KIT航空宇宙ニュース2024WK21

フランスのトゥールーズとドイツのオットーブルンのエアバスチームによって開発された、ヘリウム再循環ループを介して液体水素で冷却される2メガワット級の超伝導電気推進システム「クライオプロップ」
KIT航空宇宙ニュース

KIT航空宇宙ニュース2024WK21

海外のニュース

1.シンガポール航空、乱気流で乗客1人死亡 ロンドン発SQ321便

ロンドン時間5月20日にヒースロー国際空港を出発したシンガポール航空のシンガポール行きSQ321便(ボーイング777-300ER型機)が、飛行中に激しい乱気流に遭遇し、バンコクへダイバート(目的地変更)した。シンガポール航空によると、乗客1人が死亡し、複数の負傷者が出ているという。SQ321便には乗客211人と乗員18人の計229人が搭乗。バンコクのスワンナプーム国際空港には現地時間21日午後3時45分に着陸した。21日午後6時50分の時点で、18人が入院し、12人が病院で治療を受けており、残りの乗客と乗員はスワンナプーム空港で検査を受け、必要に応じて治療を受けているという。詳しい原因は調査中で、シンガポール航空の担当者も現地へ向かっている。【Aviation wire news】

 5月22日、激しい乱気流に見舞われたシンガポール航空の便に搭乗していた乗客乗員が22日、シンガポールに到着した。写真は緊急着陸した同便の内部の様子。タイのバンコクで撮影(2024 ロイター)

【Yahooニュース提供:乱気流に遭遇したシンガポール航空777型機着陸後の機内の様子】

2. FAAがアーチャーのミッドナイトエアタクシーの最終耐空基準を発表

米国の電動エアタクシー開発会社アーチャー・アビエーションは、開発中のeVTOL機「ミッドナイト」の最終的な耐空性基準を連邦航空局から取得し、来年早々に商用飛行を開始するという取り組みにおいて重要な節目を迎えた。サンタクララを拠点とするこの新興企業は5月23日に、有人4人乗り電動垂直離着陸機(eVTOL)のFAA型式証明取得に向けた「確固たる道筋」ができたと主張した。FAA は eVTOL を動力付きリフト機体として分類しており、認証を受ける各モデルに特別な耐空性基準を要求している。民間航空規制当局は3月に、このマイルストーンをクリアした、アーチャーの競合企業ジョビー・アビエーションという米国のeVTOL開発企業1社に対してのみ、同様のガイドラインを発行している。アーチャー社は、「最初の有人ミッドナイト規格適合機3機の製造で大きな進歩を遂げた」と主張しており、今年中に有人飛行試験を開始する予定だ。ジョビー社の全電気航空機(JAS4-1と呼ばれる)は、一部の業界観測筋によると、FAAの型式証明をクリアする初のeVTOL機になる可能性が高いとみられている。しかし、アーチャー社は商業化競争でジョビー社に迫っており、両社とも中東での事業展開の可能性を模索している。【Flightglobal news】

【Archure Aviation提供:開発中のeVTOL機「ミッドナイト」】

3. エアバス、水素燃料航空機向け超伝導研究をさらに加速

エアバスの完全子会社であるエアバス・アップネクストは、将来の水素燃料航空機の電気推進システムに使用するための超伝導技術の成熟を加速するための新しい技術デモンストレーターを発表した。クライオプロップとして知られるこの新しい実証機は、フランスのトゥールーズとドイツのオットーブルンのエアバスチームによって開発された、ヘリウム再循環ループを介して液体水素で冷却される2メガワット級の超伝導電気推進システムを統合し、成熟させる予定です。エアバスは数年にわたり高出力電気推進用の超伝導技術の開発に取り組んでおり、昨年は500kWの統合型極低温推進システムの稼働に至った。クライオプロップは、安全性、工業化、保守、運用に関連するすべての側面を評価し、将来の航空機用途における超伝導技術の可能性を確認する。このデモンストレーターは、エアバスに高度な社内専門知識を開発し、超伝導ケーブル、モーター、極低温パワーエレクトロニクス、極低温冷却システムなどの分野での新製品の導入を加速するための新しいエコシステムを育成する機会も提供する。【Airbus News】

【Airbus提供:エアバスが開発する2MW級の超電導電動推進システム「クライオプロップ」】

日本のニュース

1.  エアバス、都内に研究拠点 次世代機開発へ関係構築

エアバスは現地時間5月23日、研究開発拠点「エアバス・テックハブ・ジャパン」を都内に開設すると発表した。おもに「新素材の開発」「脱炭素技術」「自動化」の3分野を研究し、国内でパートナーシップを構築することで、次世代航空機の開発への技術革新を進める。日本のテックハブは日仏両政府が支援する。テックハブはエアバスのR&T(研究・技術)チームと業界リーダー、地域の研究コミュニティ、産業界、学術機関の産官学で協力関係を促進することが目的で、航空宇宙の未来に備えた共同体を形成していく。エアバスは各国に研究開発拠点を開設しており、今年に入り、シンガポールとオランダでも立ち上げている。エアバスのサビーネ・クラウケ最高技術責任者(CTO)は、「日本は航空宇宙の将来に向けたパートナーとして重要な国。テックハブの設立で、日本との協同関係をさらに深める」と語った。テックハブの開設は、パリで開催中のテックイベント「VIVA TECHNOLOGY(ビバ・テクノロジー)2024」で発表し、発表会にはエアバスのほか、在仏日本国大使館、仏民間航空総局(DGAC)、JETRO(ジェトロ、日本貿易振興機構)が出席した。【Aviation wire news】

