KIT航空宇宙ニュース2024WK34
海外のニュース
1.777X、試験機のエンジン固定部品に不具合
ボーイングが開発を進めている次世代大型機777Xの飛行試験機に不具合が見つかり、飛行試験を中断している。米有力航空メディア「The Air Current(TAC)」が報じたもので、ボーイングによると、エンジンを機体に固定する構造部品に問題が見つかり、飛行試験を当面中止するという。日本では、全日本空輸を傘下に持つANAホールディングスが発注しており、2025年度の受領開始や、サプライヤー各社への影響が懸念される。問題が見つかったのは、7月から飛行試験に投入している777-9の飛行試験3号機。現在ハワイのコナ空港で試験を実施しているが、TACによると、飛行試験後の現地時間8月16日に不具合が見つかったという。航空機の位置情報を提供するウェブサイト「フライトレーダー24(Flightradar24)」によると、3号機は15日に約5時間31分フライトしており、この飛行試験後に発覚した。ボーイングは、「定期メンテナンス中に、設計通りに機能していない部品が特定された」と説明。当該部品は2基あるエンジンに2つずつ使われており、冗長性を持たせているという。777Xの飛行試験機は4機あるが、TACは関係者の話として、ほかの試験機も稼働中の2機で「スラスト・リンク」に亀裂が見つかったと報じており、すべての飛行試験機で同様の問題が発生しているようだ。スラスト・リンクは、エンジンを機体に固定する重要な構造部品。ボーイングは、2機の点検は計画されていたものだとしており、FAA(米国連邦航空局)や顧客にも情報を共有しているという。FAAは、「ボーイングは先週の777-9の飛行試験後、損傷した部品を発見したとFAAに報告し、問題を評価するための措置を講じている」との声明を発表した。【Aviation wire news】
【Aviation Week提供:777XのエンジンのThrust Link(赤い〇で囲った部品)】
2.史上初、地球を南北に回る有人宇宙飛行「フラム2」 – スペースXと大富豪が計画
米宇宙企業スペースXなどは2024年8月12日、史上初めてとなる、地球を南北に回る極軌道への有人宇宙飛行ミッションを実施すると発表した。ミッション名は「フラム2 (Fram2)」と呼ばれ、早ければ今年末にも打ち上げられる。全員民間人から構成される商業宇宙飛行ミッションとなり、ミッション中には科学観測や研究を行うという。フラム2は、起業家、冒険家のチュン・ワン(Chun Wang)氏が主宰するミッションで、スペースXの有人宇宙船「クルー・ドラゴン」で飛行する。ミッション名のフラム2とは、ノルウェーの探検家フリチョフ・ナンセンが北極探検で搭乗したり、のちにロアール・アムンセンの南極探検にも使われたりした、探検船「フラム号」にちなんでいる。ワン氏は中国生まれで、現在はマルタ共和国の市民権を持つ。仮想通貨(暗号資産)の先駆者で、ビットコインのマイニングプール大手のF2poolや、イーサリアムのステーキング・プロバイダーとして最大手のstakefishを設立したことで知られる。また、南極や北極を含む、世界127の国や地域を訪れた経験も持っている。【マイナビニュース】
【スパースX提供:「フラム2」ミッションで地球の極域を飛行するクルー・ドラゴン宇宙船の想像図】
3.センサーデータと航空機の性能低下の兆候を組み合わせたハイブリッド着氷検出方法
航空輸送にとって着氷は依然として大きな脅威となっているため、欧州の資金援助を受けたプロジェクトでは、新しいセンサー技術と航空機の性能低下の分析を組み合わせた、着氷のハイブリッド検出を研究している。SENS4ICEプロジェクトは今年初めに調査結果をまとめ、その結果はいくつかの航空会議で発表されている。さまざまな物理的原理に基づいた 10 種類の直接氷検出センサー候補が評価され、そのうち 8つが飛行試験プログラムに進んだ。4つはエンブラエル・フェノム300テストベッドに搭載され、残りの4つはフランスの環境研究機関サファイアのATR 42-300に搭載された。重要なのは、両航空機が間接的な氷検出アルゴリズムも備えており、これがセンサーと相まってハイブリッド氷検出システムを形成している点だ。間接的な氷検出機能は、正確な参照データベースを使用して航空機の予想される飛行性能を計算し、それを実際の性能と比較することができる。システムは、この性能の違いを直接の氷センサーデータとともに分析し、性能の低下が氷の付着によるものである可能性を判断する。飛行試験は昨年2月から3月にかけて北米でフェノムを使用して、4月にはヨーロッパでATRを使用して実施された。SENS4ICEの最終報告書によると、飛行試験データの分析により、ハイブリッド検出の利点は「否定できない」ことが示されたという。同社は、直接検知技術は「非常に有望」である一方、間接検知アルゴリズムは飛行試験キャンペーン中に「すべての着氷遭遇時の性能低下を検知することができた」と述べている。また、このアルゴリズムは、着氷雲を抜けた後に機体に残った氷の付着によって生じる性能低下も検出できると付け加えた。【Flightglobal news】
【エンブラエル社提供:フェノム300に装備された、さまざまな氷検出センサー】
4.magniX、NASA の航空電化プログラムの次のフェーズを開始
電動航空革命を推進するmagniXは、NASA電動パワートレイン飛行実証プログラム(EPFD)の次のフェーズを開始し、magniXの業界をリードする電動パワートレインを後付けするデ・ハビランドDHC-7(ダッシュ7)機を発表した。ワシントン州シアトルで行われた式典で公開されたこの機体には、magniX、NASA、およびダッシュ7の提供者であるエア・ティンディのロゴが描かれていた。EPFDの次の段階では、航空機の4つのタービンエンジンのうち1つがmagniX電動パワートレインに交換され、2026年にテスト飛行が計画されている。次の段階では、2つ目のタービンエンジンが別のmagniXパワートレインに置き換えらる。この構成により、燃料消費が最大40%削減されると予想されている。【MagniX社発表】
