KIT航空宇宙ニュース2023WK46
海外のニュース
1.エアバス、「ほとんど理解されていない」水素飛行機雲をブルーコンドルグライダーで研究
エアバスのイノベーション部門アップネクストは、水素推進システムによって生成される飛行機雲の研究に使用している改造グライダーを使用して100%水素動力飛行を実施した。 エアバスは11月16日、改良型アーカスJグライダーで、ネバダ州で11月8日に完了したこの飛行は、同社史上初の唯一の燃料源として水素を使用したものであり、飛行試験キャンペーンを開始し、飛行機雲調査ミッションを来年初めに予定している。このプロジェクトは「Blue Condor」と呼ばれている。 このグライダーを使用し、さらに2回の飛行が行われ、そのうちの1回は高度10,000フィートでエンジン始動を伴うものです。「水素は航空機に低炭素運航への道を提供しますが、その燃焼により従来のジェット燃料と同じように飛行機雲が生成されます」とエアバス社は述べている。「しかし、水素飛行機雲は大きく異なります。煤や硫黄酸化物は含まれていませんが、亜酸化窒素と大量の水蒸気(灯油飛行機雲の最大 2.5 倍)を含んでいます。亜酸化窒素と蒸気はどちらも気候に影響を与える排出物とみなされており、航空業界にはそれらに対処する義務がある」と同社は述べている。 ブルーコンドル計画では、高さ30,000フィートの小型水素燃焼エンジンを使用し、その排出量を、並走する2機目の航空機で従来のジェット燃料を燃焼させる同サイズのエンジンの排出量と比較する予定である。【Flightglobal News】
【Airbus提供:水素燃料エンジンに改造されたアーカスJグライダー】
2.エルロイ・エア、シャパラルC1ハイブリッドeVTOL航空機の初飛行を達成
ハイブリッド電動 VTOL 開発者エルロイ・エアは、同社が主張する初のタービン発電機ハイブリッド電動 VTOL 飛行を完了した。このマイルストーンとなる試験飛行は、分散型電気推進システムとタービン発電機・バッテリー構造を備えた自律型リフト・プラス・クルーズ貨物輸送航空機であるシャパラルC1を使用して、カリフォルニア州バイロンにある同社の施設で11月12日に実施された。エルロイは、自社の航空機が商業航空輸送、人道支援、軍事兵站に使用されることを意図しており、すでにメサ航空、AYRロジスティックス、LCI、ブリストウ、フェデックスとのパートナーシップを確保している。エルロイはまた、米空軍と3つの有効な契約を結んでおり、車両の受注残は将来の収益として30億ドルを超えると述べた。【Flightglobal news】
【エルロイ・エア提供:タービン発電機ハイブリッド電動eVTOL機】
3.スペインの航空会社、電動航空機の運航に取り組む
スペインの地域航空会社エア・ノストラムは、ダブテイル・エレクトリック・アビエーションから電気推進改造キット10個を購入することを約束しまた。両社は11月15日のドバイ航空ショーでこの合意を発表したが、どの航空機がバッテリーまたは水素電力に転換されるかはまだ特定していない。2022年12月、エア・ノストラムと別のスペインの航空会社ボロテアは、ダブテイルの親会社ダンテ・エアロノーティカルの少数株式を取得した。ダンテ・エアロノーティカルは、セスナ・キャラバン、DHCツイン・オッター、ビーチクラフト・キング・エアなどの既存のターボプロップ航空機の電気推進変換機の販売に取り組んでいる。エア・ノストラム(Air Nostrum)は Iberiaグループの一員であり、その現在の保有機には CRJシリーズのリージョナルジェット機や ATR72ツイン・ターボプロップ機が含まれている。オーストラリアに本拠を置くダブテイル(Dovetail)社は今後、エア・ノストラムと協力して、電動航空機を配備できる最適な計画ルートを定義する予定である。同社は、2025年後半か2026年初頭に改造されたバッテリー電気航空機のSTC(追加型式証明)を取得することを目指しており、長期的には水素電気キットを開発する予定である。スペインに拠点を置くダンテ・エアロノーティカル(Dante Aeronautical)は、DAX-19 と呼ばれる新しいハイブリッド電動19席リージョナル旅客機の開発を目的に2018年に設立された。その後、このプロジェクトの開始を2029年に延期し、2033年に型式証明を取得することを目標としている。【Aviation International News】
