KIT航空宇宙ニュース2025WK30

矢野経済研究所は、宇宙関連機器世界市場の調査結果を発表。機器別や参入企業各社の動向などを調べたもので、2050年には78兆円規模まで同市場が成長すると予測。
KIT航空宇宙ニュース

KIT航空宇宙ニュース2025WK28&30

海外のニュース

1. 最大の737 MAX「737-10」型式証明遅れ26年に

ボーイングの最新小型機737 MAXのうち、開発中の737-7(737 MAX 7)と737-10(737 MAX 10)の「型式証明(TC)」取得が遅れ、2026年にずれ込む見通しだ。米有力航空メディア「The Air Current(TAC)」が7月25日に報じた。日本の航空会社では、スカイマークが737-10を2027年度から受領する計画だが、今回の遅れが納入時期にどの程度影響するかを見定める必要が出てきた。TACによると、エンジン防氷(EAI: Engine Anti-Ice)システムの最終設計が固まっておらず、機体の安全性を製造国が認める型式証明をFAA(米国連邦航空局)から取得するのは2026年にずれ込む見通し。ボーイングは、737-800など「737NG(次世代737)」と呼ぶ737 MAXの前世代機までは受注リストで派生型ごとの実績を開示していたが、737 MAXは詳細を明らかにしておらず、6月30日時点の受注残4863機のうち、737-7と-10が現在何機ずつかを正確に把握することが難しい。737 MAXは、大別すると737-7から-10まで4つのタイプがあり、基準となる標準型は、737-800の後継で2016年1月に初飛行した737-8(737 MAX 8、1クラス189席)。737-7(同172席)はもっとも胴体が短い短胴型で737-700の後継機、737-9(同220席)が長胴型で、従来型では胴体がもっとも長かった737-900の後継機となる。新たに追加された超長胴型の737-10は最大の737 MAXで、最大1クラス230席仕様にできる。このうち、737-8と-9は就航済みだが、737-7と-10は型式証明の取得が遅れているため、引き渡しが始まっていない。737-10を発注した航空会社の中には、一部を737-9に変更した社もある。発注時点では、スカイマークは737-10を2026年度から受領する計画だったが、2027年度に後ろ倒しすると今年5月に発表した。スカイマークの本橋学社長は「ボーイング、FAA、サプライヤー、政治的な部分と、変数が極めて多い。我々ができることは、カウンターパートであるボーイングやリース会社に新機材の必要性を訴え、事業計画に沿ったタイミングを働きかけることに尽きる」と説明。「最大限努力してもコントロール外のものもあり、機材稼働を上げたりリース機の契約延長など、小さなことも含めて工夫していく」と発言しており、今後の対応を検討していく。【Aviation wire news】

Skymark Airlines Announces Intent to Acquire Boeing 737 MAX Airplanes. (PRNewsfoto/Boeing)

【Yahooニュース提供:Skymarkが発注した737MAX-10(想像図)】

2. 日本がボーイング製民間機100機購入 大手2社は大量発注直後=日米関税合意

米国のホワイトハウスは現地時間7月23日、トランプ大統領が日本との新たな経済協定を締結したと発表した。協定には民間航空機や防衛装備の購入に関する大型の合意が含まれた。一方で、日本の大手航空会社は、ボーイングにここ数年まとまった数の航空機を発注済みで、“合意”というよりは参院選で大敗を喫した石破政権が大幅に譲歩したとも言えそうだ。民間航空機分野では、日本が米国製の民間航空機を購入することを約束。ボーイング製航空機100機の購入契約が含まれた。防衛分野では、米国の防衛装備を年間数十億ドル規模で追加購入すると明記され、インド太平洋地域での相互運用性と同盟の安全保障を強化することを目的とした。国内最大手の全日本空輸を傘下に持つANAホールディングスは、6月に開かれた世界最大規模の国際航空宇宙見本市「パリ航空ショー」(奇数年開催)で、ボーイングに787-9型機を23機、737-8(737 MAX 8)をオプション(仮発注)を含む最大22機(確定18機、オプション4機)の合わせて最大45機(確定41機、オプション4機)を正式発注した。日本航空は昨年7月にロンドン近郊で開かれた「ファンボロー航空ショー」(偶数年開催)で、787-9を最大20機(確定10機、オプション10機)正式発注した。この契約とは別に、傘下のZIPAIRが運航する機材として787-8も2機追加発注している。JALも737-8(737 MAX 8)を現行機737-800の後継機として国内線を中心に38機導入する見通しで、JALの発注は3機種合わせて最大60機(確定50機、オプション10機)となる。国内大手2社の合計機数は確定91機(ANA 41機、JAL 50機)、オプションも含めると最大105機(ANA 45機、JAL 60機)。今回の「購入」が現時点で正式発注に至っていないオプション契約を含まない場合、新たに国内の航空会社が100機発注する必要が出てくる。【Aviation wire news】

