KIT航空宇宙ニュース2024WK01

新年あけまして、おめでとうございます。
KIT航空宇宙ニュース

KIT航空宇宙ニュース2024WK01

学生の皆さん、新年あけましておめでとうございます。元旦早々から、能登大地震、羽田空港でのJAL機と海保機の衝突事故と、大きな災害、大事故が続き、不穏な新年の幕開けとなりましたが、今年一年が、皆さんにとって、実り多き、幸せな一年となりますようお祈りいたします。今年も、この航空宇宙に関する最新ニュースを毎週配信していきますので、購読をお願い致します。

海外のニュース

1. インドの月探査機が地球周回軌道に帰還、将来のサンプル・リターンへの布石に

インド宇宙研究機関(ISRO)は2023年12月4日、月探査機「チャンドラヤーン3」の推進モジュールを、月周回軌道から地球周回軌道へ帰還させることに成功したと発表した。チャンドラヤーン3は月面着陸を目的としたミッションで、今年8月に着陸機と探査車が着陸に成功した。推進モジュールはもともと、それらを地球周回軌道から月周回軌道まで運ぶ役割を担っていたが、余力が生まれたことで地球周回軌道への帰還が実現した。ISROはこの運用を通じて得られた技術やノウハウを活かし、早ければ2026年にも、月の石を地球に持ち帰るサンプル・リターン・ミッションに挑む。チャンドラヤーン3(Chandrayaan 3)はISROの月探査機で、月着陸機「ヴィクラム(Vikram)」と探査車「プラギヤン(Pragyan)」、そしてそれらを地球周回軌道から月周回軌道へ運んだり、その間の地球との通信を担ったりする「推進モジュール」から構成されている。今年7月14日に「LVM3」ロケットで打ち上げられ、まず地球を回る軌道に投入されたのち、推進モジュールのスラスターの噴射によって高度を徐々に上げていき、8月5日に月周回軌道に入った。そして8月17日、推進モジュールからヴィクラムが分離され、8月23日に月の南極に比較的近い地表への着陸に成功した。着陸地点は南緯69.373度、東経32.319度で、「マンジヌスC(Manzinus C)」クレーターと「シンペリウスN(Simpelius N)」クレーターの間に位置する。着陸地点は「シヴ・シャクティ・ポイント」と名付けられた。その後、ヴィクラムからプラギヤンが発進し、走行を開始した。ヴィクラムもプラギヤンも、当初の予定どおり、12日間にわたって運用され、着陸地点が夜を迎えたのに合わせ、運用を終えた。一方、推進モジュールは、ヴィクラムの分離後も月周回軌道に留まり、「SHAPE(Spectro-polarimetry of Habitable Planet Earth)」という搭載機器を使った科学観測が行われた。SHAPEは、月の軌道から地球のスペクトルと偏光を観測し、データの収集や研究を行うことで、将来的に居住可能な太陽系外惑星の検出や観測に活かすことを目的としている。当初、SHAPEによる観測は3か月間の計画で、その後推進モジュールは運用を終えることになっていた。また、月の軌道は重力的に不安定であるため、運用終了後はいつか軌道を外れて月面に衝突するか、太陽周回軌道に到達するものとみられていた。そんななか、ISROは推進モジュールに、「地球周回軌道への帰還」という新しいミッションを与えた。ISROによると、LVM3の性能や軌道投入精度が想定より優れていたこと、そして地球から月への軌道変更を最適化できたことで、推進モジュールの推進薬タンクに約100kgの推進剤の残っていたため、実現が可能になったという。そして10月9日に最初の軌道変更が行われ、遠月点(月から最も遠い点)高度を、それまでの150kmから5112kmに上げた。10月13日には2回目の軌道変更が行われ、遠月点高度5万3770kmという非常に高い軌道に乗り移り、これにより月のヒル圏を離脱した。その後、推進モジュールは4回の月フライバイを行い、その間スラスターの噴射を一切行わずに、11月10日には地球のまわりを回る高度18万km×38万kmの軌道に入った。公転周期は約13日で、軌道傾斜角は27度、また近地点高度と遠地点高度は軌道中に変化し、11月22日には地球から15万4000kmのところを通過している。現在の軌道予測によると、最小の近地点高度は11万5000kmで、運用中の地球の人工衛星に接近するおそれもないという。また、SHAPEペイロードの運用は今後も続き、地球が視野内にあるときはつねに観測を行うとしている。宇宙機が月周回軌道から地球周回軌道への軌道変更に成功したのは、これが史上初めてである。たとえばアポロ宇宙船や中国の月探査機などは、月周回軌道から離脱したあと、そのまま直接地球に突っ込むように飛行して帰還している。【マイナビニュース】

