KIT航空宇宙ニュース2024WK12

高砂熱学が開発し、月面探査機「HAKUTO-R」に搭載される月面用水電解装置
KIT航空宇宙ニュース

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海外のニュース

1. エンブラエルE190-E2とE195-E2、ETOPS取得 単発2時間飛行可能に

エンブラエルの次世代リージョナルジェット機「E2」シリーズのうち、E190-E2とE195-E2が、ETOPS 120をANAC(ブラジル民間航空国家機関)とFAA(米国連邦航空局)、EASA(欧州航空安全局)から取得した。エンジンが洋上などで1基停止しても最大120分(2時間)飛行可能になる承認で、航空会社が飛行ルートを柔軟に設定できるようになる。ブラジルのエンブラエルは、リージョナルジェット世界最大手。E2シリーズは双発機で、洋上を長時間飛行する際に必要な航空当局の承認「ETOPS(イートップス)」を取得したことで、より燃費の良いルートを飛行できるという。これまではエンジンが1基不作動になった際の着陸に支障がないよう、陸地沿いなど代替空港に沿ったルートを飛行する必要があった。E190-E2は、E2シリーズのうち最初に開発された機体。従来のエンブラエル170(E170)とE175、E190、E195で構成する「Eジェット」(E1)の後継機で、E175-E2とE190-E2、E195-E2の3機種で構成する。E2の中で最初に開発されたE190-E2は、ノルウェーの地域航空会社ヴィデロー航空が2018年4月24日に世界初の定期便運航を開始。E195-E2はブラジル最大の航空会社アズール・ブラジル航空(AZU/AD)がローンチカスタマーで、2019年9月12日に初納入した。日本の航空会社でE2の採用を決定した航空会社はないが、Eジェットは日本航空グループで地方路線を担うジェイエアと、鈴与グループのフジドリームエアラインズが採用している。【Aviation wire news】

【Yahooニュース提供:ブラジル・米国・欧州の各航空当局から120分ETOPSを取得したエンブラエル190E2型機】

2. FAAが2022年の故障の原因となったPW1100Gの「位置ずれ」ベーン問題に対応

米連邦航空局は、2022年にローターの故障により飛行中のエンジン停止が発生したことを受け、航空会社に対しプラット・アンド・ホイットニーのPW1100Gギア付きターボファンのローターの交換を義務付ける予定だ。2022年7月8日の運航停止は、エアバスA320neoのPW1100Gの低圧コンプレッサーにある、ブリスクとも呼ばれる第1段一体型ブレードローターの破損が原因だったとFAAは3月22日に公表した。詳細は発表されていないが、航空会社はこれらのローターを交換し、米国登録ジェット機の215機(PW1100Gエンジンを搭載したA320neoファミリー航空機全機)に、その他の変更を加える必要があるとしている。2022年7月の事故は、エンジンの低圧圧​​縮機の第1段一体ブレードローターの「真上流」に位置する「位置がずれた」インレットガイドベーンが「空気力学的励起」を発生させ、それによりローターの損傷を引き起こした、とFAAは述べている。P&W はすでに修正プログラムを開発しており、FAAによれば、インレットガイドベーンの締め付けトルクを高め、ベーンの位置ずれを防ぐためにスペーサーを追加するよう再設計したという。また、「位置ずれによる」インレットガイドベーンによる空気力学的励起にさらに耐えられるよう、PW1100G の第1段一体型ブレードローターを再設計した。【Flightglobal news】

