KIT航空宇宙ニュース2024WK13
海外のニュース
1. ボーイング、カルフーンCEOが今年末辞任へ 1月の737MAX事故“分水嶺”に
ボーイングは現地時間3月25日、デビッド・カルフーン社長兼CEO(最高経営責任者)が今年末に辞任すると発表した。ボーイングは、アラスカ航空(ASA/AS)が運航する737 MAX 9(737-9、登録記号N704AL)で、離陸直後にドアプラグが脱落する事故が今年1月に米ポートランドで起きるなど、安全性への信頼が揺らいでいる。同日付で従業員への声明を発表し、カルフーンCEOはアラスカ航空機の事故がボーイングにとって分水嶺になる出来事とした上で「謙虚さと完全な透明性をもって対応し続けなければならない。安全性と品質への徹底したコミットメントを、社内のあらゆるレベルに浸透させる必要がある」と述べた。また、ラリー・ケルナー会長も年次総会への再選不出馬を表明し、退任する。ケルナー会長の後任には米クアルコムの元CEOで、ボーイング取締役会メンバーのスティーブ・モレンコフ氏が就く。カルフーンCEOの後任は未定で、モレンコフ氏が主導する取締役会で選出する。また同日付で、スタンリー・ディール民間航空機部門社長兼CEOも退任。後任にはボーイングのステファニー・ポープCOO(最高執行責任者)が就任する。【Aviation wire news】
2.JAL出資ベンチャー米ブーム、超音速実証機XB-1初飛行
2029年就航を目指す超音速旅客機「オーバーチュア(Overture)」を開発中の米ブーム・スーパーソニック(Boom Supersonic、本社デンバー)は現地時間3月22日、超音速飛行の技術実証機「XB-1」が初飛行に成功したと発表した。オーバーチュアを開発する基礎となるもので、カリフォルニア州のモハベ(モハーヴェ)空港・宇宙港で行われ、高度7120フィート(約2170メートル)を最高速度238ノット(約440キロ)で飛行した。XB-1は2人乗りで、主翼の形状はデルタ翼を採用し、エンジンは既存のGE製J85-15が3基。アフターバーナーを使ってマッハ2.2(時速換算2335キロ)の実現を目指す。2020年10月8日にロールアウト(完成披露)し、当初は2021年にも初飛行を計画していたが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)などの影響で計画が後ろ倒しになっていた。今回の初飛行には、ノースロップ・グラマンT-38「タロン」がチェイス機として同行。XB-1の飛行状態や着陸の様子などの初期評価が行われた。ブームは、XB-1で超音速飛行の技術を検証し、同社初の超音速旅客機であるオーバーチュアの開発につなげる。英仏が共同開発した「コンコルド」は2003年11月26日のフライトを最後に退役しており、オーバーチュアが計画通りに就航すると、四半世紀ぶりの超音速機による旅客便の復活となる。オーバーチュアは、2025年のロールアウト(完成披露)を計画しており、2026年の初飛行を経て2029年の就航を予定。初の確定発注は、ユナイテッド航空から2021年6月3日に15機を獲得し、アメリカン航空も最大20機の発注で、追加40機分のオプション付きの契約を結んでいる。また、日本航空が2017年12月にブームと提携して1000万ドル(当時の円換算で約11億2500万円)を出資し、将来の優先発注権を20機分確保している。【Aviation wire news】
【Aviation wire news:初飛行した超音速実証機「XB-1」】
日本のニュース
1.経産省、国産旅客機2035年以降実現へ戦略案 スペースジェット反省生かせる
