KIT航空宇宙ニュース2024WK22

京都大学(京大)と住友林業が2020年4月より取り組んできた「宇宙木材プロジェクト(LignoStella Project)」で開発してきた、一辺が100mm角の木材製キューブサット「LignoSat」の1号機
KIT航空宇宙ニュース

KIT航空宇宙ニュース2024WK22

海外のニュース

1.FAA、737MAXの増産認めず ボーイングやスピリット監視強化継続

FAA(米国連邦航空局)は現地時間5月30日、ボーイングに対して小型機737 MAXの増産を認めない方針を継続すると伝えた。今年1月に米ポートランドで起きたアラスカ航空が運航するボーイング737-9(737 MAX 9)のドアプラグ脱落事故を受け、FAAはボーイングやサプライヤーのスピリット・エアロシステムズへの監視を強化しており、安全検査官の増員をはじめ、製造工程の重要箇所での追加検査や製造工程の監査などを続ける。FAAのマイケル・ウィテカー長官は30日、「1月5日の事故発生直後、FAAはボーイングに対する監視を強化するために前例のない措置をとった。この90日間で、施設での安全検査官の増員から増産停止まで、あらゆることを実施した。本日、我々はボーイングが新たな安全基準を設定するためのロードマップを検討し、是正措置を実施して、安全文化を効果的に変革する必要があることを強調した」との声明を発表した。ウィテカー長官は30日朝、ボーイングのデビッド・カルフーン社長兼CEO(最高経営責任者)らと約3時間会談し、安全対策の実効性を確保するための次のステップについて話し合った。FAAはボーイングに対し、完了した措置の詳細な最新情報と、同社が今後実施予定の中長期的な措置の報告として、1)従業員の安全報告を含む安全管理システムの強化、2)プロセスと手順の簡素化、作業指示の明確化、3)サプライヤーの監督強化、4)従業員教育とコミュニケーションの強化、5)生産システムの内部監査の強化を求めている。FAAとボーイングの幹部は毎週会合を持ち、進捗状況を毎月レビューするという。また、ボーイングとスピリットへの監視強化としては、1)両社施設での安全検査官の増員、2)変更の効果を測定するため、従業員との対話を増やす、3)製造工程の重要箇所に対する追加検査と製造工程の監査、4)品質システムマトリクスの監視による懸念事項の特定を実施する。【Aviation wire news】

2.  火星ヘリコプター「インジェニュイティ」の冒険は続く

火星の空を舞い、地球以外の惑星で初めて飛んだ航空機となった小型ヘリコプター「インジェニュイティ(Ingenuity)」。2021年4月から今年1月まで、当初の計画を大きく超える、通算72回の飛行を行い、累計で17kmも移動するなど、歴史的な成果を残した。この活躍により、火星探査においてヘリコプターが活用できることが実証された。そして、将来的により本格的な火星ヘリコプターを送り込み、これまでにない探査活動を行うことができる可能性も出てきた。インジェニュイティ(Ingenuity)は、米国航空宇宙局(NASA)ジェット推進研究所(JPL)が開発した小型の無人ヘリコプターで、火星の空を飛ぶ技術の実証を目的としている。これまで、地球以外の天体の空を動力飛行した例はなかった。金星の空を気球で飛んだり、土星の衛星にパラシュートで降下したりといった例はあるが、動力飛行する航空機はインジェニュイティが史上初だった。インジェニュイティとは「創意工夫」や「発明の才」といった意味をもつ。その名前のとおり、火星の空を飛ぶために多くの創意工夫が凝らされている。火星でヘリコプターを飛ばそうとした際、最も大きな障害となるのが大気の薄さである。火星の大気圧は、地上付近ですら地球の約1%で、高度30kmに相当する薄さしかない。そこで、インジェニュイティは質量1.8kgのティッシュ箱ほどの小さな胴体に、直径約1.2mの大きな二重反転ローターを装備し、地球のヘリコプターの何倍も速い毎分約2400回転で回るようになっている。また、極寒の火星の夜を耐えるために、多くの火星探査機はプルトニウム238(放射性同位体)を使うヒーターを搭載しているが、質量が大きく高価でもあることから、インジェニュイティは普通の電熱ヒーターを装備している。電力はローターのさらに上に装備した太陽電池でまかなっており、約350Wの電力を供給する。少ない電力でローターやヒーターを動かすため、電源系は高い効率で動くよう造られている。さらに、火星と地球との間は遠く離れており、電波が届くのに片道5~20分ほどもかかるため、ラジコンヘリのように地上から操縦することはできない。そこで、インジェニュイティ自身が、カメラから得た画像をコンピューターで処理することで、完全に自律して飛行できるようになっている。また、地球との直接通信もできないため、通信は火星探査車「パーサヴィアランス」を介して行う。コンピューターにはQualcomm Snapdragon 801とArm Cortexを使い、OSもLinuxベースのものが使われており、こうした既製品、民生品が火星でも使えるかどうかという試験も兼ねている。目的はあくまで技術実証であり、簡単なカメラを積んでいるだけで、科学観測を行うための機器は積んでいない。インジェニュイティは2020年7月に、パーサヴィアランスに搭載された状態で地球を飛び立った。そして、2021年2月に火星のイェゼロ・クレーター(Jezero Crater)に到着した。その後、パーサヴィアランスによって飛行に適した場所へと運ばれ、4月3日に分離され、火星の地表に降り立った。【マイナビニュース】

