KIT航空宇宙ニュース2023WK36

2023年9月7日8時42分11秒、JAXAの「X線分光撮像衛星(XRISM)」および「小型月着陸実証機(SLIM)」を搭載したH-IIAロケット47号機を鹿児島県の種子島にある種子島宇宙センターから打ち上げ、成功した。
KIT航空宇宙ニュース

KIT航空宇宙ニュース2023WK36

海外のニュース

1. H2FLY、初の液体水素による飛行に成功

世界初と主張するもので、ドイツの先進パワートレイン開発会社H2FLYは、液体水素を動力源とする燃料電池搭載航空機を使用した一連の有人飛行を完了した。HY4実証機はスロベニアのマリボルから合計4回の飛行を実施し、そのうちの1回は3時間以上続いたという。これまで気体水素を使用して運用されていたH2FLYは、飛行試験の結果、液体水素への変更により航空機の航続距離が405nm(750km)から810nmに延長されることが示されたと述べている。液体水素への変更の利点には、燃料タンクの軽量化と体積エネルギー密度の向上が含まれる。H2FLY は、航空機での極低温液体水素の使用の実現可能性を実証することを目的とした、HEAVEN と呼ばれる EU 支援のプロジェクトを主導してきた。この取り組みのパートナーには、エア・リキード、ピピストレル・バーティカル・ソリューションズ、ドイツのDLR、EKPO燃料電池テクノロジーズ、Fundacion Ayesaが含まれている。H2FLYは今後、燃料電池パワートレインの商品化に取り組むことになる。同社はすでに、将来の水素燃料バージョンの ドルニエDo328eco に関してドイツ航空機と提携している。【Flightglobal News】

【H2FLY提供:液体水素を動力源とする実証機HY4の試験飛行】

2. SAFの取り組みにより、航空券は2050年までに20%近く高くなる

新しい報告書によると、航空業界が持続可能な航空燃料(SAF)目標と脱炭素化目標を達成するためにかかる数兆ドルを賄うには、2050年に航空券の価格を18%引き上げる必要があるという。LEK Consulting が発行した研究論文「航空の未来を促進する: 持続可能な航空燃料の実現」では、SAF が 2050 年以降の航空の脱炭素化に向けた「重要な手段」であると特定されている。【Flightglobal News】

3. ボーイング777型機のエンジン欠陥:FAAがGE90耐空性指令(AD)を提案

ゼネラル・エレクトリック社の GE90エンジンは、エンジンの損傷や破片の放出を引き起こす可能性のある材料の鉄含有欠陥による問題に直面している。GEはすでに影響を受ける航空会社に欠陥について通知しているが、FAA規則では航空会社に欠陥部品の交換を義務付けることになる。同様の粉末金属材料の欠陥は、CFM International の Leapエンジン やPratt & Whitney の PW1100Gエンジンなど、他のエンジンプログラムにも影響を及ぼしている。GEによる調査により、第1段及び第2段高圧タービン・ディスク、ローター・シール、およびコンプレッサーのスプールの材料に欠陥のある鉄含有物質が見つかり、早期の金属疲労を引き起こし、「エンジンの損傷、および損傷した破片のエンジンナセル外への放出」につながる可能性があることが判明し、GE90-90B、GE90-94B、GE90-100B1、GE90-115Bエンジンの部品がADの対象となる。【Flightglobal News】

【Flightglobal提供:アメリカン航空のGE90エンジン付き777-300型機

日本のニュース

1. ANA羽田接客No.1立原さん「一人ではなし得ない仕事」

新型コロナの「5類」移行や、7月の第2ターミナル国際線施設再開など、旅客需要が急回復する羽田空港。全日本空輸を中核とするANAグループは、羽田で働く約1600人のグランドスタッフ(地上旅客係員)の中から「おもてなしNo.1」を決めるコンテスト「Haneda’s Prideコンテスト」を9月5日に開催した。出場者12人の中から、国内線を担当する立原衣梨さん(旅客サービス4課)が第7回大会のグランプリに輝いた。準グランプリには旅客サービス1課 国際担当の今井はるかさんと、旅客サービス6課 国内担当の佐久間琴美さんが選ばれ、審査員特別賞を旅客サービス5課 国際担当の大山智子(のりこ)さんが受賞した。このうち、グランプリの立原さんと準グランプリの今井さん、佐久間さんは2017年度入社の同期で、大山さんも2016年度入社と、社内資格を取得して後進の指導にもあたるスタッフが入賞した。2017年から毎年開かれているコンテスト。ANAグループで羽田の空港業務を担うANAエアポートサービスが定めるグランドスタッフに求められる3つの基本行動「気持ちのいい挨拶をする」「常に笑顔でアイコンタクトをする」「美しい所作で魅了する」を体現できるスタッフを決めるとともに、羽田全体の接遇スキル向上につなげるほか、他空港にもライブ配信することで、グループ全体の学びの場としても活用している。出場者1人あたりの持ち時間は8分。ロールプレイ形式の審査で、利用者は社員が演じた。ロンドン線が第2ターミナルに移ったことを知らずに第3ターミナルに来てしまった人、空港に着くのが遅れてしまい、搭乗便に乗れなかった人、足が不自由な人など、さまざまなシナリオが出場者ごとに用意された。審査は目の前にいる人の応対だけではない。接客中に慌てた様子で話しかけてくる人など、日々の業務で起こりうる突発的な要素も織り込み、今その場で起きていることへの対応力が求められた。【Aviation wire news】