【AIN提供:手前がDante社が開発中のDAX-19、後方2機が電動に改造されたツインオッター機(左)とATR72型機(右)】
4.GE9Xエンジンの先進技術の裏側
世界最大かつ最も強力な認定民間航空機エンジンである GE9X は、推力ポンド当たりに製造された GE エアロスペースの最も効率的なエンジンでもある。高度な技術を組み込んだ GE9X エンジンは、従来のエンジンと比べて燃料効率が最大 10%向上し、窒素酸化物(NOx)の排出量が現在の規制要件を55%削減するように設計されている。新技術の採用の一例として、セラミックマトリックス複合材料(CMC)の採用がある。CMCは炭化ケイ素、セラミック繊維、セラミック樹脂でできており、金属の3分の1の重量で 2倍の強度を備えている。また、耐熱性にも優れている。これは、錬鉄を溶かすのに十分な高温で燃料が点火されるエンジンの中心部において、非常に重要な利点です。燃焼が高温であればあるほど、燃料の燃焼効率は高くなるが、温度が華氏2,000度(約摂氏1100度)を超えると、最も強力な金属合金でも軟化し始める。CMCは高温に耐えられるため、必要な冷却空気流量が従来の部品の半分以下となり、多くの燃料を燃焼させて追加の推力を生成できる。ハイテク分析に基づいて、コンプレッサーの翼形、入ってくる空気を加速して絞る一連の回転ブレードの列を改良し圧縮比を高めている。空気圧が高いほど、空気はより速くより効率的に燃焼し、生成される推力はより大きくなる。GE90エンジンの圧力比が42:1であるのに対し、GE9Xの圧力比 (コンプレッサーがどれだけ空気圧を上げるかを示す尺度) は60:1の最高値に達している。GE9Xは、ファンの径が大きいため、高いバイパス比というもう1つの効率性を実現している。最新の旅客機エンジンは、空気の流れのほとんどがコアを通過するのではなく、ファンを通過します。この空気はファンによって駆動され、エンジンの後部から排出される際に推力を生み出す。各流れ(コアの周囲を迂回する空気とコアを通過する空気)の質量の比は、バイパス比と呼ばれる。バイパス比が高いエンジンは、コアを通過する空気が少なくなり、燃料の燃焼量が少なくなるため、燃料効率が高くなります。GE9Xは商用エンジンとしては最も高いバイパス比10:1を備えている。GE9Xは、CO 2以外の排出も削減します。燃料燃焼の副産物である窒素酸化物(NOx )の排出を削減するために、GEエアロスペースが 2000年代初頭から成熟してきた技術であるツイン環状予混合スワーラー(TAPS)に注目しました。GEnxに初めて実装されたTAPSは、燃焼時ではなく、燃焼前に空気と燃料を予混合する。コンプレッサーを出た空気流は、2つの高エネルギースワーラーを通過して乱流を引き起こす。渦を巻く空気は理想的な割合で燃料と混合される。その結果、GE9XエンジンのNOx排出量は、同クラスのどのエンジンよりも55%近く改善され、最新の規制値の半分未満となっている。【Flightglobal news】
【GEエアロスペース提供:GE9Xエンジンに組み込まれた技術】
日本のニュース
1.JAL、水素機新興と協業 国内導入へ知見、米独3社と
日本航空は11月16日、次世代の水素航空機を開発する米独の新興3社と基本合意書を締結したと発表した。独H2FLYと米ユニバーサル・ハイドロジェン(Universal Hydrogen、UH2社)、米ZeroAviaの3社と協業し、日本国内での将来的な運航実現に取り組む。安全性や経済性、整備性などで検討を進め、航空会社としての知見を機体の設計・仕様に反映させる。また、水素機の安全性や最新情報を発信することで、日本国内での認知向上を図る。技術面への検討・協力は、JALが100%出資する整備会社JALエンジニアリング(JALEC)が担う。今回の協業は、水素と大気中の酸素の化学反応により発電する燃料電池と電動モーターを使用する機体が対象となる。特色が異なる3社と協業することで、国内の安全基準を満たす水素機の設計・開発を進めていきたい考え。JALグループは、2050年までにCO2(二酸化炭素)排出を実質ゼロとする「カーボンニュートラル」の実現を目標に掲げ、水素機や電動機など新技術の航空機の導入へ検討を進めている。【Aviation wire news】
