のHyPower実証機プロジェクトに0.5MWの水素燃料電池システムを供給する契約を締結した。昨年のパリ航空ショーで発表されたハイパワーは、エアバスのイノベーション部門がA330-200の純正補助動力装置(APU)を新しい燃料電池ベースのシステムに置き換える予定です。H3ダイナミクスは現在、エアバスUpNextへの納入に向けて、燃料電池スタックとプラントの残りの部分を含む0.5MWシステムを最終調整中で、A330への取付は今年後半に行われる予定。【Flightglobal news】
【H3 Dynamics社提供:同社が開発中のA330UpNext機のAPU代替水素燃料電池】
3.Eve Air Mobility社が初の本格的なエアタクシーのプロトタイプを公開
米国のエアタクシー開発会社イブ・エア・モビリティは、電動垂直離着陸(eVTOL)航空機の初の実物大の不適合プロトタイプを一般公開した。 ブラジルのエンブラエル社の支援を受けているフロリダに本拠を置くこの新興企業は、5月8日にソーシャルメディアを通じてほぼ組み立てられたプロトタイプの画像を公表した。この機体は、ブラジルのサン・ジョゼ・ドス・カンポス近くにあるEveのeVTOL生産施設で製造されている。Eveの最初のこのプロトタイプは、最終的な生産基準に準拠していない。この機体は、同社の技術を検証するためのテストベッドとして使用され、将来の実機のバリエーションに情報を提供する。【Flightglobal news】
【Eve Air Mobility社提供:ブラジルサンパウロの施設で組立中のEveのプロトタイプ】
日本のニュース
1.ANA・JAL“顔パス”搭乗、スマホで手続き短縮 成田で実証実験
全日本空輸と日本航空、成田空港を運営する成田国際空港会社(NAA)、日本電気の4社は5月10日、国際線で導入済みの顔認証技術を用いた“顔パス(ウォークスルー)”の搭乗手続き「Face Express(フェイスエクスプレス)」について、旅客自身のスマートフォンで個人情報を登録する実証実験を展開したと発表した。現在は空港内の端末でのみ登録が可能で、空港での手続き時間の短縮を実証した。個人情報はモバイルアプリ上で登録する。航空各社のモバイルアプリと連携することで、オンラインチェックインからFace Expressの個人情報登録までをワンストップでできるようにする。登録した個人情報はモバイルアプリで旅客自身が管理。繰り返し利用可能で、次回以降の搭乗でも手続きを簡略化できるようになる。実証実験は3月25日から28日まで、4社の関係者ら約150人が参加して進めた。参加者はモバイルアプリでFace Expressを利用登録後、手荷物預け、保安検査場入場、搭乗ゲート通過などの搭乗手続きを体験した。任意のタイミングや場所での登録により、空港でのチェックイン時間短縮や、空港スタッフの業務負担軽減にもつながった。一方で、ユーザーインターフェースの改善や、モバイルアプリへの誘導方法などの課題も見つかった。またFace Expressを使用しない従来の手続きと比較すると、手荷物タグの発行など自動チェックイン機操作の所要時間が半減。手荷物預けでは搭乗券とパスポートの提示が不要となるなど、時間短縮を確認できた。成田空港の運用状況によると、2023年度の国際線旅客は2744万人で水際対策の撤廃を受け大きく増加。新型コロナ前の8割超えまで回復した。このうち外国人客は1789万人で、開港以来の過去最高を記録した。空港では手続きの効率化や旅客の利便性向上など、オンラインでの搭乗手続きのニーズが高まっており、航空業界全体でもデジタル化が求められている。4社は今回の実証実験を通じ、モバイルアプリの実用化へ改善・検討を進め、Face Expressの利用拡大につなげたい考え。【Aviation wire news】
【Aviation wire提供:スマホアプリによる顔パス搭乗手続き】
2.空港グラハン協会、初の学生向け職場見学会 人手不足解消へ、産学連携深化
空港のカウンターや搭乗口で働くグランドスタッフ(地上旅客係員)による旅客サービスやグランドハンドリング(グラハン)事業者が設立した業界団体「空港グランドハンドリング協会(空ハン協、AGHA)」は5月9日、学生向けの職場見学会を初めて開催した。埼玉・川口市の私大学生15人を羽田空港へ招き、全日本空輸グループや日本航空グループなどの現役社員と交流。深刻化する航空・空港業界の人手不足解消へ、産学連携で働き手の確保を目指す。参加したのは、同じ学校法人が運営する埼玉学園大学と川口短期大学の学生。両校はグラハン業界へのキャリア支援をしており、学生は2グループに分かれ、第1と第2の各ターミナルをそれぞれ見学した。学生へ職場を案内したのは、ANAグループで羽田空港のグラハン部門を担うANAエアポートサービス、JALグループで旅客サービスやステーションオペレーションを担うJALスカイ、グラハン業務を担うJALグランドサービス、スカイマーク、羽田タートルサービスの空ハン協会員5社。このうち第2ターミナルでは、ANAASの地上係員とグラハンスタッフがターミナルや駐機場を案内し、駐機場では手を振り出発機を見送る「グッバイウェーブ」も体験した。【Aviation wire news】