経済産業省は、次世代の国産旅客機を2035年以降をめどに官民で開発を進める案を、3月27日の産業構造審議会で示した。三菱重工業によるリージョナルジェット機「三菱スペースジェット(MSJ、旧MRJ)」の開発が2023年2月に開発中止となったことから、1社の単独事業ではなく複数社の参画による開発を促し、経産省が研究費などの面で幅広く支援し、MSJ失敗の反省点を生かすとしている。経産省は「完成機事業を実施するにあたり、技術・開発・製造能力や事業体制が必要であり、いずれも我が国航空機産業に欠けている」と指摘。民間機で不可欠となる、機体の安全性を国が認める「型式証明」取得に向けた機体づくりのノウハウなど、技術的な部分だけでなく、機体を広く販売していく「事業」としても体制が不十分だったことを反省点とし、次世代機は機体開発に加えて、事業会社のあり方にも焦点を当てる。民間航空機の市場は「年率3-4%で増加が見込まれる旅客需要を背景に、双通路機(ワイドボディ機)、単通路機(ナローボディ機)ともに新造機需要も拡大していく見込み」と、参入の好機ととらえる。また、アジア地域での需要増加や、単通路機が好調である市場環境に加え、「グリーン」「デジタル」「レジリエンス」「新興市場」の主に4つの環境変化が起きていることを指摘し、「ゲームチェンジの機会が訪れている」とした。一方で、「ゲームチェンジの機会に直面している我が国の航空機産業が、さらなる成長を遂げるには、海外OEMの動きを待たざるを得ない産業構造から脱却する必要がある」として、現在のボーイングを中心とした海外の完成機メーカーに依存する日本の航空機産業の構造を見直すためにも、完成機事業への参入が方向転換につながるとした。一般財団法人の日本航空機開発協会(JADC)と日本航空機エンジン協会(JAEC)がまとめた「完成機(GX機)事業創出ロードマップ検討会」の報告書によると、完成機の開発は2025年から概念設計や技術実証を始める案を示しており、開発開始から約10年後の就航が当面の指標になるとみられる。【Aviation wire news】
【日経ビジネス提供:開発が中止された三菱航空機の「MSJ」】
2.ANA、国内線新旗艦機787-10就航 ”最大の787″初便は札幌へ
全日本空輸は3月27日、ボーイング787-10型機の国内線仕様機を就航させた。国内線の次世代フラッグシップで、初便の羽田発札幌(新千歳)行きNH59便を皮切りに、那覇、関西、福岡、伊丹の順に国内幹線へ投入していく。日本の航空会社が787-10を国内線に投入するのは初めて。ANAを傘下に持つANAホールディングスは、787-10の国内線仕様機を11機発注済みで、2026年度までに受領する計画。当初は2023年秋に就航予定だったが、ボーイングで787の納入遅延が発生している影響で、現地時間今月17日の初受領となった。初便の札幌行きNH59便(787-10)は、羽田の64番スポットから定刻より18分遅れの午前10時18分に出発した。2クラス429席(プレミアムクラス28席、普通席401席)と、1998年に就航した777-300の2クラス514席(プレミアム21席、普通席493席)に次ぐ座席数を誇る。置き換え対象となる777-200ERは、2クラス405席仕様(プレミアムクラス21席、普通席384席)と、2019年11月16日に就航した新仕様の2クラス392席仕様(プレミアムクラス28席、普通席364席)の2種類がある。777と比べて提供座席数が増え、約25%の燃費改善が見込まれる。787は標準型の787-8、長胴型の787-9、超長胴型の787-10の3機種で構成され、787-10は胴体がもっとも長い。全長は787-8(56.7メートル)と比べて11.6メートル、787-9(62.8メートル)より5.5メートル長い68.3メートルで、置き換え対象となる777-200/-200ERよりも4.3メートル長い。787のローンチカスタマーであるANAは、3機種すべてを運航している。ANAは787-10の国際線仕様機(3クラス294席)を3機導入済みで、初便の成田発シンガポール行きNH801便(JA900A)は2019年4月26日に就航。日本初の787-10で、エンジンはロールス・ロイス製エンジンのトレント1000を搭載し、東南アジア路線を中心に投入している。【Aviation wire news】
【Yahooニュース提供:国内線に就航したANA国内線旗艦機787-10型機】
3.JAL、法人向けにSAF活用の新事業 CO2削減を証書化
