KIT航空宇宙ニュース2024WK32

ANAの777フライトシミュレーターでCRM訓練を受ける宇宙飛行士候補者米田あゆさん(手前)と諏訪理(すわ・まこと)さん
KIT航空宇宙ニュース

KIT航空宇宙ニュース2024WK32

海外のニュース

1.デルタ航空、クラウドストライクとMSに5億ドル請求検討

デルタ航空は現地時間8月8日、7月に起きた大規模システム障害について、クラウドストライク(CrowdStrike)とマイクロソフトの2社に対し、少なくとも5億ドル(約734億円)の損害賠償を求める法的措置を検討していることを明らかにした。デルタが米国証券取引委員会(SEC)に提出した資料によると、7月19日に発生したクラウドストライクのシステム障害により、5日間に約7000便が欠航したという。システム障害による7-9月期の直接的な収益への影響は、主に欠航便の払い戻しや現金とマイルによる顧客補償により、3億8000万ドルと推定。運航停止やその後の運航再開に関連する燃料費以外の費用は、主に顧客への費用弁済や乗務員関連の費用がかかったことで、推定1億7000万ドルとしている。7000便の欠航で、燃料費は5000万ドル減少すると推定した。【Aviation wire news】

【産経新聞提供:羽田空港チェックインカウンターでの混乱の様子】

2.ボーイングの新型宇宙船「スターライナー」、帰還が大幅遅れ

今年6月に国際宇宙ステーション(ISS)へ向けて飛び立った、ボーイングの新型宇宙船「スターライナー」の、地球への帰還が大幅に遅れている。打ち上げ直後から問題が相次ぎ、当初の8日間という予定を大幅に超えてISSに滞在し続けており、帰還日の見通しも立っていない。いったいなにが起きたのか。そして、無事に地球に帰還することはできるのだろうか。宇宙船には、NASAのバリー・ウィルモア宇宙飛行士(コマンダー)と、サニータ・ウィリアムズ宇宙飛行士(パイロット)の2人が搭乗し、ISSへのドッキングも含め、計8日間のミッションとなるはずだった。しかし、打ち上げ直後に、スターライナーの推進システムでヘリウム漏れが発生した。ヘリウム漏れは打ち上げ前にも起き、問題ないとして打ち上げられたものの、さらに別の箇所から漏れ出した。NASAとボーイングは、調査した結果、大きな影響はないとしてミッションを続行した。ところが、ISSへのドッキング直前には、宇宙船にある28基の姿勢制御用スラスターのうち5基が使用不能になる事態が発生した。NASAとボーイングは対処にあたり、ひとまず解決のめどが立ったことでミッションは続行され、6月7日にISSへのドッキングに成功した。しかし、ドッキング後、さらにヘリウム漏れの箇所が増え、また、スラスターの問題も完全な原因の特定には至らなかった。なお、ヘリウム漏れとスラスターの問題との間には、直接の関係はなく、それぞれ独立した問題であると考えられている。このため、NASAとボーイングは原因究明や対応策の検討をさらに進めるとし、当初8日間の予定だったミッションも延長され、帰還は6月中旬になるとされた。その後、ISSにドッキング中のスターライナーのスラスターを噴射する試験が行われるなどし、問題の調査が進められたが、6月18日には帰還の目標日を6月下旬へ延期することが発表された。このとき、NASAの担当者は、「スターライナーが2人の宇宙飛行士を乗せて帰還できることに自信を持っている」と語ったが、その後も調査は終わらず、さらに帰還は先延ばしされることになった。当初は8日間、また長くとも45日間が予定されていたミッションだが、7月が過ぎ、そして打ち上げから約2か月が経過したいまなお、NASAとボーイングは具体的な帰還の目標日さえ発表していない状況となっている。【マイナビニュース】

【マイナビニュース提供:ISSにドッキングした「スターライナー」】

日本のニュース

1.日本空港ビル、放射冷却素材「Radi-Cool」販売拡大 ホテル・病院など他業種にも

羽田空港のターミナルなどを運営する日本空港ビルデングは、販売代理店を務める放射冷却素材「Radi-Cool(ラディクール)」の販売を拡大している。直射日光を反射して室内の熱を放射する、放射冷却の原理を応用した世界初の技術で、空港のほかホテルや病院など、他業種への展開も強化する。ラディクールはラディクール ジャパン社(東京・中央区)が開発。太陽光を反射し、自然現象の熱放射を用いて室内の熱も放射することで、エネルギーを使わずに室温を下げられる。フィルムと塗料の2種類あり、屋根やガラス面などで活用する。空ビルは2020年に、ラディクール ジャパン社と提携を開始。夏場に熱がこもるPBB(搭乗橋)や駐車場の連絡通路などで検証したところ、室温が約4度から5度ほど下がり、空港利用者の快適性向上と、空調負荷の省エネ対策につながった。現在は羽田のほか、中部や新千歳、関西、那覇など、国内の各空港で導入が進んでいる。空港のほか、通信会社のキュービクル(高圧受変電設備)やホテル、病院、学校、飲食店など各施設へ施工した。【Aviation wire news】