3. 777-8F貨物機、エバレットで製造開始 ANAも発注

ボーイングは現地時間7月22日、次世代大型機777Xの貨物型777-8Fの製造を開始したことを明らかにした。ワシントン州シアトル近郊のエバレット工場にある「777X複合材スパー製造施設」で、主翼のスパー(主桁)に最初の穴を開ける作業が21日に行われ、量産に向けた本格的な製造が始まった。初号機の引き渡しは2028年を予定している。777-8Fは、2機種ある777Xの旅客型のうち777-8を基にした大型貨物機で、航続距離4410海里(8167キロ)、胴体長70.9メートル、最大積載量(ペイロード)は118トン。747-400Fとほぼ同等の積載能力を持ち、燃費や排出ガス、運航コストを30%改善したもので、2022年1月31日に開発を発表した。ボーイングは、これまでに777-8Fを59機受注。日本では全日本空輸を傘下に持つANAホールディングスが2機発注済みで、ANAHDは旅客型の777-9を20機発注後、2機を777-8Fに変更した。【Aviation wire news】

【Aviation wire提供:ANAが発注している777-8F(想像図)】

4. 米FAA、コックピット二次バリア規則の1年間の延期を認める

米連邦航空局は22日、新規に納入される米国の旅客機に操縦室への侵入を防ぐための第2の障壁を設けることを義務付ける規定を8月に発効予定だったが、これを1年延期することで合意した。米国の航空会社を代表する業界団体「エアラインズ・フォー・アメリカ」、アメリカン航空、ユナイテッド航空、デルタ航空は、FAAがまだ操縦室の二次バリアを認証しておらず、マニュアルや手順、訓練プログラムも承認されていないため、FAAに2年間の適合延期を要請していた。【ロイター通信】

【ワシントンPost提供:コックピット進入防止2次バリア】

5. ロビンソン、MagniXと提携し電動R66ヘリコプターを開発

ロビンソン・ヘリコプターと推進システムの革新企業であるMagniXは、R66回転翼機用のバッテリー電動パワートレインの共同開発で合意しました。両社は本日、EAAエアベンチャーでこの計画を発表し、2026年後半に実証機システムによる初飛行を実施することを目指している。ワシントンに拠点を置くMagniXは、ヘリコプター向けに開発された完全統合型電動パワートレインを提供します。このパワートレインには、同社が今年初めに発表した軽量・高速のHeliStormエンジンが搭載されます。「MagniXの完全統合型電動パワートレインは、コスト、騒音、安全性において明確なメリットを実証しました」と、MagniXの最高技術責任者であるリオナ・アームスミス氏は述べている。2022年、MagniXはロビンソンR44ヘリコプターの改修型初飛行に推進システムを提供しました。2025年3月には、同社が世界初と称する水素電気ヘリコプターの有人飛行に携わった。ロビンソン氏によると、R66は世界中で1,500台以上が運用されている。カリフォルニアに拠点を置く同社は現在、R66の標準エンジンであるロールス・ロイスRR300ターボシャフトエンジンに代わるエンジンを顧客に提供することに意欲的だ。【Aviation International News】

【ロビンソン社提供:ロビンソンR66ヘリコプターの電動バージョン】

6. FAA、軽スポーツ(LSA)機の規則を大幅に見直し

FAA は、長らく待望されていた特殊耐空証明の近代化 (MOSAIC:Modernization of Special Airworthiness Certification) 規則を最終決定し、軽スポーツ機 (LSA) のカテゴリーとスポーツ パイロットの特権に広範な変更を実施した。同局によると、7月18日に署名され、火曜日にウィスコンシン州オシュコシュで行われたEAAエアベンチャーで発表されたこの規則は、2004年以来、一般航空のこの分野における最も広範囲な更新となる。MOSAICに基づき、FAAはLSAの既存の重量制限を撤廃し、性能に基づく基準に置き換えることで、より高速で、より重量が大きく、より高性能な設計を可能にする。最大4座席、格納式着陸装置、定速プロペラ、そして電力などの代替推進システムを備えた航空機は、今後LSAカテゴリーの認証を受けることができる。この規則により、スポーツパイロットが飛行できる機体や操縦方法も拡大される。適切な訓練と承認を受ければ、スポーツパイロットは夜間飛行、より複雑な航空機の操縦、そしてこれまでは上級資格レベルに限られていた高度なシステムの使用が許可される。搭乗人数は2名までという制限は変わらないが、対象となる航空機には、ヘリコプターや動力付きリフトなど、より幅広い構成の航空機が含まれる。FAAは今回初めて、インフラ点検、航空写真撮影、農業観察などを含む限定的な商業活動をLSAの枠組みの下で許可する。これらの任務は、これまでは航空機が技術的に可能であってもLSAでは禁止されていた。FAAによると、 MOSAICは、高い安全性を維持しながら、より高い性能と柔軟性を提供することで、工場で製造されたLSAの普及を促進することを目的としている。FAAによると、これらの航空機は、これまで事故率が高かったアマチュア製作の実験的なモデルよりも、より魅力的な代替手段となるだろう。【Flying Magazine】