日本航空は、現在の化石由来燃料に代わる航空燃料「SAF(サフ、持続可能な航空燃料)」に関連した法人向けの新事業を4月から始める。SAFを活用することで創出されるCO2(二酸化炭素)削減の環境価値を証書化し、JAL便を利用する法人へ販売する。新事業「JAL Corporate SAF Program」では、SAF使用時のCO2削減率などを記載したSAF証書を用いてCO2削減量を算出。CO2削減証書を発行し販売する。CO2削減証書は社会的信用性などを確保しており、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)や、環境影響を管理する情報開示システムを運営する英NGO(非政府組織)のCDPなどが求めるCO2排出量削減の開示情報算出にも使用できる。JALはこれまで、航空機運航で発生する自社のCO2直接排出「Scope1」と間接排出「Scope2」の削減に取り組んできた。同プログラムにより、自社(参画社)の活動が他社(JAL)の排出に関連する「Scope3」の削減にもつながる。SAFは廃食用油などを原料に精製し、現在使われている化石由来の航空燃料と比べ、CO2排出量を大幅に削減できる。航空業界は、2050年までに実現を目指すCO2排出を実質ゼロとする「カーボンニュートラル」の実現を目標としている。【Aviation wire news】
【JAL提供:JALの法人向けSAF活用のCO2削減証書化のイメージ】
4.小池都知事「食用油で飛行機飛ぶ事知って」国産SAF実現へ廃油回収
日揮ホールディングスと日本航空、ANAホールディングス傘下の全日本空輸は3月24日、現在の化石由来燃料に代わる航空燃料「SAF(サフ、持続可能な航空燃料)」の国産化を2025年に実現するため、取り組みを拡大すると発表した。3社などが参画する国産SAFの導入・普及を目指す有志団体「ACT FOR SKY(アクトフォースカイ)」に東京都が自治体として初加盟し、原料となる廃食用油の回収キャンペーン「東京 油で空飛ぶ 大作戦」を始める。日揮によると、国内ではSAFの原料となる廃食用油が年間約50万トン排出され、このうち外食産業など「事業系」が40万トン、家庭から出る「家庭系」が10万トンあるという。事業系の40万トンのうち、12万トンは海外に輸出され、外国企業がSAFを製造する際に使用しており、家庭系の10万トンは廃棄されていることから、事業系廃食用油の回収と家庭系の資源化が課題になっている。廃食用油を回収し、国産SAFとして循環させることを目指し、「Fry to Fly Project」を2023年4月17日に事務局を務める日揮をはじめ企業・自治体・団体が立ち上げ、現在は98者が加盟。都の参画により、官民一体となって廃食用油の回収量拡大を目指している。24日に羽田空港にあるJALの格納庫で開かれた発表会で、東京都の小池百合子知事は「家庭で天ぷらなどを揚げた油が飛行機を飛ばすのはすごいこと。食用油で飛行機が飛ぶことや、脱炭素につながっていることを多くの方に知っていただき、回収にご協力いただきたい。キャンペーンを都は後押しする」と述べた。今回、東京都が加盟したアクトフォースカイは、2022年3月2日「サフの日」に設立。加盟各社が実用化に向けた情報交換などを進めており、都が加わったことで加盟者数は38となった。これに先立ちJALとANAは、SAFに対する理解を広げるための共同レポート「2050年航空輸送におけるCO2排出実質ゼロへ向けて」を2021年10月8日に発表している。SAFの国産化を巡る動きでは、日揮HDとコスモ石油、レボの3社が廃食用油を原料とした国産SAFの製造や供給事業を手掛けるSAFFAIRE SKY ENERGY(サファイアスカイエナジー、横浜市)を2022年11月に設立。コスモ石油の堺製油所内に日本初となる国産SAFの大規模生産プラントを建設中で、2025年の生産開始を目指す。SAF製造能力は、年間約3万キロリットルを計画している。【Aviation wire news】