【Aviation Wire提供:「Haneda’s Prideコンテスト」グランプリに選ばれた立原さん】

2. SkyDriveとJAXA、空飛ぶクルマの低騒音化へ共同研究

日本で「空飛ぶクルマ」と呼ばれるeVTOL(電動垂直離着陸機)や、物流ドローンを開発するSkyDrive(スカイドライブ)は9月6日、eVTOLの実用化に向け、JAXA(宇宙航空研究開発機構)と騒音低減に向けた共同研究に関する契約を締結したと発表した。SkyDriveが現在開発を進めているeVTOLは、騒音源となるローター径や配置などが、ヘリコプターをはじめとする従来の回転翼機と比べ、特徴が異なることが予想されることから、低騒音化に向けた共同研究を進める。eVTOLの実用化に向け、機体の安全性と環境に対する基準を満たし、機体の耐空性を証明する必要があるためだ。JAXAは、日本最大の航空機用風洞試験設備を保有。従来から回転翼の音源探査の技術開発を進めてきたことから、同設備では初めてeVTOLの低騒音化に向けた共同研究を始めた。両者の役割分担は、SkyDriveが「ロータ/全機模型風試」「将来機向け技術課題抽出」を、JAXAが「実機ロータ/実機音源識別」「機外騒音推定」「将来機向け技術ロードマップ策定」を主担当として受け持ち、共同で成果をまとめる。SkyDriveは、2025年に開催される大阪・関西万博でのeVTOLの運航実現に向け、開発を進めている。JAXAとの共同研究による成果を基に、騒音源となるローターやシステムの開発を強化していく。【Aviation wire news】

【Aviation Wire提供:JAXA航空機用風洞に設置されたSkydrive社eVTOL機のローター】

3. エアロエッジ、新規事業へ工場新設 LEAP以外のエンジン部品

航空機エンジン部品の製造・販売などを手掛けるAeroEdge(エアロエッジ、7409)は、新規事業を展開する第2工場を栃木・足利市にある本社工場敷地内で着工した。現在はエアバスA320neoファミリーとボーイング737 MAXファミリー向けに搭載するCFM製エンジン「LEAP」の部品製造を手掛けているが、新工場ではLEAP以外のエンジン部品を製造する。新工場への設備投資は、2024年6月の完了を目指す。新工場の地鎮祭を9月1日に開催し、工事の安全を祈願。同社の森西淳社長ら関係者のほか、栃木県の天利和紀副知事や足利市の早川尚秀市長らも参列した。【Aviation wire news】

4. H-IIAロケット47号機が打ち上げに成功、JAXAの宇宙望遠鏡と月着陸機を搭載

三菱重工業と宇宙航空研究開発機構(JAXA)は2023年9月7日8時42分11秒、JAXAの「X線分光撮像衛星(XRISM)」および「小型月着陸実証機(SLIM)」を搭載したH-IIAロケット47号機の打ち上げを鹿児島県の種子島にある種子島宇宙センターにて行った。今回の打ち上げは、2023年3月に行ったH3ロケット初号機の打ち上げに失敗してからの、日本としてのロケット再開フライトとなる。H3ロケット初号機で問題となった第2段はH-IIAとも共通部分が多く、共通する部分への対策を施すことで今回の打ち上げ実施となった。そうした意味では、次のH3ロケットの打ち上げ成功に向けた一手という意味合いも含まれている。なお、打ち上げ約14分後にはXRISMを高度550kmの円軌道に投入するための分離に成功。この後、第2段エンジンの2回目の燃焼を行い、打ち上げ後約47分にSLIMを分離し、遠地点約10万km、近地点約600kmの長楕円軌道に投入する予定となっている。XRISMは、X線天文衛星「ひとみ」(ASTRO-H)という位置づけで、ひとみで起こった事故に対する対策などが施されている。一方のSLIMは月への高精度着陸技術の実証を目指した実証機。2台の小型ローバー「LEV」を搭載しており、その内の1台(LEV-2)がタカラトミーなどが開発した「SORA-Q」となる。SORA-Qは量産バージョンとなる「SORA-Q Flagship Model」が9月2日に発売されたばかりとなっており、月に向かったSORA-Qとほぼ同じ仕様の機体で遊ぶことが可能となっている。【マイナビニュース】

【マイナビニュース提供:打上げに成功した月面探査機を搭載したH-IIAロケット47号機】