【ISRO提供:打ち上げ前のチャンドラヤーン3(下半分が推進モジュール)】

2. 中國のEHangが初めて乗客を乗せ飛行

昨年12月28日、中国企業 EHang は重要なマイルストーンを達成した。彼らは完全に無人の自律型eVTOL機EH216-Sを広州で初の商用飛行で飛行させた。16個の異なるローターを使用し、完全に電気バッテリーで動力を供給することで、パイロットなしで乗客を輸送することができた。これにより、一般的なヘリコプターよりもはるかに静かな、より環境に優しい乗り物となりました。EH216-S の航続距離はわずか35マイルです。対照的に、最も人気のある民間ヘリコプターのモデルであるロビンソンR44は、最大341マイル飛行できる。EH216-Sの最高速度は時速131 マイルに過ぎない。ロビンソンは、最大818ポンドの人や荷物を積んでも、時速195マイルまでの速度に達することができる。また、EH216-Sにはパイロットは必要ないが、ロビンソンでは3人(パイロット1人)の乗客を乗せることができるのに対し、乗客は2人しか乗せられない。【Flightglobal news】

【Flightglobal提供:商用飛行を開始したEHang社eVTOL機EH216-S】

日本のニュース

1. JAL A350が羽田で炎上 札幌発JL516便、乗客乗員は全員脱出

JL516便(A350型機)新千歳空港を午後4時15分(定刻午後3時50分)に出発し、午後5時47分に羽田のC滑走路(RWY34R)へ着陸直後に、滑走路上に誤進入していた海上保安庁のボンバルディアQ300型機と衝突し、機体が炎上した。乗客367人(幼児8人含む)と乗員12人(パイロット3人、客室乗務員9人)の計379人が搭乗していたが、全員が緊急脱出した。乗客全員のけがの有無を確認したという。脱出時に機内のアナウンスシステムが作動しなかったため、客室乗務員がメガホンと肉声で乗客に案内。安全に脱出できる出口を客室乗務員が判断し、3カ所から全員が脱出した。午後6時5分には、ランプ内の安全な場所へ避難したという。一方海上保安庁機に搭乗していた6名の内、脱出した機長以外の5名の隊員が亡くなった。なぜ、海上保安庁機が滑走路に誤進入したのかについては、事故調査委員会で調査中であるが、現在まで公表されている管制官とのやり取りの音声記録の情報によれば、JAL機は管制官から着陸許可を得ていいたが、海上保安庁機は離陸許可を得ていないまま、滑走路に入ってしまったものと思われる。また、管制官、JAL機機長ともに、滑走路上にいる海上保安庁機に気づいていなかったとのことであるが、管制官が使用している滑走路上監視サーベーランスレーダーによる、滑走路進入注意喚起システムは正常に作動しており、レーダー画面には、滑走路が黄色に変わり、進入した海上保安庁機が赤色に表示されていたが、それには気づいていなかったとのこと。【Aviation wire news】

【NHKニュース提供:JAL機が海保機に衝突した瞬間】

2. 能登空港、滑走路にひび 小松は異常なし

国土交通省によると、1月1日に発生した「令和6年能登半島地震」の影響で、能登空港では滑走路上に深さ10センチ、長さ10メートル以上のひび割れが4-5カ所あった。航空局庁舎などにも被害が出たものの、人的被害の報告はないという。能登空港では震度6強を観測。建物外へ160人程度が避難し、毛布を支給済みだという。定期便は全日本空輸(ANA/NH)の羽田線1日2往復のみで、2日は全4便の欠航が決定した。小松空港では震度5強を観測し、自衛隊による滑走路点検の結果、異常はなかった。従業員や利用者、周辺住民はターミナル3階へ400人程度が避難しているという。富山空港も震度5強を観測したが被害はなかった。【Aviation wire news】

【Yahooニュース提供:能登空港ターミナルビル入り口付近の被害状況】

3. FPG傘下オンリーユーエア、ホンダジェット4月就航へ 国交省が認可

FPGの100%子会社オンリーユーエア(旧FPGエアサービス)は、国土交通省航空局(JCAB)からプライベートジェット事業を始めるために必要な事業計画変更に関する認可を12月26日付で取得した。現在は鹿児島県や沖縄県の離島へ医師を搬送する事業を手掛けており、実機訓練や施設検査などを経て、小型ビジネスジェット機「HondaJet(ホンダジェット)」を2024年4月ごろに就航させる見通し。プライベートジェット事業は、FPGグループの顧客基盤である個人富裕層が主なターゲット。2022年10月に発表されたホンダジェットの最新型「Elite II(エリートII)」などを就航させる計画で、2機を発注済み。1機目は2021年5月発表の性能向上型「Elite S」(登録記号JA20YA)で12月に受領し、鹿児島空港を起点にパイロットの訓練を進めている。2機目はElite IIとなり、5月ごろの受領となる見通し。オンリーユーエアによると、利用者のスケジュールや利用シーンに合わせたプライベートジェットのチャーター事業を展開することで、社名の由来である「あなただけのきめ細かい空の移動」を提供していきたいという。また、プライベートジェット事業開始後も、離島への医療従事者搬送サービスは継続するとしている。【Aviation wire news】