【Airbus提供:A320neoファミリー機に搭載されているPW1100G-JMエンジン】

日本のニュース

1. JAL、24年3月期最終益100億円上振れで増配に 25年3月期は1000億円予想

日本航空は、2024年3月期通期連結決算(IFRS)の業績予想と配当予想の修正を3月21日に発表した。売上高にあたる「売上収益」は310億円の下振れとなるものの、本業のもうけを示す「EBIT(財務・法人所得税前利益)」と純利益は100億円ずつ上振れる見通しで、年間配当は10円引き上げて1株70円とした。2025年3月期通期の業績予想と配当予想も同日発表し、純利益は1000億円、年間配当は1株80円を見込む。修正後の2024年3月期通期予想は、売上収益が前回2023年10月31日発表から310億円下方修正となる1兆6530億円(23年3月期比20.2%増)、EBITは100億円上方修正し1400億円(同2.2倍)、純利益も100億円上方修正し900億円(同2.6倍)を見込む。配当は期末を10円引き上げて1株40円としたことで、年間配当は同70円となる。2023年3月期の年間配当は同25円だった。売上収益は、国内旅客収入が単価の上振れで前回予想を上回って推移しているものの、国際旅客収入は主に日本発需要の落ち込みで前回予想を下回っているため、前回予想から下方修正となった。一方、営業費用は、燃油価格の下落による燃油費の減少や燃油費以外の費用削減努力により、前回予想を220億円下回る見込みであることが、利益の押し上げにつながる。また、今年1月2日に発生した羽田衝突時で全損となったエアバスA350-900型機の13号機(登録記号JA13XJ)については、機体保険金を受領し、「その他の収入」として199億円の計上を見込んでいる。JALは機体の損害額としては約150億円を見込んでおり、代替機材は2025年度下期に同型機を1機受領する。2025年3月期通期の業績予想は、売上収益が1兆9300億円(24年3月期予想比16.8%増)、EBITが1700億円(同21.4%増)、純利益は1000億円(同11.1%増)を見込む。配当は中間と期末が1株40円ずつ、年間で同80円となる見通し。【Aviation wire news】

2. インテグラル、スカイマーク株を鈴与へ全株売却

投資会社のインテグラルは3月21日、鈴与ホールディングス(静岡市)に保有するスカイマークの株式をすべて譲渡すると発表した。発行済株式総数の5.9%にあたるもので、約35億円で売却する。インテグラルは筆頭株主だった2023年11月に、鈴与HDへ株式の一部を売却しており、今回の全株放出で2015年1月に始まったインテグラルによるスカイマークの経営再建が完全に終結する。鈴与HDは21日、鈴与グループの投資ファンドである鈴与スカイ・パートナーズ投資事業有限責任組合に25日付で全株を譲渡し、同ファンドが筆頭株主に変わると発表。今回の取得分についても鈴与HDからファンドへ移される見通しで、議決権比率は現在の13.01%から18.91%に高まるとみられる。インテグラルは、スカイマークが2015年1月28日に経営破綻した際、支援に名乗り出て経営再建に着手。民事再生手続きは2016年3月28日に終結した。2022年12月14日には東京証券取引所のグロース市場へ上場し、東証への再上場を果たしている。2023年10月19日には、スカイマーク株の発行済株式総数の3.25%にあたる株式をエアトリに譲渡すると発表し、段階的に持株比率を下げてきた。鈴与HDは物流事業を中核とする鈴与(静岡市)のグループ企業で、フジドリームエアラインズなどを傘下に持つ。スカイマーク株は2023年11月14日に初めて取得し、同日時点での大株主の順位は、筆頭株主が鈴与HDで議決権比率は13.01%、第2位がANAホールディングスで12.93%、第3位が日本政策投資銀行(DBJ)と三井住友銀行(SMBC)が折半で設立した投資ファンド「UDSエアライン投資事業有限責任組合」で10.53%となり、この時点でインテグラルは関連ファンドを合わせた全体で第5位、議決権比率は7.30%だった。3月21日時点で、鈴与HDはスカイマークへ役員を派遣していない。【Aviation wire news】

3. JAL、エアバスとボーイングから42機導入 国際線にA350-900と787-9、国内線A321neo

日本航空は3月21日、エアバスとボーイングから計42機の旅客機を導入すると発表した。エアバス機はA350-900を21機とA321neoを11機、ボーイング機は787-9が10機で、A350-900のうち20機と787-9全機は国際線、JAL初導入のA321neoは国内線に投入する。JALはA350-900を2019年から国内線に投入しているが、国際線は初めて。787-9とともに今後成長が見込まれる北米・アジア・インドを中心とした国際線に投入する。2機種とも2027年度から6年程度で受領を計画している。JAL初導入のA321neoは、現在運航している767-300ERを置き換えるもので、2028年から導入を始める。21機発注したA350-900のうち1機は、今年1月に全損となった13号機(登録記号JA13XJ)の代替機として2025年度下期に受領する。また、737-800の後継機として、737-8(737 MAX 8)を2026年度から国内線に21機導入する見通し。737 MAX導入は2023年3月23日に発表済み。【Aviation wire news】