【NASA提供:パーサヴィアランスの自撮りと、写り込んだインジェニュイティ】

3. エレクトラは、ゴールドフィンチのデモンストレーターによる初の有人「超短距離」離着陸のビデオを公開した。

バージニア州に拠点を置く航空機開発会社エレクトラ社は、EL-2 ゴールドフィンチ実証機による「超短距離」離陸のビデオで、ハイブリッド電気短距離離着陸機(eSTOL)の性能を実証した。 5月29日にソーシャルメディアで共有されたこの動画には、「ブローンリフト」機が300フィート未満で離陸し、低速で進入する様子が映っている。エレクトラ社によると、同機は25ノット(時速46キロ)という低速で着陸したこともあるという。 ビデオで紹介されている飛行は5月16日に行われた。テストパイロットのコーディ・アリー氏は、4月から5月にかけて、バージニア州のマナサス地域空港とウォーレントン・フォーキエ空港で2人乗りのデモ機を飛行させた。この飛行試験中、同機はわずか170フィートの滑走路から離陸し、115フィート未満の地上滑走で着陸した。 この新興企業は、自社の設計により駐車場やサッカー場ほどのスペースでの離着陸が可能になると長らく宣伝してきた。昨年6月のパリ航空ショーで公開された2人乗りのゴールドフィンチは、「分散型電気推進とハイブリッド電気推進システムを使用した世界初のブローアップ航空機であり、この航空機は8つの電気モーターを使用して翼の揚力を大幅に増加させ、超短距離の離着陸を可能にしています。」とエレクトラ社は当時述べた。【Flightglobal news】

【エレクトラ社提供:有人飛行テスト中の「ゴールド・フィンチ実証機」】

日本のニュース

1. 横田の軍民共用化、首都圏空港の容量拡大を 全地航、国に要望書

空港がある都道府県などで構成する全国地域航空システム推進協議会(全地航、会長:鈴木直道・北海道知事)は5月30日、地域航空の安定的な路線の維持を目的とした要望書を国土交通省航空局(JCAB)の平岡茂哲局長宛に提出した。航空需要を地方に波及させるための路線の維持・活性化や、空港業務に従事する人材の安定的確保への支援などを要望し、コロナ後の地域航空を持続させたい考え。要望書では、コロナ後の持続可能な地域航空の実現や混雑空港との関係性、路線維持、震災や災害を踏まえた空港機能の強化などを求めた。地方路線の維持・活性化では、JCABが発着枠を配分する羽田空港の「政策コンテスト枠」を活用した地域航空網の拡充や、訪日客向けの割安な国内線運賃を全世界に向け認知度向上を進めるなど、地方路線へのインバウンド需要の誘引を図ることを要望した。首都圏空港を地域航空にも対応できる空港として整備し、発着容量拡大を実現するようにも要望。100席以下の小型機向け発着枠の導入のほか、横田飛行場(東京・福生市)の軍民共用化を含め、首都圏全体の空港容量拡大を検討するよう求めた。「混雑空港」に指定されている福岡空港は、小型機を使用する地域航空会社が不利益にならないようなスロット(発着枠)配分とすることを要望。悪天候など他路線での機材繰りによる欠航や、重整備期間の計画欠航など「止むを得ない事象」(全地航)は次年度以降のスロット調整への免責対象とすることを求めた。また、グランドハンドリング(グラハン)や保安検査など空港業務の人材確保が急務となっているいることから、難しいとの課題に直面していることから、空港受入環境整備の支援を地域航空会社にも拡充するなど、人材の安定的確保への支援を要望した。このほか、離島路線の維持・確保への予算確保、離島を除く地域路線維持・発展への助成制度の新設、震災・災害を踏まえた空港機能の強化なども求めた。全地航は1983年設立。空港を持つ40の都道府県や17の市町村、航空会社や業界団体など21の賛助会員で構成している。【Aviation wire news】