【Airbus提供:「Airbusテックハブ」を発表するエアバス・ジャパンのジヌー社長(右から2人目)】

2.国交省、JALへ臨時監査 翼端接触などトラブル相次ぐ

国土交通省航空局(JCAB)は5月24日、日本航空に対して航空法に基づく臨時の監査を実施した。羽田空港で、23日に隣り合う2機のエアバスA350-900型機の主翼先端同士が接触するなど、トラブルが相次いでいるためで、羽田の整備地区にあるJALメインテナンスセンター1(M1ビル)などに対して監査に入った。JALでは23日に起きた接触トラブルのほか、今月10日に羽田行きJL312便(ボーイング787-8型機)が滑走路手前の誘導路上で停止し、JALグループのジェイエアが運航する松山行きJL3595便(エンブラエル170型機)が離陸を中止するトラブルがあった。JCABによると、航空法が定める「重大インシデント」には該当しないトラブルだった。国内のほか、海外でもトラブルが起きており、2023年11月5日にはシアトル・タコマ国際空港で成田発JL68便(767-300ER)がシアトル空港に3本ある滑走路のうち、ターミナルからもっとも離れた滑走路(RWY16R)へ着陸後、管制官の許可を得ずに中央の滑走路(RWY16C)を横断した。今年2月6日には、米サンディエゴ国際空港を出発する成田行きJL65便(787-8)が誘導路B10にある停止線を越え、滑走路(RWY9)の手前で停止した。今回の臨時監査では、M1ビルに入居するグループ整備会社のJALエンジニアリング(JALEC)など、関係者への聞き取りや書類の確認、再発防止策の実施状況などを確認したほか、トラブルが起きた要因の分析状況などを調べた。臨時監査は週明けの27日にも予定する。JALは「監査を真摯に受け止める。当局からのご指導を踏まえ、信頼回復に努める」とコメントした。【Aviation wire news】

3.ドクタージェット、羽田へ初の重症小児患者搬送

特定非営利活動法人・日本重症患者ジェット機搬送ネットワーク(NPO JCCN)は5月22日、重症の小児患者を新潟空港から羽田空港まで医師が同乗する「ドクタージェット」で搬送した。4月から始めた試験運航の3回目で、初めて羽田へ患者を運んだ。少子化で小児医療施設の維持が難しくなり、小児を診察できる救急専門医が不足する中、ドクタージェットによる広域医療の実現を目指すもので、本格運航の開始は2026年を目標としている。JCCNは2022年10月27日に設立され、今月1日付で大阪府から「認定NPO法人」に認められた。搬送対象は、重症呼吸循環不全や緊急手術が必要な先天性疾患など「超重症患者」で、地方では受けられない高度先進医療を必要とする重症小児を、ドクタージェットの機内で医師が医療行為を続けながら搬送する。心臓血管外科医であるJCCNの福嶌教偉理事長よると、2017年から2022年までの5年間で、ジェット機など「固定翼機」による搬送が必要と判断された北海道を除く地域の小児患者は107人で、搬送を断念して亡くなった3件を除くと空路搬送は66件あり、このうち実際の搬送手段は航空会社などの民間機が7件、自衛隊の航空機動衛生隊が3件、ヘリコプターが35件などだった。各都道府県には、医師が同乗する「ドクターヘリ」が配備されているものの、都道府県境をまたぐ長距離搬送がヘリの航続距離や制度上の問題で適していないことや、スペースや振動、騒音などで搬送中に高度な集中治療ができず、機内で容体が悪化すると手を施せないこと、夜間や悪天候時に運航できず、重い医療機器を装着した患者を運べないなどの課題があるという。 「県境で患者をドクヘリで運ぶ場合、隣県の病院が近いのに、出動した県の病院に運ばなければならない」(福嶌理事長)といった事例が実際に起きているといい、患者の容体を極力悪化させずに目的の病院まで運ぶためには、ドクタージェットが必要だと説明する。【Aviation wire news】

【Aviation wire提供:「ドクタージェット」の機内】

4. コミー、手荷物棚用ミラーの新商品 サイドパネルに設置、1種類で左右対応

業務用鏡を手掛けるコミー(埼玉・川口市)は5月22日、航空機用手荷物入れミラー「FFミラーAIR」の新商品を開発したと発表した。頭上にある手荷物収納棚内部のサイドパネルに設置するもので、角度を変えることでサイドパネルの左右両方で使えるようにした。新商品「SPR」は円形のミラーで、大きさは直径95ミリ、厚さ1.1ミリ、重さ9グラム。従来の「FFミラーAIR」は手荷物入れの種類ごとに品番が決まっているが、新商品はミラー上部に表記する「RIGHT」「LEFT」の文字を床面に対し平行に設置することで、1種類で左右両方に対応する。同社は、機内の手荷物収納棚に設置されている「FFミラーAIR」を手掛ける。1997年から航空会社が採用し、乗客は忘れ物防止として、客室乗務員は不審物の確認用ミラーとして活用。これまでに世界100社以上が導入しているという。【Aviation wire news】