【FlyTeam提供:JALが新規購入するA350-900(左上)A321neo(左下)787-9(右上)737MAX8(右下)】

4. 成田空港、グラハン会社初誘致 経験者で新会社、人手不足に対応

成田空港を運営する成田国際空港会社(NAA)は、グランドハンドリング(グラハン、地上支援)会社の誘致を開始し、JBS(東京・千代田区)が3月15日から同事業に新規参入した。NAAがグラハン会社を誘致するのは初めて。グラハンは全国的に人手不足が深刻化しており、成田空港でも新規就航や増便への対応が課題となっている。JBSは旅客・ロードコントロール・ランプなどのグラハン事業を担う。初期メンバーは15人で、1日3便を毎日受入れできる体制を構築。同日からバティックエアー・マレーシア(旧マリンド・エア)のグラハンを担い、中国の青島航空からも受託する見通し。同社は空港に隣接する航空科学博物館の敷地内にある教育施設「空飛ぶ学び舎ラボ」のスタッフを中心に発足。コロナ禍で離職したグラハン経験者を集め、体制を整えた。成田空港はさらなる機能強化に伴い、空港業務の労働需要が高まっている。空港内企業の合同説明会のほか、千葉・茨城両県の高校教員を対象とした空港視察会も開催。千葉県内の大学との情報交換会などにより、人材の確保を急いでいる。【Aviation wire news】

【Aviation wire提供:成田空港でグランドハンドリング事業を開始したJBSスタッフ】

5. 福岡空港、3/23に13社合同説明会 履歴書不要

福岡空港を運営する福岡国際空港会社(FIAC)は、福岡空港内の事業者と連携した合同企業説明会を3月23日に開催する。新卒や既卒、社会人を対象とした説明会で、FIACをはじめ旅客サービス業務やグランドハンドリング、保安検査など13社が参加する。参加は無料だが、事前予約が必要となる。対象は2025年新卒、既卒、業界未経験者を含む社会人。参加するのはFIACのほか、ANA福岡空港、エスエーエス、コウノイケ・エアポートサービス、シナプス、JALカーゴサービス九州、JALスカイ九州、スイスポートジャパン、双日ロイヤルインフライトケイタリング、西鉄エアサービス、西日本シミズ、福岡給油施設、福岡空港サービスの13社を予定している。【Aviation wire news】

6. 産総研、衛星画像を用いて九州北部の斜面災害リスク地域の可視化に成功

産業技術総合研究所(産総研)は3月18日、地球観測衛星「だいち2号」が取得した複数時期のマイクロ波を干渉させる「時系列干渉SAR(合成開口レーダー)」技術を用いた解析により、九州北部において過去7年間の微小な斜面の地形変動を捉え、斜面災害リスク地域を可視化することに成功したことを発表した。また、地質・地形情報との統合解析により、九州北部の地域特有の高リスクな地質・地形素因を解明し、急斜面よりも、過去の地すべり堆積物により形成された緩斜面での地すべりの発生リスクが高いこと、地質構造の傾斜方向と一致する北西向きの斜面では、地すべりのリスクが相対的に高いことなどが明らかになったことも併せて発表された。同成果は、産総研 地質調査総合センター(GSJ) 地質情報研究部門の水落裕樹主任研究員、同・宮崎一博招へい研究員、同・阿部朋弥主任研究員、同・川畑大作主任研究員、同・岩男弘毅研究部門付、同・松岡萌研究員、同・宮地良典副研究部門長、GSJ 活断層・火山研究部門の星住英夫テクニカルスタッフらの共同研究チームによるもの。詳細は、地形に関する全般を扱う学術誌「Geomorphology」に掲載された。【マイナビニュース】

【マイナビニュース提供:地球観測衛星「だいち2号」の画像解析による地滑り危険地域の特定】

7. 高砂熱学の月面用水電解装置が完成 – 月面での技術実証へHAKUTO-Rに搭載

高砂熱学工業は3月18日、月面用水電解装置フライトモデル(FM)の開発を完了するとともに、月面輸送サービスを手掛けるispaceへと引き渡したことを発表した。月面着陸の先に期待されるのは、月面での長期滞在だ。地球の衛星である月には、大量の水(H2O)が氷の状態で存在するとみられている。そして、その豊富な水資源を水素と酸素に電気分解できれば、前者はロケットや各種機械の燃料として、後者は生物が呼吸するために利用できる。つまり水資源を分解することで、人間の月面長期滞在が可能になるのである。2019年から約4年をかけて開発された月面用水電解装置は、水を分解して水素と酸素を生成する電解セル、水と生成した酸素をためるタンク、生成した水素をためるタンク、装置全体を制御する電気ユニットで構成され、それらはさまざまな強固なパーツにより支えられている。なお、今回のミッションで使用する水については、地上よりタンクに充填した形で持参するとのことで、栗田工業が提供する水電解用の純水が用いられるという。 【マイナビニュース】

【高砂熱学提供:月面用水電解装置】