2.  ANA、総合職の採用説明会8-9月開催 社員と交流や業務体験も

ANAホールディングス傘下の全日本空輸は5月28日、グローバルスタッフ職(総合職)の学生向け採用説明会「ANAグローバルスタッフ職Summer Event」を8月から9月にかけて開催する。対面とオンラインの回を設け、社員との交流や業務体験の場を設ける。応募は7月12日まで。対象は4年制大学の3年と4年、大学院の修士課程1年と2年、高等専門学校専攻科に在籍中の人で、学部学科は不問。イベントは3つのプログラムを設け、5つのセグメント別コース(オペレーション、ビジネス・マーケティング、コーポレート、整備技術、運航技術)と2つの専門コース(IT・データ、経理・財務・IR)に沿った内容を用意する。オペレーション、コーポレート、経理・財務・IRに関しては、航空会社のオペレーションを理解するプログラム「Feel the Operation Program」を用意。ビジネス・マーケティング、IT・データは、エアラインビジネスのエアラインビジネスの収益最大化と顧客視点を身に着ける「Create the Business Program」、整備技術、運航技術は整備技術および運航技術の幅広い業務領域と仕事のやりがいを体感する「Experience the Engineer Program」を開く。実施時期は、Feel the Operation Programが8月6日と20日、29日、9月3日で、オンラインは8月6日、その他は東京で対面開催。Create the Business Programは、8月8日と23日、27日、9月10日、19日で、オンラインが8月8日と9月10日、その他は東京で対面開催となる。Experience the Engineer Programは、8月7日と9日、22日、28日、30日、9月4日、10日、12日に開催し、オンラインは8月7日と9日、対面は8月22日と28日、30日が東京、9月4日が大阪、9月10日が仙台、9月12日が福岡となる。応募はANAのウェブサイトの採用ページ内にある「ANA Recruiting Runway」からエントリーシートを記入して応募する。応募が多数予想されるため、書類選考を予定しているという。応募期間は5月28日から7月12日午後1時まで。また、今回の説明会とは別に、グローバルスタッフ職、エキスパートスタッフ職、運航乗務職、客室乗務職について説明する合同イベント「ANA Career Event 2026」を実施予定。7月下旬に案内を予定しているという。【Aviation wire news】

3.  ANAグループ、7/6にオンラインセミナー 20社参加

全日本空輸を中核とするANAグループは5月28日、オンライン企業紹介セミナー「ANA GROUP SUMMER OPEN COMPANY 2026」を7月6日に開催すると発表した。グループ20社が参加し、社員が個社説明会などを通じ、業務内容などを紹介する。応募はイベント当日まで受け付ける。対象は7月時点で高校、専門学校、高専、専門学校、短大、大学、大学院の在籍者。午前9時から午後5時30分まで開催する。申し込みはANAグループの採用ページから。参加予定社は、ANA、ANAウイングス、ピーチ・アビエーションなど。ANA本体は全体講演のみ登壇する。【Aviation wire news】

