KIT航空宇宙ニュース2024WK24

三菱電機、熊本大学先進マグネシウム国際研究センター、東邦金属、JAXAの4者がワイヤー・レーザーDED(指向性エネルギー堆積方式)方式によるマグネシウム合金の高精度な積層造形(3Dプリンティング)技術を確立。今後ロケット/航空機/自動車部品への活用が期待される。
KIT航空宇宙ニュース

KIT航空宇宙ニュース2024WK24

海外のニュース

1.A330neo、高地での性能実証 就航地拡大へ、認証取得目指す

エアバスは現地時間6月12日、A330-900(A330neo)の飛行試験機が標高の高い空港での性能を実証したと発表した。今回の実証により、就航できる空港の拡大につながる。高高度の認証取得は2025年1-3月期(第1四半期)を予定している。現在のA330neoは、標高8000フィート(2438.4メートル)までの空港へ運航できる。認証取得後は標高1万2500フィート(3810メートル)に引き上げられ、チベットのラサやコロンビアのボゴタ、エチオピアのアディスアベバなど高地への就航が可能となる。実証は3月18日から30日まで、メキシコのトルーカ(標高9186フィート)と、ボリビアのラパス(1万3300フィート)の高高度空港で進め、離着陸性能を評価した。高度が上がるとエンジンの推力が低下するが、今回の試験では、湿度の高い空港での機体・エンジンの性能を証明した。試験には約40人の専門家が参加。A330neoの機体本体と、同機に搭載するロールス・ロイス製新型エンジン「トレント7000」の性能を確認した。【Aviation wire new】

【Yahooニュース提供:高知での飛行試験中のエアバスA330neo型機】

2. ボーイング、PW102XGエンジンの詳細が明らかになるにつれてX-66Aの進捗状況を更新

ボーイング社は、NASA支援プロジェクトの一環として開発中のX-66Aトラス・ブレース翼実証機の進捗状況について新たな詳細を明らかにした。その中には、同機がプラット・アンド・ホイットニーPW1500Gエンジンの派生型であるPW102XGを搭載することの確認も含まれている。ボーイングは今年1月、 MD-90の機体をX-66Aに改造するプロセスを開始した。これは、遷音速トラス・ブレース翼コンセプトが次世代ナローボディ機の燃料燃焼の大幅な改善に貢献できることを証明するのが目的だ。ボーイングの最高技術責任者トッド・シトロン氏は6月5日のILAベルリン航空ショーで、このプロジェクトは2028年の初飛行に向けて順調に進んでいると語った。「我々は改修の準備として[MD-90]機体の分解を開始した。我々はすでに構成のテストを行っており、改修をどのように達成するかの詳細設計を最終調整している」と彼は言う。ボーイング社の計画では、トラス支柱翼構造の設置を可能にするために、MD-90の主翼と胴体セクション19個を撤去することになっている。FlightGlobalからの質問に答えて、機体製造者は「エンジンの取り外し、フェアリングの取り外し、胴体内の標的システムの取り外し、取り外しのための翼の準備」を含む「初期の航空機導入作業は完了している」と述べている。しかし、同社は詳細な設計作業がいつ完了するかについては明言を避け、「2028年の初飛行に向けて順調に進んでいる」とだけ述べた。飛行試験は2029年まで行われる予定だ。ボーイング社は飛行時間数を具体的には明らかにしていないが、「飛行試験プログラムは設計と合わせて最終調整中だ」と付け加えている。このプロジェクトの核となるのは、アスペクト比の高い細長い翼で、従来の設計よりも優れた空力性能を発揮するが、胴体下部に連結するトラスのサポートが必要になる。ボーイング社によると、この構造自体が航空機の全揚力の約10%を占めるという。P&W は、このデモ機のギアード ターボファン (GTF) エンジンの供給元として選定されたが、使用される動力装置に関する正確な詳細はまだ不明である。当初の計画では、X-66A にはエアバス A320neo に使用されている PW1100G が搭載される予定だったが、重量と抗力に関する懸念から、ボーイングが「PW1500G/1900G シリーズの派生型」と呼ぶ「PW102XG」に変更された。PW1500G は A220 に搭載され、PW1900G はエンブラエル EJet-E2 シリーズに搭載されている。PW1100G のファンの直径は 81 インチ (206 cm) だが、PW1500Gと PW1900は73インチと小さくなっている。「X-66プログラム用のGTFエンジンは、24,000ポンド推力クラスの派生型だが、独自の名称であるPW102XGを持っています」とP&Wの親会社であるRTXは述べている。エンジンとナセルの形状は、P&W の姉妹会社であるコリンズ・エアロスペースによって提供され、風洞試験をサポートするためにボーイングに提供されている。トラス支柱翼のコンセプトは、2030年代に就航予定の次世代ナローボディ機を支える可能性がある。現在のエンジンの選択肢は、従来のターボファン設計とほぼ同様だが、業界が効率性と環境性能の大幅な向上を目指しているため、将来的には変化する可能性がある。P&W社がGTFエンジンをベースにしたコンセプトを追求している一方で、ナローボディ推進エンジンのライバルであるCFMインターナショナル社はRISEプログラムの下でオープンローターの実証機を開発している。ボーイング社は、X-66Aに「現時点ではいかなるタイプの『オープンファン』推進システムも搭載する予定はない」としているものの、「高翼形状により、将来的にはそのような推進システムを搭載することが可能になるだろう」と指摘している。【Flightglobal news】

