KIT航空宇宙ニュース2023WK51

中部空港に展示されたクリスマスツリー
KIT航空宇宙ニュース

KIT航空宇宙ニュース2023WK51

学生の皆さん、メリークリスマス! 今年は、これが最後のKIT 航空宇宙ニュースとなります。今年一年購読ありがとうございました。来年も是非継続してこの航空宇宙ニュースを購読して下さい。来年は、1月8日の週から毎週発行いたしますので、よろしくお願い致します。それでは、皆さん、良いお年をお迎え下さい。交通機械 小林

海外のニュース

1. 広州市にeVTOL機が引渡され観光便の設定が可能となる

EHang社は、最初の EH216-S 電動垂直離着陸 (eVTOL)機を顧客に納入し、当該機は中国民間航空局から耐空証明書を受領した。EHang社によると、この機体は広州に本拠を置く広州政府関連の航空技術会社ETONに納入されたという。この納入は、EH216-Sが10月にCAAC型式証明書を取得したことに続くもので、eVTOL機としては世界初となる。CAAC 型式証明書は機体の設計とすべての規制を満たしていることを確認するのに対し、耐空証明書は個々の機体に適用される。ETONの親会社である広州開発通信投資グループのゼネラルマネジャーである周成九氏は、「EHangから世界初の認定旅客輸送UAVを受け取ったことに感激しており、この画期的な成果を広州の地元企業として誇りに思っている」と語っている。【Flightglobal news】

【EHang提供:講師医師ETON社に納入されたeVTOL機「EH216-S」】

2.NASAとJoby Aviation、混雑した空港でのエアタクシーへの道を開く

カリフォルニア州シリコンバレーにあるNASAのエイムズ研究センターとジョビー・アビエーションが開発した新しい航空交通シミュレーションのおかげで、エアタクシーやその他の電動垂直離着陸(eVTOL)機を米国内で最も混雑する空港で従来機の飛行と統合することに一歩近づいた。NASAとJobyの研究者は最近、連邦航空局(FAA)、全米航空管制官協会、関係者らの代表者を招待し、Future Flight Centralと呼ばれるエイムズの航空管制シミュレーション施設でのシミュレーションに招待した。この2階建ての施設では、空港の360度の実物大シミュレーションが可能で、管制官、パイロット、空港職員は操作手順をテストし、新技術を評価できる。施設内では、ダラス・フォートワース国際空港とダラス・ラブフィールド空港で、NASAがあらかじめ決められたルートに沿って安全に飛行するeVTOLパイロットを確認した。eVTOLパイロットは、気象条件、ライブ飛行データ、空港運用データをシミュレートする施設を使用して、空港内をシームレスに操縦した。このシミュレーションでは、NASAが開発した航空交通管制手順と空域概念が、空港での eVTOL機運用における航空管制官の作業負荷を大幅に軽減することを示した。NASA によるシミュレーションの初期分析では、研究者が全国の他の空港で eVTOL を運用するためにこれらの手順を拡張できる可能性があり、これにより航空管制官の関連作業負荷が軽減される可能性があることが示されている。NASAは、シミュレーション結果の完全な分析を2024年に発表する予定。最新のデータは、eVTOLの飛行統合を可能にする航空管制官のツールと手順を特定するために、FAA、商業業界、空港に提供される。将来、空港への往復の乗客向けのタクシーサービスとして、eVTOLを有効にすると、二酸化炭素排出量が削減され、乗客の通勤体験が大幅に改善される可能性がある。このプロジェクト作業は、業界および政府パートナーとのエアタクシーとドローンの研究に焦点を当てたNASAの高度な航空モビリティのミッションをサポートする。【NASAプレスリリース】