【Aviation wire提供:羽田のJAL格納庫で開かれた国産SAFの取り組み拡大発表会で有志団体「ACT FOR SKY」への東京都加盟を発表し談笑する(右から)JALの赤坂祐二社長、東京都の小池百合子知事、日揮HDの佐藤雅之会長、ANAの井上慎一社長】
5.JAXA退職の若田光一宇宙飛行士 – 4月から民間へ転身も「生涯現役」は貫徹
宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、宇宙飛行士として日本人最多となる5度の宇宙飛行を行った若田光一氏が、3月31日付で退職することを発表した。これに際しJAXAは記者会見を開催。若田氏がこれまでの宇宙飛行士およびJAXA職員としての道のりを振り返るとともに、これからの宇宙への挑戦についても語った。若田氏は1963年8月1日生まれ。1989年に入社した日本航空で機体構造技術の開発などに従事したのち、1992年に宇宙開発事業団(NASDA、現JAXA)が募集した宇宙飛行士候補に選抜された。なお若田氏は今後について、これまでの宇宙飛行士としての経験を活かし、民間セクターによる有人宇宙探査活動を盛り上げて、ポストISS時代の地球低軌道における宇宙開発の進歩に尽力するという。具体的な在籍先や活動内容については4月以降の発表になるというが、過去に表明してきた「有人宇宙飛行の現場で生涯現役として頑張っていきたい」という想いに変わりはなく、今後も「可能であるならば何度でも宇宙飛行を行っていきたい」と、民間宇宙飛行士としての宇宙滞在への意欲ものぞかせた。また民間へと活躍の場を移す理由としては、「地球低軌道における有人宇宙活動の持続的な発展のためには、民間による今後の成功が鍵を握る」としたうえで、その新しい時代への挑戦に魅力を感じたとする。現在の地球低軌道における活動拠点であるISSは、2030年の運用終了が見込まれており、また各国政府の宇宙開発のベクトルは、月や火星などより遠くの宇宙へと向きつつある。そうした中で、地球低軌道の開発は各国政府が主導していくのではなく、その主導権が民間へと移っていくことは避けられないとのこと。そうした民間による活動を盛り上げることで、「多くの人が宇宙へ行けるようになり、有人宇宙活動の持続的な発展に貢献できる」と考えたとした。【マイナビニュース】
【Yahooニュース提供:JAXAを退職する若田宇宙飛行士】
6.日立、ドローンの最適経路をリアルタイム提供するモビリティ管制基盤を開発
日立製作所は、輸送インフラの高い安全性と運行効率を実現するモビリティ管制基盤「Digital Road」を開発したことを発表した。災害発生に伴う交通網の寸断や、物流の2024年問題に伴う遠隔地配送の遅延などの懸念が顕在化している現代では、地上インフラに加えて、道路事情の影響を受けないドローンなどの空の移動インフラ「エアモビリティ」の確保が有効とされている。しかし、輸送インフラには安全かつ効率的な移動経路の構築が必須であるが、エアモビリティの場合、天候や電波状況の変化に加え、機体間や建物、樹木といった周囲の環境変化から影響を受けやすく、そうした環境因子の急な変化を予測できないといった理由から、これまでは目視による現地の安全確認が必要だったという。限定された気象状況・領域においてオペレーターが運行しなければならないという現在の状況では、気象状況はともかくエアモビリティ1機体につきオペレーター1人が必要になり、効率性が悪いという課題がある。そこで日立は、独自のデジタルツイン技術を活用して環境因子の変化をリアルタイムに把握しデジタル空間内で管理することで、環境因子の変化を予測することが可能なDigital Roadを開発するに至ったという。将来的には、自律飛行する機体を遠隔かつ自動で運行することに加え、オペレーター1人で複数機体を同時監視できるようにすることで高い効率と定時性を実現、安全に運用していく体制を構築したいとしている。【マイナビニュース】
【マイナビニュース提供:荷たちが開発したドローンの最適経路をリアルタイム提供する「Digital Road」のイメージ】