【NASA提供:MD90を改造したトラス支柱翼機の想像図】

3. XTIエアロスペースはAVXエアクラフト社とTRIFAN 600垂直離着陸クロスオーバー機のさらなる設計・開発に関する意向書を締結

XTI Aerospace, Inc. は本日、子会社のXTI Aircraft Company (以下「XTI Aircraft」) が、先進的な垂直離着陸ソリューションのリーダーであるAVX Aircraft Company (以下「AVX」) と、垂直離着陸 (VTOL) 機能を備えた、ジェットエンジン搭載固定翼航空機であるXTI Aircraft独自の特許取得済みTriFan 600をサポートする開発、設計、認証サービスを提供する意向書 (以下「LOI」) を締結したと発表した。正式契約は今後数週間以内に締結される予定です。「AVX との提携により、XTI エアクラフト社は熟練したエンジニアの才能と、垂直離着陸機技術の設計と開発で高度な経験を積んだ企業を獲得できます」と、XTI エアロスペース社の会長兼最高経営責任者であるスコット ポメロイ氏は述べている。「AVX は当社の現在の設計の改良に協力し、TriFan 600 開発プログラムを加速するとともに、特定のエンジニアリング機能とサービスにかかる費用を大幅に削減できると期待しています。」と述べた。正式契約の提案条件によれば、XTI エアロスペースのビジネスおよびプログラム開発担当上級副社長であるドン・パーディ氏が率いる XTI エアクラフト社が、TriFan 600 プログラムの管理、指導、および監督を行う。AVX 社は、詳細設計、プログラム管理、下請け管理、および認証サポート サービスを含む主契約者となる。TriFan 600 垂直離着陸クロスオーバー航空機 (「VCLA」) は、同サイズの従来のビジネス航空機の快適性、速度、航続距離と、垂直離着陸航空機でのみ実現可能な柔軟性、利便性、正確な輸送を組み合わせることで、ポイントツーポイントの航空旅行に革命を起こすことが期待されている。【XTI Aero space news】