【NASA提供:エイムズのFuture Flight Centralシミュレーターでゲストに航空交通管理シミュレーションを説明するサビー・ヴェルマ氏(左)】

3. ロールス・ロイス、新たな画期的な水素研究テストを開始

ロールス・ロイスとそのパートナーであるイージージェットは共に、2030年代半ば以降、狭胴機市場セグメントを含むさまざまな航空機に動力を供給できる水素燃焼エンジン技術の開発の最前線に立つことに尽力している。航空宇宙用極低温液体水素ポンプシステムを証明するための最新の一連のテストが、英国ソリハルにあるロールス・ロイスの施設で開始された。これらは、-250℃以下に冷却された低圧液体水素をエンジンにポンプで送り込んで燃焼させるために加圧するという重要な工学的課題に取り組むことになる。ロールス・ロイスは、航空分野での水素使用を実現する過程で、燃料燃焼、燃料供給、燃料システムとエンジンの統合という 3つの技術課題に取り組んでおり、すべての技術が安全に動作することを確認する必要がある。9月、ロールスロイスは、ケルンのDLRで、100%水素で稼働するパール700エンジンの全環状燃焼器のテストで、最大離陸推力を表す条件で燃料を燃焼できることが証明され、世界初の記録を達成した。【Rolls Royceニュース】


【Rolls Royce提供:-250℃以下に冷却された低圧液体水素を燃焼させるテストに成功】

4. Overair、最初のティルトローターeVTOLプロトタイプの組み立てを完了

高度エアモビリティ(AAM)の新興世界リーダーであり、全電動垂直離着陸(eVTOL)航空機の開発者であるOverair(オーバーエア)は、初の完全電動垂直離着陸機の組み立てを完了したと発表した。バタフライeVTOL 航空機のフルスケールプロトタイプ。これは、 2022年のトラックベースのテストによる本格的な推進技術の検証に続く、航空機製造業者 (OEM) にとって極めて重要なマイルストーンとなる。この成果は、航空機をカリフォルニア州ビクタービルの広大な飛行試験施設に移動する前に、カリフォルニア州サンタアナの本社でオーバーエアの機体レベルの試験段階が開始されたことを示している。2024年初めに開始予定の初期テストは、バタフライの推進システム、飛行制御機構、安全機能、運用効率の検証に焦点を当てる。このテストでは、航空機の 55デシベル騒音目標と、さまざまな飛行条件および気象条件にわたる性能エンベロープも評価される。カレム航空機から生まれたオーバーエアは、数十年にわたる VTOLの専門知識を活用して、連邦航空局(FAA)の高度航空モビリティ導入計画に適合するように設計された認証と運用を追求しながら、機体の効率的な開発、製造、テスト、改良を行っている。この機体は、最適速度ティルトローター (OSTR) および個別ブレード制御 (IBC) テクノロジーを中心に構築された史上初の eVTOL 航空機になる。OSTRテクノロジーは、プロペラの1分あたりの回転数 (RPM) を変化させて、垂直飛行、移行飛行、前進飛行の各段階での効率を高め、ホバリング時の電力需要を 60%削減できる。IBCは振動とプロペラ負荷を軽減し、安全性を高め、よりスムーズな乗り心地を実現し、メンテナンスコストを削減する。これらのテクノロジーを組合わせることで、略すべての天候、温度、高度において、効率的で静かで信頼性の高い推進システムが実現可能。さらに、従来のティルトローターよりも可動部品が少なく、単一障害点がないため、Overairは市場で独自の地位を占めている。【Overair News】