【Aviation wire提供:熱放射による放射冷却の原理】

2.ANA、777シミュレーターで宇宙飛行士候補者のCRM訓練 JAXAから受託

全日本空輸を傘下に持つANAホールディングスは8月5日、JAXA(宇宙航空研究開発機構)の日本人宇宙飛行士候補者を対象とした基礎訓練の一つである「心理支援プログラム」の実施企業に選定されたと発表した。5日は候補者に選抜された米田あゆさんと諏訪理(すわ・まこと)さんの2人が、羽田空港近くの総合訓練施設「ANA Blue Base(ABB、ANAブルーベース)」で、ボーイング777型機のフルフライトシミュレーターを使った訓練に取り組む様子を報道関係者に公開した。JAXAの基礎訓練は2年程度行われ、宇宙飛行士候補者は訓練終了後に審査委員会で認定されると宇宙飛行士になれる。JAXAによると、米田さんと諏訪さんは訓練が若干早めに進んでいるといい、10月にも認定審査が行われる見通し。JAXAが国内で基礎訓練を実施するのは今回が2回目で、前回は25年前だったという。ANAがJAXAから受託した心理支援プログラムは、国際宇宙ステーション滞在を含む長期ミッションに携わる宇宙飛行士に求められる行動特性の8つの要素「HBP-8(Human Behavior and Performance-8)」を構成する「自己管理」「チームワークと集団行動」「コミュニケーション」「リーダーシップ」「不協和対応」「状況認識」「意思決定と問題解決」を向上させるもの。ANAが提供するプログラムは、CRM(クルーリソースマネジメント)訓練、異文化適応教育、英語訓練を組み合わせたもので、5月8日から9月27日までの期間中、CRM訓練を24日間、異文化と英語を合わせて2日間の計26日間実施する。【Aviation wire news】

【Aviation wire提供:ANAの777フライトシミュレーターでCRM訓練を受ける宇宙飛行士候補者米田あゆさんと諏訪理(すわ・まこと)さん】

3.JAL、CA・地上係員志望者向けスクール 10月からレギュラー講座

日本航空は8月5日、現役の客室乗務員(CA)などが講師を務める「JALエアラインスクール」のレギュラー講座を10月から東京と大阪で開講すると発表した。レギュラー講座は、大学などに通いながら受講可能なダブルスクール形式で実施。客室乗務員コースとグランドスタッフコースを用意し、基礎から応用の内容を3カ月かけて学ぶ。対象は18歳以上で客室乗務員やグランドスタッフを目指している人。2コースとも航空業界の現状やJALの取り組みなどを学ぶほか、自己分析や面接個別指導などの就職活動に必要なスキルを習得できるとしている。講座はいずれも10月から12月までの期間中に週1日で、定員は各日程15人から20人程度となる。料金は客室乗務員・グランドスタッフコースともに東京会場が34万6500円、客室乗務員コースの大阪会場は29万1500円。東京会場のみ研修施設などの見学や体験などができる。申し込みは同スクールのウェブサイトで受け付けており、定員になり次第終了する。また、9月1日までに申し込みの場合、人数限定で10%割り引く。【Aviation wire news】

【Yahooニュース提供:昨年開催されたCA・地上係員志望者向けスクールの様子】

4.阪大など、スターリンク衛星を利用した遠隔ロボット手術の実証実験に成功

徳洲会(徳洲会グループ)、大阪大学(阪大)、リバーフィールドの3者は、大阪府八尾市の八尾徳洲会総合病院において2024年6月30日に、低軌道衛星通信を用いた移動型遠隔手術システムの実証実験を実施したことを共同で発表した。日本の地方部では深刻な医師不足が続いており、高度医療へのアクセスが困難な状況にある。そこで現在、この問題を解決するための切り札として期待されているのが、遠隔手術システムだ。しかし、通信インフラの整備にかかるコストや災害時のシステムの脆弱性が課題となっていたという。そうした中で近年、ロボット制御技術や低軌道衛星通信技術が急速な発展を見せており、低コストで強靭な遠隔医療システムが実現しつつあるとする。今回の実証実験では、リバーフィールドが開発した手術支援ロボット「Saroaサージカルシステム」を、八尾徳洲会総合病院の手術室内にサージョンコンソール(操作側)、屋外に配置したトラック内にペイシェントカート(患者側)を配置。そして低軌道衛星通信には、スペースXの「スターリンク」のサービスが利用された。また、接続のフレキシビリティを確保するため、クラウド上に中継用VPNサーバが設置された。実験には6名の外科医が参加し、通常のロボット手術構成と遠隔のロボット手術構成での比較を実施。臓器の弾力性を再現したトレーニング用モデルを用いて、縫合・結紮(けっさつ)などの手技(傷口を縫い合わせたり、糸を結んで固定したりする作業のこと)が行われた。なお、Saroaサージカルシステムは2023年5月に日本国内にて薬事承認を取得したが、衛星通信やその他の通信を用いた地理的に離れた施設間での遠隔手術は、薬事承認範囲に含まれていないことから、今回の実証には専用機が用いられたとする。そして実験に参加した医師6名全員から、遠隔のロボット手術構成においても、通常のロボット手術時と同様に、縫合や結紮などの繊細な手技が可能であることが確認されたとのこと。さらに、フルHD画質、4Mbpsの滑らかな映像伝送にも成功したとする。また中継用VPNサーバーにより、固定IPアドレスのない環境でも安定した接続性の確保が確認されたとした。【マイナビニュース】

【マイナビニュース提供:スターリンク衛星を使った遠隔手術の仕組み】