【XTI社提供:開発中のVTO機「TriFan600」想像図】

4. FAA、EASAがエアタクシーの新たな認証基準を発表

FAAと欧州航空安全機関(EASA)は10日月曜日、電動垂直離着陸(eVTOL)エアタクシーなどの先進航空モビリティ(AAM)航空機の認証経路確立に向けて大きな前進を遂げた。FAA はこれまでに、アーチャー・アビエーションのミッドナイトとジョビー・アビエーションの主力モデルという 2 つのエアタクシー設計の最終的な耐空性基準を発表しており、eVTOL 航空機などの動力付きリフト車両の認証の基盤となるアドバイザリー・サーキュラー(AC)を発行した。特別クラスの航空機に対する FARパート21 の要件への準拠を示すための許容可能な手段を示したこの ACは、60日間コメントを受け付けている。一方、EASA は垂直離着陸機の特別条件規則 (SC-VTOL)を更新し、安全な飛行と着陸、操縦性、単一点故障など、FAA と合意した新しい要件を組み込んだ。同時に、規制当局は共同で、航空機の検証プロジェクトへの機関の関与レベルを決定する安全重点項目 (SEI) リストをパート23、27、および29について改訂した。FAAによると、SEI要件を緩和し、航空機を実際に認証する機関にさらに大きな責任を課しました。「FAAとEASAは、eVTOL機の認証に向けた重要なマイルストーンを達成した」とFAAは声明で述べた。「これは、米国と欧州連合間の規則制定と政策イニシアチブをより緊密に連携させる取り組みにおける重要な進歩でもある。我々は国内外で飛行する人々の安全を確保することに尽力している」と述べた。FAA と EASA はともに、それぞれのAAM業界を世界最大かつ最高の業界として確立するための野心的な取り組みを発表した。しかし、航空機をサポートするために垂直離着陸場と電気充電器のネットワークが必要となるeVTOLインフラストラクチャなどの課題に取り組む前に、規制当局はまず、斬新な設計に対する明確な認証経路を定義する必要があった。FAA の新しい基準は、最大重量12,500ポンド、最大乗車人数 6人の電動リフトの設計を対象としており、FARパート 23、27、33、35 の基準を使用して策定された。FAAは、アーチャーとジョビーの型式認証申請に関する作業を活用して基準を策定したと述べ、電動リフト・プロジェクトの認証基盤の開発に、より効率的な道筋が生まれると主張している。たとえば、FAAは、ACの基準を使用する設計については、ArcherとJobyの航空機の場合のように、公衆の通知とコメントのために連邦登録簿に耐空性基準を公開する必要がなくなる。申請者は、ArcherのMidnightなど、以前に承認された設計から得た認証基準を提案したり、同等レベルの安全性調査結果を使用して既存の耐空性基準を独自のプロジェクトに採用したりできるようになる。すでにVTOLプロジェクトの初期基準を公開しているEASAは、SC-VTOL基準の第2版でいくつかの重要な変更を加えた。FAA ACとは異なり、この基準は一般からの意見聴取の対象にはなりません。最も注目すべき変更点は、最大認定離陸質量(MCTOM)が 7,000 ポンドから約12,500ポンドに増加したことです。これは、規制当局が FAA ACとの整合性を高めるために基準や文言を調整した数多くの例の1つです。もう一つの重要な規定は、航空機システム間でデータや信号を伝送する電気配線相互接続システム(EWIS)に関する要件の導入です。メーカーは、これらがリスクなく運用できることを証明する必要がある。これまでのところ、中国のEHangは、10月に同社のEH216-Sに対して中国民用航空局(CAAC)から型式認証を取得した世界で唯一のeVTOLメーカーで、同社はすでに商業デモ飛行を完了し、量産を開始している。欧米では物事が少し遅れて進んでいるが、米国の議員や規制当局は2028年までAAMの運用が大規模に開始されないと予想しており、非常に残念に思っている。欧米の当局者が中国のドローンや電気自動車を警戒していることは周知の事実であり、中国の成長するAAM産業は、その分野での中国の優位性にも脅威となる可能性がある。【Flightglobal news】

【Jobby Aviation提供:Joby Aviation の先進航空モビリティ (AAM) 航空機】

日本のニュース

1. JAL、調査研究・産学連携の新会社「JAL航空みらいラボ」7/1設立

日本航空は6月14日、新会社「JAL航空みらいラボ」を7月1日付で設立すると発表した。航空業界の持続的な成長・発展への調査研究のほか、産学で連携し次世代育成を進める。新会社はJALの100%子会社で、資本金は1000万円。本社はJALと同じく東京・天王洲に置く。社長にはJALの柏(かしわぎ)頼之専務が就任し、JAL役員との兼任を予定する。JAL航空みらいラボは「調査・研究」と「産学連携」の2つを担い、航空業界の未来を共創する。JALが持つ航空の専門的知見に加え、教育・研究機関などの社外見識を取り入れ、客観的な調査研究を進める。【Aviation wire news】

