KIT航空宇宙ニュース2025WK37

水を推進剤とする、手のひらサイズの「水イオンエンジン」(PBI)
KIT航空宇宙ニュース

KIT航空宇宙ニュース2025WK37

海外のニュース

1. 737-7と-10、26年内に認証取得へ オルトバーグCEO、年内増産も言及

ボーイングのケリー・オルトバーグ会長兼CEO(最高経営責任者)は、小型機737 MAXのうち開発中の737-7(737 MAX 7)と737-10(737 MAX 10)の「型式証明(TC)」取得について、2026年中の取得を目指して順調に推移しているとの見方を示した。2機種のうち、737-7は2026年1-3月期(第1四半期)の認証取得と納入開始を計画。オルトバーグ氏は、モルガン・スタンレー証券が現地時間9月11日に開いた投資家向け会議で、「認証設計や必要な作業の整理を進めており、来年中の認証取得と引き渡しを計画している」と、両機種の進捗状況に言及した。737-7で問題となっているエンジン防氷(EAI: Engine Anti-Ice)システムの設計変更については、FAA(米国連邦航空局)との協議が進行中であり、認証に向けた手続きを進めているという。両機種について、「時間がかかったのは残念だが、今では堅牢な設計ができている。将来の計画の基礎として、自信を持って進められる」と語った。日本国内では、737-10はスカイマークが発注しているが、737-7を発注した航空会社はない。【Aviation wire news】

【Yahooニュース提供:737MAX-7型機】

2. 777X、初納入さらに遅延 ANAも発注

ボーイングのケリー・オルトバーグ会長兼CEO(最高経営責任者)は現地時間9月11日(日本時間12日未明)、開発中の大型機777-9(777X)の納入開始がさらに遅れるとの見方を示した。これまで2026年6月以降の引き渡し開始を計画していたが、今後の開発状況により、2027年にずれ込む可能性も出てきた。777-300ERとなる777Xは、当初2020年に初納入を予定していたが、開発遅延で納期が遅れ、最新の計画では最初に受領するルフトハンザ ドイツ航空(DLH/LH)へ2026年半ばごろに引き渡す予定だった。オルトバーグ氏は、モルガン・スタンレー証券が11日に開いた投資家向け会議で、「試験飛行で新たな技術的課題は見つかっていないが、認証までにやらなければならない作業が山ほどある」と、777Xの開発状況を説明。すでに6年の納入遅延が生じているが、現在のスケジュールを維持することは困難との見方を示した。【Aviation wire news】

【Yahooニュース提供:777X型機】

3. エアバスは大型機向けのブレンデッドウィング設計に引き続きオープンであり、次期ナローボディ機ではチューブ・アンド・ウィング構造を採用すると発表

エアバスは、次期ナローボディジェット機は従来のチューブ・アンド・ウィング構成になると予想しているが、より大型のジェット機向けに最終的にはブレンデッド・ウィング・ボディ(BWB)設計を採用するという構想を放棄したわけではない。これは欧州航空機メーカーの最高経営責任者ギヨーム・フォーリー氏の発言で、同氏は、エアバスは同社のA320neoジェット機ファミリーほどの大きさの航空機には、管状の胴体と組み合わせた長くて薄い翼が最適だと考えていると述べている。「われわれはブレンデッド・ウィング・ボディを検討し、これが大型機に対して競争力があるという結論に達した」とフォーリー氏は9月9日、ワシントンDCで開催された米国商工会議所の世界航空サミットで述べた。同氏は、エアバスが、水素燃料の旅客機の開発の可能性を評価するために2020年に開始された取り組みであるZEROeプロジェクトの一環として、BWBの設計を研究したと指摘している。そのコンセプトの一つは、航続距離2,000海里(3,704km)で約200人の乗客を運ぶことができるBWBジェット機でした。エアバスは当初、ZEROeプログラムを通じて、2030年代半ばに市場投入することを目指していました。しかし、今年初め、エアバスは水素技術も必要なインフラもすぐには準備できないとして、ZEROeの計画を遅らせ、プロジェクトを最大10年遅らせた。フォーリー氏は現在、抗力を理由に、BWBの翼の厚さは小型航空機には不適切だと述べている。【Flightglobal news】

【エアバス提供:水素燃料BWB航空機】

4. EASA、ボーイング737NG型機への抗力低減フィンの設置を承認

Vortex Control Technologies社は、ボーイング737NG機への空力フィンの搭載に関するFAA追加型式証明について、 欧州航空安全局( EASA )より承認を取得した 。この技術は抗力を低減し、航空機の性能向上に貢献する。VCTフィンレットは、既に米国の複数の航空機で運用されており、今後は欧州登録の737型機およびEASA認証を認める他の国にも搭載可能となる。VCTフィンレットは、航空機後部胴体に設置される特許取得済みの小型空力フィンです。この装置は、気流の調整、抗力の低減、燃費向上によって航空機の性能を向上させ、 航続距離と上昇性能を向上させる。EASAによる認証により、欧州の運航事業者は、米国における長年の試験と運用評価を通じて実証された燃料と二酸化炭素の削減効果の恩恵を受けることができる。EASAの認証は、737-700、800、900ERの各モデルに適用される。【Flightglobal news】