【Yahooニュース提供:「グッバイウェーブ」を体験する職場見学会に参加した学生】
3.ANA、グラハン車両で軽油代替燃料「RD」実証 廃食油原料、“すす”出さない
全日本空輸は5月9日、グランドハンドリング(グラハン、地上支援)業務に使用するGSE(航空機地上支援車両)の動力源に、廃食油などを原料とする次世代型バイオ燃料「リニューアブルディーゼル(RD)」を導入する実証を羽田空港で始めた。2025年3月ごろまで実証を進め、現在の軽油(ディーゼル)の代替としてCO2(二酸化炭素)削減の有効性を探る。ANAによると、GSEにRDを活用するのは国内初だという。RDは廃食油や食料と競合しない「非可食油」を原料として製造される次世代型バイオ燃料。石油由来の軽油と性状は同等だが、GHG(温室効果ガス)排出量を約90%削減できる。既存の車両や給油設備をそのまま活用できる「ドロップイン燃料」で、すすを排出しない特長があり、電動化の困難な大型トラックなど軽油を燃料とする車両の代替燃料として期待される。また代替航空燃料「SAF(サフ、持続可能な航空燃料)」の製造工程で一定数量製造される連産品であることから、SAFのサプライチェーン強化にもつながる。ANAは2023年9月に、東京都の「バイオ燃料活用における事業化促進支援事業」に採択されており、今回の利用実証はその一環で進める。RDはフィンランドのネステ社が製造し、都の同事業に共同で採択された伊藤忠エネクスが調達。実証期間中に200キロリットルのRDを導入する。導入するGSEは、貨物室に貨物を搭載する「ハイリフトローダー」、出発機をプッシュバックする「トーイングカー」(けん引車)、連絡バスで乗降するオープンスポットで使用する「パッセンジャーステップ車」(タラップ車)の3車種で、計26台で実証する。このうちハイリフトローダーとトーイングカーは10台ずつ、パッセンジャーステップ車は6台で、実証の進み具合により他種類の車両にも拡大を予定する。ANAグループが保有するGSEは全国で約1万4000台で、このうち羽田空港では約2800台を導入。大部分が軽油を燃料とする。【Aviation wire news】
【Aviation wire提供:左が廃食油から作った「RD」右が従来の軽油】
4.JALと三菱重工、高精度の被雷予測 アスキーアートで新技術
日本航空と三菱重工業は5月7日、航空機の被雷を高精度で予測できる被雷回避判断支援サービス「Lilac(ライラック)」の使用契約を4月2日に締結したと発表した。両社の共同研究で開発した技術を活用したもので、パイロットは操縦席から見える雷雲と機上レーダーを、地上から受信したプレーンテキストで表現する「アスキーアート」と重ね合わせ、経路を選定できるようになった。LilacはAI(人工知能)を活用した被雷回避を判断する支援サービスで、4月から国内空港で運用を開始した。被雷予測リポートを地上運航従事者からパイロットへ情報を提供する。離着陸時はパイロットの操縦操作が煩雑で、インターネットを使用したWeb用の雷雲イメージの確認が困難なことから、情報はプレーンテキストの「アスキーアート」で提供。操縦室と地上との空地通信システム「ACARS(Aircraft Communication Addressing and Reporting System)」で送信する。両社によると、アスキーアートの導入により機上のインターネット環境に依存せず、パイロットが一目で把握できる被雷予測を提供できるようになったという。両社は2019年から、機体を雷から守る共同研究を開始し、安全・運航効率の向上を目指してきた。共同研究では、帯電した雲に機体が近づくことで雷が引き起こされ、被雷することが分かった。三菱重工は、気象庁が配信する観測データを基にAI予測モデルを独自開発。飛行中に被雷の可能性が高い位置を高精度に予測できるようになった。予測には、JAXA(宇宙航空研究開発機構)が研究を進める被雷危険性予測技術を活用した。航空機の被雷は、多くが離発着時に発生する。特に冬の日本海沿岸で発生する「冬季雷」は夏の雷よりも放電エネルギーが大きいものの、気象レーダーに映りにくく、雷雲の発生場所の特定が困難だという。また、航空機への被雷は国内で、年間数百件単位で発生。複合材を使用するボーイング787型機やエアバスA350型機が被雷した場合は、修理過程が複雑なことから修復に時間がかかり、遅延などの経済的損失を含め、国内では年間数億円規模の損失が計上されるという。【Aviation wire news】
【Aviation wire提供:AIを活用した「アスキーアート」による発雷予測(左図)】