【Yahooニュース提供:、新会社「JAL航空みらいラボ」の社長に就任したJAL柏専務】

2. 福岡空港、合同説明会7/20開催 12社参加

福岡空港を運営する福岡国際空港会社(FIAC)は、福岡空港内の事業者と連携した合同企業説明会を7月20日(土)に開催する。新卒や既卒、社会人を対象とした説明会で、FIACをはじめ旅客サービス業務やグランドハンドリング、保安検査など12社が参加する。参加は無料だが、事前予約が必要となる。対象は2025年と2026年の新卒、既卒、業界未経験者を含む社会人。参加するのはFIACのほか、JALスカイ九州、天草エアライン、エスエーエス、スイスポートジャパン、双日ロイヤルインフライトケイタリング、にしけい、西鉄エアサービス、福岡空港サービス、西日本シミズ、コウノイケ・エアポートサービス、福岡給油施設の12社を予定している。国内線旅客ターミナルビル3階南側「TSUTAYA BOOKSTORE 福岡空港」横イベントスペースにブースを出展。午前10時に受付を開始し、午後3時まで開催する。履歴書は不要で、入退場自由。選考を希望する人は、各社のブースで担当者に伝える。【Aviation wire new】

3. JAL、再発防止策を提出 安全意識を再徹底

日本航空(JAL/JL、9201)は6月11日、国土交通省に再発防止策を提出した。安全上のトラブルが相次いだことを受け、航空局(JCAB)が行政指導にあたる「厳重注意」を行ったことに対するもので、安全に対する意識の再徹底や安全管理システムの見直しなど、指摘された5つの不安全事象に共通する要因を踏まえた上で対策すると、鳥取三津子社長が平岡成哲航空局長に報告した。国交省が厳重注意としたのは、2023年11月以降に相次いだ合わせて5件の「安全上のトラブル」。米シアトルでの管制許可を受けない滑走路横断や、サンディエゴと福岡で起きた滑走路手前の停止線オーバー、ダラス滞在中のパイロットによる過度な飲酒が結果的に欠航を招いた事案、羽田のスポット(駐機場)での自社機の主翼端同士の接触についてで、いずれも航空法上の「航空事故」や「重大インシデント」には該当しないものの、「安全上のトラブル」と分類される「その他の航空機の正常な運航に安全上の支障を及ぼす事態」に該当し、短期間に頻発していることから厳重注意を5月27日に行った。JALが提出した報告書では、トラブルが続いた共通要因として、現場が安全を大前提として、立ち止まれる環境が構築できていない点や、リスクマネジメントが十分に機能していない点を挙げた。再発防止策は、「経営トップによる率先した航空安全に対する意識の再徹底」と「安全管理システムの見直し」の大きく2つに分けて講じる。意識の再徹底は、組織長会議の開催や経営層による現場の状況把握などの緊急対応と、経営層が把握した課題に対して継続的に対策を見直す中長期対応を実施する。安全管理システムの見直しは、緊急対応として各事案に対する要因や注意点の周知や、滑走路誤進入に対する理解度を測るオンラインテストの実施、規程類や補足情報の見直し、ランプでの接触についてはプッシュバックに関わる各担当の責任と役割の明確化などを実施した。短期対応では、プッシュバックに携わるトーイングドライバーと翼端監視員がやり取りするトランシーバーの導入などを実施。中長期的には滑走路誤進入では教育・訓練の改善や管制機関との意見交換、プッシュバックでは緊急時用の赤色回転灯の導入などを進める。【Aviation wire new】