【Flying Magazine提供:Leonardo Correa Luna(LSA機)】

日本のニュース

1. ANA 787-10新造機、米チャールストンで他社機に接触 ブリーズのA220に

米サウスカロライナ州のチャールストン国際空港で現地時間7月18日夜、全日本空輸のボーイング787-10型機の新造機がタキシング(地上走行)中、駐機していた米LCCのブリーズ・エアウェイズのラスベガス発ノーフォーク行きMX509便(エアバスA220-300型機)と接触した。A220のラダーから液体が漏れたことから消防車が出動し、MX509便の乗客のうち数人が軽傷と診断されたもようだ。ANA機は新造機を羽田空港へ空輸するフェリーフライト(回航便)のNH9397便で、乗客は乗っていなかった。【Aviation wire news】

【Yahooニュース提供:ANAの787-10型機】

2. 2050年の宇宙関連機器世界市場規模は78兆円へ、矢野経済研究所調査

矢野経済研究所は、宇宙関連機器世界市場の調査結果を発表。機器別や参入企業各社の動向などを調べたもので、2050年には78兆円規模まで同市場が成長すると予測している。調査はロケットや人工衛星、それらに搭載される探査機などの関連機器を扱う宇宙機器関連企業を対象に、同社の専門研究員による直接面談(オンライン含む)と文献調査を併用して実施し、事業者売上高ベースで算出したもの。調査期間は2025年1月~3月。出典資料は同社が3月27日に発刊した「2025年版 宇宙関連機器市場の現状と将来展望」(A4 137ページ、27万5,000円)。近年の宇宙開発分野は、中国やインドといったアジア諸国での研究開発が追随する状況となっている。今回の調査では、世界の各地域で開発されているロケットや人工衛星、それらに搭載される関連機器を対象とした、2024年の同市場(事業者売上高ベース)を17兆4,861億7,100万円と推計。今後も世界全体で研究開発が進み、市場の成長・拡大が期待できることから、2050年の宇宙関連機器世界市場は78兆円規模に成長すると予測した。日本における宇宙開発については、「資金が限られているためにロケット打ち上げ機会が少なく、数を重ねての実証実験を行うことが難しい」と現状の課題を示したうえで、高い能力を持つ打ち上げ技術や、小惑星のサンプルリターンを完遂した探査機「はやぶさ」を生み出す技術力を持つことも挙げ、「他国にはない技術で宇宙産業を開拓していくことが求められる」としている。【マイナビニュース】

【矢野経済研究所提供:宇宙関連機器世界市場規模予測】

3. GSユアサの新世代「宇宙用リチウムイオン電池」開発、JAXA基金に採択

GSユアサグループのジーエス・ユアサ テクノロジーは、「第5世代宇宙用リチウムイオン電池」の開発と、実用化に向けた体制構築の推進にあたり、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が公募する宇宙戦略基金事業に採択されたと7月17日に発表した。

・技術開発テーマ:衛星サプライチェーン構築のための衛星部品・コンポーネントの開発・実証

(A)衛星サプライチェーンの課題解決に資する部品・コンポーネントの技術開発

・技術開発課題名:第5世代宇宙用リチウムイオン電池開発および実用化体制構築

・量産化技術の検討

・安全性に関する検討

・寿命予測モデルの構築

・実施期間:2025年4月7日~2030年3月31日(予定)

同社の宇宙用リチウムイオン電池は、2000年代初頭に軌道上での宇宙実証が行われて以来、これまでに国内外250機以上の人工衛星などの宇宙機に採用されている。今回の基金を活用し、新世代の宇宙用リチウムイオン電池開発と実用化体制の構築をめざす。【マイナビニュース】

【GSユアサ提供:宇宙用リチウムイオン電池(セル)】