【Aviation Wire提供:日本鉱区が提携する独H2Fly社の水素燃料電池推進航空機「HY4」】
2.福岡空港、国際線に搭乗橋増設 ターミナルから直接機内へ、北側コンコース延伸
福岡空港を運営する福岡国際空港会社(FIAC)は11月15日、国際線ターミナルで進めている北側コンコースの延伸部分を12月1日に全面供用すると発表した。PBB(搭乗橋)を増設することで、既存のスポット(駐機場)をPBB対応に転換。ターミナルから直接搭乗できるようになり、「福岡・九州・西日本の玄関口」としての機能強化を図る。国際線のスポットは16カ所あり、増設前は6カ所のみがPBB対応で、残り10カ所はバスを使い搭乗・降機していた。バス対応の10カ所のうち、ターミナルに近い6カ所がPBB対応に転換となる。このうちターミナル側の3カ所は10月29日にすでに供用しており、12月1日に残り3カ所も供用する。ターミナルから離れた4カ所は、バスでの搭乗・降機を継続する。PBB増設に伴い、商業施設3店舗も新たにオープンする。ドラッグストアとダイニングバーを12月1日にオープンし、2024年2月にはカフェの開業も予定する。このほかワーキングスペースやキッズスペース、トイレ、授乳室、喫煙室も備え、動く歩道も3基新設する。今回のPBB増設は、FIACが進めている国際線ターミナルの増改築工事の一環。ラウンジを24年ぶりに刷新したほか、国内線ターミナルと結ぶ連絡バス専用道路の整備などを進めている。増築部分の開業は建設中の第2滑走路が供用開始となる2025年3月末、既存施設の改修部分は同年11月の完成を目指す。【Aviation wire news】
【Yahooニュース提供:福岡空港国際線ターミナルに増設される搭乗橋】
3.関空・伊丹に新太陽光発電 ターミナルへ供給、オリックス主体で25年春
関西・伊丹の2空港を運営する関西エアポート(KAP)は11月15日、新たな太陽光発電施設を導入すると発表した。各空港内の敷地に設置する発電設備により、2空港の消費電力の一部を置き換える。2025年春の運用を予定し、KAPグループが取り組む温室効果ガスの削減を加速させる。新設する太陽光発電設備は「Sora×Solar(そら・ソーラー)」と命名し、関空の2期島北側と国際貨物上屋屋根、伊丹のターミナルビル屋根にそれぞれ設置。発電能力は関空が22.8MW(メガワット)で、第1ターミナル(T1)ビルや空港駅、立体駐車場、エアロプラザなどの各施設へ供給する。初年度は年間消費電力の約21%に相当する27.8GWh(ギガワット時)を発電し、CO2(二酸化炭素)を約1万2000トン削減する。伊丹の発電能力は0.6MWで、ターミナルビルへ供給。初年度は年間消費電力の約3%に相当する0.6GWhを発電し、270トンのCO2を削減する見通し。新たに始める太陽光発電事業は、KAPを仏空港運営会社ヴァンシ・エアポートと共同で設立したオリックス(8591)が主体となる。他社所有の太陽光発電所を自社の敷地に設置し、発電した電気を購入する「オンサイト型」のPPA(電力購入契約)で、オリックスが設立するSPC(特別目的会社)「Kパワーサプライ合同会社」が事業者となる。KAPとオリックスによると、2空港に供給する計23.4MWはオンサイト型として国内最大級となるという。KAPグループは温室効果ガス排出に取り組んでおり、2030年の削減目標を、2016年度比50%と設定している。関空第2ターミナル(T2)には1.3MWの太陽光発電をすでに導入しており、T2ビルなどへ供給している。【Aviation wire news】
【Aviation Wire提供:関空に設置される大規模太陽光パネル(想像図)】
4.JAC、進路相談付きパイロット職業体験会 12月に鹿児島空港