【Overair提供:ティルトローターeVTOL機フルスケールモデル】

日本のニュース

1. 国交省、JALエンジニアリングに業務改善勧告

国土交通省航空局(JCAB)は12月22日、日本航空が100%出資する整備会社JALエンジニアリング(JALEC)に対して業務改善勧告を行った。航空法で定める確認作業が一部未実施だったり、ボーイング767型機のブレーキ交換作業でメーカーが指定した計測機器が使われていないなどの事例が相次いだためで、国交省は2024年1月16日までに再発防止策を提出するよう求めた。JALによると、今回発生した事例の中で安全性に影響が出たものはなかったとしつつ、規程やマニュアルの表現があいまいだった点などを見直し、再発防止策をまとめるという。JALでは、2022年10月20日の羽田発福岡行きJL317便で、離陸後にブレーキとブレーキロッドの結合部が外れて関連部品が欠落し、羽田へ引き返すトラブルが起きており、この時の再発防止策として「適切な作業及び計測の実施」を挙げながらも、こうした事例が起きたことを国交省は問題視した。JALは訓練や教育の見直し、職場環境の改善、現場と経営層の定期的な対話型ミーティングの実施、内部監査やJALの安全推進本部によるJALECに対する第三者点検などを実施していく。【Aviation wire news】

2. ジェットスター・ジャパン、パイロットがスト実施も22日は通常運航 年末年始に影響も

12月22日にパイロット4人がストライキを実施したジェットスター・ジャパンによると、代わりのパイロットを手配できたため22日は運航への影響を回避できたが、今後も注意深く状況を監視していくという。ストを実施しているのは、同社のパイロットと客室乗務員のうち、一部が所属する労働組合「ジェットスター・クルー・アソシエーション(JCA)」に所属する機長3人と副操縦士1人のパイロット計4人で、22日に勤務予定だった。8月以降、一部の未払い残業代の支払いについて会社と組合が交渉を進めてきたが合意に至らず、組合側がストを12月1日から2024年1月7日の間に実施する可能性があると、11月29日に通告してきたという。同社によると、該当する残業代については、今年7月分の給与から対象者への支払いを開始し、以前の分については手作業で計算するため時間がかかるとして、1月から支払いを開始すると組合側に伝え、組合が求めている事務所も8月末までに会議室を提供するという。【Aviation wire news】

3. ANA、羽田にグラハンEV急速充電器 脱炭素化へ

ABB(スイス・チューリッヒ)社は12月22日、全日本空輸グループのグランドハンドリング(グラハン、地上支援)業務に使用するGSE(航空機地上支援車両)用の急速充電器を羽田空港の制限エリア内に設置したと発表した。ANAグループは国内空港の制限エリア内に電気自動車(EV)用の急速充電器を初めて設置し、グループ全体でCO2(二酸化炭素)排出実質ゼロの「カーボンニュートラル」を進め、脱炭素化を目指す。設置したのはABB製の急速充電器「Terra CE 54 CJG」。同充電器は、国内規格の「CHAdeMO」と海外規格の「AC規格」「DC CCS 2」の3規格対応で、今後導入される車両にも対応する。ABBによると、同充電器は海外空港での電動GSE車両にも活用されているという。【Aviation wire news】

【Aviation Wire提供:羽田空港に設置されたANAグラハン電気自動車用急速充電機】

4. エア・ドゥ、CA募集 3月・7月入社

エア・ドゥは、客室乗務員を募集している。40人程度の採用を見込んでおり、2024年3月1日付または7月1日付入社となる。応募資格は大学、短大、2年以上の専門学校のいずれかを卒業または見込みで、TOEIC 450点または英検準2級程度の英語力が必要。雇用形態は訓練生期間後は正社員で、勤務地は羽田空港または新千歳空港となる。選考は書類と複数回の面接、簡易身体検査。応募期限は3月1日付入社を希望の場合は1月7日まで、7月1日付入社を希望する人は2月25日まで。【Aviation wire news】