【Aviation wire提供:コミーの手荷物棚用左右共用円形「FFミラーAR」新製品】

5. 国交省、飛行検査技術の国際シンポ 名古屋で日本初、7月に5日間

国土交通省航空局(JCAB)は5月21日、飛行検査技術について情報交換するシンポジウム「国際飛行検査シンポジウム(IFIS 2024)」を7月に名古屋市で開催すると発表した。各国の飛行検査関連機関などが参加し、検査実施方法の改善提案などを議論する。同シンポジウムを日本での開催するのは初めて。飛行検査とは、全国の空港に設置されたILS(計器着陸装置)や管制システム、航空灯火などが正常に機能しているかを、検査機を実際に飛行して検査・検証する業務を指す。IFISは各国の飛行検査関係者が集まる唯一の国際シンポジウムで、2年に1回開催される。シンポジウムには関連機関のほか飛行検査装置メーカー、機体メーカー、大学研究者などが参加する。IFIS 2024は7月8日から12日までの5日間を予定し、ポートメッセなごや コンベンションセンター(名古屋・港区)と、中部空港(セントレア)内の飛行検査センターの2会場で開催する。関係機関や飛行検査装置メーカーなどがブースを出展し、製品や技術力をアピールするほか、検査センターでは、国交省所属の飛行検査機や防衛省所属の飛行点検機を展示する。【Aviation wire news】

【Yahooニュース提供:JCABの飛行検査機米国テキストロン社製「CJ4」型機】

6. 日韓航空当局、整備など相互承認へ 検査重複削減、6分野で協力強化

国土交通省航空局(JCAB)と韓国の航空当局・国土交通部(MOLIT)は、航空の安全に関する相互承認取決めを締結した。日韓両国の当局間で検査重複の削減へ協力を強化するもので、双方の制度比較などを進め、まずは整備分野の詳細実施手順書での締結を予定する。相互承認の取り決めは、▽民間航空製品の耐空性承認と監視▽運航する機体の耐空性継続▽設計・製造組織の承認と監視▽整備機関の承認と監視▽民間航空製品の環境承認・環境試験▽整備・フライトオペレーションの承認、の6分野で協力・支援する。両者は5月15日から17日までの3日間、仙台市で当局間の政策対話を実施。日本側は航空局の大沼俊之次長らが、韓国側はキム・ヨングック(Kim Yeong kook)航空政策官らが参加した。政策対話では航空安全や航空交通管理、環境保護、次世代航空モビリティなど新技術を含む航空政策の重点分野で意見交換し「環境新技術に係る作業部会設立趣意書」に署名した。【Aviation wire news】

【Yahooニュース提供:韓国当局との政策対話で「環境新技術に係る作業部会設立趣意書」に署名したJCAB大沼次長(右)】

7. ANA、空港車両のエンジンはずしEV化 廃車対象「ベルトローダー」再生

全日本空輸などを傘下に持つANAホールディングスは5月20日、空港内で飛行機の貨物室に手荷物を搭載する際に使う「ベルトローダー」を、ディーゼルエンジン車からEV(電気自動車)に改修し、報道関係者に公開した。ANAグループの全日空モーターサービス(ANAMS)が、成田空港で1994年から29年間使われて廃車対象になった車両を2年がかりでEV化したもので、今夏をめどに羽田空港で運用を始める見通し。ベルトローダーは、空港内のグランドハンドリング(グラハン、地上支援)業務に使用する「GSE(航空機地上支援車両)」と呼ばれる空港用特殊車両のひとつ。全日空モーターサービスは、ANAグループが使用しているGSEやPBB(搭乗橋)の整備・管理などを担っており、2022年に廃車対象となったベルトローダーのEV化に着手し、構造設計や電気回路の組み上げ、EV化で必要となるモーターやバッテリーなどの搭載、経年劣化した部位の板金修理や塗装を施して仕上げた。ANAによると、GSEのEV化は日本で初めてだという。今回改修したベルトローダーは、シンフォニアテクノロジー製で、従来は軽油を燃料とするディーゼルエンジン車だった。EV化する際にエンジンや燃料タンクなどを取り外し、新たにリチウムイオンバッテリーや走行モーター、荷役モーター、減速機、ECU(上位コントロールシステム)などを搭載した。充電は最短1時間。1回の充電で、羽田空港の1日分の運航便に使用することを想定している。また、既存のベルトローダーは平均20年から25年程度で廃棄しているが、今回のEV化で15年程度は運用を延長できるという。【Aviation wire news】

【Yahooニュース提供:EV化したベルトローダー】