【Aviation Wire提供:オンリーユーエアが使用するホンダジェット「EliteII」】

4. ロケット・ラボ「エレクトロン」ロケット打ち上げ再開、QPS研究所の衛星を搭載

米宇宙企業ロケット・ラボは2023年12月15日、小型ロケット「エレクトロン」の打ち上げに成功した。エレクトロンは9月に打ち上げに失敗しており、今回が失敗後初の打ち上げとなった。ロケットには日本のベンチャー企業QPS研究所の小型地球観測衛星「ツクヨミ-I」が搭載されており、無事所定の軌道に投入された。ツクヨミ-Iを載せたエレクトロンは、日本時間12月15日13時05分(ニュージーランド夏時間17時05分)、ニュージーランドのマヒア半島にある同社の発射場から離昇した。ロケットは順調に飛行し、14時02分に衛星を分離して、打ち上げは成功した。分離から約40分後には、QPS研究所の地上局とツクヨミ-Iとの初交信が成功し、衛星の各機器が正常に作動しており、衛星の状態が正常であることを確認したという。QPS研究所は今後、調整を行い、アンテナの展開、そして初画像の取得を目指すとしている。今回のミッションは、ツクヨミ-Iの愛称の由来である日本神話の月読命(ツクヨミノミコト)にちなみ、「The Moon God Awakens (月の神の目覚め)」と命名された。また、「QPS-SARコンステレーションの2機目(複数機)、さらには傾斜軌道となる5号機が打ち上がることで、まさにこれからその力が目覚め、本領を発揮する」という想いも込められているという。QPS研究所は2005年に福岡で創業された宇宙開発ベンチャー企業で、電波を使用して地表の画像を得る合成開口レーダー(SAR)を搭載した小型衛星を開発、運用している。独自の技術で小型軽量ながら大型の展開式アンテナを開発し、従来のSAR衛星の20分の1の質量、100分の1のコストとなる、100kg台の小型SAR衛星を実現した。【マイナビニュース】

【マイナビニュース提供:ロケット・ラボのロケット「エレクトロン」打上げ】

5. 将来宇宙輸送システム、「トリプロペラント方式」の燃焼試験に成功

将来宇宙輸送システムは、水素・メタン・酸素の3種類の推進剤を用いた「トリプロペラント方式」の燃焼試験に成功したことを発表。また併せて、研究・設計・実験など開発に関わる過程をデータ化しクラウド上に集約した独自の研究・開発プラットフォーム「P4SD(Platform for Space Development)」の有効性も確認したことも発表した。将来宇宙輸送システムは「毎日、人や貨物が届けられる世界。そんな当たり前を、宇宙でも。」というビジョンを掲げ、完全再使用型の単段式宇宙往還機(SSTO)を用いた高頻度宇宙輸送を2040年代に行うことを最終目標とし、今後5年を目安に再使用型の宇宙輸送機の開発を目指している。水素・メタン・酸素の3種類の推進剤を用いた「トリプロペラント方式」は、同社が目指している完全再使用型のSSTOを実現するための機体軽量化の手段として有効であると考えられており、密度が小さく比推力の高い水素燃料の使用を大気圏外に集中させ、大気圏内の推力をメタン燃料でカバーすることで液体水素タンクをサイズダウンさせ、機体を軽量化するとしている。今回の燃焼試験は2023年12月19日〜20日にかけて北海道スペースポート(HOSPO)の滑走路にて実施され、その結果、水素・メタン・酸素によるトリプロペラント方式での燃焼(モード1)から、水素・酸素による(モード2)へ燃焼モードを切り替え、各モードともに約5秒ずつの連続燃焼に成功。独自開発した制御センサーを用いて、試験データを無線でクラウド上にアップロードすることにも成功したとする。【マイナビニュース】

【マイナビニュース提供:将来宇宙輸送システム社による「トリぺラント燃焼方式」の燃焼試験】

6. JAXAの小型月着陸実証機(SLIM)、月周回軌道への投入に成功

宇宙航空研究開発機構(JAXA)は12月25日、同日16時51分(日本標準時、以下すべて同様)に小型月着陸実証機(SLIM)が月周回軌道投入に成功したことを発表した。SLIMの月周回軌道は、周期約6.4時間、月に最も近いところ(近月点)では高度約600km、月から最も遠いところ(遠月点)では高度約4000kmで、月の北極点と南極点を結ぶ楕円軌道で、所定の計画通りの軌道変更を達成し、探査機の状態は正常だという。今後については、2024年1月中旬までに遠月点を低下させ、高度約600kmの円軌道に軌道を調整した後、近月点を降下し、着陸開始への準備を進めていく予定で、最終的には1月19日に近月点を高度15kmまで低下させ、翌1月20日午前0:00ごろに着陸降下を開始、同0:20ごろに月面へと着陸する予定としている。【マイナビニュース】

【マイナビニュース提供:SLIMの月周回軌道】