4.  国交省、JALに厳重注意 平岡局長「教訓生かされていない」

国土交通省は5月27日、安全上のトラブルが相次ぐ日本航空(JAL/JL、9201)に対し、行政指導にあたる「厳重注意」を行った。航空局(JCAB)の平岡成哲局長が、国交省を訪れたJALの鳥取三津子社長に厳重注意の文書を手渡し、再発防止策を6月11日までに提出するよう求めた。平岡局長は「安全上のトラブルが相次いで発生している。航空業界に携わる関係者が、一丸となって航空輸送の安全確保に取り組んでいる中で発生しているものもあること、類似事案の教訓が生かされていないものもあるなど、安全管理システムが社内全体に有効に機能しているとは言えない。こうしたことは、航空輸送の安全への社会的な信頼にも大きく影響を及ぼしかねない。経営トップが率先して、さらなる安全性向上に取り組むよう厳重に注意する」とする文書を鳥取社長に手渡した。国交省が厳重注意としたのは、今年1月2日に羽田空港で発生した札幌(新千歳)発JL516便(エアバスA350-900型機)と海上保安庁機(ボンバルディアDHC-8-Q300)の衝突事故を除く、5件の安全上のトラブル。いずれも航空法上の「航空事故」や「重大インシデント」には該当しないものの、「安全上のトラブル」と分類される「その他の航空機の正常な運航に安全上の支障を及ぼす事態」に該当する事案が相次いでいることを問題視した。「航空事故」「重大インシデント」「安全上のトラブル」は、航空法に基づいて航空会社などが航空局へ報告する対象になる。1件目は、現地時間2023年11月5日に米シアトル・タコマ国際空港で発生した管制許可を得ずに滑走路を横断した事案。2件目は、今年2月6日に米サンディエゴ国際空港で起きた異なる誘導路へ誤進入し、管制許可を受けずに滑走路手前の停止線を越えたことで他社機が着陸復行(ゴーアラウンド)した事案。2件のトラブルを受け、航空局は2月13日に抜き打ちで実施する「随時監査」を実施している(関連記事1)。3件目は、4月22日に米ダラスに滞在中の機長が過度な飲酒で騒ぎ警察官が出動し、24日の乗務予定便に乗務できず欠航した事案。航空局によると、運航規定への違反には至らなかったが、飲酒に対する自己管理が徹底されておらず、同席したほかの運航乗務員などから相互確認が行われていなかった、としている(関連記事2)。4件目は、5月10日に福岡空港でJALグループのジェイエアが運航する松山行きJL3595便(エンブラエル170型機)が離陸滑走中、JALの羽田行きJL312便(ボーイング787-8型機)が滑走路手前の停止線を越え、管制官の指示でJL3595便が離陸を中止した事案となる。5件目が23日に羽田空港で発生した、出発のため16番スポットをプッシュバック中の札幌行きJL503便(A350-900)の左主翼端と、隣の17番スポットへ牽引車で牽引されてきた札幌行きJL505便に使う同型機(A350-900)の右主翼端が接触した事案だった。23日の接触トラブルを受け、航空局はJALに対する臨時監査を24日と27日に実施している。【Aviation wire news】

5.  JALと横浜市、SAF用廃食油の回収本格化 スーパーにボックス常設

日本航空と横浜市、ダイエー(東京・江東区)の3者は5月31日、家庭から出る廃食油の本格回収を始めると発表した。代替航空燃料「SAF(サフ、持続可能な航空燃料)」の原料に廃食油を活用する取り組みで、スーパー店舗に回収ボックスを常設する。JALと市の2者はSAF製造の連携協定を締結しており、官民一体で廃食用油の回収量拡大を目指す。ダイエーが運営するイオンフードスタイル鴨居店(横浜・緑区)の店舗内に、6月5日から回収ボックスを常設し、家庭から出た廃食油を流し込んで回収する。回収時間は午前8時から午後11時までで、店舗の営業時間に準ずる。廃食油はペットボトルなどで持ち込むこともできるが、リサイクルできなくなるため、専用の回収ボトルの利用を推奨する。回収対象となる廃油は植物性のもので、サラダ油やごま油、オリーブオイルなど、常温で液体のもの。マーガリンやショートニングなど常温で固形のものや灯油などの鉱物系、バターやラードなどの動物性、ラー油やネギ油など食品や香辛料が混ざったものは回収しない。また、飲食店から出る事業系廃油も対象外となる。3者は鴨居店に回収ボックスを試験的に設置し、廃食油を回収してきた。今回、同店舗で持続的に回収できると判断し、常設を決めた。今後は横浜市内のイオンフードスタイル他店舗にも設置し、7月1日から三ツ境店(瀬谷区)で、同月22日から港南台店(港南区)でも始める。廃食用油などを原料とするSAFは、現在使われている化石由来の航空燃料と比べ、CO2(二酸化炭素)排出量を大幅に削減できる。JALはANAホールディングス傘下の全日本空輸や日揮ホールディングスらと、有志団体「ACT FOR SKY(アクトフォースカイ)」を2022年3月2日に設立。国産SAFの導入・普及へ取り組んでいる。【Aviation wire news】