日本エアコミューターは、職業体験「エアラインパイロットという進路選択」を拠点の鹿児島空港で12月2日と3日に開催する。パイロットを含む航空業界に興味がある15歳以上35歳未満の人が対象。現役パイロットが、映像を交えてエアラインパイロットの仕事や必要な知識を説明し、実機の見学、進路相談などを実施。昼食はパイロットが食べている弁当を提供する。料金は税込1万500円で、事前振込。会場までの交通費は各自の負担となる。定員は各日15人で、応募多数の場合は先着順。時間は両日とも鹿児島空港内に午前10時10分集合、午後4時30分まで。申し込みは電子メールで、参加者の名前・生年月日・住所、連絡先の携帯電話番号とメールアドレス、参加希望日を記載し、 JACパイロット職業体験係(jac-pljobtaiken[アットマーク]jal.com)まで。18歳未満の場合は保護者の同意が必要になる。【Aviation wire news】
5.大林組など、動く人や重機を回避して自律飛行するドローンの実証試験に成功
大林組とトップライズは11月13日、トンネル坑内の非GNSS環境下において、作業中の人や重機などの動的障害物を回避しながら自律飛行を行うドローンを開発し、実証試験に成功したことを共同で発表した。トンネルの掘削工事では、作業が計画通りに進んでいるかの確認を切羽直下で目視により行うが、切羽付近は崩落のリスクがあるため、作業員が危険区域に立ち入ることなく確認できるよう、スキャナなどを用いた遠隔計測技術の開発が進んでいる。しかしそうした地上型スキャナは、トンネル坑内の状況によって切羽付近まで進入できない場合があり、計測精度が低下する。またドローンにスキャナを搭載する方法も試みられているが、飛行ルート上に人や重機が入れないため、目視での確認よりも長い時間を要することが課題だった。そこで両社は今回、米・カーネギーメロン大学 機械工学科の嶋田憲司教授が主宰する「計算工学・ロボティクス研究室(CERLAB)」の協力を得て、全地球を対象とした衛星測位システムであるGNSSを用いない環境において、動的障害物を回避しながら自律飛行するドローンの開発を行ったとのこと。同ドローンは、トンネル坑内で作業中の人や重機を回避しながら掘削形状を計測する上、計測結果と設計値を比較して、掘削不足箇所を重機オペレータに指示するという。なお大林組は、実際のトンネル坑内で自律飛行ドローンの実証試験を行った結果、人や重機が動いている環境でも、切羽直前まで近づき迅速かつ十分な精度で計測を行えることを確認したとしている。今回開発された自律飛行ドローンには、撮影した対象物の距離と色を認識するセンサ付きカメラが搭載され、センサで検知した物体を独自アルゴリズムによって処理することで、動的障害物かどうかを判断するという。またカメラから取得した情報は、ドローンに搭載されたコンピュータ上で処理が行われ、リアルタイムでトンネル坑内の3次元地図を生成するとのこと。これにより、非GNSS環境下であっても自律飛行が可能となり、障害物を回避しつつ目的地への最適飛行ルートを自動生成することができるとする。【マイナビニュース】
【大林組提供:今回の実証試験で使用された自律飛行ドローン】
6.国交省、整備士養成の無利子奨学金 ANA・JALと産官学連携、年50万円貸与
国土交通省は11月17日、整備士養成課程の学生に一部訓練費を無利子貸与する奨学金「航空整備士育成支援プログラム」を創設すると発表した。全日本空輸を傘下に持つANAホールディングスと、日本航空が100%出資する整備会社JALエンジニアリングの2社と連携し、年間最大50万円を貸与する。確保が課題となっている整備士を養成し、将来の航空需要増に備える。同プログラムは12月1日に募集を始め、2024年度に開始する。日本航空大学校や崇城大学、中日本航空専門学校など、整備士を養成する各校が参加。運営事務局は公益社団法人日本航空技術協会(JAEA)が務める。1学年あたり最大100人に対し、それぞれ50万円ずつを無利子で貸与する。元本返済期間は卒業後8年で、学生がANAグループの整備各社かJALECに入社し、国家資格取得などの条件を満たした場合に、各社が貸与金を本人に還付する。国内の航空需要はコロナ後に急回復しているほか、今後もさらなる拡大が見込まれている。安定運航には整備士が不可欠で、高度化する航空技術に対応する整備士の養成・確保が重要なほか、整備士の高齢化に伴う大量退職にも備える必要がある。整備士の多くは国土交通大臣の指定を受けた専門学校などで養成されることから、整備士の裾野拡大への一環として産学官で連携。学生の学費負担の軽減を図るため、奨学金の創設へ検討を進めてきた。【Aviation wire news】