4. 成田空港の若者利用増やすには? 学生団体SKY AVIATIONがNAAとビジコン

航空業界を目指す大学生が立ち上げた学生団体「SKY AVIATION(スカイアビエーション)」が、成田空港を利用する若者を増やす取り組みをテーマにしたビジネスコンテストを、空港を運営する成田国際空港会社(NAA)の本社で開いた。本選には4チームが出場し、学生向け旅行積立制度「NARI旅ユース」を提案したチームが最優秀賞を獲得した。ビジネスコンテストを企画したSKYは、パイロットを目指す国際基督教大学(ICU)の長坂有途さん(大学3年)と逸見康太さん(2年)が中心となり、2023年6月に設立。現在の代表者は逸見さんと、今年3月にアドバイザーの立場に退いた長坂さんに代わり就任した實原みちるさんの2人が共同代表を務め、現在は他大学も含め116人が参加している。長坂さんによると、日本全国どこにいる学生も同じように航空業界を目指せるよう、情報格差のない環境を作りたいという。6月9日に開かれたビジネスコンテストでは、成田空港の若者による利用を増やすために、空港やLCC(低コスト航空会社)が新たに出来る取り組みを募った。最優秀賞を獲得したのは、東京都立大学3年の坂本悠悟さんら4人のグループ。学生にLCCの存在が十分認知されていないことや、大学生でも利用しやすい旅行積立制度がないことなどを課題として取り上げ、学生向け旅行積立制度のNARI旅ユースや、航空券への交換や成田空港周辺地域で利用できるポイント制度「Knot(ノット)」を提案した。【Aviation wire new】

【Aviation wire提供:成田空港内のNAA本社で開催されたビジネスコンテスト参加者】

5. ロケットの軽量化に向けたマグネシウム合金の積層造形技術をJAXAなどが開発

三菱電機、熊本大学先進マグネシウム国際研究センター(熊本大学MRC)、東邦金属、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の4者は6月13日、ワイヤー・レーザーDED(指向性エネルギー堆積方式)方式によるマグネシウム合金の高精度な積層造形技術を確立したことを発表した。これまで4者は、ロケットの軽量化による抜本的な低コスト化に向けて、JAXAの「革新的将来宇宙輸送システム研究開発プログラム」の枠組みのもと、2022年9月から「マグネシウム合金ワイヤーを材料に用いたレーザーワイヤーDED方式AM(Additive Manufacturing)造形技術の研究」を進めてきた。従来、マグネシウム合金は、高温で溶かした金属を金型に流し込み、圧力をかけて成形する鋳造方法である、「ダイカスト法」という手法での加工が一般的であるため、内部に空洞を持つような造形が不可能という課題があったほか、複雑な形状を高精度に加工できる金属3Dプリンターにおいては、金属の粉末を熱で溶融させて積層造形する「PBF方式」が主流であるが、燃焼しやすいマグネシウム合金を粉末材料として用いた場合、酸化による劣化や粉塵爆発を引き起こす可能性があり、安全に運用できない課題があったという。そこでこうした課題を解決するべく今回、金属粉末ではなく、金属ワイヤーを材料として使用するワイヤー・レーザーDED方式を採用した三菱電機の金属3Dプリンターと、熊本大学MRCが開発した高い不燃性を有する「KUMADAI 耐熱マグネシウム合金」を組み合わせる手法を考案。研究開発は、マグネシウム合金用積層造形技術の開発、造形物の材料特性検証を三菱電機が、マグネシウム合金の組成検討を熊本大学 MRCが、マグネシウム合金ワイヤーの製造プロセス開発を東邦金属が、マグネシウム合金積層造形物の性能評価によるロケット軽量化効果の試算・評価をJAXAが行う形で進められた。KUMADAI耐熱マグネシウム合金製ワイヤーを用いた試験造形を繰り返した結果、マグネシウム合金粉末よりも高い加工性と強度を両立した取り扱い容易なマグネシウム合金ワイヤーを、精密な温度制御により燃焼させずに積層造形することができたとのこと。また、同技術による積層造形物について、ロケット用材料としての性能評価をJAXAにて行ったところ、ロケットの部位によっては従来のアルミ合金構造と比較して最大で約20%の軽量化効果が得られる可能性が試算されたという。さらに、従来手法ではマグネシウム合金の鋳造加工時にカバーガスとして用いられる、地球温暖化係数の高い温室効果ガスであるSF6を使わない加工方法のため、従来の加工方法と比べてエネルギー効率の向上や温室効果ガス排出量の削減が期待でき、カーボンニュートラルの実現にも貢献できるともしている。なお、4者は今後、今回開発した手法を活用する形で、軽量化による燃費向上とロケットのコスト削減へつなげていきたいとしているほか、鉄やアルミニウムよりも軽量で高強度なマグネシウム合金を、より複雑で自由な形状に加工できるようになることから、宇宙輸送に限らず、軽量化が要求される自動車、航空機など各種輸送機器やロボット部材にも幅広く利用される可能性があるとしており、そうした各種産業分野への波及および実用化に向けた研究開発も進めていきたいとしている。加えて、三菱電機では2029年をめどにワイヤー・レーザーDED方式金属3Dプリンターとして製品化することを目指すとしている。【マイナビニュース】