5. アクセルスペース、最短1年での開発を可能とする実証衛星「PYXIS」を公開

アクセルスペースは12月21日、重量145kg程度、大きさ125cm×100cm×75cmの小型衛星「PYXIS」(ピクシス)をプレスに公開した。これは、同社の新しい衛星開発サービス「AxelLiner」の実証衛星として開発したもの。Falcon 9ロケットのライドシェアミッション「Transporter-10」で2024年第1四半期(Q1)に打ち上げる予定で、まもなく米国に輸送するという。一般企業が「宇宙を活用したい、そのための衛星が欲しい」と思っても、衛星本体を開発するだけではなく、各種許認可など様々なプロセスが必要で、ハードルは高い。AxelLinerは、そういった複雑な部分を全てパッケージ化し、ワンストップでサービスを提供するというもの。まさに「Space Project as a Service」である。現在、世界では小型衛星の需要は急速に高まっている。技術の進歩により、従来は大型衛星でないとできなかったことも、一部が実現可能になっている。また、超小型衛星のユーザーが、性能を向上させるため、小型衛星に移行する例もある。しかし、オーダーメイドの一品生産では、衛星の開発に時間がかかってしまう。同社の中村友哉CEOは「宇宙業界でも求められるスピードが上がっている」と指摘。AxelLinerは、汎用の衛星バスを活用することで、より短期間・低コストでの開発を実現する。これまでは2~3年必要だったところ、「最短1年」で実現できるという。【マイナビニュース】

【マイナビニュース提供:アクセルスペースの最短1年での開発を可能とする実証衛星「PYXIS」】

6.牛糞がロケットの燃料に? ISTが初のエンジン燃焼試験をプレスに公開

インターステラテクノロジズ(IST)は12月7日、北海道大樹町にて、現在開発中の小型衛星用ロケット「ZERO」のエンジン燃焼試験を行った。ZEROは燃料に液化メタンを使うが、今回の燃焼試験は、初めて生物由来のバイオメタンを採用したもの。同社によれば、バイオメタンを使った燃焼試験は、民間ロケット会社としては世界初だという。ISTは、観測ロケット「MOMO」の3号機で、初めて宇宙空間に到達。その次のステップとして開発が進められているのが、今回の「ZERO」である。ZEROは全長32m、直径2.3m、重量71トンの2段式ロケットで、同型のエンジンを第1段に9基、第2段に1基搭載する。打ち上げコストは、8億円以下になる見込みだ(量産時)。このエンジンであるが、今回初めて、「COSMOS」(コスモス)という名称が明らかにされた。これは、同社が本社を置く大樹町の花がコスモスであるほか、エンジンの特徴であるピントル型インジェクタの噴射形状が花びらに似ていることから、名付けられたという。ちなみにMOMOのエンジンは、内部では「タンポポ」と呼ばれていたとのこと。COSMOSは、燃料に液化メタン、酸化剤に液体酸素を使う。MOMOの推力が14kN(1.4トン)であったのに対し、COSMOSは130kN(13トン)と、ほとんど10倍近い大型化が必要。それに伴い、同社としては初めて、ガスジェネレータサイクルと再生冷却方式を導入する。高速回転するターボポンプも必要になり、技術的な難易度は一気に上がっている。今回の燃焼試験シリーズは、まだターボポンプは組み合わせず、燃焼器単体で行うもの。燃料と酸化剤は、高圧のガスを使って燃焼器に送り出している。また、エンジンの推力は60kN(6トン)と、サブスケールモデルを使った試験となる。最大の注目点は、初めてバイオメタンを使用したことである。ロケットの燃料として本当に使えるのか、性能を確認することが目的で、11月末から2024年1月末まで、燃焼試験を繰り返す予定だ。今回の燃焼試験は、シリーズの4回目。複数回実施するのは、燃料と酸化剤の割合(O/F比)を変え、性能マップを取得するためだ。エンジンの性能としては、比推力、冷却温度、推力、燃焼圧力などに注目しているそうだが、これまでのところ、燃料として十分な性能を有していることが確認されているという。特に問題が無ければ、今後、ターボポンプと組み合わせた燃焼試験や、実機サイズに大型化した燃焼試験を行っていくことになる。【マイナビニュース】

【IST提供:牛の糞尿から製造したバイオ液化メタンを使用した燃焼実験】