【Yahooニュース提供:イオンフードスタイル店舗に設置された食用排油回収ボックス】

6.  IHIエアロスペースと兼松、Sierra Spaceに宇宙ステーション用ドッキング機構を提供へ

IHIエアロスペースと兼松は5月31日、商用宇宙ステーションの開発を進める米Sierra Spaceに、「パッシブドッキング機構」を提供することで合意したことを発表した。パッシブドッキング機構は、Sierra Spaceが開発する宇宙往還機「Dream Chaser」などをはじめとした宇宙機が、宇宙ステーションと確実で安全なドッキングを実現するために宇宙ステーションに搭載される重要な機器。IHIエアロスペースでは、ドッキング機構の国際標準であるIDSS(International Docking System Standard)に準拠しつつ、シンプルかつ高い汎用性、高い信頼性を提供することを目指したパッシブドッキング機構の開発を進めているという。今回の提供合意は、重要なマイルストーンである基本設計が完了したことを受けて交わされたもので、これによりSierra Spaceが兼松からパッシブドッキング機構の提供およびサポートを受けるほか、今後、詳細設計に向けて3社で協力して開発を行っていくことが計画されているという。なお、IHIエアロスペースでは、2021年より宇宙航空研究開発機構(JAXA)と共同でアクティブドッキング機構の開発にも取り組んでおり、こうしたアクティブおよびパッシブのドッキング機構が、今後の地球低軌道活動に加えてアルテミス計画における宇宙探査を支える重要な技術となることが期待されるという。【マイナビニュース】

【IHIエアロスペース提供:Sierra Spaceが開発を行う宇宙往還機「Dream Chaser」および宇宙ステーションのイメージ(左)とIHIエアロスペースが開発を進めているパッシブドッキング機構の3Dモデル(右)】

7.  京大と住友林業が開発した世界初“木造”人工衛星は2024年9月打ち上げへ

京都大学(京大)と住友林業は5月28日、両者が2020年4月より取り組んできた「宇宙木材プロジェクト(LignoStella Project)」で開発してきた、一辺が100mm角の木材製キューブサット「LignoSat」の1号機が完成し、米国航空宇宙局(NASA)/宇宙航空研究開発機構(JAXA)の安全審査を無事通過して宇宙での木材活用が世界で初めて公式に認められ、6月4日にJAXAへと引き渡すことを発表した。スペースデブリの数は、毎年のように右肩上がりで急増している。このまま何の対処もしないでいると、デブリが人工衛星や国際宇宙ステーション(ISS)、または別のデブリなどと衝突し、そこで新たなデブリを発生させ、それを延々と繰り返す連鎖(ケスラーシンドローム)に突入しうる。そして最終的には軌道上がデブリで覆われ、ロケットを打ち上げたり人工衛星を運用したりすることが困難な状態となってしまうことが懸念されている。現在の国際ルールでは、役目を終えた小型の人工衛星は、デブリとならないように軌道を離脱させて大気圏に再突入させ、燃焼させることになっている。しかし、その方法でデブリが増える危険性は減らせるものの、実は新たな問題が懸念されている。従来のような金属製の衛星では、燃焼の際に微粒子の「アルミナ粒子」が発生し、地球の気候や通信に悪影響を及ぼす可能性があるのだ。そこで考えられている1つのアイデアが、人工衛星で使用する金属を減らし、木材に置き換えるというものだ。この手法であれば、大気圏再突入時の物体前面で空気が猛烈に圧縮されることによる高熱(再突入した物体と大気との摩擦熱という考えは間違い)で燃え尽きるため、将来的に木造の人工衛星が増えていけば、アルミナ粒子による影響の低減が期待できることになる。その実現に向け開発されたLignoSat1号機の実機(フライトモデル)では、各種物性試験の結果から、宇宙でも安定して使用できる樹種として「ホオノキ材」が木材として選定された。同衛星には住友林業紋別社有林で伐採されたホオノキが使用されており、構体の構造はネジや接着剤を一切使わずに精緻かつ強固に組み上げる「留形隠し蟻組接ぎ(とめがたかくしありくみつぎ)」と呼ばれる、日本古来の伝統的技法が採用されている。LignoSat1号機は、JAXAに6月に引き渡された後、2024年9月に米国フロリダ州のケネディ宇宙センターから、スペースXのロケットに搭載されてISSまで移送されることになる。そしておよそ1か月後に「きぼう」より宇宙空間に放出され、同年11月には宇宙空間での運用がスタートする予定だ。「きぼう」からの放出後は、木造構体のひずみ、内部温度分布、地磁気、ソフトエラーなどを測定し、京大構内に設置された通信局にデータが送信される見込み。その後1号機から得られる各種データの分析を進め、2号機の開発に活かされることになる。【マイナビニュース】

【住友林業提供:完成した木造人工衛星のLignoSat1号機のフライトモデル】