【三菱電機提供:マグネシウム合金の積層造形の原理】

6. 名大など、月面探査車が昼夜の長期的な宇宙環境に耐えらる熱制御技術を開発

名古屋大学(名大)と豊橋技術科学大学(豊橋技科大)は6月11日、月では昼夜の温度差が300℃ほどになるが、昼夜を跨いで活動するようなローバにおいては、日中は電子機器を冷却し、夜間は外部環境から断熱して電子機器を保温する切り替えが必要であり、それを可能とする新コンセプトの「ヒートスイッチデバイス」の技術的実証に成功したことを共同で発表した。同成果は、名大大学院 工学研究科の西川原理仁准教授、宇宙航空研究開発機構(JAXA) 研究開発部門第二研究ユニットの宮北健主任研究開発員、豊橋技科大大学院 工学研究科の瀬下玄輝大学院生、同・横山博史教授、同・柳田秀記名誉教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、熱プロセスに関する全般を扱う学術誌「Applied Thermal Engineering」に掲載された。月の1日は地球の約28日であり、昼も夜もおよそ2週間となる。月面はほぼ真空のため、日中の日向では100℃を超えるのに対し、夜間は-190℃程度まで下がり、およそ300℃にもなる温度差が生じる。つまり、日夜を跨ぐような長期間の活動を行うのであれば、その寒暖差の中でもローバの電子機器やバッテリーなどを適切な温度に維持する必要がある。日中はローバが活動するため、電子機器が発熱する。ほぼ真空中の環境においては、その熱を積極的に放熱して冷却しなければならない。一方、夜間は電子機器が冷えすぎないよう、月面環境から断熱して保温する必要がある。つまり、昼の放熱と夜の断熱の切り替えを可能とする新たなヒートスイッチ技術が必須であり、可能な限りの省エネルギー性も求められる。そこで研究チームは今回、省エネルギーでヒートスイッチを行える熱制御デバイスの開発のため、無電力で高効率に放熱できる「ループヒートパイプ」(LHP)と、低消費電力で冷媒の流動を制御可能な「電気流体力学(EHD)ポンプ」を組み合わせ、日中は無電力で電子機器を冷却し、夜間は低消費電力で極寒環境との断熱を実現する、新コンセプトの熱制御デバイスを考案することにしたという。LHPは、多孔体内で生じる毛細管力を駆動力とし、電力なしでも小さな温度差で熱を長距離輸送できるデバイス。またEHDとは、絶縁性液体に高い電圧を印加すると流動が起きる現象のことで、電極を流路に配置するだけでポンプにすることができる。今回のデバイスでは、LHPの液管部にEHDポンプが組み込まれた。日中は、EHDポンプがオフとなってLHPは通常動作し、ローバ内の発熱を蒸気でラジエータに輸送し、そこから宇宙空間にふく射で放熱する。そして蒸気は液に凝縮し、ローバ内の蒸発器に戻り再度吸熱する。この作動流体の循環は、蒸発器の多孔体で発生する毛細管力によって行われるため、電力は不要なのである。しかし夜間では、電子機器の保温のためにヒータなどで加温しても、LHPの動作により電子機器が冷えすぎたり、大きな電力が必要となったりする。そのため、EHDポンプによりLHPの流れとは逆方向に圧力をかけることでLHPの流動を止めれば、断熱を行えると考察。そこで、その実証のために新たにEHDポンプを開発し、JAXAの保有するLHPに組み込み、実験室環境での試験を行うことにしたという。そして実験の結果、EHDポンプの動作でLHPの動作を停止させることに成功したとする。【マイナビニュース】

【JAXA提供:今回の熱制御デバイスによる月面ローバの越夜の様子】