【MagniX社提供:No1エンジンをMagniX社パワートレインに換装したDHC-7】
日本のニュース
1.NEC、羽田制限区域のレベル4自動運転設備受注 25年12月開始へ
NECは8月23日、羽田空港の制限区域内で使われる作業車両の「レベル4自動運行」を実現するための車両制御用設備を国土交通省東京航空局(TCAB)から受注したと発表した。2025年12月に予定されている制限区域内でのレベル4自動運行の実現につなげる。制限区域内を走行する自動運転車両は、「FMS(全車両管理システム)」と呼ばれるシステムで位置の把握や配車指示などを行う。NECが受注したのは、「東京国際空港制限区域内車両制御用設備」と呼ぶVME(車両制御用設備)で、自動運転車両を管理する各社の「事業者FMS」と接続し、信号制御機能や状態監視機能、情報共有機能で安全を確保する「共通FMS」の機能を持たせた。自動運転車両と連動する信号設備や自動運転車両の死角を補うカメラ設備などで構成されたVMEを整備することで、特定の条件下で完全無人運転となる「レベル4」の自動運転を制限区域内で実現させる。VMEの主な機能として、制限区域内の交差点で有人車両と自動運転車両の交通整理を行う信号制御機能、自動運転車両のみでは見通しの確保が困難な所にカメラを設置し、カメラの映像を自動運転車両を運行する事業者へ配信する状態監視機能、関係者間で情報共有する情報共有機能を備える。グランドハンドリングはコロナ前から人手不足が課題となっており、国交省航空局(JCAB)が航空各社や空港運営会社などと官民連携で実証実験などを進めてきた。【Aviation wire news】
【Yahooニュース提供:羽田空港制限区域内での「レベル4自動運転」の実現イメージ】
2.JAL、セコマ廃食油でバイオディーゼル燃料 新千歳の車両11台
日本航空とコンビニエンスストア「セイコーマート」を展開するセコマ(札幌市)、豊田通商、千歳空港モーターサービス(CAMS)の4社は8月22日、新千歳空港で運用しているトーイングトラクター(TT車、貨物牽引車)とフォークリフトの燃料として、バイオディーゼル燃料(BDF)を通年使用を始めたと発表した。対象車両は、空港内で貨物コンテナなどを牽引(けんいん)するトーイングトラクターが9台、フォークリフトが1台、航空機を牽引するトーイングカーが1台。セイコーマートの店内調理「HOT CHEF」で発生する廃食油を、セコマグループの白老油脂(北海道白老郡)がBDFに精製後、豊田通商が新千歳空港へ配送・供給し、CAMSがJALの作業車両に給油する。実証実験を2023年8月1日から11月14日まで実施した際は、CO2(二酸化炭素)排出量を約6トン削減。一方、寒さが厳しい新千歳での通年運用は、厳寒期にBDFが燃料タンク内で凍結して、品質に影響を及ぼすおそれがあったことから、BDFと軽油の混合燃料としたり、燃料タンクに温風装置を設置し、凍結を未然に防いで通年で使用できるようにしたという。BDF専用タンクを空港内に新設し、BDF使用対象車両を実証実験の3台から11台に拡大。年間約54トンのCO2排出量を削減できる見込み。本格運用は7月15日から始め、8月22日からはトーイングトラクター1台にラッピングを施した。【Aviation wire news】
【JAL提供:千歳空港に設置された貨物運搬トラクター用廃油由来のBDF給油設備】
3.JAL、国内初の電動トーイングカー CO2ゼロで737けん引、那覇空港
日本航空は8月19日、国内初となる電動トーイングカー(けん引車)の本格運用を那覇空港で始めた。CO2(二酸化炭素)の排出削減や騒音軽減につなげ、空港の脱炭素化を進めていく。トーイングカーは、航空機出発時のプッシュバックや駐機場間の移動に使用する。導入したのはTLD製の電動トーイングカーで、ボーイング737-800型機など、100トン級の機体に使用する。従来のディーゼル(軽油)エンジン車と比較すると、CO2排出量はゼロで、騒音を約15%軽減できるという。フル充電でプッシュバックが約23回、けん引は約8回可能で、全世界で43台の導入実績がある。JALグループはこれまで、30トン級のターボプロップ(プロペラ)機ををけん引する貨物用の電動トーイングトラクターを導入しているが、100トン級の航空機けん引にはより大きな電力が必要なため、充電設備の整備が課題となっていた。那覇空港はJALグループの日本トランスオーシャン航空(JTA/NU)が拠点としており、737を14機保有。充電環境が整ったことなどから、同空港での運用開始を決めた。【Aviation wire news】
【Aviation wire提供:那覇空港で運用を開始した国内初の100トン級電動トーイングカー】
4.QPS研究所、通算8機目の小型SAR衛星「アマテル-IV」の打ち上げに成功
QPS研究所は、小型SAR(合成開口レーダー)衛星「QPS-SAR」シリーズの通算8機目となる「アマテル-IV」が、米・カリフォルニア州ヴァンデンバーグ宇宙軍基地の発射場「Space Launch Complex 4」(SLC-4)からスペースXのファルコン9ロケットによって8月17日の3時56分(日本時間)に打ち上げられたことを発表。そして同日6時32分に予定されていた軌道に投入され、その約2時間後には初交信に成功し、さらにその夜には収納型アンテナの展開を試み、無事展開されたことが確認されたことを報告した。【マイナビニュース】
【QPS研究所提供:「アマテル-IV」の打ち上げの様子】