【VCT社提供:737NG機の胴体後部に取付けられたVCTフィン】

日本のニュース

1. ユナイテッド航空UA32便、関空へ緊急着陸 JTSBが13日から調査

9月12日午後7時8分ごろ、ユナイテッド航空の成田発セブ行きUA32便(ボーイング737-800型機)が、関西空港に緊急着陸した。国土交通省航空局(JCAB)によると、乗客乗員142人が乗っていた。航空法が定める「航空事故」につながりかねない「重大インシデント」に認定し、国の運輸安全委員会(JTSB)が調査官2人を派遣して、13日午後から現地調査を始める。UA32便は、成田の第1ターミナル41番ゲートから12日午後5時21分に出発し、A滑走路(RWY34L)から同42分に離陸。高度3万4000フィートで飛行中、貨物室で火災が起きたことを知らせる警報が出たため、午後6時30分すぎに和歌山県串本町沖で右旋回して目的地を関空に変更し、午後7時8分にA滑走路(RWY24L)へ着陸し、隣接する誘導路に停止した。乗客乗員は脱出用シューター(脱出スライド)を使い、緊急脱出した。【Aviation wire news】

【Yahooニュース提供:誘導路上で緊急脱出する乗客】

2. ANA総研、成蹊大と連携協定

ANAホールディングス傘下のANA総合研究所は、成蹊大学と連携に関する基本協定を締結した。教育や研究分野で相互協力し、社会発展と国際的人材の育成を目指す。協定は9月8日に締結。教育・研究・文化の発展や、学生・教職員とANA総研社員との相互交流、人材育成、研究成果の活用、地域社会の活性化など、6項目にわたる内容とした。【Aviation wire news】

【Aviation Wire提供:包括連携協定を締結した成蹊大の森雄一学長(左)とANA総研の矢澤潤子社長】

3. JAL・住商のeVTOL事業会社、大阪府らと連携協定 27年商用運航へ

「空飛ぶクルマ」と呼ばれるeVTOL(電動垂直離着陸機)の国内運航を目指すSoracle(東京・日本橋)は9月10日、大阪・関西地区でのeVTOLビジネス化への連携協定を大阪府と大阪市の両者と締結した。同社は日本航空と住友商事が2024年6月に共同設立した新会社で、3者で連携して2027年中の商用運航開始を視野に入れる。連携協定では、大阪・関西地域でeVTOLの運航ネットワークを形成し、空飛ぶクルマ専用の離着陸場「バーティポート」の整備を含め、観光分野を中心にビジネスモデルを構築していく。また、関連ビジネスの展開支援に加え、救急医療や災害時の活用へ調査・検討を進める。使用する機体は米Archer Aviation(アーチャー・アビエーション)社の5人パイロット1人、乗客4人)乗りeVTOL「Midnight」。大阪・関西地区では2026年に予定する実証運航を経て、商用運航を2027年中に始めたい考え。【Aviation wire news】

【Aviation Wire提供:大阪万博で展示されたJoby Aviation社のeVTOL機「Midnight」】

4. 世界初、水を推進剤に使う衛星用エンジンの軌道上稼働に成功 Pale Blue

水を推進剤とする、手のひらサイズの「水イオンエンジン」(PBI)を宇宙空間で稼働させることに世界で初めて成功したと、Pale Blueが9月10日に発表。人工衛星向けに同社が独自開発したPBIは、すでに量産体制を確立しており、国内外パートナーへの納入を進めている。約10cm四方の1U+というサイズながら、衛星の姿勢や軌道の運動量の総量を示すトータルインパルスが高いのが特徴で、軌道維持をはじめさまざまなミッションに対応可能。複数台を組み合わせたクラスタ化など、幅広いサイズの衛星や多様なニーズにも応えられるとする。噴射までの暖気時間が短く、必要なときにすぐ作動できることも特徴としており、衛星運用におけるサービス中断を最小限に抑え、ミッションの効率を高められるという。推進剤に安全で取り扱いやすい水を使うため、サプライチェーンの複雑さを解消し、開発から運用までの総コストの圧縮にも役立つとしている。なお、同社は電気推進分野で世界最大の学会である「国際電気推進会議」(International Electric Propulsion Conference、会期:9月14~19日)において、今回の水イオンエンジンの実証を含む3本の学会発表を行う予定だ。【マイナビニュース】

【Pale Blue社提供:水イオンエンジン「PBI」】